【セミナー】業界発展を目指した終わりなき研究開発…DDC vol.2で語られるディライトワークスでの研究開発部が目指すものとは

 
ディライトワークスは、1月23日、ゲーム開発者向けの技術勉強会「DELiGHTWORKS Developers Conference(以下DDC)」の第2回を開催した。今回は、研究開発部ジェネラルマネージャーの對馬正氏が登壇し、ディライトワークスの研究開発部の役割や、新たな取り組みを始める際のポイントなどについて講習を行なった。本稿では、その内容の一部を掲載する。
 
「DDC」は、ゲーム業界で活動している人や、ゲーム業界を目指す人たちに向けて、ディライトワークスが開催している勉強会だ。第2回となる今回は、ディライトワークス所属の對馬正氏が登壇し、「CEDEC+KYUSHU 2018」で行なったセッションに追加内容を加えた「R&Dことはじめ ~ゼロから始める研究開発~(DDCバージョン)」の発表をした。
 

▲研究開発部でジェネラルマネージャーをしている對馬正氏。
 
まず、對馬氏は今回のセッションを始めるにあたり、インスパイアを得た杉田玄白の「蘭学事始」、長月達平さんの「Re:ゼロから始める異世界生活」という、ふたつの著書を紹介した。
 

▲今回のセッションのタイトルは、参考となったふたつの著書にちなんだものとなっている。
 
そして、研究開発部を立ち上げて得た知見を紹介する前に、そもそも研究開発とは何か、それを踏まえてディライトワークスの研究開発部が何を目指すのかということを説明した。對馬氏は、様々な面から研究開発の定義について調査し、その結果行き着いたという。今回のセミナーでは、その中からいくつかの例を挙げた。
 
まずは、Wikipediaから応用研究や技術試験によって、"技術的な優位を得るため"という定義を紹介。しかし、昨今のゲーム業界を考えれば、技術は一定水準以上であれば問題はなく、高い技術が詰め込まれているから人気が出るというものでもない。このことから、単に優位を得るための研究開発は、對馬氏の考える定義にはそぐわないと結論付けた。
 

 
次に、金融庁の提示する研究開発の定義は、実に日本的な意味であると對馬氏は語る。ここでは、具体的な例として携帯電話の普及について取り挙げられた。日本はフィーチャーフォン開発において技術力の高さを市場にアピールしたのに対し、海外はスマートフォンを普及するにあたって、それにより人々のライフスタイルがどのように変化するのかを強調して消費者に訴求したのだと話した。
 

 
経済産業省が提示する定義については、画期的であると對馬氏は主張している。経済産業省では、研究開発の定義について改正をしており、以前は工学や自然科学といったものを対象としていたが、改正後はロボットやAIといった第4次産業革命型のサービス開発を対象としている。
 

▲研究対象がユーザーの行動学へと移っていったことに対し、對馬氏は「画期的に感じた」と話している。
 
さらに、先ほど紹介した著書のふたつからもピックアップ。杉田玄白の言葉からは、「必ず役に立つ」という正解だけを求めるのではなく、「役に立つものにする」。その選択を正解に変えるという意思の重要さを、對馬氏は見出している。
 
「Re:ゼロから始める異世界生活」からは「ここから始めましょう。一から……いいえゼロから!」というセリフに着目。對馬氏は、1と0の違いについて思案した結果、既にある道を歩くのか、道を切り拓くのかというところに相違点があると定義した。そして、研究開発部は、決められた課題に対する研究をするのではなく、まず何を研究しするのかという方向を決めるところからはじまり、道を切り拓くことこそ研究開発の本質的な部分だと述べた。
 


 
ここからは、研究開発部発足時の体験や、かつて自身で起業した際の経験から、新規事業の立ち上げの際に注意すべき点を紹介している。
 
新たなことに挑戦する際、誰もが陥りやすいミスとして、"手段の目的化"への注意を喚起した。對馬氏は、幼少時の夢が東大に入ることであり、それを叶えられたものの、東大でやりたいことが見つからず、中退したという過去を明かした。その経験から、目的を達成した先に、さらなる目的があるのかどうかをしっかりと再考することを勧めている。
 

▲これらの話をしていく中で、對馬氏は"Jobs To Be Done"という言葉もあわせて紹介している。これは、人は製品やサービスを利用する際、必ず成し遂げたい目標があるという理論のことだ。
 
実際に起業の理由としてありがちなパターンを挙げたが、これらはすべて手段が目的化している例となる。これらは、起業、上場が目的になってしまい、その先で成し遂げたいことが不明瞭となっている。
 
また、この業界ではよく耳にするという、ナンバーワンを目指すという目標についても、一度ストアランキングで1位を取れば終わりになってしまう、非常に一過性の強い内容であることから、危険性を訴えている。
 

▲より良いものを作るための研究、開発を続けていくことが重要なのであり、一時的なゴールが見えてしまう目標はあまり好ましくないようだ。
 
こうした手段の目的化の壁にぶつかった對馬氏は、ディライトワークスの「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」という企業理念に強い関心を示した。
 
開発現場において、今ある技術、今できる範囲で製作を進めようとするあまり、アイディアに技術的な制約がかかってしまうことを、對馬氏は常々懸念していた。しかし、この企業理念のもとであれば、技術的な制約を取り払い、面白いゲームを作るためのアイディアを活かしやすいと思い、入社を決意したことを明かした。
 

 
ディライトワークスに入社した對馬氏は、新たに研究開発部を発足することとなる。現在、ディライトワークス内では、對馬氏が発足した研究開発部とは別に、以前よりディライトワークスのゲームの技術を担当する技術部が存在する。
 
ゲームに紐づく課題など、既存事業の技術課題を解決する技術部と、認識されていない課題を解決する技術の開発に勤しむ研究開発部。ゲーム制作と研究開発を別部門にすることで、研究開発に専念する環境が出来上がり、新たな技術を生み出しやすくなる。
 

 
この研究開発部が設立されたそもそもの目的についても對馬氏の口から語られた。ディライトワークスの研究開発部は、単に自社内の技術的制約を取り払うだけに留まらず、それによってゲーム業界全体の発展に貢献することが目的となっている。
 
同様の例として、LINEの代表取締役社長の出澤剛氏の発言を挙げている。LINE payは類似するサービスと戦っているのではなく、キャッシュレスを広く普及するため、現金というシステムと戦っている旨を、出澤氏は過去に発信している。
 

 
對馬氏は、ディライトワークスに入社して、すぐに新たな部門で研究開発をすることとなった。より円滑に業務を進めるため、お互いに要望を出しやすい環境を作るために、独自の"会社なじみ術"を実践してきたという。その一部も、今回のセッションで語っている。
 
まず、会社に馴染むためのキーパーソンとなるのが社長秘書だと對馬氏は語る。秘書は、現場のスタッフとは違った目線で、社内全体をフラットに捉えている。どの部署の誰が自分の力を必要としているのか、また自分の悩みを解決してくれるのはどの部署の誰なのか。そういった橋渡しをしてもらえるケースが多くなるそうだ。
 
次に、言語と態度が矛盾する際、人は視覚的な情報に頼るという「メラビアンの法則」を紹介。ささいなやり取りであっても、メールやチャットではなく、直に会って話すことの大切さを主張した。
 
そして、業務を円滑に進めるためには毎朝の挨拶回りも重要であると語っている。その際は、もちろん笑顔で、見た目からの印象を良くすることも忘れてはいけないと加えた。こうした、日々の些細なコミュニケーションが、円滑な業務に繋がっていくとのことだ。
 

 
最後に、今回のセッションの内容をまとめ、新しい取り組みを始める際の注意点をわかりやすく総括。これでDDC第2回「「R&Dことはじめ ~ゼロから始める研究開発~(DDCバージョン)」は幕を閉じた。
 

次回のDDCは2月27日の20時から開催される。「ゼロから始めるプロマネ生活」と題し、プロジェクトマネージャーをテーマにしたセッションが行われる。チケットの販売期限は2月25日の19時30分までとなっている。
 
●DDC vol.3 ゼロから始めるプロマネ生活

チケット申し込みページ(Peatix)

 
(取材・文 ライター:宮居春馬)
ディライトワークス株式会社
https://delightworks.co.jp/

会社情報

会社名
ディライトワークス株式会社
設立
2014年1月
代表者
代表取締役 庄司 顕仁
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