【年始インタビュー】コロナ禍で進んだeスポーツオンライン化の実情をCyberZ・RAGEプロデュサーの大友氏に訊く…今後はオフラインとの両立も視野に

2020年におけるゲーム業界の総決算として、前年から2021年に至るまでの市場動向を各社ごとに伺うインタビューを実施。
 
今回のインタビューは、CyberZでeスポーツ大会「RAGE」プロデューサーを務める大友真吾氏。新型コロナウイルス感染拡大の影響で大規模なオフラインイベントの実施が難しい昨今、「RAGE」を中心にeスポーツ事業に取り組むCyberZにはどのような影響があったのか。また、こういった特殊な状況だからこそ得られた知見についても話を聞いてきた。



――:まずは大友さんの自己紹介からお願いいたします。
 
2007年にサイバーエージェントに入社し、2009年にCyberZの立ち上げに参画しました。以降はメディア事業や新規事業にチャレンジし、2015年のタイミングで今のeスポーツ事業を始めています。そこからは、eスポーツ部門の責任者として、「RAGE」という大会ブランドのプロデューサーを務めています。それと並行して、2019年末からはイベント事業を弊社の中で立ち上げています。
 
――:イベント事業部は主にどういったことをされているのでしょうか?
 
eスポーツに係わらず、サイバーエージェントグループ独自のコンテンツやIPを使って、グループのアセットや強みを活かした新たな興行イベントを行う事業部になります。ただ、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、本来、想定していた形を変え、オンラインイベント事業を中心にエンタメDX(デジタルトランスフォーメーション)の領域を、eスポーツと共に取り組んでいます。
 
――:2020年は特殊な状況もあり、例年とは異なることも多かったと思いますが、改めて御社の動きを振り返ってみていかがでしたでしょうか?
 
元々はオリンピックイヤーとして日本が盛り上がるはずだったこともあり、RAGEでeスポーツの国際大会を日本で開催するという、これまでに実施したことがない取り組みも準備していました。そこが実現できなかったという意味では、事前に考えていた新しいチャレンジはできなかった年になります。
 
一方で、今の状況だからこそできたオンラインでの施策から新たな発見もありました。そういったことからも、全てがネガティブというわけではなく、ポジティブに捉えられる側面もあり、アフターコロナにおいては、むしろ「オンラインとオフラインはしっかりと共存するべきである」ということを痛感しました。

 
――:実際にオンラインでイベントをされてみて良かった部分や難しかった部分を教えてください。
 
まず、我々はShadowverseというスマホカードゲームの大会をこれまでオフライン開催を軸に大規模大会を3カ月に1回、年4回実施してきました。また、これとは別にプロリーグも運営しています。
 
この「RAGE Shadowverse」に関して、予選大会も毎回大規模に行っており、誰でも無料で参加できるものになっているのですが、1月には「オンライントレーディングカードゲームを同時に同一会場でプレイした最多人数」でギネス世界記録にも認定されました(関連記事)。
 
この大規模予選をオンライン開催にしたところ、さらに参加者が増えたというのが、私が最も良かったと感じた点です。また、1万人を超える参加者から、決勝に進める選手を8人まで絞るのですが、残った選手の住まいが、北は北海道から南は九州までみんなバラバラだったというのも、これまでに見られない特徴でした。
 
これまで予選をオフラインで開催していたこともあり、どうしても関東圏からの参加が大半で、関西で実施していたこともあるので大阪・名古屋といった主要都市の方がほとんどでした。もちろん、熱量の高い方が地方から遠征で予選に参加して決勝に進むというケースはありましたが、オンラインだと「試しに参加してみよう」という方がグッと増え、参加障壁が下がったという実感があります。その結果、「RAGE」初参戦の方など、決勝大会にもいろんな地方出身の選手が残ったのではないかと思います。
 


逆に難しかった部分は、オフラインの熱狂をそのままオンラインで作ることです。これまでもeスポーツ視聴者の大半を締めていたのは配信で視聴していた人ですが、その配信で熱気を届けられたのもオフラインでの大会があったからこそで、数千~数万の人が集まったときの体験をオンラインで再現することは困難だと感じました。
 
あとは、本来の競技性をいかにオンラインで担保できるかということです。これは、我々だけではなくeスポーツ業界全体が持っているオンラインに対しての課題だと思います。不正対策を完全に100%やり切ることが難しい状況の中、いかに先の対策を事前に練って健全な環境でオンラインでの競技性を確保するかは苦労するところです。

 
――:そんな中、「RAGE」では不正対策に関してどのような点を工夫されましたか?
 
初戦からではないものの、予選でも一定のラインまで進んだ方には、弊社から撮影用端末を提供し、プレイ環境を撮影していただくようにしました。これにより、いわゆる替え玉プレイのようなことができないよう抑止しています。選手としても初のケースになるため、我々の意図しないところでイレギュラーなケースも発生するため、オンライン上でも個別にやり取りを行い、運営としても公正な判断ができるようにしました。
 
――:また、もうひとつの課題として挙げられた「オフラインでの熱狂の再現」という部分に関しては、今後どのように考えておられますか?
 
これは難しい問題ですが、より双方向に作用するようなインタラクティブな状態というのは、ひとつ求められる部分だと思います。対戦模様を配信しているだけでは、絵的にも代り映えが乏しいため、新たな視聴体験ができるようなものは提供していきたいと考えています。
 
――:そういった意味では、3月に実施された「V-RAGE」(関連記事)なども挑戦的な取り組みでしたね。
 

そうですね、VRを使って新たな観戦体験を提供するサービスをリリースしたのですが、これもその一環です。今回は、バーチャルイベントサービス「cluster」と共にV-RAGEを作ったのですが、話を受けたときに魅力的だったポイントとして、専用のヘッドギアなど特殊な環境が必要なく、モバイル端末さえあれば誰でも簡単に参加できるというところでした。こういったところは、今後も試行錯誤しながらトライしていきたい領域ではあります。
 
自身のアバターを操作して会場に入り、その中にあるモニターを見るというものになっているので、自身でβ版を触った際にはMMORPGやバトルロワイヤルゲームなど、多人数で遊ぶオンラインゲームのような感覚に近いと感じました。なので、一般的にイメージされるVRの活用というよりは、「V-RAGE」というコミュニティサービスを提供することで新たな視聴体験をお届けできるのではないかという可能性を感じています。

 


――:では、今回オンライン化を進めてみて、今後にも活かせそうな点があれば教えてください。
 
オープン型のeスポーツ大会においては、誰でも無料で参加できるところがひとつの良さでもあるので、オンラインとオフラインを併用する形で続けたいと考えています。先ほどお話した不正対策に関しても、全てをオンラインで完結するのではなく一定の母数になったところでオフラインを取り入れていくことによって防げるものも増えてくると思います。
 
また、大会のプロモーション番組としてエンタメ要素を強めたエキシビションマッチなどを実施したのですが、同時視聴者数が30万人を超えるなど非常に手応えがありました。人気ストリーマーなどのインフルエンサーの方も巻き込んでeスポーツの新しい大会番組を作ってプロモートできたというところはスポンサー様方にも喜んでいただけました。オフラインでアクティベートできなかったがゆえに代替イベントとして裾野を広げられた部分ではあります。こういったインビテーショナル型、エキシビション型が好評だったというところは今後のeスポーツ競技シーンの発展にも活かしていきたいと考えています。

 
――:こういったエンタメ要素を取り入れた番組が好評だった要因はどこにあるとお考えでしょうか?
 
コロナ禍でタレントを含めた著名人がゲーム実況の動画を配信することが増えたというのは挙げられると思います。それに伴い、eスポーツにも触れていただく機会が増えたのではないでしょうか。例えば、本田翼さんや霜降り明星の粗品さんが『エーペックスレジェンズ』や『Call of Duty』を遊んでいる配信や動画を見ながら、多くの視聴者はそれがeスポーツと認知してはいないものの、気付いたら結果的にeスポーツコンテンツに触れて、大会も視聴するようになるという広がり方は可能性があるかと思います。
 
――:確かに入り口が広がったようには感じます。そういった意味では、「RAGE」としては『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』の大会も初開催され、ゲームジャンルとしての裾野も広がってきましたね。この辺り、タイトルによって大会ごとに特徴が異なっていたりはするのでしょうか?
 
今年に限って言えば、オンライン化で例年よりユーザーの属性は見えにくくなってしまった部分ではあるのですが、タイトルによってかなり異なりますね。これはあくまでも自身の肌感になりますが、モバイルのバトルロワイヤルゲームが題材の大会には10代を中心とした若者が非常に多い印象があります。
 
――:大友さんから見て、今の日本のeスポーツ市場の状況、また今後発展していくためには何が必要に見えますか?
 
2015年からeスポーツ事業を始めて今年で6年目になるのですが、始めた当時に比べると参入企業も増えておりますし、ここ数年でテレビ業界や広告業界をはじめとした、ゲーム周辺産業以外からも参入が相次ぎ、eスポーツ市場の拡大への期待感が伺えた年になりました。そんな中、まだ課題として感じているのは、BtoBのマネタイズがメインになっているので、もっとマーケットを広げてBtoCのマネタイズの部分も発展させていく必要があると思います。
 
コロナ以前から有料チケット型の大型eスポーツ大会は徐々に増えてきておりましたし、大会によっては数千人規模が集まる有料イベントも出てきておりました。またゲームとコラボレーションした大会限定グッズなども、会場販売やEC販売するケースも一般的です。今後はそこに加え、IPホルダー、協賛企業、選手やチームなど様々なパートナーと手を組みeスポーツ経済圏にお金が回る仕組みを作る必要があると考えております。産業自体を大きくしていく、ということに対しては1社だけの力ではどうにもなりませんし、各ステークホルダーと一緒になってやっていくことが非常に重要だと思います。



 
――:そういったところへ向かうためにも、御社として2021年の展望をお聞かせください。
 
今の状況がいつまで続き、どういう形で収束していくのかは分からないですが、オフラインを含め2020年にできなかったことにトライできる年にしたいと考えています。
 
中でも「RAGE ASIA 2020」はオリンピック開催期間にあわせて2019年から入念に準備していたので、できれば2021年には「RAGE」の国際大会を東京でできればというところを目標にしています。
 
あとは、先ほどもお話した通り、eスポーツ産業発展のためにコンテンツの価値をもっと高めていく必要もあります。競技シーンはもちろん、世の中にeスポーツを広げていくための施策にチャレンジしていきたいです。それが後にBtoCのマネタイズにも繋がっていくのかなと考えています。

 
――:最後に読者の方々にメッセージをお願いします。
 
2021年もeスポーツの話題は尽きないと思います。まだ見ぬ新たなeスポーツタイトルが世に出るかもしれませんし、各所で大型大会やリーグも予定されております。業界自体が盛り上がるとは思いますので、弊社としてもeスポーツ産業発展のために、2020年以上に多くの新しいチャレンジをしたいと思います。
 
格闘ゲームにカードゲーム、FPSを含め、2021年も継続して様々なジャンルで大会を検討していきたいと考えておりますので、eスポーツを見たことがない人でも楽しめるような企画構成や、「RAGE」だから見られる面白い大会を努力して作っていきます。もし興味のあるところがございましたら、ぜひ一度見ていただければと思います。

 
――:本日はありがとうございました。

(取材・文 編集部:山岡広樹)
 

RAGE公式サイト

株式会社CyberZ
https://cyber-z.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社CyberZ
設立
2009年4月
代表者
代表取締役社長CEO 山内 隆裕
決算期
9月
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