【寄稿】迷路級?! 中華圏にみるゲームの大規模プロモーション事例 vol.2 〜後編:注目のプロモーション2大事例〜


本稿は、スマホゲームの運用方法を分析するサービス「Sp!cemart(スパイスマート)」を手掛ける株式会社ワンオブゼムで海外事業を担当する取締役 張青淳氏による寄稿である。「Sp!cemart」は、日本国内のタイトルに加え、2014年9月よりアジア圏の人気タイトルの分析も始め、様々なサービスを提供している(関連記事)。

同社の独自取材で得られた旬の現地情報を紹介する本シリーズの第2回目は中国のスマホゲームプロモーションを特集、その前・中編においては、中国ならではのアプリ配信マーケットやゲームパブリッシングのローカルスキーム、またプロモーション媒体についてお伝えした。それに続く後編では、昨今話題を振りまいているユニークな大規模プロモーションの事例を見てみよう。

「前編:中国大陸におけるスマホ流通事情」はこちら
「中編:独特なパブリッシングスキームとプロモーション事情」はこちら

 

■話題沸騰・人気タイトル『女神連盟』


上海に本社を置く大手ゲームデベロッパー遊族(Youzu)が2014年11月13日にリリースした『女神連盟』は、美しい女神を見方につけ仲間を集めながら戦闘をし世界を旅していくアクションRPGである。リリース時のド派手なプロモーションや有名女優とコラボしゲーム内にも登場させるといった独自手法で一気に話題を集め、瞬く間にダウンロードランキング3位、売上ランキング8位に躍り出た。

中国におけるスマホゲームのランキングを見ると、その上位大半がRPGであり、最大人気のジャンルであるものの同種のタイトルの競争が加熱する中で、いかに差別化を図るか・新奇性を打ち出すかが昨今激戦を制する一つの重要なファクターとなっている。

『女神連盟』の人気を決定づけているのは、中国で絶大な人気を誇る台湾出身女優・林志玲(リンチーリン)を、宣伝広告イメージキャラクターとしての起用にとどまらず、ゲーム内登場キャラクターとして大々的にフィーチャーしていることにある。

本ゲームの楽しさはガチャを引いて様々な能力を持つ女神を集めていくことにあるが、なんとリンチーリンキャラはわざわざゲットしなくてもすでにラインナップに揃っており、最初から美しいリンチーリンと共に旅を進めていけるところに、本格的なRPGにも関わらずライトユーザーをも取込む裾野の広さがある。実在の大人気女優がゲーム内に定番キャラクターとして登場するという前例のない手法は大変な反響を巻き起こし、リリースから2ヶ月足らずで300万人というユーザーを集め熱狂させている。
 





さらに、リリース直後の大規模プロモーションが中国全土で話題となっている。TVCFはじめあらゆるマス媒体にメインキャラを打ち出すことはもちろん、リリース発表からして華美な演出であった。
 
 
▲「リンチーリンと会おう」企画。写真の一般人男性は彼女の大ファンの地元有力経営者で、自らジェット機を貸し切り会いにいく。機内にはなぜか他にも美しくてゴージャスな女神がたくさんいて派手なパーティを催している。これが、本作リリースの報道発表の場となった。
 
▲雑誌やCMの一斉広告投下と同時に出現したYouzu本社ビルを覆う30メートルの壁面広告。ホットな観光スポットとなっている。リンチーリンに続き今後も有名人を投下していくとの噂もあるが、この10億円規模のタイトルが人気をどう継続していくのか、見ものである。

 

■『Boon Beach』を獲得したKunlunとは


日本でも自作タイトル『三国魂』が好調な北京の崑崙遊戯(Kunlun games)は、ブラウザゲーム時代から多数の優良タイトルを開発・配信している企業で、フィンランドのSuper Cellが開発した『Boom Beach』の中国におけるパブリッシング権を獲得し、 2014年8月21日Android版をリリースした。

本作は世界的大ヒット『Clash of Clans』の次作、島を舞台に資源を稼ぎ自分の基地を拡張していく戦略ゲームで、2013年末より世界各国で順次提供されている。中国では各種プラットフォームでトップ10に入る好調ぶりで、海外タイトルとしては成功の部類だろう。ランキングから推察するに月間売上は10億円に届きそうな勢いといったところか。

Kunlunがパブリッシング権を獲得した背景には、少なからず以下の特徴がデベロッパーに評価されてのことではないかと考える。

1)広告戦略
リリース時に広告予算を大量投下し一気にユーザー獲得する手法を得意としている。この初期広告予算は中国でもNo.1ともいえる投下額で、最低でも3億円から5億円を初月に投入する思い切った戦略は、プロモノウハウに長けている企業ならではだろう。新作スマホゲームが毎月50本以上出る中国においてランキングを駆け上るために不可欠なのは短期決戦であり、中でもKunlunはそのバジェット規模で際立っている。今回お伝えするプロモーションは10億円以上使用したと言われている。
※中編で触れたように、海外タイトルは現地パブリッシャーが広告予算を全て持つケースが多い。

2)海外デベロッパーとのコミュニケーション
海外勢が中国進出する際のローカライズ開発にあたって中国・現地間のコミュニケーションが問題なることが多々あるが、北米およびアジア各国に拠点を持つKunlunは、北京本社で提携タイトルのローカライズ開発を進める場合でも現地側のスタッフを動員してきめ細かく海外デベロッパーとコミュニケーションを取っており、開発がスムーズに進められるとの評価が高い。

3)サードパーティプラットフォームとしての実力
前編・中編でも伝えたように、中国にはゲームアプリ配信プラットフォームが数百とあるが、Kunlun自身もサードパーティと分類されるものの中でも大規模なプラットフォームを運営しており、2次パブリッシャーとなりうるプレイヤーとの関係性がよく、ひとつのタイトルを配信しようとすれば50以上のプラットフォームで取り扱うだけの実力を持っている

 

■『Boom Beach』プロモーションの要点とその実例




『Clash of Clans』はiOS版・海賊版により中国ではある程度の認知度と人気があったため、それと類似したゲームスキームの『Boom Beach』を受け入れる土壌はあり、さらに「Clash of Clans姉妹作」として既存タイトルの人気を借りながら認知度を一気に広めメジャーなタイトルに短期間で仲間入りさせれば勝率が高いと判断したのであろう。

ゲームリリース時の一般的なプロモーション媒体を使ったよくある手法のみならず、Kunlunは派手な取り組みに打って出た。Android版リリースと同時に中国全土で大人気のバラエティ番組「快楽大本営」と大々的なタイアップを行ったのである

※「快楽大本営」とは…
湖南衛視が1997年放送を開始し現在に至るまで国民的人気の高い長寿番組。土曜日夜のゴールデンタイムに全国放送され毎日再放送もされており、中国で最大人気のバラエティ番組と言われている。現在は有名タレント・芸人・キャスターからなる5人組がレギュラー出演する。番組内にコーナーを設けこの5人がゲームキャラクターに扮して登場したり、広告クリエイティブで大々的に打ち出したりしている。


▲ゲームキャラに扮したコミカルなクリエイティブ。
「COC姐妹篇」(=Clash of Clans姉妹編)との謳い文句も。
 


▲レギュラー5人組による報道発表会。


▲クリエイティブは少し悪ふざけ。Super Cellの説得は大変だったようだ。5人組を起用した広告は、通常のゲーム内キャラクターを起用した場合と比べ格段に効果がいい模様。


番組公式アカウント「快楽家族」、中国版ツイッター「微博(weibo)」におけるフォロワーは1.5億人、中国版LINE「微信(wechat)」1億人、BBS「百度贴吧」3,000万人。これらチャネルを駆使したユーザーアプローチも行っている。
 

▲中国最大の検索エンジン「百度」による中国での認知度測定指数「百度指数」によると、Android版リリースと同時に行った快楽大本営タイアップにより一気に認知は高まっている。
 

▲快楽大本営効果で、Androidはリリース初日でDAU80万獲得、iOSダウンロードランキングは200位から一気に1位に躍り出た。グラフはiOSダウンロードランキングデータ。
 

▲iOS売上ランキングにおいても、30位前後から10位以内へと劇的な急上昇を遂げている。

 

■後記


前編・中編・後編において、中国の特殊なスマホゲームマーケット事情を見てきたが、今回お送りしたような派手なプロモーションが主流化しつつあるのは、配信経路やプロモーションチャネルの特殊性ゆえと言っても過言ではないだろう。

すなわち、中国独特の「複次パブリッシングスキーム」により大規模から零細にいたるまで多数のプラットフォームに配信されていても、リリース直後に一挙に認知を得ないと配信先のプラットフォームで他のアプリに埋もれてしまってユーザー獲得することが難しくなり、そのスキームの効果が十分に発揮されにくいという状況が色濃くなってきているのだ。海外勢が中国進出する際には、こうした事情まで踏み込んで提携先やプロモ手法を熟慮する必要があるだろう。

vol.2後編では大規模プロモーション2事例を見てきたが、我々Sp!cemartはこの2タイトルの新しい施策やゲーム内運用を注視しつつ、次にどんな新規タイトルがどういうプロモーションで出現するか、中国におけるゲーム市場の動向を今後もウォッチしていく。
 


■著者 : 張 青淳(ちょうせいじゅん)
2003年国内大手インターネット企業に入社。投資事業部門に所属、中国での投資事業の立ち上げに関わり、約7年に渡る上海駐在の間、中国・ 台湾・香港など、中華圏のベンチャー投資活動を行う。2013年モバイルゲーム開発の株式会社ワンオブゼムに参画、取締役就任。ゲーム運営部門の責任者を経て現在海外事業および新規事業開発担当。主力事業「Sp!cemart」や国内外のゲーム企業へのソリューション提供を手掛ける。

株式会社ワンオブゼム:http://oneofthem.jp/
Sp!cemart:http://oneofthem.jp/apps/spicemart/
Sp!cemartに関するお問い合わせ
メール:spicemart@oneofthem.jp
電 話:03-5919-1181
担 当:高橋 遥人(たかはしのりひと)


<中華圏にみるゲームの大規模プロモーション事例 - バックナンバー>

vol.01 驚愕予算?! ~台湾編~
 
vol.02 迷路級?!  中国大陸編:前編 ~中国大陸におけるスマホ流通事情~

vol.02 迷路級?!  中国大陸編:中編 ~独特なパブリッシングスキームとプロモーション事情~

 
株式会社ワンオブゼム
http://oneofthem.jp/

会社情報

会社名
株式会社ワンオブゼム
設立
2011年1月
代表者
代表取締役 武石 幸之助
決算期
12月
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