【CEDEC2014】サイバーコネクトツー×ドリコム、「半年後の売上ランキングを楽しみにして欲しい」『フルボッコヒーローズ』異業種協業開発での経験や失敗、現状を語る


2014年9月2日~4日に、パシフィコ横浜で国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2014」(以下、CEDEC 2014)が開催。

両社が手がける『フルボッコヒーローズ』は、配信スタート前に「フライングゲットガチャ」という独自のプロモーションで、驚きの事前登録者数45万人を獲得したシューティングRPGゲームアプリだ。

しかし、フラゲガチャでそこまで大量に事前登録者を獲得できたにも関わらず、徐々に売上も下がっていったと現状を明かしたサイバーコネクトツーの松山氏。本講演が決定した6ヶ月前よりガラッと状況は変わっていることを最初に語った。
 

続いてドリコム 取締役「長谷川敬起」氏、ドリコム ソーシャルゲーム事業本部 プロダクト部 プロデューサー「まんぞう」氏、サイバーコネクトツー 開発部 ディレクター「小野田一彦」氏も登壇し、両社協業体制においてのメリットやデメリットを赤裸々に語ったセッション「事前登録者数45万人を獲得した施策『フライングゲットガチャ』良策を連発する為の異業種協業体制とは!?」と題した講演内容をお届けする。

ちなみに本作は、8月25日に操作性やイベントの改良、新システムを追加したver.2.0進化版『フルボッコヒーローズX(エックス)』にアップデートしており、全種族(クラス)解禁に加え、新機能を追加している。さらにイベントなどを司る運営体制を大幅に改善している。

 

■「フライングゲットガチャ」はどうやって生まれたのか?


配信スタート前に「フライングゲットガチャ」という独自のプロモーションを展開した両社のオリジナルタイトル『フルボッコヒーローズ』。プロモーション方針を「事前登録」を重視し、今までのプロモーション手法だった「質の良いコンテンツ+ネット広告」に「事前登録×バイラルを狙った施策」をプラスし、今までにないプロモーション手法で事前に「狙って」バイラルを起こしてインストール数を最大化させることを実施した。

ソーシャルゲームの新作リリースでユーザーが頻繁に実行する「リセットマラソン(通称:リセマラ)」とは、序盤のチュートリアルで配布されるアイテムや、レア度が高いユニットが入手できるまで、アプリのインストール/アンインストールを繰り返す根気のいる作業のことだ。
 

 
そもそも、その(リセマラの)作業の存在と苦労を知っていた開発陣は、そのリセマラを最初から運営側で仕組みを作って実施してしまおう、と考え生まれた施策が「フライングゲットガチャ」である。

おおまかな仕組みとしては、

・ゲームの公式サイトから事前登録をしてフラゲガチャを回す
・ガチャで自分の気に入ったキャラが出るとそこでガチャを終了し、シリアル発行待ちに
・ガチャで満足できるキャラが引けなければ連続で実行し、上限が来たらFacebookやTwitterで拡散してガチャの権利を入手
・再びガチャを回す


といったサイクルで、ゲームの提供前に強力・レア度の高いキャラクターを入手できるようになっている。当時の効果が下記の数字として発表された。

・事前登録者数(シリアルコード発行数):約48万件
・フライングゲットガチャ:約996万回転
・Tweet数:約140万Tweet
・配信開始2日目で総合無料2位
・事前登録者と自然流入者で継続率約3倍・課金率約6倍

 

さらにその仕組を使った新サービスもその後社内の別の部署で誕生・商標化され、リリース前に高質な事前登録ユーザーを獲得、ガチャにはユーザーの熱量を向上されることに成功している。バイラル効果(クチコミ)に話題の醸成も可能となったようだ。


●フライングゲットガチャ成功の秘訣

A:企画・開発・運用を自社で
開発期間:総期間約2ヶ月 工数:総計約10人/月
メリット:急な仕様変更を臨機応変に対応可能。各種チェックバックも即時対応可能
デメリット:0ベースから作るとそこそこの開発期間と工数が必要になる

そもそも企画が生まれたのがリリースの2ヶ月ほど前で、短期間で実装を余儀なくされた企画。他社と組むと人材探しなど、短期間で実装できないため自社でほとんど展開する。
B:質の良いコンテンツを準備
ユーザーに「期待感」を持たせるコンテンツ
行きたいところが一目でわかるサイト設計
デザインもアプリの印象に合わせる
そんなゲーム化想像しやすく見ていてワクワクするPV動画

公式サイトや特設ページで、CC2作成のPVなどでリリース前にユーザーに興味を持たせつつ、ワクワク感を継続させるようにする。
C:ユーザーを飽きさせないメディア展開
ユーザーに「常にアプリを意識してもらう」メディア展開
楽しんで読んでもらえる企画系記事掲載
最新情報を公式Twitterでフォロワーにお届け
メディア掲載と連携した情報発信
話題性のあるPRを都度リリース

数ヶ月間事前登録を実施していても、定期的に企画記事などでユーザーに認知させ、話題を繰り返し起こすことで、広告媒体やゲームニュース媒体などで拡散する。
 

D:ユーザーとのコミュニケーションを形成
公式&Twitterを活用したさらなる「付加価値」を創出する
フォロワーとのコミュニケーション企画を展開し、アプリ自体に愛着を持ってもらいつつ、フラゲガチャ以外にも価値を創出することに注力する。
 
メディア掲載数とTwitter新規登録者数の関係
メディア掲載数の増加に合わせてTwitterの新規登録者数も増加
12月16日に事前登録を開始後、約3日ほどは目新しさなどに興味を持ったユーザーなどで盛り上がるが、だんだんとTwitter新規登録者数は下がるが、PVの公開などメディアへの露出を重ねることで、注目度を上げている。
 
フラゲガチャの成功の秘訣のまとめ

自社で開発が好ましいが、期間と工数の確保が必要と判断。フラゲガチャ単体の効果はそこまで高くないと認識しており、他のコンテンツと掛け合いながら、ユーザーを飽きさせない、質の良いコンテンツ期待感を持ってもらうことが成功の秘訣とのことだ。
もちろん、自社で実際にフラゲガチャを実施するにはハードルが高いと思っている開発会社には、新サービスとなっている「フライングゲットガチャ」を利用するのも良いかも知れない。
 

■両社の役割分担、開発・運営体制の狙いと秘策


両社の強みを最大限に活かせる体制を、お互いの開発・運営経験を活かし、しっかりとした役割分担を実施。
 

●ソーシャルゲームのドリコム
運営・サーバー側の制作を担当
データベースの開発経験
ソーシャルゲームの開発経験
精度の高いKPI解析能力
期待を超える運営(サービス)


●コンシューマタイトルを数多く手がけるサイバーコネクトツー
アプリ側の開発を担当
アクションの手触り感
コンシューマ開発経験
世界観&キャラクター設定
ハイクオリティ3D映像演出


狙いに対しての結果
両社の長所をアプリに反映できた

「この手法面白い」「他のアプリで見たことない」など、他アプリにはないようなUX(ユーザーエクスペリエンス)や演出を実装できたことが長所となった。しかし、デメリットとして、完全に役割を分担するのが非常に難しいことが挙げられ、どうしてもUXや開発思想に関するズレが生じ、修正や摺り合わせのために、開発期間に影響が出たことも明かしている。複数の会社で開発・運用をする際には、役割を理解し、都度思想の摺り合わせをすることが大事と両社は感じたため、それを体現するため「同じ場所で働く環境を作った」という。

●開発体制の推移
◆プリプロ(一ヶ月)
プリプロ版(約34人/月)
バトルの基礎作り
キャラクターイラスト制作
かなりの人数を割り当てたのは、登場キャラクターの2D・3Dイラスト両方を大量に制作するため。
 
◆α版(3ヶ月)
α版(約34人/月)
バトルのUX作り
キャラクターイラスト制作
主にゲームの根幹となるバトル部分の面白さを追求するための人数を用意。
 
◆β版(2ヶ月)
β版(約41人/月)
バトル作り込み
通信つなぎ込みテスト
キャラクターイラスト制作
3Dモデリング制作
α版で体験できたバトル部分の作り込みや、特にここで初めて作業となった通信系のつなぎ込みが特に苦労したとのこと。特に工数も多くリリースを控えているので、人数が多い時期。プリプロ版からキャラクター関連の作業者をアサインしたおかげで、想定していたキャラ数約160体を大きく上回る200体近く用意することが可能になったようだ。

◆リリース後(2ヶ月)
リリース版(約51人/月)
バランス調整
バトルブラッシュアップ
通信実装
キャラクターイラスト制作
3Dモデリング制作
ブラッシュアップについては想定と変わっており、リリースに耐えうるアプリを開発することが精一杯で、手を付けられなかったのが現状とのこと。
 



■コンソール系とソーシャル系GDが共同で仕様を考える時の思考変化


ここからはサイバーコネクトツー 開発部 ディレクター「小野田一彦」氏より、異業種間での開発を続けることによって生じた問題点や改善策について説明がなされた。

◆実装の流れ
サイバーコネクトツーが仕様化

ドリコムから違う視点から意見をもらう

仕様修正&仕様FIX

実装

仕様化後に全く違う視点から意見をもらうことで内容が変化した。

◆ミドルサイクルコンテンツ(ユーザーを中長期的に楽しませる施策)に関する仕様の変化

サイバーコネクトツー
当初、「街発展」のようなユニット派遣や装備作成、アイテムバザーなど目に見えて実行したことや積み重ねたことが残る仕組みを考案していた。

ドリコム
自分にしか見えないクエストを、フレンドになることで他のユーザーに一定時間開示する「フレンドクエスト」へ変更。結果として、よりユーザー間交流が生まれる形へ進化。この仕様は実際にゲーム内に実装済み。
 

 
◆ユニットパラメータの価値に対する仕様の変化

サイバーコネクトツー
バランス調整のしやすさや、★3~4レアリティのユニット価値も重視していた。

ドリコム
★5の高レアリティユニット価値をもっと重視したらどうか?

かなりのコストがかかったが、実際にパラメータパターンを2種類作り、マスターデータを2種類作り、両社でモニタリングや投票を実施。結果としてユニットは価値創出のため、レアリティが高いほど強いバランスへと変化していった。
 

 

■思想・共通言語が異なることで生じる衝突の発生ポイント


◆CASE1:「開発言語」で起こった問題

もともと両社で認識の違う、用途が異なる用語や言語があったため、開発当初のミーティングではお互いに話すことを理解できず、コミュニケーションが阻害された。

ドリコム側
ディレクター→プランナーを指す
エンジニア→プログラマーを指す
クライアント→アプリプログラムを指す
BU→5日間連続ログインユーザー数


サイバーコネクトツー
ディレクター→開発責任者を指す
エンジニア→使用しない
クライアント→依頼企業・顧客を指す
BU→使用しない

 

◆CASE2:「マイルストーン」で起こった問題

β版を提出後、リリースまでの一ヶ月に関して両社が持つ感覚が違ったため、残タスクをに優先順位を設ける際にズレが生じた。

ドリコム:リリース直前まで改良を続けよう
(ブレストを重ねてさらにブラッシュアップしていく段階)

サイバーコネクトツー:残り1ヶ月、着地へ向けて調整しよう
(仕様はFIX、バグ修正と調整を行う段階)
 
◆CASE3:スケジュール感のズレ

ドリコム
リスクヘッジを組み込んだ上でスケジュールを組んでいた

サイバーコネクトツー
想定上最善の流れでスケジュールを組んでいた

両社で実装を別々に完結させているうちは問題はなかったが、通信のつなぎ込みなどお互いで密接した作業を実施するようになってからは徐々にひずみが発生。
 
◆CASE4:データベース設計に対する考え方のズレ

このケースは通信つなぎ込みに関係する問題点となる。

ドリコム
パフォーマンスを重視し、サーバーサイドとしては正しい考えでデータベースやAPIを設計

サイバーコネクトツー
運用時の管理のしやすさを考えてゲームデータを入力しやすい形でローカルデータベースを設計

特にこの問題は重大で、両社設計の整合性を取るのに非常に時間を消費。結果として開発後半の大事な時期に約一ヶ月~一ヶ月半ほどの開発遅延を生んだという。
 

■コミュニケーションロスを防ぐために取った開発体制


◆CASE1
サイバーコネクトツー社内に座席を用意してドリコム側に出向してもらう。
最大で東京スタジオの1/5程度=12座席を用意して駐在してもらい、顔を突き合わせて開発をするようになってからは、これまでの問題が徐々に解決していった。

◆CASE2
コミュニケーションツールや特定の開発手法を導入
KDDIのChatWorkを使用し、スクラムによるタスク管理で両社のエンジニアのタスクを一括管理し、開発後半のコミュニケーションがより円滑に。

◆CASE3
毎週水曜日(17:00~19:00)に定例会を実施
鉄の掟として必ず開催するミーティングで、リリース前から現在まで続いている。売上の数字共有や施策のネタ出し、問題点の共有などを実施し、問題点の解決を即時開発現場に反映できるようにした。

■両社協業体制のメリット・デメリットとその対策


続いてドリコム ソーシャルゲーム事業本部 プロダクト部 プロデューサー「まんぞう」氏、および小野田氏より両社協業体制についてのメリットやデメリットが解説された。

ドリコム
メリット:自社にはこれまでなかった新たなUXの知見が得られた。クライアントサイドの開発知見が得られた。
デメリット:「何を与えて、何を楽しんで欲しいのか」という、2社間のユーザーへの思想にズレが生じていたこと、開発手法のそもそもの違いにより、クライアントとサーバのつなぎ込みに問題が発生した。
対応策:同じ場所で働く環境を作り、直接話せる状況を作り出し、直接話せる環境を作った。鉄の掟となっているミーティングで、都度の思想摺り合わせをしながら、細かいスパンでのスケジュール調整と確認を実行した。
 

サイバーコネクトツー
メリット:サーバーサイドの開発をすべて任せられたことで、アプリのゲーム部分の開発に専念できた。サイバーコネクトツー側にはない知識の部分をフォローしてもらった。
デメリット:共同開発&初顔合わせということもあり、初期は意思疎通が上手くいかず、認識のズレが頻繁に発生。
対応策:都度の細かい進捗確認をし、お互いに腹を割ったコミュニケーションを心がける。また、問題発生時の報告連絡相談(ほうれんそう)フローを事前に確立しておく。

■まとめ:現状とこれから


ここまでは、『フルボッコヒーローズ』のプロジェクトのために、異業種の企業がどのような問題が発生し、どうやって解決して正式リリースを迎えたか、という講演となったが、後半では現状と課題について松山氏が中心となって説明された。
 



◆売り上げが伸び悩む『フルボッコヒーローズ』の現状と課題

現在正式リリース初月から、6ヶ月連続で売り上げが下がっていることが明かされたが、8月25日に実施されたアップデートで『フルボッコヒーローズX(エックス)』に進化してからは、再浮上しつつあることも語られた。

運営に関しては、鉄の掟と呼ばれるミーティングで毎回話し合いながら、改善を図りつつ、ユーザーの意見や要望を聞いてなんとか運営を変えていこうと思ったが、現在はうまくいっていないと松山氏は話す。また事前登録キャンペーンのフラゲガチャは、明らかに成功となり、当月の売り上げも予想通りだったが、その後の運営の仕方によってわずか半年で全く状況が変わってしまうことは反省すべき点だと話した。

特に小野田氏はこの件に関して「ふがいなかった」と話しており、ユーザーの継続率や売り上げも初月の数字を見ても、予想を上回るアプリに完成したと、(当時)もっとできることはあったと悔やんでいる。特にユーザーを楽しませるコンテンツやユニットの追加など、毎週のミーティングで考えてきたことは多かったが、当時は理解できていなかったことも多かったようだ。

長谷川氏は、ユーザーの期待を裏切ってしまったことを悔み、本作のキモとなるバトル部分をより楽しんでもらうためのコンテンツを早く、そして面白いものを提供できなかったと認識しているとのこと。
 

 
松山氏はスマートフォンのゲームとして「運営に向かない」タイプであり、ただカードイラストを追加すればいいわけではなく、新たなユニット追加に関しても、SDグラフィックモデルだけではなく、オリジナルのショットの挙動をそれぞれに開発し、それに加えシステムによるゲームバランスやレベルデザインなどをトータルで作ることは、開発側にとっては毎回家庭用ゲームのマスターアップをしているような工数を苦労がかかっていると話した。

本作に掲げたのは、ゲーム本来が持つ「原始的なさわりごごちの良さ」や「また明日も遊びたくなる」といったゲーム性を中心に持ってきたとのこと。長谷川氏は、バトルの面白さの体験を長くユーザーに届け続けるための、コンセプトの練り上げが不足していたこと、その解決を両社でまず話し合うことが大事だと、そして腹を割り切ってコミュニケーションが取れていなかったことが思想のズレに影響したと、認識させられたという。

ちなみに、次のプロジェクトがあれば、両社で組んで開発をしたいか、といった松山氏の問いにドリコムのまんぞう氏は、今とまったく同じ状況なら正直に言えばやりたくはないと話し、リリース後の6ヶ月経過するまでいろいろとコミュニケーションを取った、まさに今の「強くてニューゲーム」状態なら、チャレンジすることも考えたいと話した。

また、最後に松山氏は、『フルボッコヒーローズX(エックス)』にアップデートしてから、体制を見直し、新しい姿勢で再出発、運営や開発を含めCC2が中心に舵を取りながら、毎週毎月を「最後の戦い」と決めて、今から半年後App StoreやGoogle Playの売り上げランキングで上がっていることを確認して欲しいと宣言をして、講演を締めくくった。
 


■『フルボッコヒーローズX』

 



(C)Drecom Co., Ltd. powered by CyberConnect2 Co., Ltd.
株式会社ドリコム
http://www.drecom.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ドリコム
設立
2001年11月
代表者
代表取締役社長 内藤 裕紀
決算期
3月
直近業績
売上高108億円、営業利益22億8100万円、経常利益21億9200万円、最終利益11億5900万円(2023年3月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3793
企業データを見る
株式会社サイバーコネクトツー
https://www.cc2.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社サイバーコネクトツー
設立
1996年2月
代表者
代表取締役 松山 洋
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