【CEDEC 2022】絶版になったゲームを合法的に復刻する方法を考える 文化資産としてこの先も"ゲーム"を永く残し続けるために今できることとは


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、8月23日~25日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2022」(CEDEC 2022)を開催した。

本稿では、8月25日に行われた松田特許事務所(事務所)/50Hit.jp(古物商)の代表弁理士である松田真氏、骨董通り法律事務所の弁護士である橋本阿友子氏、NHK放送文化研究所・メディア研究部のメディア動向主任研究員の大高崇氏による講演「復刻できないあのゲームを、合法的にプレイできるようにするために、今できること」をレポートしていく。


▲写真左から、弁護士・ピアニストの橋本阿友子氏、弁理士・古物商の松田真氏、NHK放送文化研究所の大高崇氏。

本セッションでは、「残念ながら倒産してしまった会社のゲーム」など、復刻が難しいゲームを合法的にプレイできるようにするための方策を法的な観点から示した。例えば、権利者が誰かがわからなかったり、連絡がつかないような場合の復刻は、ハードルが高いと考えられている。昔のゲーム機のデータを保管しておかないと、そのデータが消失してしまう恐れもある。これらの課題を解決するため、文化庁の裁定制度を利用した復刻の例や、改正された著作権法31条に基づいた「国会図書館からの配信」の可能性など、合法的にできることから、プレイヤーにもゲーム会社にも社会にも「三方良し」な復刻の仕方を模索した。

まずは橋本氏がゲームは著作物であるという前提を説明した。原則として、著作権者の許諾が必要となるため、権利を所持している会社から許諾を得られるのであればゲームを復刻することに何も問題は起きないが、会社が倒産してしまった場合など、許諾権限がなくなってしまった場合、ユーザーがゲームをプレイできなくなるという問題が発生する。



では、この問題を解決するためにはどうすればよいか。具体策として法律の観点から「裁定制度」というものを紹介した。

裁定制度は、権利者不明の場合に供託金を払って使用できるようにする制度である。先ほども説明された通り、会社の倒産などにより、権利者が誰か分からない、現在どこにいるのか分からない、相続人が誰でどこにいるのか分からないことから、許諾を得られないケースは少なくない。こうした場合に文化庁の長官が権利者の許諾に代わって裁定を下すことができるのが裁定制度である。



続いて松田氏がこの裁定制度が使用された実例を紹介した。下記で紹介した『北斗の拳』『北斗の拳3 新世紀創造凄拳列伝』は、東映アニメーションが裁定申請を行い、復刻が実現した。



また、松田氏は過去に個人で裁定制度を利用してみようと考えたこともあるが、当時の権利者が誰か分からない、そもそも権利が会社にあるのかクリエーター個人に基づいているのか、はたまた外注されているのか権利情報の判別できないことから挫折してしまったという。

こうした事情から、裁定制度でも権利者が不明のゲームは一筋縄では復刻できない。現在も裁定制度の簡略化は進められてはいるが、まだ時間や経済的な負担は大きいとの話だった。



そこで次に紹介したのが「国会図書館にゲームを集める」という方法である。先ほど、著作物を利用するには原則として権利者の許諾が必要となると述べられたが、学校の授業での利用など、例外として許諾がなくても著作物を利用できるケースがある。「国会図書館(NDL)による利用」もそのひとつであり、国会図書館の"納本制度"は、出版物を官民問わず網羅的に収集している。資料の保存を使命としていて、現在は劣化や損傷を防ぐためにも電子化での保存を進めているという。


▲特定絶版等資料に該当する場合は家庭まで配信することが可能になっている。

さらに、これに著作権法31条の権利制限を合わせることで法的にも絶版となったゲームを保存することが可能であるという。絶版化されたゲームは国会図書館のサーバーに預けられることとなり、万が一ゲーム会社が自身の手で復刻したいとなれば再び配信することもできるようになっている。なお、その場合は国会図書館から配信していたものは停止される。


▲上記のように2つのサーバーをスイッチしながらゲームを保存し続けることが可能になっている。ただし、実際に運用するにあたっては協議が必要で、ゲーム会社にとっても迷惑がかからないような方法を模索する必要があるとの話だった。

この方法が実現できれば、ゲーム会社にとってもプレイヤーにとっても社会にとっても良い制度になり得るのではないかと展望を述べた。

また、納本制度についての詳細を改めて紹介。元々は出版社が国会図書館に"本"を納める制度であったが、2020年より、パッケージ系電子出版物も対象となっている。ここにはゲームも含まれている。そして、納品された物は現在と未来の使用者のために国民共有の文化的資産として永く保存され、国民の知的活動の記録として後世に継承されていく。



▲上記は松田氏が独自で調べた、国会図書館に所蔵されているゲームの数である。1999年以前と2000年以降で格段に数が増えていることが分かる。そのため、納本が義務化される1999年以前のゲームは国会図書館にもデータが残されていないことが分かる。

しかし、納本の対象は「パッケージ化」されたものだけであるという。現在ではよく見られるリリース後に配布されるアップデートデータや、スマートフォンゲームの期間限定キャンペーンデータ、iモードのゲームといったデータなどは納本の対象となっていない。そのため、パッケージ化されていないものをどのようにして残していくかは今後の課題となる。



一案として、国会図書館法25条の4を参考に、プレイヤーへの更新データをリリース後に「セキュリティが担保された所定のサーバ」にデータをアップすることで、国会図書館のサーバへとバッジ処理的にデータが飛ぶようにすれば、データも保存できるのではないかということを考えているという。ただし、これには権利者との調整や協議も必要となる。

そのほか、国会図書館は寄贈も受け付けているため、松田氏らは入手したゲームを寄贈する「寄託部」という活動を行っている。しかし、ウィルス回避のため寄贈は新品未開封に限定されている。そうなると、古いゲームはプレミアが付いており中々入手しづらい状況であることも合わせて紹介した。


▲国会図書館以外に、開封済みのゲームを受け入れてくれる機関も存在している。

ここまでのまとめとして、絶版になったゲームを合法的に復刻させる方法として、裁定制度や納本制度を活用していきたいと語った。今後も、プレイヤー・ゲーム会社・社会の「三方良し」な復刻の方法を検討していきたいと話をまとめた。



最後に、絶版化したゲームを復刻するために今できることとして「データを保存すること」や「保存機関に託すこと」、「協議の場ができるとありがたい」との想いを述べて講演の締めとした。




(取材・文 編集部/山岡広樹)