【韓国市場の“今”】「洗練されたローカライズで日本展開を狙う」…NHN Ent.CEOに訊く2015年の動向。ノンゲーマーをゲーマーにさせる施策も



群雄割拠の時代に突入した韓国モバイルゲームアプリ市場の現状と、2015年の見通しに迫る特集記事「韓国ゲームアプリ市場の“今”」(全4回)。現在同国は、スマートフォンの普及率が80%を突破するほどのモバイル強国であり、その優れた利用環境に基づき、ユーザーがモバイルゲームをプレイする時間も増加の一途を辿るなど、韓国ゲームアプリ市場は大幅な成長を続けている。

そして、数多ある韓国ゲーム企業のなかでも、ひときわ異彩を放っているのがNHN Entertainmentだ。『LINE POP』や3DアクションRPG『The Soul』などの多彩なアプリポートフォリオの体制に加え、日本の人気タイトルや大ヒットパズルゲーム『ポコパン』のパブリッシングも担うほか、エイチーム<3662>との合弁会社の設立など話題に事欠かない企業である。

今回、韓国のテクノバレーとして知られれる板橋(パンギョ)のNHN Entertainment本社に赴き、Chung Ujin(ジョン・ウジン) CEOにインタビューを実施。同社の体制や今後の展望、そして加速する日本進出もといグローバル展開について伺ってきた。

 

■洗練されたローカライズで日本展開を狙う、脱カカオも視野



NHN Entertainment
Chung Ujin(ジョン・ウジン) CEO


――:本日はよろしくお願いします。はじめに、韓国のゲームアプリ市場の現状についてお伺いできればと思います。他国と比べてミドルコアタイトルが主流と見受けられますが、いかがでしょうか。

いまの韓国のトレンドでは、ひとつの流行ジャンルがあると、市場全体が顕著に追いかけていく傾向があります。2014年では、ネットマーブルさんが配信した『タッチモンスター』が大流行して、その後にリリースされたタイトルには、自動戦闘とコレクション要素が揃ったRPGが中心に出てきました。『タッチモンスター』は売上の面でも市場の話題となりましたので、“次のタッチモンスターに…”という気持ちで各社一斉に追いかけていきましたね。


――:日本でも『タッチモンスター』は「LINE GAME」としてリリースされましたが、一時期日本でも良い成績を上げていました(関連記事)。2014年に『タッチモンスター』が流行したとのことですが、どういったところが韓国ユーザーの心を捉えたと考えていますか。

RPGにおける基本的な役割を担う「タンカー」や「ヒーラー」、「ディーラー」などの要素を知らなくとも誰でも遊べる…というRPGの間口を広げたのが大きな要因だと考えています。そうした『タッチモンスター』のシステムやゲームの流れ、コンテンツを基本として、いまではそこに+αを加えた模範タイトルが未だに増加しています。


――:それと同じくして「カカオゲーム」として配信することも未だに必須なのでしょうか。……とはいえ、ここ最近の御社のタイトルでは、比較的「カカオゲーム」は少ないようにも思えます。

「カカオゲーム」にするか、しないかという問題は、やはり各社最初に考えるところでもあります。ただ、我々も同じように「カカオゲーム」として『タッチモンスター』のようなトレンドRPGに+αしただけのゲームを開発したところで、今後グローバル市場に向けた施策を考えたときに「どうなのか…」という思いがあります

やはりひとつの流行を追い求めるのではなく、企業として幅広いタイトルラインナップを揃えることが大事です。そのため、2014年は様々なジャンルを打ち出していき、どのようなポートフォリオにするかを決めていきました。


――:なるほど。日本でも『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』を模範したタイトルが次々と出てきましたが、一部の企業では未開拓のジャンルにも手を出して、様々なタイトルラインナップを揃えているところもあります。

弊社としては、『LINE POP』や『ポコパン』のようなパズルゲームもありますし、コア・ミドルコア向けのRPGも取り揃えています。思い返せば確かに去年は「カカオゲーム」は少なかったかもしれませんが、それはグローバル向けのタイトルが着々と準備できてきた証拠かもしれません


――:日本の「LINE GAME」も一時期のブームと比べると、ここ最近は落ち着いてきたようにも思えます。「カカオゲーム」は今後も席巻していくのでしょうか。

「LINE」「カカオトーク」「WeChat」、それぞれ抱えるユーザー層の趣味趣向が異なるため、「LINE GAME」のように落ち着きを見せるかどうかは分かりません。ですが、「カカオゲーム」の場合は、カジュアルゲームが中心の「LINE GAME」とは異なり、RPGが受け入れられる土壌が整っています。ライトからコアまで、様々なユーザー層がいるため、この流れはそう簡単に終わらないのではないかと思っています

とはいえ、現状トップセールスのほとんどは「カカオゲーム」です(笑)。先ほども言ったように、2015年はほかの企業さんも「カカオゲーム」で出すか、出さないかについて、常に悩んでいると聞いています。



――:なるほど。しかし、現在のトップセールスではSupercellの『Clash of Clans』が首位を維持し続けています。

ええ、もう固定ですね。『Clash of Clans』は、昔韓国で大流行したPC向けのリアルタイストラテジーゲーム『スタークラフト』と似ています。

それはジャンルが似ているということではなくて、一見難しいゲームにも関わらず、チュートリアルやヘルプなどが大変親切であることから、ユーザーがひとつひとつ学びながらゲームを進めていけることにあります。こうしたノンゲーマーをゲーマーにさせる施策は、我々も考えていかなければなりません。



――:ちなみに、日本のゲームアプリで気になるタイトルはありますか。

トップセールスにあるゲームはほぼ遊んでいますが、個人的に『テラバトル』(開発:ミストウォーカー)ですね。単純に遊んでいて面白いですし、独特な雰囲気が引き込まれました。『ファイナルファンタジー』を手掛けた坂口博信氏のタイトルと伺っています。


――:日本では、2014年に昔コンシューマで遊んだ「どこか懐かしいRPG…」という雰囲気が味わえるゲームアプリが多数リリースされました。また、このほかに同じくしてIPタイトルも急激に増えていきましたね。

やはりIPタイトルは増えてきているのですね。弊社子会社のWEBZENでは、『MU -奇蹟の大地-』というPCオンラインゲームを昔から運営しています。じつは、この『MU』のIPをもとに中国のスタジオがスマホゲームを作ったのですが、それがわずか12時間で50億ウォン(5億円)を稼ぐほどの爆発的ヒットを記録したことがあります。とはいえ、韓国はIPタイトルがあまり多くはないため、稀なケースかもしれません。日本の場合はIPが色々あるので、可能性は無限大ですね。


――:開発費は引き続き高騰されていますか。

そうですね。基本的にひとつのタイトルには、2億円~3億円が必要だと考えています。日本の開発費もそれほどと聞いておりますが、日本の市場は韓国の5倍ぐらいあるじゃないですか。それを考えると、開発費が同じようであれば、我々として生き残るためにはグローバル展開が必要だと思っております。


――:日本はもちろんですが、北米の展開は現状いかがですか。

弊社サービスのPCオンラインゲームポータル「ハンゲーム」では、ソーシャルカジノゲームを多くタイトルとして抱えています。花札やポーカーなど、そうしたノウハウを活用して、北米のスタジオで現在ソーシャルカジノゲームを準備しております。

また、2014年12月に韓国・北米でリリースした新作アプリ『Crusaders Quest』のユーザー数が韓国よりも北米が多い状況となっています。もちろん、まだまだ売上は韓国よりは少ないですが、大きな可能性を示してくれました。北米におけるプロモーションはFacebook広告のみです。日本では2015年3月のリリースを予定しているので、ぜひお楽しみください。




――:日本、北米、韓国、中国……。グローバル展開において、各国のユーザー層やトレンドを把握するのには骨が折れるかと思います。

そうですね。ただ、意外にも韓国で流行ったゲームは、北米でもそこそこ反応があるんですよ。ユーザーの残存率を見ても同じような感じになっています。やはり残存率を下げるおもな原因は、ゲームの面白さはもちろんですが、弊社としてはローカライズのクオリティが一番だと思っています。そのため、現在準備しているグローバルタイトルに関しては、ローカライズに最大限の努力をしています。「これは海外のゲームだな」…という印象を与えないようなローカライズが大切だと思っています


――:韓国の主流のプロモーションはどのようなものですか。

やはり韓国では「カカオゲーム」が主流となっているため、「カカオトーク」のプラットフォーム自体に広告を掲載する流れが中心です。そこまで高くない値段にも関わらず、あまりにも効果が大きいので、それ以外のプロモーション方法が考えづらい状況となっています。ただし、主流だからこそ競争も激化しているので、これらの現状は個人的に残念に思っているところでもあります。もちろん同プラットフォームにおける広告掲載は、「カカオゲーム」に限ります。


――:御社に伺う前に、江南(カンナム)に行ったのですが、バスのラッピングやTVCMなどリアルプロモーションも盛んに行われている印象でした。……まあ、そのほとんどが『Clash of Clans』でしたが。
 

▲江南(カンナム)で撮影した『Clash of Clans』のラッピング

『Clash of Clans』はかなりやっていますね。我々も2014年は『ポコパン』のTVCMを展開しました。俳優さんなども起用したのですが、効果は想定していた数字よりも下回ってしまいました。日本ではTVCMが多く展開されていると聞きますが、やはり韓国ではマイクロ的なターゲッティングが難しくあります。


――:日本市場では、すでに『The Soul』など多数のアプリをリリースされていますが、何か具体的な施策は考えているのでしょうか。

先ほども申し上げたように、徹底したローカライズが重要だと思っています。そのほかは原理原則を守りつつ、堅実に事業を進めていきます。また、ユーザーからのフィードバックもひとつひとつ大切に受け止めて、反映できるものは積極的に取り入れたいと思います。というのも、日本ユーザーからは愛情のこもった本音のコメントが寄せられます。たとえば、「ここが良くてここが悪い」「もっとこうしたほうがいい」など、内容のある提案を送ってきてくれるので、本当にありがたいと思っています。


――:日本展開において、NHN PlayArtとも協力して事業は進めていきますか。
 

もちろんやっていきます。ただ、弊社タイトルのグローバル向けタイトルに関しては、現状独自で行っていきます。PlayArtさんに「このタイトルをローカライズしてください」とお願いするのは簡単ですが、その前に我々のほうでしっかり日本のゲームアプリ市場を理解する必要があると思っています。まずは、弊社で出来る限りのことを実施してから、きちんとノウハウが溜まった体制で話を進めていきます。ちなみにPlayArtさんとは、新規事業でもある「comico」との協業は展開しています。


――:エイチーム社との合弁会社も設立されたと思いますが、直近の動きを教えてください。

エイチームさんとは『ダービーインパクト』を弊社でパブリッシングしたときからの付き合いです。同社は海外でもヒットを飛ばし、何よりもゲーム開発に対する熱意を感じて、今回協業することを決めました。現在、合弁会社では2タイトルを準備しています。ひとつはお互いの長所を生かした海外向けのゲーム、もうひとつは「LINE GAME」向けのカジュアルなゲームを進めています。


――:分かりました。それでは、最後にNHN Entertainmentとしての2015年の抱負をお願いします。

2015年にリリースを予定しているタイトルですが、非常に多くあります。まずは、これらのタイトルが無事にリリースすることが何よりも重要だと思っています。そうして、すべてのタイトルが各国のユーザーさんに愛されるタイトルに発展していくように、2015年も事業を進めていきます。


――:今後の展開を楽しみにしております。お忙しいところ、ありがとうございました。

(取材・文:編集部 原孝則)


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会社名
NHN
設立
2013年8月
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