【CEDEC 2020】若手エンジニア&指導者必見!…Cygamesが大規模プロジェクトで新卒が早期に活躍するための育成ノウハウを紹介


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、9月2日~4日の期間、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2020」(CEDEC 2020)をオンラインで開催している。
 
本稿では、9月3日に行われた講演「大規模プロジェクトで新卒が大活躍するには? 未来の「最高のコンテンツ作り」を牽引する若手エンジニアの育成ノウハウ」についてのレポートをお届けしていく。

本セッションでは、Cygamesの育成チームのノウハウを開示し、若手エンジニアが飛躍的にスキルアップできる育成方法を語った。


藤井崇渡氏
株式会社Cygames
技術研修・育成チーム
サブマネージャー


講演を始めるにあたり藤井氏はまず、Cygamesには新卒入社で活躍しているエンジニアが多数在籍していると話す。本講演では、その育成ノウハウを伝えていくという。



1.現状のゲーム開発と若手から見た課題
ゲーム開発の現状として、スマートフォンの発展やユーザーニーズの多様化により、プロジェクトの大規模化が進んでいる。これはコンシューマーだけでなくモバイルも例外ではない。



そんな大規模プロジェクトで活躍するには、高いレベルの技術力や専門知識、働き方、コミュニケーション能力などが求められる。なお、本講演では「技術力」や「専門知識」などエンジニアとして必要になるスキルを"ハードスキル"、「働き方」や「コミュニケーション能力」など社会人として必要になるスキルを"ソフトスキル"と呼称する。



実際、身の周りで活躍している方を思い浮かべると、拡張性が高く長い運用にも耐え得る基盤システムを実装できたり、画面がフリーズしないことはもちろん、レスポンスが早く、ユーザーがストレスなく快適に楽しめるようなゲームの実装ができる高いレベルのハードスキルを持っていると藤井氏は述べる。

また、高いリーダーシップで周りのメンバーをまとめて効率良く仕事を進めたり、チームメンバー間で円滑なコミュニケーションを取りながら能力を高め合う働き方ができる高いレベルのソフトスキルを持っていることも同様だ。

Cygamesの新卒1~3年目の方に開発プロジェクトでハードルに感じることをヒアリングした結果、「技術力」や「コミュニケーション能力」、「社会人の働き方」という解答が多く得られたという。



藤井氏自身もそうであったように、ゲームエンジニアになったばかりの新卒は大規模プロジェクトの就業経験がないことが多く、高いレベルのハードスキル・ソフトスキルの両方を兼ね備えていることはほとんどあり得ない。

若手エンジニアは、活躍しようと思っても技術力が足りないばかりか、チームでの働き方やコミュニケーションの取り方の勝手が分からず、プロジェクトで早期に活躍するためのハードルは高いうえに数も多い。

2.若手エンジニアを育成する技術研修/育成チーム

次に、藤井氏は若手エンジニアに関する「育成の課題」についての紹介を行った。

そもそも、高いレベルのハードスキルやソフトスキルは、入社後数ヶ月程度の研修だけで身に付くようなものではないと藤井氏は述べる。そのため、新卒が早期に活躍するためには、育成もできるだけ早く行うべきだと語る。



また、育成する側としては、若手の成長のために「失敗と成功を繰り返すことができる場を提供したい」という想いはあるものの、プロジェクト側としてはゲームをプレイしているユーザーに影響が出てしまうため「失敗の機会が提供しづらい」という実情がある。そのため、育成する側とプロジェクト側にあるギャップをどうやって解消していくかという課題もある。



そこでCygamesでは、これらの課題を解決するために学生から新卒までの若手エンジニアの育成を専門で行う技術研修/育成チームを発足。このチームでは、若手が現場配属後に活躍に向けてスタートダッシュを切れるように、配属前の早い段階からより高いレベルの仕事に挑戦しやすい環境を提供している。これにより、ハードスキル・ソフトスキルを効率的かつ効果的に学べるようにしているのだという。



▲チームの取り組みを時系列に並べたもの。配属後にも、メンター/トレーナー制度を通じて新卒のいち早い成長をサポートしている。

本講演では、新卒が現場配属までにハードスキル・ソフトスキルを学ぶ方法に焦点をおいて話を展開していく。

3.若手エンジニア育成の課題
続いて、ハードスキル・ソフトスキルの観点からそれぞれに抱えている育成の課題について以下の項目を挙げた。




これらの課題に対して、Cygamesでは次のような育成ポイントをもとに解決を図っているという。



▲各項目の詳細については、次の育成のポイントと共に語られている。

4.ハードスキル育成のポイント

課題①若手に適切な難易度の業務を渡せない
課題②講義形式では内容が画一的になってしまう


上記の課題①②に対しては、育成のポイント①「技術課題を通じた個別指導」を行うことで解決している。個別指導にすることで個人に応じた課題の難易度調整やフォローが可能となり、若手エンジニアとしての成長に効果的なのだという。



また、技術のバックボーンは人それぞれのため、同じ技術課題でも若手のスキルセットで主題を変えるようにしていると解説した。例えば、同じテーマのUnityを使ったゲーム制作の課題であっても人によって設計重視でいくのか、実装重視でいくのかを変えることでその人にフォーカスした育成を行っている。


▲技術課題の成果物はレビューを行う。一般的なレビューはソースコードの品質向上を目的として具体的な改善方法の指摘を行うことが多いが、育成のポイントとして設計や実装の意図をヒアリングしている。

レビューでは、若手がどういった意図で設計/実装したのかをヒアリングしたうえで、その方針や考え方では対処できない問題点などを伝えている。指摘に対して、若手エンジニアが納得でき、理解できることが最も重要だと藤井氏は述べた。

また、技術課題は現場での実践より学びが少ないのでは?という疑問にも答えた。これに関しては、技術課題に取り組みながら残すべき情報も学ぶことで対処しているのだという。具体的には、実装前の調査や、設計/実装方針、複数ある不具合の修正方針からなぜその方針を選んだのかなどを情報として残すなど、実際の業務さながらの経験は現場でも活きてくるとの話だった。

さらに、配属が近い若手エンジニアは業務に直結した技術課題に取り組むことで効果を上げている。ここでは、過去にCygamesからリリース/運用されていた『ペーパーダッシュワールド』を題材に、仕様追加や不具合の調査・修正などの実際の業務をロールプレイしていることが紹介された。


▲こうして技術課題から得られる学びの効果を上げている。

課題③現場では自分の担当外の知識が吸収しにくく、他部署のエンジニアとより良い連携が取れない

ハードスキルの課題③に対しては、個人が興味のない分野や苦手な分野への技術課題にも取り組んでもらうことで解決している。自分の業務には関係ないと思っていた分野の知識が、意外と活かせた経験は誰しもあるのではないかと藤井氏は話した。こうして、技術や知識の引き出しの数を増やすことが非常に重要とのことだ。



5.ソフトスキル育成のポイント

続いてはソフトスキルの課題とその解決について話を展開。まず、若手は現場での開発経験がなく、ソフトスキルがどれだけ重要なのかを体験できていないことが多いという。

課題①そもそもソフトスキルの概念を知らない、ソフトスキルを意識していない。重要性を理解していない。

上記の課題には、実際の開発現場でしか意識しにくいソフトスキルについてテーマ討論するということを行っている。

若手エンジニアがテーマに対する自分の考えや日々の行動などを発表し、指導者が正しい解釈や陥りやすい落とし穴、現場での実例を示す。これにより、若手エンジニアは配属前からチーム開発に関するソフトスキルを意識することで重要性を理解できる。

ここでは、討論テーマの具体例もいくつか紹介された。



▲Cygames社内のみで公開されている漫画連載記事「シゴトのアタリマエ」や、スタッフの行動規範がまとめられた「THE PROJECT」の内容が議論のテーマになっている。


▲例えば、メッセンジャーや社内SNSだけではなく必ず一声掛けることが挙げられた。これは、SNSだけでは急ぎで返答が欲しい場合に中々もらえなかったり、ニュアンスや温度感が伝わらないため認識の齟齬が発生するなど、100%の精度でコミュニケーションができない。逆に、口頭で話したことをログで残すことも重要で、口頭で決まった内容に対して後から「言った、言わない」論争を経験したことがある人は少なくないはずだと述べた。このことから、SNSと口頭のやり取りの両方を行うことが重要といった内容となっている。

このようにテーマ討論を行うことでソフトスキルを意識できるようにはなったものの、かといってすぐに実践できるというわけではない。

課題②頭で理解していても実際に行動できない

この課題に対しては、ソフトスキル獲得/改善に向けて日頃から継続した小さな積み重ねを行うことを実施している。具体的には、日頃から行っている技術課題を通じた個別指導で定期的に見回り、若手がソフトスキルを実践できるようになるまで小さな努力を積み重ねている。以下の写真は個別指導での見回りの様子。


▲仕事の進め方や報告・連絡・相談、コミュニケーションといったソフトスキルのフォローも都度行っている。何か問題があれば、理由も含めたソフトスキルの改善点をその場で指摘して本人に納得感を持たせるようにしている。

例えば、寝坊して始業が遅れた人に対しては「技術力がいくら高くても遅刻が多いと朝一から席にいない人というレッテルが貼られてしまい、責任のある仕事が回されにくくなってしまう。だから、寝坊や遅刻はしないように具体的な対策を考えてみてね」というように指摘をしているという。

このように、何故、解決しなければいけないのかを伝えることで納得感や危機感を持って改善に取り組める。

課題③評価面談などでソフトスキルの問題点を指摘しても、若手は真に理解/納得ができず、若手の心に刺さらない。

上記の課題に対して、これまでの話とは反対にソフトスキルの問題点を評価面談時にいきなり伝えたとする。数ヶ月前の言動をはっきりと記憶している人は稀で、指摘に対して充分な納得感や理解は得られないという。つまり、若手の心に刺さっていないので改善効果が薄くなってしまうと藤井氏は指摘した。

こうしたことからも、先に紹介した「日頃からの小さな積み重ね」や「改善点をその場で指摘する」ということが重要になる。とはいえ、その場ですぐに指摘できるタイプのソフトスキルばかりではない。

例えば、日頃の仕事の様子から見えてくるその人の働き方の傾向などがこれにあたる。このようなタイプのソフトスキルの問題点は、より短い期間で実施する個別面談でフォローするのが良いとのこと。その際、ソフトスキルの長所や短所は自分で気づいていないこともあるため、本人にしっかりと気づかせて、さらに伸ばしたり改善を促すことが成長に繋がるという。


▲例えば、ひとりで仕事を抱え込みすぎる傾向がある人は、自分ひとりで頑張らなきゃという想いが強いためにそのような状況になっている。「確かにひとりで頑張ることも重要だが、仕事は期日までに結果を出すことがより重要だ」という話をして仕事を抱え込みすぎてしまう状態からの改善を促している。

6.チームによる若手エンジニア育成で得られた効果
ここからは、これまでに紹介したハードスキル・ソフトスキル育成についての効果を発表。技術研修/育成チームで育成に関わった方にアンケートを行い、実際の声をもとにチームの育成にどのような効果があったのかを明らかにしていく。



ハードスキルは100%、ソフトスキルは76%が「向上した」と解答。ソフトスキルが向上しなかったと答えた24%の中には、「実際の現場の業務とのギャップ」が主な理由として挙げられていたという。具体的には、プランナーなどのエンジニア以外とのやり取りや、複数の仕事を掛け持ちしながら働くことにギャップを感じたという意見があったようだ。また、ソフトスキルのテーマ討論施策に関しては96%が「向上を実感できた」と解答しており、大きな効果があることが示された。

次に、技術研修/育成チームで得たハードスキル・ソフトスキルを現場で活かせたか?との質問にはそれぞれ以下のような解答が挙がった。




さらに「技術研修/育成チームだからこそ学べたこと」に関しては、自分が知らない現場目線の「技術」や「働き方のテクニック」を学べることが若手エンジニアの成長に大きく貢献していることが判明した。



▲また、内定者同士が入社までに同期との関係構築ができたこともチームによる大きなメリットであると捉えている。


▲中には、ソフトスキルについての学びは得られたものの、まだまだ現場でハードルを感じるという意見も。

次に、育成する側から見たチームによる若手育成の効果を紹介。


▲新卒として現場で働いて何か困ったときに相談ができる頼れる場所となり、客観的な視点からアドバイスができることは若手にとっても助けになっている。また、育成ノウハウを蓄積することで次の育成に活かせるのも大きなメリットだ。先に紹介された「テーマ討論」も改善の結果から出てきた施策のひとつなのだという。

こうした取り組みから、新卒エンジニアの3年後離職率の推移を公開した。



2015年のチーム発足以降は新卒エンジニアの離職率が大きく改善しており、2016年度・2017年度の新卒に関しては離職者が出ていないことが分かる。この数字にもチームの取り組みによる効果が表れている。


▲本講演のまとめとして上記の資料を公開。

最後に藤井氏は、現在、新型コロナウイルスの状況下ではリモートによる育成を行っているとコメント。現時点でまとまった情報を伝えることはできないが、どこかの機会で紹介できればと考えているとの展望も明かした。



新卒エンジニアは、これからのCygamesの中核を担い「最高のコンテンツ」を生み出すための大きな原動力となるため、これからも若手の成長をサポートしていきたいとして講演の締めとした。



 
(取材・文 編集部:山岡広樹)
 

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