【寄稿】スマホゲーム チート対策最前線 ~チート行為が問題になった背景とその対策について~

近年、ゲームはますますオンライン化の度合いを強めています。ユーザー同士のコミュニケーションという要素が加わることでこれまでにはなかった楽しさがゲームにもたらされていますが、一方でゲーム事業者はチート行為にどう対処していけばよいのか頭を悩ませています。

本稿では、年間で100以上のアプリに対して脆弱性診断を行なっているサイファー・テック株式会社が、チート行為が問題になった背景を解説し、その対策について説明していきたいと思います。
 
 

■ゲームのオンライン化でチート行為が問題に

ゲーム事業者はオンラインゲームで横行するチート行為に頭を悩ませています。家庭用ゲーム機が主流だったころからチート行為(当時は「裏ワザ」という呼ばれ方が主流)は行われてきましたが、それはあくまでユーザー個人で完結するもの。他のユーザーに迷惑をかけることもなければ、ゲーム事業者に直接的な損害を与えることもありませんでした。

ところが、オンラインゲームというものが出現したことによってチート行為は個人で完結した行為ではなくなっていきます。オンライン化によってユーザー同士が競い合うスタイルのゲームが登場しますが、ここではチート行為が他のユーザーに迷惑をかける悪質なルール違反となってしまうのです。当然、そういったチート行為に対しては他のユーザーから不満の声が挙がるようになりました。

そして、ルール違反を犯した者だけでなくルール違反を防げない者へも批判の矛先が向いていきます。なぜチート行為を野放しにするのか、チート行為を取り締まってほしい、きちんとプレイしているユーザーにしてみれば当然の要求ですが、横行するチート行為を逐一取り締まるコストは決して小さなものではありません。こうなると、もはやルール違反などというレベルではなくビジネスへの実害となります。そして、コストをかけてもチートの横行を止められないとなれば、愛想をつかしたユーザーは離れていってしまいゲーム自体が魅力を失っていってしまうのです。
 
さらには、オンラインゲームのビジネスモデルが有償プレイや広告収入からフリーミアムやアイテム課金と呼ばれる「基本プレイは無料、もっと楽しみたいなら課金」というスタイルへと変遷してきたことで、チート行為はより直接的な損害を与える問題となりました。無料の基本プレイであっても、チート行為によってアイテムを不正に入手したりパラメーターを改変することで課金プレイヤーよりも優位に立つことができてしまうのです。これでは課金ユーザーがゲームを楽しめません。
 

【人気FPSゲーム「サドンアタック」では1カ月で572件ものアカウントがチート行為により制裁を受けている。】
 
  
■チート行為が横行している理由とは?

チート行為については、アイテム課金をしなくてもよくなるという動機があるだけでなく、その方法を紹介するブログなどが存在することも横行を助長する要因となっています。具体的な方法が詳細に紹介されていることも多く、知識がなくてもチート行為が容易に行えてしまいます。有名タイトルともなれば、チートツールの使用方 法やクラッキングの方法などはインターネット検索で簡単に見つかってしまいます。プログラムを書き換えてしまうようなチート行為は特殊な知識を持つハッカー(クラッカー)にしかできないと思われていますが、実際はそうではありません。現在では、チート行為のハードルはとても低くなってしまっているのです。
 
アイテム課金の回避という金銭的な目的を伴うようになったことで、「チートツールの販売」「チート行為によって強化されたアカウントの販売」「チート代行(アカウントを一時的に借りて、チート行為を施した上で返す)」といったチート行為によって対価を得ようとする動きも活発になっています。これらもまたチート行為が横行する要因となっています。
 

■チート行為の横行を防ぐには

チート行為を防ぐためにゲーム事業者はどのような対策を講じているのでしょうか。一般的にはゲームプレイの監視や異常値検知(経験値などにありえない変化がないか自動でチェックする)といったことが行われており、チート行為が発覚した場合にはアカウント停止などの厳しい措置が取られています。このような対策が成果を上げることもありますが、限界があります。多くのアカウントでチート行為が行われてしまっている場合は焼け石に水ですし、正常なプレイ結果と区別しにくいチート行為は自動検知が困難です。
 
チート行為に対する抜本的な対策としては、アプリを技術的に工夫してチート行為がそもそも不可能なような作りにすることが挙げられます。しかしながら、こういった特殊な技術を扱えるエンジニアは限られており、それでなくても高度な技術が要求されるゲーム開発の現場でそういった人材を確保することは容易ではありません。このためにチート行為への対策が後手に回ってしまっているのがスマホ向けゲーム業界の実情であり、大手企業の有名タイトルのゲームですらチートツールが出回っている状況がこのことを端的に示しています。

この状況に一石を投じるべく、サイファー・テックは「ゲームアプリ チート対策コンサルティングサービス」を提供しています。2014年12月に開始したこの新しいサービスでは、開発開始前の準備からアプリ完成後のチェックにいたるまでの様々な局面でゲーム事業者を強力に支援し、チート行為を行われることのないアプリを開発できるようにしています。
 
現在、チート行為でキャラクターのステータスを操作し強敵を難なく倒してしまう様子を撮影した動画がYoutubeなどにいくつもアップロードされています。こういったチート行為をしている人に罪の意識はなく、自分を「情報強者」などと呼ぶ自己陶酔の感覚にあります。しかし、こういったチート行為はただの犯罪なのです。現に悪質なチート行為によって少年3人が書類送検された事例もあります。

技術的な対策に加えて、「チート行為は、他のユーザーや運営側にとって大変な迷惑行為である」という認識も業界全体で広めていかなくてはなりません。チート行為によるユーザー離れや売り上げ減少でゲームの運営が成り立たなくなれば、オンラインゲームという楽しみ自体がこの社会から消滅してしまいます。そうなる前に、健全化を図っていかなければならないのです。
 

【広く出回っているチートツールの例。チート行為がチェックボックス形式で並んでいる。】
 


■まとめ

・オンラインゲームでは、チート行為が他の人に多大な迷惑をかけてしまう。
・課金回避を目的として、チート行為はさらなる広まりを見せている。
・手法やツールがインターネット上で公開されているため、チート行為は特別の知識がなくても行えてしまう。
・高度な技法や特殊な知識が必要にはなるが、チート行為ができないようなアプリにすることは技術的に可能である。
・チート行為の迷惑性・犯罪性を広く知ってもらうような訴えかけも重要である。

 


■執筆者紹介

サイファー・テック株式会社
取締役 事業開発部長:井上 直人
広報担当:成田 直翔
著作権保護や機密文書保護等に関わるセキュリティ製品の開発・販売を行うサイファー・テック株式会社は、2009年にアプリのクラッキング対策診断サービスを開始。大手ゲームアプリ事業者を顧客に獲得したのを契機として、オンラインゲームのチート被害やその対策状況について認識を深める。2014年から、チート対策のコンサルティングサービスを展開、開発の各段階でチート対策を施す包括的な支援を開始する。「チート対策相談会」と題した業界担当者向けの無料セミナーを毎月開催するなど、健全なゲーム環境作りに向けて啓発活動にも取り組んでいる。
 
 

 
サイファー・テック株式会社
https://www.cyphertec.co.jp/

会社情報

会社名
サイファー・テック株式会社
設立
2003年2月
代表者
代表取締役CEO 吉田 基晴/代表取締役COO 勝間 美継
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