【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第43回 "攻める"暗号通貨取引所-コインチェックがNFT・IEO・メタバースと事業拡張する理由

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
/

ブロックチェーン基盤のプラットフォーム事業は、法規制などが異なる幾つかのドメインに分類される。ざっくりと分類すると、まずは①ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を代表とする暗号資産、②不動産や債権をブロックチェーンに紐づけたセキュリティトークン、③日本円など各国の法定通貨をブロックチェーンに紐づけたCBDC(中央銀行デジタル通貨)やステーブルコイン、④昨今ブームになったアート・音楽・ファッション・スポーツなどコンテンツやライセンス、会員権とブロックチェーンを紐づけたNFTだ。

①については2017年頃、発行体が販売・流通させるICOが一時流行したが、頓挫したプロジェクトや詐欺も多発した。そこに対して、きちんと取引所が第3者的に介在し、審査をしたスキームがIEO(Initial Exchange Offering)である。IPOの暗号資産版ともいわれ、WEB3時代の新しい資金調達手法として注目されている。

また、④のNFTと非常に相性がよく次世代のSNSとして注目されているメタバース。徐々にデジタル空間 での滞在期間が増加していく中でメタバース上で表現されるモノやサービス・権利がNFTに、交換するカネの役割が暗号資産やデジタル通貨になると言われている。

日本には現在①の取引所は39業者存在しているが、そこで2大取引所と言われるのが「bitFlyer」と「Coincheck」である。ともに3千億円規模の預かり資産をもち、そこにMIXI・セレス出資の「bitbank」やGMOグループの「GMOコイン」などが続 く。ただそうした中で、従来の暗号資産の2次流通取引所だけでなく、日本初のIEOを実施し、NFTやメタバースなど非金融領域事業にも どんどん拡張していくCoincheckは取引所としては異色だ。今回はその企業文化と、その見据えている未来について話を聞いた。

 

■2018年コインチェック事件直後に入社。金融庁との折衝に明け暮れた日々は「精神と時の部屋」 

――:自己紹介からお願いいたします。

コインチェックの常務執行役員をしております天羽健介(あもうけんすけ)と申します。現在はコインチェックにおける新規事業の責任者をしていまして、来るべきWEB3時代にむけたIEOやNFT、メタバース事業などを管掌しています。その他日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)のNFT部会長としてNFTのガイドラインを策定や市場啓蒙を行っています。

 
――:天羽さんはもともとは全然違うバックグラウンドでしたよね?

新卒で入社したのが鉄鋼商社でした。そこから2007年にリクルートへ転職し、在籍した10年間のうち 5年は人材系、あとの5年はネット・ EC系の新規事業をやっておりました。2017年ごろに自分で起業しようと思って、鉄鋼商社×リクルートの経験をかけあわせるとBtoBで鉄のECなんてどうだろうか?といったことを考えておりました。


――:鉄のEC、パワーワードですね。モノタロウっぽい感じでしょうか?

はい、まさに鉄鋼版のモノタロウっぽいものを作ろうとしたんです。でもモノタロウは間接財が中心でしたが、本業の商材として使われる鉄は商慣習としてインターネットというよりはもFAXや電話を使って取引がなされており、EC化していくためのハードルが高く自身の努力が足りない部分もあり、結果的には市場がないということで諦め、一度転職することにしました。


――:“鉄のモノタロウ"からの“暗号通貨取引所のコインチェック"って、相当アクロバティックな転職活動をしてましたね笑。経験・知識ベースではゼロからのチャレンジだったんですか?

中山さんも在籍していらしたのでご存じかもしれないですが、リクルートが2016年ごろにbitFlyerに出資してたんですよね。僕は技術的なところは全く理解できていなかったんですが、傍目でみていて、ICOバブルもあるしすごく盛り上がっているようにみえた。今のNFTやDefiに繋がる部分ですが、イーサリアムのスマートコントラクトなどプログラムによる自動的な契約処理などができたら凄いんじゃないか、と思ったので、まさにゼロから2018年1月にコインチェックに飛び込みました


――:おおーちょうど2017年ICOバブルがあって、メタップスが韓国でICOをしてCryptoKittiesが出て・・・あれ、1月ってちょうどコインチェック事件じゃないですか?

まさに。ジョインする予定の数日前、2018年1月26日に「コインチェック事件」が起きます。大変驚きました。2月1日から働く予定だったので。

※コインチェック事件
2018年1月26日に仮想通貨のネム(NEM)がハッキングされて盗まれた事件(不正アクセスからたったの20分で事件が起こった)、被害総額が580億円にも及び、金融庁は業務改善命令を出した。


――:社会的事件でしたし、ようやく盛り上がるかもと思っていた暗号通貨がヤバいと皆が手をひいた時代でもありました。これって内定を取り消して入社しない人もいたんじゃないですか?

それが、いなかったんですよね。内定者全員が入社しました。私自身も、 暗号資産の裏側にあるブロックチェーンやスマートコントラクトというインターネット以来の技術革命の可能性を自ら調べて可能性や未来を感じていたので、むしろ他じゃできない貴重な経験ができるかもしれないということで渦中の栗を拾いにいきました。今振り返ってみるとこの判断は正解だったと改めて思います。


――:業界に激震が走りましたし、2017年末までに12事業者が取引所として認定されてましたが18年はすべてがストップ。

当時、業界の中でもコインチェックに対する風当たりは強かったと記憶しています。2018年当時は暗号資産交換業のルール整備の途中段階で、現在と比べると非常に未成熟な時代でしたが、 流出事件を起こしたわけではない他の取引所も弊社の事件がきっかけになり、一斉に業務改善命令が出されることになり、やり場のない無言の憤りを感じていました


――:コインチェックも取引所認定を受けて、これから攻めだ!というタイミングだった矢先ですよね。社内が激変するなかで、天羽さんはどんなお仕事をされたのですか?

最初は経営企画や事業開発っぽい仕事をするのかなと思って入社しましたが、初日から社内の体制を構築する仕事に奔走しました。社内の規程ドキュメントやハッキング対策など複雑な論点を整理して実行を繰り返す毎日で、とにかくバタバタしていました。もうあんな経験は二度とできないですね。この期間は今振りかえると「精神と時の部屋」にいたかのような、本当に濃密な修行の時間でした。あの時があるので、今は常に"絶対"はないと思いますし、何かが起こっても多少の事では動じない自信があります。


――:リクルートでマーケティングや新規事業開発をやっていた天羽さんが、なぜこのポジションになったんですか?暗号通貨にしてもICOにしても過去の経験とは全く関係ないわけですよね?

当時はやれそうな人ができることを全力でやるという状況でした。そもそもができ たばかりの業界で、キャリアが長い人がいないんです。コインチェックが老舗取引所の一つで2012年設立、bitFlyerが2014年設立。監査法人だって弁護士だって金融庁だって、誰もこの問題にクリアな回答をもっている人はいないんです。それぞれが既存のルールと照らし合わせながら整合性をとり論点整理や合意形成をしながらジリジリと進めていて、毎日毎日が3歩進んで2歩下がる、その繰り返しでした。


――:よくわかります。2011年ごろのソシャゲ業界も同じでした。ガチャ問題など社会的に非難を浴びたとしても、誰かが回答をもっているわけじゃない。世界的にも日本が最先端だったので。誰かが過去の類似レファレンスと団体をつくって見解を集めて、いったんこれが仮の線だと引かなくてはならないんですよね。

一言で言うとカオスで、今までにない新しい概念やプロダクトがどんどん生まれてきており、その中で既存のルールと整合性をとり新たな考えを盛り込んでいく。ロジックが立っていれば良いかというとそういうわけではない。立場が異なる複数のステークホルダー間で合意形成されたものが正となりますから、実際の現場では同じ趣旨の事をいうにしても言い方が重要だったり、相手の立場を理解した上での枕詞だったり、コミュニケーションの仕方も重要でした。話が戻りますが、2018年はそんな感じであっという間に過ぎていきました。


――:初期に暗号通貨業界にいた方ってテックの中でも考えが先鋭的な人たちだったように見えます。

革新的な技術を扱う業界なので、「規制と戦うぞ」とか「資本主義の仕組み自体をアップデートするぞ」みたいに尖っている人はもちろん多いです 笑。ただ、ロジックを振りかざす一方的な主張だけだと、なかなか折り合いがつきませんよね。変化が激しい業界なので、コミュニケーションのブリッジとして両者の落としどころを探ったり、翻訳してバランスをとる立ち回り方は、当時も今も変わらずですが重宝されると思います。


――:実際に事件から3カ月後の2018年4月にはコインチェックもマネックスグループ入りして、ガバナンス体制・コンプライアンス体制の見直しが行われます。そうして2019年1月に登録事業者になって、ようやく暗号通貨の交換業者としての仕事が始められるわけですよね。

はい、ライセンスが下りたら一気に攻めに転じることができるよう、取扱通貨を増やすための部署を当時の経営陣に掛け合って自らつくったり、徐々に守りから攻めへの準備を進めていきました。


――:その後、楽天やLINEなども認可を得て、現時点では日本で39事業者が暗号通貨取引所として認定されています。

 

■攻めに転じたNFT事業とIEO事業、取引所ビジネスから脱皮すべく新規事業 

――:18年2月に入社されて以降、「クリプトの冬」の期間は規制対応に奔走し、実際に事業拡大に向けて前に進み始めるのは2019年になってから、でしょうか。

はい、19年夏くらいになって、コア事業である暗号資産の販売所・取引所事業から多角化を進めて 新規事業を展開していかなければいけないと感じていました。現在コインチェックには「新しい価値交換を、もっと身近に」というミッションがあるのですが、当時プラットフォームとして4つの事業モデルを考えていたんです

 

1:デジタル通貨(CBDCやステーブルコイン)
2:セキュリティトークン
3:暗号資産(IEO等1次流通と2次流通取引所)
4:NFT

1と2は官公庁や金融系の巨大なプレーヤーなど多くのステークホルダーを巻き込んで大掛かりな調整が必要になってくる。金融の枠組みの 外側に広がる3と4のような領域にコインチェックの存在意義があると絞り込んでいったんです。ただ暗号資産を売買するだけじゃなくて、その裏側にある技術を使ってどうやって社会の役に立つかことができるか、考えを巡らせていく中で、これまでの暗号資産の2次流通の取引所事業の知見を活用した1次流通の取り組み、IEOと非金融領域であるNFTに可能性を感じている自分がいました。


――: コインチェックはって普通の取引所ビジネスの会社というイメージを持っていたのですが、このあたりはbitFlyerさんやGMOコインさんとの違いを感じますね。

もともとコインチェックって創業者でエンジニアの和田晃一良(現コインチェック ファウンダー&アドバイザー)が東工大の在籍時、2012年にレジュプレス社として設立した会社で 、ユーザーのリアルな人生体験投稿型メディア「STORYS.JP」から始まったんですよ(「ビリギャル」もこのサイトから誕生)。その後、ネクスウェイ社を経てレジュプレスに 参画した大塚雄介(現コインチェック 執行役員)と2014年に始めた暗号資産取引サービスが「Coincheck」でした。テクノロジーやサービスから始まったコインチェックと、ゴールドマン・サックスなど金融業の文化がベースにあるであろうbitFlyerさんとは、発想やアプローチもおのずと異なり、対照的だったんじゃないかと思います。
 

(参考: ビットコイン(BTC)チャート)


――:2018年、19年は世界NFT市場が300億円(2019~20年、21年に入って2兆円を超えた)くらいの小さな市場でしたよね。この期間にDouble Jump TokyoやGaudiy、HashPort、DEA、Hikky、フィナンシェなど次々にWeb3を目的とする企業が生まれていきます。

はい。弊社も市場拡大のタイミングを見据えて NFT事業を開始 し、21年3月からNFTマーケットプレイス「Coincheck NFT(β版)」を展開しています。NFTの取扱アイテム数を拡充し、あくまで中立的な立場で様々なNFTを売買できるマーケット運営をしてい ます。


――:しかしNFT事業の展開のタイミングが抜群でしたね。

まさに。21年2月にはDapperLabの『NBATopshot』から世界的なムーブメントが巻き起こり、そこから「NFT元年」が始まるんです。市場も2020年の300億から21年には5兆円規模
になります。すでにBTCも第四次バブルが始まっていて、21年夏には600万円台まで上昇します。コインチェックの収益のメインは暗号資産販売所・取引所からのものですが、NFTマーケットプレイスの収益も存在感を示してきています。


――:2年かけてNFT事業をつくってきた感じですね。しかしIEOはどうなのでしょうか?まさにそのBTC600万円の大バブル時代となった2021年7月に、日本最初のIEO事例をHashPalette社と一緒に成功させました。よく国内第一例目を、以前事件を起こしたコインチェックがやりましたよね!?

国内初案件ですから、やっぱり様々な調整が必要になります。ステークホルダーも当然慎重になりますし、2017年のICOのようにならないよう丁寧に合意形成を進める必要がありました。IEO第1号案件はNFT事業の立ち上げと同時並行で進めていましたが、こちらも実現までに2年かかりました


――: 相当に時間をかけて1例目をつくってきたんですね。具体的にはどういうことをするんですか?

基本的には株式公開(IPO)と同じです。審査のプロセスで論点を1つ1つ整理して合意形成をしていきます。こまめにステークホルダーと確認しながら、マネーロンダリングのリスクはこのように回避するとか、利用者保護の観点では...と、想定されるアジェンダに1つ1つ手立てを打ち、投資家の利益が損なわれないように進めます。これをコインチェックとHashPalette、Link-Uさんたちと一緒に行っていったんです。


――:Link-Uってマンガアプリの受託の会社ですよね?何か関係があったんですか?

さまざまな検討や調整を経て、HashPort社(ボストンコンサルティング出身の吉田世博氏が2018年に設立した暗号通貨交換のコンサルティング、システム提供を行う会社)と上場企業のLink-U社の座組みになりました。ブロックチェーンに明るいHashPort社、マンガなどIP・コンテンツが豊富で母体も安定しているLink-U社といううまく補完関係にある合弁会社です。日本におけるIEO1号案件は、この合弁会社であるHashpalette社において、ユーティリティ性を有するトークンである「パレットトークン(Palette Token, PLT)」の発行を行うものになりました。

 
――:実際にはIEOの結果としてどのくらいの規模になるんですか?

日本円ベースで9億円の調達、その枠に223億円分もの応募がありました。額が大きいから良いというものでは決してありませんが、今後日本のWEB3ベンチャー企業が日本でIEOという手段を活用して世界で戦うための発射台になる日本初の事例を作れたという点においては、次に繋がるという意味で成功といえるのかなと思います。

――:国内IEO事例でいうと、22年5月にGMOコインでFC琉球さんが展開されたのが2例目で、 いずれも上場後にはコインの価格が大きく下がっています。こちらは素人目だと「成功」なのか「失敗」なのかちょっと判断がつきかねるところもあります。40~50億のバリュエーションがついて10億円調達できるけれど、そのトークン自体は今また冬の時期ということもあって5分の1に。損をしている方も多いかとは思うのですが、このIEOの功罪についてはどう考えられてますか?

まだ日本で2例しかなく、これからだと思います。当社としては2つの事例の成功・失敗を分析して、おそらく3例目となる現座準備中のフィナンシェのIEO案件を成功に導きたいです。その結果もみて、ご判断いただければと思います。

 

■NFT元年、企業価値1500億円の会社になったコインチェックはグループの屋台骨に 

――:この直近2年間のコインチェックの業績はすさまじいですね!もともと20年3月期の営業収益が38億円だったものが、2021年3月期208億、22年3月期286億と大きく伸びました。なにより驚くのは22年3月期の税引前利益138億、マネックスグループ傘下の企業で一番の稼ぎ頭になりました。グループの中でも驚かれたんじゃないですか?

相場にも後押しされて、グループにくる問い合わせの多くがコインチェックの件、みたいな状態になりました。もちろん相場にはサイクルがあるので、あまりここに惑わされすぎないように事業を運営しておりました。

 


――:マネックス側からみると36億円相当で購入(株式交換)したコインチェック社の企業価値が21年度末には1,500億円にまで膨らみます。そもそもマネックスグループは傘下に 日本で約200万口座・6兆円の預かり資産をもつマネックス証券を有するグループですが、クリプトアセット事業としてコインチェックに175万口座・3千億円弱の預かり資産を有するグループです。

そうですね。この時期に採用も拡大させて、いまや社員数が200名を超える規模の会社になりました。


――:個人的には天羽さんが共同編著で 21年秋に出版された、この『NFTの教科書』は本当に勉強になりました。最近も出版が相次いで いるNFT・メタバース・Web3系の書籍の中では一番早かったんじゃないですかね?それまではずっと暗号通貨のフィンテック的な話ばかりだったので。こちらはどのくらいの期間で書かれたんですか?

2021年6月にプロジェクトをスタートさせて、 出版したのは21年10月末ですね。


――:え!?あの大人数をまとめて(『NFTの教科書』は約30名の執筆者の論考で構成されている)半年かからずに出版にこぎつけるなんて、ありえないですね!

NFTの世界はグローバル全体で目まぐるしく動いていくので、スピードが重要でした。同時期に業界団体の中に「NFT部会」という組織を作り、NFTガイドラインを策定していました。そのメンバーを中心にNFTの第一線で動いている方々を厳選してお声がけし、NFTとの掛け算でアート、スポーツ、ゲームなどそれぞれの領域を手分けして一気に書き上げてもらいました。


――:話題を変えますが、金融系のマネックスとネット・テクノロジー系のコインチェックのカルチャーってどのように融合しているんですか?

今年の8月に元MIXIでCTOを経験されてた松岡剛志さんが入社したんですが、松岡さんはコインチェックのことを「スーツとハッカーの会社だね」と言っていました。コインチェックはマネックスのグループ会社ですが、マネックスグループやマネックス証券とはカルチャーは結構違うように見えます。それぞれの良い部分を互いに補完したり融合しながら、グループ企業としての繋がりをつくっていっていると思いますね。


――:コインチェックではどういうバックグラウンドの人が活躍しているんですかね?

入社前のキャリアは皆バラバラなんですよ。テック系からも来ているし、金融系とか不動産系からも、色々な業界から人材が来ています。共通しているのは「Web3産業の可能性を信じていること」くらいかもしれません。


――:なんか全員が事業開発してるって感じですね。

「全員が事業開発をしている」という見え方は、Web3的な在り方に通じるところがあるかもしれません。Coincheckが意図してWeb3的になっていっているということではないのですが。そもそもWeb1はホームページを活用して1方向で情報発信、Web2はSNSを活用して双方向にコミュニケーション、Web3は各プロジェクトや企業、または個人が暗号資産やNFTなどのトークンを発行し、トークンホルダーを巻き込みコミュニティを運営しながらビジネスを創っていきます。トークンを発行するという意味では全体的にフィンテック化していくと思います。

 

■2022年の年初からメタバース事業推進!"クリプトの冬"にも攻め続ける構え 

――:2021年はNFTマーケットプレイスの 拡大、IEO事業、書籍執筆と獅子奮迅の活躍をされました。そこから1年がたち、市場が落ち着いてきた中で、22年9月末にブロックチェーン基盤のメタバースである『Decentraland』内にコインチェックが開発中の「OasisKYOTO」がプレオープンしました。

プレオープンのイベントには30名の募集枠に400名を超える方々から応募をいただきました。ユーザーさんがこれだけ関心を持って参加してくれるんだという実感も持ちましたし、このあとには『The Sandbox』内に「Oasis TOKYO」を、『Otherside』内に「Oasis MARS」もつくっていく予定です。


――:次々に作られていきますね。メタバースをいくつも立ち上げているのはなぜですか?

プラットフォームごとにユーザーが違うからです。今後メタバースは次世代SNSのようになる、加えて、これまでSNSのように1強ではなく、複数の主要なメタバースがブロックチェーンで繋がる「マルチバース」の世界観になっていくと見ています。そのメタバースでは多様なコミュニティが創られていきます。当社は試験的な取り組みとして世界トップのWeb3メタバースの3か所それぞれでメタバース都市を開発しています。

 
――:メタバースでいうと、先日FacebookのMetaHorizonがDAU20万にも満たず、昨年100億ドル(1.5兆円)の巨額赤字を計上し、Metaverse flop(メタバース大失敗)の文字がニュースを席巻しました。いまだもってゲーム以外の方法でどうやって継続率、何度も入る理由を創り出すかが一番の問題となっています。

はい、私たちもそれは認識しています。ひとまず自前でのメタバースを作るという発想はなく、様々なサービスが展開されている場所に私たちのメタバース「Oasis」をつくっていき、各「Oasis」でスポーツやファッション、アーティストなど各界で活躍されている著名な方々とのコラボを予定しています。AKB48出身の小嶋陽菜さんの『Her lip to』や、『竜とそばかすの姫』のベルの衣装を手掛けたANREALAGE(アンリアレイジ)の新作コレクション展示だったり、「Oasis」に繰り返し訪れてもらうきっかけをつくっていく予定です。

「Oasis TOKYO」のクリエイティブディレクターに東京2020パラリンピックのショーディレクターを務めた小橋賢児さんに就任いただいたのも、ユーザーが繰り返し「Oasis」を訪ねたくなるにはどうするかを一緒に考えていただくためです。小橋さんが言うには、メタバースと言っても現実の街づくりと同じなんだ、と。米国のバーニングマンなども参考にしながら、リアルの世界と同じように人と人を結びつける必然性をつくっていこうとコミュニティのデザインを進めています。


――:こちらIEO事業もNFT事業もやったうえで、メタバースもというのはちょっと海外のBinanceやCoinbaseなどの取引所でもやっていないレベルでの取り組みかなと思います。どうしてこうした構想が出てきたのでしょうか?

ちょっとお恥ずかしいのですが、こちらは私が今年の1月3日に思いついて描いたものです(封筒の裏に雑に描かれた図)。Oasis TOKYOという、美術館や映画館、音楽ライブステージなどがある空間で多くの人がSNSのように過ごす状態を創れるんじゃないか。NFTとも親和性があるんじゃないか....という構想が湧き、年頭所感でこの構想を社内に発信し、社内メンバーやパートナー企業をまきこんでいき、10か月でここまで進めてきました。 

(「2021.1.3」となっているのは天羽氏による誤表記)


――:めっちゃ手描きですね 笑。お聞きしていると天羽さんはやっぱり「突破力」な人なんですね。業界的にはそういう人材がまだまだ求められるんでしょうか?

専門家と呼べる人がまだいないような領域 なんです。2018年に何も知らずに飛び込んだ僕が3年後に本を書いているくらいですから。動きがとても速いのでまずは飛び込んでみる。そしてもがいて解像度をあげながら構想を描いてみる。ほとんどが「ふわっとしている」状態から、皆を巻き込みながら暫定的な仮説でもって「構造的に整理するとこう言えるかもしれない」と丁寧に合意形成をしていける人、しかもそれがある条件で一転して変わったとしてもそれに対応できる人。そういう臨機応変で柔軟なコミュニケーションをしながらブルドーザーのようにじりじり仕事を進められる人が向いていると思いますね。


――:この22年夏ごろから急激にまた「クリプトの冬」といえる状況になってきました。今後はどうなっていくと考えていますか?

今はちゃんとしゃがんで明日に備える時期だと思ってます。すでにこの業界は何度も冬を経験してきているんです。冬の時期にやるべきことをやって力を蓄えることができれば、その次には春が来ます。次のブームに備えて、弊社としてはこうした事業開発の手を止めないようにすることが何より大事だと思ってます。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
企業データを見る