【インタビュー】歴代サウンドディレクターに聞く!『戦国BASARA バトルパーティー』におけるユーザ目線のサウンド実装とは

カプコン<9697>が誇る『戦国BASARA』シリーズ初のスマートフォンアプリ『戦国BASARA バトルパーティー』。コンシューマ機のアクションゲームからゲーム性をガラッと変え、豊富な育成要素を取り込んだタイトルとなっているが、派手なモーションやキャラクターの魅力はそのままに表現されている。

今回『戦国BASARA バトルパーティー』において、ボイスを際立たせる演出や大量のサウンドファイル管理、そして『戦国BASARA』シリーズのサウンド制作の裏側について、歴代サウンドディレクターの方々にお話を伺った。
 

■盛り上がり感を表現したサウンドへのこだわり



田村宏史
本作の初期サウンドディレクター。サウンド開発環境構築を担当。サウンドミドルウェア「CRI ADX2」を導入した。

高野充彦
本作の後任サウンドディレクター。ボイスや全体調整、サウンド演出等を担当。過去の『戦国BASARA』シリーズのタイトルでもサウンドを担当している。

渡邊周佑
本作の現サウンドディレクター。ほとんどのサウンド実装を担当。


――『戦国BASARA バトルパーティー』での皆様のかかわり方を教えていただけますでしょうか。

高野充彦(以下、高野):はい。まず田村がシステムや環境構築に関してとても経験豊富だったので、ADX2の導入含め『バトパ』のゲーム性に合わせたサウンドシステムの設計を行ってくれました。

その後、田村が別タイトルのサウンドを担当することになり、過去の『戦国BASARA』シリーズを経験したことがある僕が引き継いでサウンドのディレクションを行いつつ、渡邊がサウンドデザインも含め実装を担当した、という流れです。


――タイトル内でのサウンドのこだわりを教えてください。

渡邊周佑(以下、渡邊):これまでの『戦国BASARA』シリーズのサウンドはガヤガヤ、ワイワイとした賑やかさやお祭りっぽさがあって、本タイトルでもこれを表現したいという思いがありました。

『戦国BASARA』では声優さんによるキャラクターボイスが重要だと思っていて、ホーム、会話、バトル、ショップ等々…なにかある度にとにかく喋ります! キャラクターの個性であるボイスにはがっつりダッキング(※1)をかけて、色々な状況・場面で喋らせることで、『戦国BASARA』シリーズの「盛り上がり感」を表現してみました。

あとは…このゲームはスマホゲームなので、『戦国BASARA』シリーズ従来の「武将を操作して敵を薙ぎ倒す!」といった操作が出来ません。なので全体的に固めな音色に、特にバサラ技やヒット音の様なバトル音を派手めにして、ガシガシ敵を倒す気持ちよさを音で楽しめるよう意識しました。UI音等も強め・派手めなデザインに仕上がったと思います。


※1.セリフが再生されている間、BGMの音量を下げる処理


――リファレンス環境はどんな感じなのでしょうか?

高野:『戦国BASARA』のサウンドリファレンスに関しては僕のコダワリがありまして、実は以前より『戦国BASARA』シリーズのサウンドはステレオ2chを重視して調整しています。

他のカプコンのゲームはサラウンドでの作り込みも大切にしており、リッチな再生環境でも完成度高いサウンドがしっかりと聴こえるように調整を行っていますが、『戦国BASARA』のユーザさんは「テレビでプレイされる方が多いかな?」という予測を立ててステレオ再生を最重要視していました。

仮にサラウンド環境をメインで調整してしまうと、ボイスが単独でセンターchから再生されますのである程度の調整でも聴き取れてしまいます。調整不十分な状態でステレオにダウンミックスされた時にBGMやSEに埋もれてしまいボイスが聴こえない、となってしまいますので最初からステレオメインで作っていました。

ウィスパー気味のキャラクターに関しては、いかに距離感を保ちながら聞き取り易くするかという事にも注力しています。音量を上げれば距離感も近くなり過ぎるので可能な限り「音量」と「距離感」が両立できるよう慎重に調整しています。字幕が出なくてもセリフが分かるくらいBGMやSEの渦の中で子音がアタマ一つ出ているように…というのを意識して調整しています。

今回はスマートフォン端末向けではありましたが、パートナーである渡邊にも従来の『戦国BASARA』シリーズと同じようにステレオ環境でしっかり確認してもらいました。

 

――スマートフォンと据え置き機どちらも同じ環境で調整しているんですね。

渡邊:そうですね。リファレンス環境で確認した後はもちろんスマートフォン端末上でも確認しています。

高野:過去の『戦国BASARA』では、ダッキングに関しても「ダッキングされる側(BGMやSE各カテゴリー)」の下げ周波数値をそれぞれ変えたプリセットをいくつも作成して、女性キャラの声が抜けやすいダッキングや、特定のキャラクターボイスが抜けやすいような設定を作って実装していました。お市が話す時のダッキングはコレ、毛利はコレ、という具合ですね。

特にボイス再生中でも爽快感が失われない様、ヒット音のダッキング値は音量、周波数とも下げ幅は慎重に見極める必要がありました。混戦時でもBGM・SE・ボイスがちゃんと聞こえるのが理想なので、その辺りの調整はサウンドディレクターの腕の見せ所だと思います。

今作のダッキングはシンプルに「音量を下げるタイプ」しか持たせていませんが、ADX2のパラメーターが豊富かつ直観的に操作出来たので上手くまとまったのではないかと思っています。

 

――過去の『戦国BASARA』シリーズ含め、かなりキャラクターボイスを聞かせることにこだわっているんですね。音圧調整とかはどうされているんでしょうか。

高野:目をつぶってプレイして一定の距離にボイスが定位(前後)し且つ聞き取り易い調整を行っています。特にウィスパーボイスって元々張り付き気味(印象として「近い」)なのでどこに収めるかっていうのが課題なんです。

ただ、ラウドネスメーターなどシグナルだけで判定するのは危険なので、自分の耳でもちゃんと聞いて全てのボイスが同じ音量と距離感に感じられるまでひたすら調整作業を行っていますね。異なる声優さん同士で同じ音量と距離感に感じられるシグナルは数値的には絶対異なりますので。


――数値だけでなく、自分の耳を信じろ、と。

高野:そうですね(笑) 迷った時は社内のミキシングエンジニアに知識を分けてもらったり…やはり数値と耳、両方使う事が大切だと思います。

僕のSound Forge(※2)には過去開発に携わった「ゲームタイトル名/キャラクター名」が記載されたイコライザーやコンプ設定がたくさん並んでいますが、収録スタジオや声優さんのコンディションが異なれば調整すべきポイントも異なりますので、過去の成功した数値だけに頼るだけで無く最終的には毎回耳を使って調整を行っています。


※2.波形編集ソフト
 

■音の実装や確認をスムーズに行うことでゲームのさらなるクオリティアップを


――ミドルウェア(ADX2)導入のきっかけはなんだったんでしょうか。

田村宏史(以下、田村):色々あります。まず、タイトルの企画を聞いた時に、ボイス、アセットの量が多くてこれはサウンドの管理が大変だな…と感じたことですね。

ADX2はExcelライクなUIでアセットの管理ができるので、ボイスの管理に向いているだろうということで。日本人大好きなインターフェースですよね(笑) DAWみたいな見た目でシーケンスが組めるのも魅力でした。

あとは、『ストリートファイター』シリーズ等のカプコンでの導入実績があったこと。そして別のサウンドディレクターからも「とても使い易くて良いよ!」と評判を聞いていたというのがありました。実は僕自身も以前別のタイトルで使った時にCRIのサポートが手厚く、とても感動した記憶があったので、それらを総合的に判断して導入を決めました。

 

――なるほど。

田村:別プロジェクトでミドルウェアを入れずに作ったタイトルがあったのですが、これが中々苦労しまして。何かしら入れないとな、と思って色々検証した結果、ADX2になった流れですね。プロジェクト着手のタイミングでADX2にプロファイラ等の新機能も追加されて「ちゃんと使えるな」と思ったのも導入を後押ししました。

――サウンドコーデックは何を使っていたんでしょうか。

渡邊:HCAですね。圧縮率を最高にした場合でも他のコーデックに比べて一番音質の劣化が少なかったのと、ロードの負荷もかからなかったので。特に女性ボイスは圧縮かけすぎるとシャリシャリしてしまうので、そこが無かったのが大きかったかなと。

高野:僕は圧縮前のWAVファイルでチェックをしていたのですが、実装後聞いても全く違和感なかったですね。


――どれくらい圧縮できましたか?

渡邊:大きいもので約20分の1程ですね。

――他にADX2の機能を使って実装したところはありますか?

渡邊:その後の「ADX2で作って、Unityでビルドして、各所に確認して、またADX2まで戻って調整して…」という作業が手早くできましたね。

タイムラインやプロパティでの設定変更が容易で、プロファイラも使いやすかったのでトライアンドエラーがスムーズに行えました。インゲームチェックまでが早いので、その後の「ADX2で作って、Unityでビルドして、各所に確認して、またADX2まで戻って調整して…」という作業が手早くできましたね。
 

――ということはサウンドプログラマ的なこともやられていると。

渡邊:部分的には、そうですね(笑)。サウンドプログラムの実装面で度々問い合わせさせていただく機会がありましたが、レスポンスが早くて本当に有り難かったです。

高野:ゲーム開発の序盤から音を鳴らす事が出来て…実は開発序盤の何もない所から「音が鳴る」に到達するのって本当に大変で、プログラマーに大々的に協力してもらってようやくカーソル音だけ鳴りました、という事もあります。

でも、今回は開発序盤から音の実装や確認をスムーズに進める事が出来たおかげでクオリティアップに多くの時間を確保する事が出来ました。その点がADX2に一番感謝してるところですね。

渡邊:後は…モバイル端末ってOSの更新による機能追加が多いじゃないですか。CRIはそういった端末仕様への対応がものすごく早くって。「端末依存の不具合かな? ミドルウェア側の設定かな?」といった問題が出た際に、素早く対応していただいたのも本当に有難かったですね。


――他にミドルウェアで便利だったところはありますでしょうか。

田村:そうですね…今回スマートフォンアプリという性質上、更新データをやり取りするときに一回ビルドしたデータをサーバに上げて、そのサーバから最新データをローカルに落とす、という流れを組んでいるのですが、ミドルウェアにバッチを組める機能があったんですね。

この高いカスタム性のおかげで、データをビルドしただけでサーバのアップロードまで全自動でやってくれるような仕組みを我々だけで作れたので助かりました。


――最後にユーザさんに向けてコメントをお願いします。

渡邊:歴代のシリーズ武将達が集結しているので、音を聞いた時に「ああ、懐かしいな」と思える様な『戦国BASARA』らしさを大事にしてきました。今後も『戦国BASARA』ファンに喜んで貰える様なサウンドを盛り込んでゆくので、是非楽しんでいただければと思います!

高野:そうですね、「バサラらしさ」や「ケレン味」みたいなものをすごく意識したので、ぜひ音を聞いてプレイいただけると楽しさが倍増すると思います。

例えばバサラ技発動の際に鳴るSEは『戦国BASARA 真田幸村伝』のものを渡邊にカスタムしてもらって実装しているんですが、とてもバサラらしい演出に出来たと思います。他にも『戦国BASARA』といえば、的な音を色々盛り込んでいるのでぜひ探してみてください。

 

――本日はありがとうございました。
 

CRI・ミドルウェア公式サイト


■『戦国BASARA バトルパーティー』

 

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会社名
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設立
1983年6月
代表者
代表取締役会長 最高経営責任者(CEO) 辻本 憲三/代表取締役社長 最高執行責任者(COO) 辻本 春弘/代表取締役 副社長執行役員 兼 最高人事責任者(CHO) 宮崎 智史
決算期
3月
直近業績
売上高1259億3000万円、営業利益508億1200万円、経常利益513億6900万円、最終利益367億3700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
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