【連載】第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 - スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」


『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:安藤武博氏

 

■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」


ゲーム制作者のモチベーションにも色々なものがあります。中でも「誰よりも売りたい」「とにかく売りたい」という人は多いのではないでしょうか。大いに結構。まず「売る」という意思を表明しないと、目標がブレやすくなりプロジェクトが失敗する確率は上がりますからね。でもそれ「だけ」だと超ヤバイ。今日はその話をします。

まず、作り手が売りたいという気持ちと、お客様が買いたいという気持ちは比例しません。当たり前ですよね。俺「めっちゃ売りたいんです」客「フーン」でおしまい。売りたい気持ちが強ければ強いほどゲームが売れるわけではない。

したがってゲームの場合、プロジェクトにおける「お金」や「ビジネス」の比重が高くなればなるほど、そのゲームは売れにくくなるんです。例えばマネタイズからゲーム作りに入るやり方はかなり危険です。ではゲーム作りは何から入ればよいのか?

それは「テーマ」です。これからはテーマから入らないと売れない。なにより目立たない。これまではマネタイズから入っても結果売れましたが、これからテーマ無き者は、大変になるだけなので、今すぐこの世界から去ったほうが良い。テーマとは、「なにを仕掛ければお客様が喜ぶのか?その柱となるもの」。簡単に言うとそんな感じです。「喜ぶのか」を「遊んでみたいと思うか」に置き換えてもいいですね。いつの時代もまず手に取ってもらわないとはじまらないのがエンタメです。

 

■テーマを探すためには…



テーマにも色々なアプローチがあります。今回は「アーサー王伝説+アルファ」で行こう(ミリオンアーサー)、では次回はダンテの神曲をイケメンの黒天使と女子高生でやるか……といったように、お話や世界設定のモチーフを探すやり方もテーマ探しと言えます。モチーフと+アルファの組み合わせがそそるかどうか? にカロリーを割くのです。

私はこればかりを考えて日々生きているので、こんどは「ミリオンアーサー+宝塚歌劇」でいこう(実在性ミリオンアーサー)といったようにテーマは次々と生まれます。これらのインスピレーションはゲームを遊んだことで得られることもありますが、どちらかというとゲームと直接相関関係のないものからの方が多いです。

コンセプトそのものが最強のテーマ足り得る場合もあります。「iPhoneが専用ゲーム機になってしまう本格的なRPGをつくろう(ケイオスリングス)」、「ドラゴンクエスト+無双シリーズでつくろう(ドラゴンクエストヒーローズ)」のようなことです。『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』も『ファイナルファンタジー』+『ブレイブフロンティア』(エイリム)の組み合わせこそが、一番そそるところですからこのパターンになります。ただしこの場合、誰よりも速く仕掛ける(FAST)か、他者が仕掛けることができない座組み(ONLY ONE)なのかが重要になります。
 
 
▲『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』


遊び方そのものがお客様にとってそそるポイントになる場合、これもテーマになります。「プレイヤーみんなとこうやって協力するとおもしろいよね」とか「すれ違い通信をつかっておもしろい遊びはこれだよね」「体重計を遊びにつかうと面白いし健康にも良いよね」……などで、その遊びやってみたい! となればそれもテーマです。

ただしこれは、相当ゲームデザインの才能が有る、ある程度IPが浸透している、続編やスピンオフに新しい遊びがプラスされている……など属人的、環境的な部分が大きく作用します。才能がある人でも、それを思いつくまで数多くのスクラップ&ビルドを要するものですから「おもしろいものを思いつくまで作っていてもいいよ」という環境があるかどうかもとても重要になります。

あるいは、ある日、稲妻のように革新的なアイデアが降りてきて「四つの正方形で構成された7通りの組み合わせのブロックを落下回転移動させて…横10列縦20行の段を埋めていき、埋まるとその段が最大4段消滅する遊びをつくろう」みたいな事が起こるか……。

そうなんです。遊び方からテーマに挑むのは難易度が高く、よっぽどの差別化と圧倒的に洗練された面白さが無いと、中途半端になってしまい逆にプロジェクト化しにくいのです。ゲームデザイナーはこの領域へのチャレンジを決してやめるべきではないですが、ほとんどの場合、これらの発明を待つ余裕は無いはずなので、他のアプローチでテーマを探すことになります。でも大丈夫です。もちろん、遊びの鮮やかな発明はあるに越したことはないですが、「お客様がゲームシステムで作品を選ぶことはほぼ無い」です。

国内において、プレイステーション3の時代にもっとも売れた作品は無双シリーズというデータがあります。無双シリーズの基本ゲームシステムが世に出されたのは2000年のことです(対戦格闘だった『三國無双』や『デストレーガ』を源流とするならば更に3年ほど前になりますね)。

海外においても同様に『Grand Theft Auto』も『Call of Duty』も『WATCH DOGS』も…『ASSASSIN'S CREED』も『The Last of Us』だって大雑把にくくれば、源流となる基本システムは『Quake』『Unreal』『Half-Life』のころ、もっと遡れは『Doom』や『Wolfenstein』から変わっていないので、これも20年前に発明されたアイデアを少しずつブラッシュアップしたものです。遊びは基本変わっていないのに、ではお客様はどこに惹かれてこれらの作品を支持してきたのか?

それは「十字軍やルネサンスの時代の暗殺者になりたい」や「近代戦争のフィクションを兵士として生きてみたい」「犯罪者になって自由奔放に振舞ってみたい」などといったテーマで選んでいるのです。つまり前述の「お話のモチーフ+α」の切り口が、時代に応じて鮮やかに切り取られているかが、とても重要なファクターであることがわかります。

当然ゲームですから、プレイ体験としてお話のモチーフを、よりドライブさせる遊びがプラスされているかどうかも大事ですが、全ての遊びが革新的である必要はない。またそれを端的に説明できる座組みやスタッフの構成があれば、よりわかりやすい……などがお客様の支持を集めます。そして最終的にそれが売上につながるのです。

 

■似たりよったりの売れないゲームばかりになるのは…


最近はGVGが入っているのは基本、マルチプレイが流行っているからそれプラスマルチプレイで…とか、ラインディフェンスはマネタイズしやすいからそれで…や、遊びは『モンスト』か『パズドラ』から入ってその外側をこのIPで変えて…とか、といった話は一切出てきませんよね。

お客様にとって、そんな聞きふるした話はどうでも良いのです。とにかく面白そうか、やってみたいと思うか、それが商品からわかりやすく発信されているか、が大事なのです。それでも携帯電話のゲームがなかなかテーマから入れずに、似たりよったりの売れないゲームばかりになるのは、ビジネスモデルも制作者が作らないといけない時代だからというのもあります。

専用ゲーム機の世界では、パッケージの値段や流通といったビジネスモデルの全てをハードメーカーが決めてくれていましたので、制作者は作品に集中すれば良かった。しかし、F2Pモデルは売り方や商品構成、各アイテムの値段も制作者が決めなくてはならないので、より難しい。それゆえマネタイズやビジネスモデルに偏重した考え方になりがちなのですが、それでもやはりテーマなのです。お客様にとってそこだけは未来永劫変わりません。

難しい時代になったとは言え、F2Pのビジネスモデルもある程度のやり方は確立されました。ゆえにテーマを磨く事に集中しやすくなったとも言えます。バラエティに富んだ作品が多くのお客様を楽しませる事ができるよう、共に作っていきましょう。

『城とドラゴン』のように、ガチャなし、デッキ編成なし、非課金者が課金者に対して戦略次第で勝てる……といったビジネスモデルや新しい遊びに対してのチャレンジも、できる人がどんどんやっていくべきです。私も引き続き『ケイオスリングス』のような売り切り型のモデルに挑戦することも諦めずにがんばります。
 
 
▲『城とドラゴン』


私なりのメソッドを書きましたが「テーマ」「プラットフォーム」「ターゲット」「ゲームシステム」「ビジネスモデル」「テクノロジー」…これらが、ベストのバランスで矛盾なく成立するのは、奇跡に近いことです。ナンバーワンをとっても、よくこのバランスで組み合わさったな…ベストを尽くしたとは言えこれは運が良かったとしが言いようがないな…と思います。

ゲーム制作者は、途方もない難易度の組み合わせを考え抜き、うまく組み合わさったところで絶対に売れる方程式もない世界で、恐ろしい額のお金をかけて、そこに挑むという事を毎回やっています。大変なので向き不向きがあって当たり前なんです。それでも私がこの仕事を人生をかけてやる価値があるものだと思っているのは、ここまで難しいからにほかなりません
 
今回は「テーマ」から入るとお客様がよろこぶ可能性が高いよ、「お金」から入るとヤバイよということを書きましたが、それとて悪い拘りになってしまうこともあります。ではどうしたらいいのか? 思考停止になってしまいそうですね。しかし、ビビっていてもなにも始まりません。まずは、お客様にとって面白そうな事はなにかを優先して磨いてみるといいと思います。
 

■今回の記事
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いわゆるカードバトル+ガチャで現在のプレゼンスを築いた各社から、こういった動きが見られるのは理論的にも本能的にも、お客様が望むおもしろさや新しさが、いかに大事なのか、各社のキーマンが気づいている証拠だとも言えますね。こういったものが出てきてはじめてエンタメは健全ですし、ワクワクします。それではまた!
 


■著者 : 安藤武博
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部)ディビジョンエグゼクティブ兼プロデューサー。同社ではスマートフォンゲーム事業に携わり、F2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。


■スクウェア・エニックス

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■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)


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株式会社スクウェア・エニックス
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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