スマホ小説で独自の発展を遂げる『エブリスタ』…池上社長が語る”いま”と”次の一手”

ここ数年、毎年のように電子書籍が飛躍するといわれ続けてきたが、昨年あたりからタブレット端末やスマートフォンの普及を背景に、『LINEマンガ』や『BOOK☆WALKER』などのサービスが人気を集めるようになり、ようやくビジネスとして収穫期に入りつつあるようだ。
 
その一方、フィーチャーフォンで人気だった「ケータイ小説サイト」は、昨今のスマートフォンやタブレット端末普及により、どういった変化・展開を見せているのだろうか。今回、エブリスタの池上真之社長にインタビューを行い、「E★エブリスタ」の最近の動向について聞いてみた。
 
「E★エブリスタ」といえば、ディー・エヌ・エー(DeNA)とNTTドコモの合弁会社が運営する小説・コミック投稿サイトという認識を持っている方が多いかと思うが、最近の状況をご存じない方も多いかと思う。今回、ユーザー層や投稿作品の状況、最近の取り組みなどを中心にお話をしてもらった。
 
 
 

■「エブリスタ」は年齢層と男性比率が高い

 
―――: よろしくお願いいたします。「Social Game Info」はゲームメディアですので、御社に馴染みのない方もいらっしゃると思います。まず、会社とサービスのご紹介をお願いします。
 
当社は、DeNAとNTTドコモの合弁会社として2010年4月に設立されました。小説やコミックなどの投稿プラットフォーム「E★エブリスタ」を2010年6月より提供しています。提供作品数は200万作品以上にのぼり、毎日1万人以上の作家がサイト上で創作活動を行っています。
 
「E★エブリスタ」に投稿された作品は、当社の運営する「E★エブリスタ」だけでなく、「Mobage」内にある小説コーナー、「dマーケット」で配信されており、各プラットフォームのユーザーはいつでも閲覧できます。読者数は毎日、100万人以上が訪れています。
 
―――:そんなに大規模だったんですか。作家さんもずいぶんいらっしゃるのですね。「エブリスタ」が従来の「ケータイ小説サイト」と違う点としてどういったことがあげられるでしょうか。
 
まず、フィーチャーフォンメインだった頃の一般的なケータイ小説サイトですと、10代の女性ユーザーが大多数を占めたものですが、当社ですと10代が28%にとどまり、20代が35%、30代以上が37%と年齢構成が高めになっています。ユーザーの男女比も大きく異なり、男性46%、女性54%で、男性比率が高い点も特徴といえます。
 
―――:なるほど。デバイスはスマートフォンが中心なのでしょうか?
 
はい。当初はフィーチャーフォンが大半でしたが、いまではスマートフォンが61%を占めます。残りはフィーチャーフォンが25%、PCが14%で、スマートフォンへの移行がスムーズに進んでいると思います。その理由としては、2010年秋にAndroidアプリ版をリリースするなど、早い段階からスマートフォンへの対応に取り組んできた点が大きいと考えています。
 
 
 

■月間売上100万円を突破した作家も誕生

 
―――:投稿する作家に共通する点はあるのでしょうか。
 
実際にお会いした作家さんの範囲の話になりますが、共通点といえるものはないです。以前は主婦や学生が多いと思っていたのですが、20~30代のサラリーマンやプロの作家、定年で引退した方などと本当に幅広いです。ただ、個人的な印象ですが、地方に住んでいる方からの投稿が相対的に多いような気もしています。
 
―――:投稿される作品の特徴は。
 
これまでは恋愛小説が多かったですね。しかし、読者層の多様化を背景に、作品ジャンルも以前に比べて幅広くなっています。エッセイやコミックス、ハウツー本なども出てきましたし、小説についても恋愛だけでなく、ホラーやミステリー、スポーツ小説など多種多様になっています。
 
―――:昨年8月より個人作家の作品の販売も開始しましたが、状況はいかがでしょうか?
 
女性の個人作家の作品が昨年11月に月間売上100万円を突破し、今年1月には2人目の100万円を突破する作家が生まれました。さらに販売部数が5000部を突破した作家も10名を超えています。正直申し上げまして、販売プラットフォームを始める前は、まずは月間売上が数万円クラスの人が多く出てくればいいのではないかと考えていたのですが、それを大きく上回る状況で驚いています。
 
これとは別に、メディア展開の支援にも力を入れています。出版社のご協力をいただき、年間100冊以上の書籍化を実現しました。例えば、『櫻子さんの足元には死体が埋まっている』は、角川書店から刊行され、累計30万部を突破しました。角川さんはテレビCMでも流していただいています。いまや書店でケータイ小説はひとつのジャンルとなりましたが、スマホ小説もひとつのジャンルになるでしょう。
 
またご存知かと思いますが、作品のゲーム化や映画化も行われました。有名なところですと、『王様ゲーム』や『サバンナゲーム』はコミックスやソーシャルゲームになりましたし、『僕と23人の奴隷』はコミカライズ化され、映画「奴隷区/僕と23人の奴隷」にもなりました。また直近では『マイ・フェア☆BOY』がアリスマティックさんからゲームアプリ化されましたね(関連記事)。
 
―――:他の投稿サイトでは作家さんを支援する取り組みを行っていますが、御社ではいかがでしょうか。
 
まず、公募文学大賞として「電子書籍大賞」を実施し、入選作品の書籍化や映像化、ゲーム化を支援しています。昨年は8000点を超える作品が集まりました。お笑い芸人のマシンガンズさんの作品が入賞したことでも話題になったかと思います。今年は「スマホ小説大賞」としてリニューアルいたしました。
 
直木賞作家の石田衣良さんと協力して、次世代のスター作家を発掘・育成する取り組みも行っています。年4回の小説賞を行うとともに、小説賞入賞者を対象に小説講座を行っています。石田さんからは「エブリスタ」で配信される作品から直木賞作品も出てくるかもしれないと高く評価していただいています。
 
―――:有望作家の経済面での支援は行っているのですか?
 
実施しています。作家を経済面から支援するための試みとして「スマホ作家特区」という制度を開始しました。これは作家として生計を立てたい、有名なクリエイターになりたいという人を支援するため、毎月10~20万円の生活費を援助するもので、第一期では20代~60代から5名を選出し、作品作りの支援を行っています。
 
 
 

■データ面でのフィードバックも強化

 
―――:初歩的な質問ばかりで恐縮なのですが、スマホ小説ならではの特徴というものはあるのでしょうか?
 
恋愛だけでなく、他のジャンルの作品が多い点がありますね。それだけでなく、作家さんにとってもかなり違う環境になっています。
 
―――:環境ですか。というと、画面が大きいので文章が長めに書けることでしょうか。
 
それもありますが、従来のケータイ小説サイトに比べて、精緻なデータが取れるようになっており、作家の支援にもつなげることができている点です。例えば、売れている作品を分析して、1ページの文字数や改行の仕方など最適な分量がわかってきました。行間を開けて200~300文字に留める、といったものです。そうした情報を作家さんに提供し、作品作りに役立ててもらっています。
 
もうひとつは、ユーザーがどのサイトから作品を見つけて入ってきたのか、どこで読むのをやめてしまったのか、といった情報がログデータとして取れるようになっていることです。その情報を作家さんにフィードバックしています。これはソーシャルゲームの運営を思わせるものですね。フィーチャーフォンではそこまで詳細なデータがとれていませんでした。ログデータは、コメント以外の読者の重要なレスポンスといえます。
 
作家さんが頑張っていい作品を書き上げても、フォーマットの問題やちょっとした表現で損をしてしまい、読者に読まれなくなってしまうのは大変残念なことですから、そうならないような状況にしたいと考えています。データ分析については、当社独自にもテストを行って研究しています。
 
―――:データをフィードバックできるというのは興味深いですね。本当にソーシャルゲームの運営のようですね。
 
そうですね。当社と作家、読者が一緒に作り上げて発展してきました。それと「エブリスタ」内での作家さんのコミュニティづくりにも力を入れています。1人だけで作品作りを続けていくのはしんどいことですし、時には読者から酷評を受けることもあります。そうしたとき、仲間がいれば、お互いに励まし合ったり、情報交換をしたりすることができ、作品作りのモチベーションを上げることもできるでしょう。
 
 
 

■最近の取り組み…「メカつく」とスマホアプリ化を強化

 
―――:最近の取り組みでは、『僕たちの見たいメカアニメをつくろう製作委員会』は注目を集めましたね。
 
記事にも取り上げていただきましたが(関連記事)、メカアニメについて、企画書やキャラクターデザイン、シナリオを全て一般公募で行うものです。最近、実写映画が増えまして、そろそろ作家さんの作品をアニメにしたいと考えていたことが背景です。そして、親会社や作品の映画化などでテレビ局とのつながりが出てきて、アニメ化にも取り組みやすくなったことも大きな要因ですね。
 
―――:現段階での応募状況はいかがですか?
 
現在も企画の募集を行っていますが、応募される企画書のレベルがどれも高くて本当に驚いています。すぐにも使えるような企画ばかりです。プロの方の応募が多いのではないかと思います。個人的には、もう少し破天荒な企画がでてくることを期待していたので、もっと気楽に応募してもらえたらと思います。
 
ご自分の専門分野に関連したロボアニメを企画するのも面白いと思いますね。ゲーム開発に携わっている方も面白いことを考えることが得意な方が多いでしょうから、これはと思うアイディアがあるようでしたら、きちんとした企画書でなくても構いませんのでぜひ投稿して欲しいですね。
 
また、コンテストを盛り上げるため、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんと、声優の上坂すみれさんに「メカつく」のWEB番組に出演していただき、集まった企画・作品や、コンテストの進捗状況を紹介していただき、コンテストそのものを盛り上げていきたいと考えています。
 
―――:このほか、『エブリスタ』をアプリ化して配信する試みは行っているのでしょうかか?
 
NTTドコモと一緒にAndroid中心に展開してきたため、iOSアプリに関しては後発でしたが、これから攻勢をかけていきます。これまでは小説作品をコミック化してアプリにするといったことが中心で、一定の成果を収めてきましたが、最近では小説そのものをアプリとしてリリースすることにも力を入れています。
 
まず、大人の女性向けの恋愛小説のジャンルをアプリとして『オトナの恋愛小説―エブリスタウーマン―』を出しており、17万ダウンロードを記録しています。夏ごろまでに他のジャンルの小説作品もアプリとして出していきたいですね。プロモーション活動をあまり行ってきませんでしたが、今後、マーケティングにも力を入れていきたいですね。
 
―――:最後になりますが、今後やりたいことを教えてください。
 
「エブリスタ」に面白い作品をどんどん集めて、使いやすいアプリとして出していきたいです。面白い作品を集めるためには、石田さんと取り組んでいる作家スクールや、作家さん同士で行う勉強会などの取り組みも不可欠です。質を上げる取り組みに力を入れたいです。
 
量としては、スマホ小説大賞を行うことで、大々的に打ち出して去年を上回る作品数を集めたいです。「エブリスタ」についてももう少し気軽に投稿できるように、ハードルを下げたいですね。例えば、「今日の母との会話」(笑)のように、「これ、小説なの?」と思われるような作品も受け付けたいと思っています。
 
これ以外では、「聖地」ともいえるようなリアルな施設を作りたいという思いもあります。そこで作家さんと読者が一緒に作品づくりができ、「エブリスタ」内で行われていることが目に見えるようにしたいです。もしそういった「聖地」ができたら、ぜひ取材にきてください。
 
―――:ぜひ伺います。今日はありがとうございました。



 

E★エブリスタ

株式会社エブリスタ
http://everystar.jp/

会社情報

会社名
株式会社エブリスタ
設立
2010年4月
決算期
3月
直近業績
非公開
上場区分
非上場
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