【レポート】 NFTガチャ、ステーブルコイン、日本のクリプトは法と税にどう向き合う? 現役弁護士と元金融庁が語るセッション「クリプトに関連する日本の法規制の現状と将来」【IVS】

IVSは「次世代の、起爆剤に。」をMissionとして掲げスタートアップエコシステムの発展を目指してカンファレンスとなる。今回は目玉の一つとしてIVS CRYPTOを実施している。IVS CRYPTOではGameFi、NFTなど最前線で活躍するトッププレイヤーが集まり、トークセッションを行っている。その他、NFTの展示や、そのオークション、VRアーティストのパフォーマンスに加え、ネットワーキングスペースも設けている。

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本稿でお届けするセッション「クリプトに関連する日本の法規制の現状と将来」では現役の弁護士や元金融庁など、クリプト事業を行うにあたっては避けて通れない最前線のプレイヤーが登壇。それぞれの実例をもとにクリプト事業について語った。


▲登壇者は、左からfinoject代表 三根公博氏(モデレーター)、森・濱田松本法律事務所 パートナー 増島雅和 氏、創・佐藤法律事務所 代表弁護士 斎藤創氏、kunitachi Liberal Arts シニアエキスパート 三輪純平氏。

最初のテーマは、「日本における定義と扱い方。暗号資産、NFT、セキュリティトークン、ステーブルコイン、その他のアルトコイン。」について。

日本は以前暗号資産の分野では先進国だった時期がある。ただしマウントゴックス事件など様々な事件を経て、初めて法規制を行った国でもある。昨今の情勢を見れば進展は芳しくない状況だ。そんな険しい状況下で、どのようにブロックチェーンの技術を利用してサービスを行っていくのか。

増島氏は「みなさんがよくやりたいとおっしゃるのが分配できるトークン。ただしセキュリティトークン(デジタル有価証券)に該当しないように設計するのは難しい。有価証券に当たらない例外規定はあるので、そこを狙うのが良い。」と提案した。

現在、増島氏はガイアックス<3775>と巻組のシェアハウスDAOのサービスにも携わっている。同サービスでは、トークンを売りシェアハウスの収益をその所有者に還元したかったそうだ。

シェアハウスDAOの取り組みでは、分配はしないけれど、モノとして買って貰える仕組み、かつ、セキュリティトークンに当たらない設計になっているので注目してほしいとしている。(増島氏)<関連記事>


▲創・佐藤法律事務所 代表弁護士 斎藤創氏。

斎藤氏も日々クリプト関係の依頼などに携わっており、様々な知見を得ているようだ。同氏はまず、ブロックチェーンのそれぞれの定義を説明した。「暗号資産を決済手段で使えるトークン。セキュリティトークンは配当など、ステーブルコインは1円1コインなど金銭の裏付けがあるもの」と説明、「内容によっては規制もあるのでやりたい人はライセンスを取っている業者と組んで進めてほしい」と続けた。また最近では「ユーティリティトークンの発行は日本ではやりにくいので、シンガポールなど海外に行くという話もよく聞く。」のだという。


▲kunitachi Liberal Arts シニアエキスパート 三輪純平氏。元金融庁のフィンテック室長などを歴任している。クリプトとの関わりは、2017年に規制を作る側の部署に在籍。海外もクリプトに関する規制もなかったそうだ。フィンテックの技術を金融溶け込ませるか、規制当局として自立分散が広がったときにどう対応していくか、海外の当局やエンジニアと対話してきたという。

三輪氏からその経歴から、暗号資産の国内外での法律の成り立ちなどについて語っていた。例えばクリプトは、当初日本では資金決済法で受けていたものの、海外では証券に近いとか、デリバティブの規制でコモディティもあるので、あっちの分野と統合しようなど、法律を作るタイミングとその国に状況によって異なっている状況のようだ。

また三輪氏はICOに関しても注目しており「トークンであってERC20と交換性が高いもので、使い方次第では、株で儲けるくらいのものができるのでは?」と当時を振り返っていた。ただしICOに関してはスキャムも多かったため、金融庁としても注意喚起せざるを得なかったそうだ。

(編集部注*)ステーブルコインは、2022年6月の資金決済法の改正案が通過したこと、海外ではUSTとよばれるステーブルコインの崩壊により注目が集まった。日本国内でステーブルコインというと「JPYC」がある。「JPYC」はブロックチェーン上で発行する前払式支払手段であり「ステーブルコイン」の一種としている。今回の資金決済法での改正案においては、前払式支払手段を原則として除くと定義された。なお今回モデレーターを務めたfinoject代表 三根公博氏はJPYC社の社外取締役でもある。

日本では来年から施行となる資金決済法の改正に置いて、ステーブルコインがどのような影響を受けるのだろうか。増島氏が現状を「今回の改正では、トークンの発行は銀行か信託会社となる。トークンの発行体は銀行か信託会社になるそのため業者は暗号資産交換業のライセンスがあり、そこにライセンスを重ねステーブルコインの取り扱いを行うようになるのではないか」と述べた。

またその影響はウォレットプロバイダにも及んでいるという。「サービスの中にステーブルコインが利用できるウォレットを盛り込みたい。メタマスクを使っている分には問題ないものの、パブリックブロックチェーンベースのステーブルコインを当局が認めるか予断は許さない状況」と増島氏は現在の資金決済法を取り巻く状況を説明した。


▲森・濱田松本法律事務所 パートナー 増島雅和氏

斎藤氏はこの話を受け、海外のステーブルコインの日本への持ち込みについて話した。端的に言えば、日本の規制守ってないステーブルコインは規制される可能性があるというもの。対象となるステーブルコインが日本向けに仕様変更すればあり得るとしながらも、可能性としては低いと言わざるを得ない状況と予想していた。

またユーザーが持っている本人確認がないようなウォレット(暗号資産取引所ではないもの)において、移転ができるようなコインを取り扱い業者が取り扱うことはできないといった規制ができる可能性がある。

そうなった場合はメガバンクなどで口座を持っている人しか取り扱いができなくなるというものだ。

さらに「JPYC」のような前払式のような仕組みへの規制の可能性だ。これらに規制が入ると日本ではステーブルコイン普及は厳しいだろうと予想していた。そのため現在業界団体で金融庁などに働きかけているという。


■NFTガチャはできる?配当の権利を売ると危険?

続いてのお題はNFTに関してだ。増島氏は「NFTxガチャのような話がまま出ているものの、賭博という論点では気にしなくていいのではないか」というのが増島氏の意見だ。「ただしNFTで配当がある仕組みは厳しいのでは」ともしていた。NFTの販売後、売上をクリエイターに還元するのは良いけれど、その権利を売ることは厳しいという。

「こういった仕組みになるとセキュリティトークンと言われてもしかたがない。テクノロジーとしては簡単に可能ではあるものの、実際にやると辛い目に合う可能性が高い」と増島氏が注意喚起していた。

一方で斎藤氏は「NFT x ガチャについて、賭博はなんでもOKというには躊躇がある。業界団体が7,8団体ほどが集まって、ガチャやパック販売は賭博ではないというガイドラインを作ろうとしている。日本の業者は逮捕リスクが怖い。いきなり逮捕されるのではないかという恐怖でなかなか踏み込めない。」とし「そんな状況であるため海外で競争すると負ける」とした。そのためガイドラインが出来上がれば、今よりは自由に動けるようになるのでは、と今後の展望を語った。

一方で規制側である金融庁はどのように見る可能性があるのか。

三輪氏は「金融庁なので、金融観点としてNFTを見ると、NFTはトークン的なものではあるけれど、ノンファン自ブルであり、ファンジビリティ(同一アイテム交換できる)がない前提。そこにファンジビリティ性が出てきている。」「決済の世界では、物々交換のように肉と魚がほしい人それぞれが交換する。NFTもその世界観に近いケースがある。では果たしてそれが金融なのかと言われると、違うものになってくる。トークンは価値を持つものとして法律的に整理するのか、経済合理的な考え方で対応するのか、そこで分かれ道ができるのでは」と語っていた。


■クリプトサービスの展開に立ちはだかる規制、法律、税金の壁。妥当?遅れている?

税金については、日本では他国に比べて不利な状況だ。日本人や国内企業がクリプト関連のサービスでは海外法人を設立するケースも目立っている。

増島氏によれば、「DAOの発行体を日本で作る際には、他国ではファウンデーション(財団)でやる。日本では一般社団法人なのか、権利能力なき社団でやるのか。法人にしない法人、こういった団体でやるはず。」「やるはずというのは、なぜ皆やらないのかというと、DAOエンティティによりトークンを大量に所持していると、期末ごとに課税されるから。儲かってないのに課税がきてしまう。」

開発会社であれば、日本国内においても良いのではと考える人もいるかもしれないが、開発してプロコトルをDAOに投げた際に、もらうトークンがある。この場合に開発会社のB/S(貸借対照表)に入ってくる。これも期末の課税評価対象になってしまう。

「例外としてDAOエンティティは期末評価課税の対象から外すという話も出たようだが、結局は開発会社に課税をかかってしまう。」「ルールを作っている人はWeb3ビジネスをわかっていないのでは?」と増島氏は指摘した。

なお期末評価課税の全体を見直すには3年かかると言われたようで「3年は僕らから見たら来世紀の話。つらい状況に追い込まれている」(増島氏)


▲左からfinoject代表 三根公博氏(モデレーター)