【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:岩野弘明氏

 

■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」


前回は開発初期段階に考える事として「運営を前提とした構造にする必要がある」ということについて記事を書きました(関連記事)が、それ以外にもまだ開発初期段階に決めておかなくてはいけないことがあります。それは何を商品にするか、ということです。

そこでいきなりですが、F2Pゲームにおける最強の商品とはいったいなんでしょうか?

答えはズバリ「キャラクター」です。

キャラクターはほとんどのエンタメコンテンツで最も重要な要素です。ディズニーにせよマーベルにせよ任天堂にせよ、もちろんスクエニにせよ生み出されるコンテンツには魅力的なキャラクターがいます。そして、そのキャラクター達は映画やゲームだけではなく、グッズなどにマーチャンダイジングされてさらなる利益を生み出します。これは過去の歴史をみてもそうですし、未来においても変わる事はありません。
 

だからゲームにおいてゲーム性はもちろん大事ですが、魅力的なキャラクターなくしてヒットは生まれません。成熟した市場であればなおさらです。似たり寄ったりのキャラクターで溢れかえっているわけですから、魅力的でないと目立たないのです。

そしてコンテンツの魅力がキャラクターにあるのであれば、マネタイズは「キャラクターを入手する」あるいは「キャラクターになりきる」という事にフォーカスするべきで、実際世に出ているゲームは、キャラクターを入手するための「キャラクター販売」だったり、プレイヤーがその世界のキャラクターとなり成長していくための「アバター販売」を主軸に商品展開しています。

売るものが直接的にキャラクターなのでF2Pビジネスにおいてキャラクターは、他のエンタメコンテンツと比べてもより重要性が高い、と私は思います。

こうなると、極端な話「キャラクターの魅力の高さ=売上の高さ」ということになるわけで、いかに魅力的なキャラクターを生み出せるかが勝負になります。(アバター販売のゲームといえど、アバターの魅力はもちろん、プレイヤーキャラを取り巻く環境だったり、世界観に没入するためのNPCなどキャラクターの魅力を高める必要があります)

 

◼︎魅力的なキャラクターを生み出すには



ではキャラクターを魅力的にするにはどうすればいいでしょうか? 私が考える場合のポイントを挙げてみたいと思います。

①デザイン
見た目は最も重要な要素です。人間が受ける印象は、一次情報である“見た目”で大体が決まります。また、バナーなどではシナリオやゲーム性は伝わらないので視覚情報にこそ最も魅力を注ぐ必要がある。なので、ここにかけるお金をケチってもなんにもいい事はありません。

だからといって、人気のキャラクターデザイナーにお願いすれば万事OKかというと、そうではありません。特にゲームのキャラクターデザインをあまり経験されていない方の場合は、しっかりと開発サイドがディレクションしないといけません。漫画には漫画の、アニメにはアニメの、そしてゲームにはゲームのキャラクターデザインのポイントがあるので、いかに人気な方であったとしても遠慮をしていてはいいものはできず、結果キャラクターデザイナーに迷惑をかけてしまいます。

ちょっと話はそれましたが、キャラクターデザインをお願いするにあたって、私の場合は…

・「シルエットに特徴をつける」
・「上半身、特に頭部にワンポイントをつける」
・「キーカラーを設定する」
・「3Dモデル化するなどして動く時のことを考慮する」


といったところをポイントにしています。キャラ同士の印象がかぶらないようにしなくてはいけないので、シルエットや色ではっきり区別しなくていはいけないですし、アドベンチャーパートではバストアップでキャライラストが表示されることが多いので、上半身にデザインのポイントをつける必要があります。また、キャラが動く類のゲームであれば、その際の都合(モデル化した際の見栄えや動かしやすさ)を考えなくてはいけないためです。


②ギャップ
そして見た目の次に重要なのがギャップです。世の中には既に魅力的なキャラクターで溢れかえっているので、キャラクター性においてもただ可愛い、ただかっこいいだけではユーザーは満足しません。キャラクターにおいてもインパクトが大事で、可能であれば新感覚を味わえるものであるといい。そういったインパクトを生み出す上で重要なのがギャップです。

「ギャップ萌え」という言葉があるように、そのキャラクターがふと見せる意外な一面というのは心に響くものです。例えば「ツンデレ」というキャラクター性なんかはまさにギャップ萌えですね。今やツンデレも大量生産されあまりインパクトは出しづらくなりましたが、工夫次第ではまだまだいけると思います。また「クーデレ」「ボコデレ」「シュンツン」などといったツンデレの派生型も存在し、「普段はツンとしているけど時々○○」あるいはその逆パターンといった形で様々なバリエーションの作成が可能です。いかにグッとくる組み合わせを見つけられるかがポイントですね。

他には「ロリババァ」「ロリ巨乳」といった、「ロリなのに△△」といったギャップの出し方もあり、このパターンも人気ですね(ちなみに第8回の記事(関連記事)で紹介したダンまちのヘスティアちゃんも「ロリ巨乳」です)。他にも色々とありますが、とにかくギャップがあるほどキャラクターは魅力的になります。特に漫画やラノベ、アニメなどはキャラクター性の追求が進歩しているので、それらのヒットコンテンツを調べてみるといいと思います。


③バリエーション
いかに魅力的なキャラクターを用意したとしても、その方向性が偏っていたり登場人物が少なすぎると危険です。キャラクターの嗜好性は人それぞれなので、キャラクター性が乏しいとユーザーの母数を稼げません

例えばAKBを筆頭に最近のアイドルはとにかく一人一人の個性を打ち出していますよね。そのコンテンツが様々な人にウケるようにし、そしてその中で個性を争わせることでコンテンツを活性化させる。総選挙の仕組みなんかはすごく効果的だと思います。前回の記事(関連記事)でも紹介した『オカルトメイデン』というゲームは、この点においてプレイヤーが操作できるキャラが3人だけしかおらず反省ポイントの一つでした。


④カップリング
また、最近ではユーザーの二次創作においてカップリングが重要視される傾向が強いです。特に「BL」「百合」といったジャンルでは「この組み合わせこそ至高!異論は認めん!」的な争いすら出てくる始末。下手に公式でカップリングを言及するとコンテンツ崩壊の危機にすらなりかねない!? ……というのは言い過ぎかもしれませんが、それほどカップリングが生み出す世界というのはユーザーの妄想を掻き立てます。
 
(※編集注釈:DMMゲームズのタイトルは二次創作が盛んなコンテンツが豊富)

▲『艦隊これくしょん』

▲『刀剣乱舞』

しかし、だからと言ってコンテンツ側が計算してカップリングを作ろうとするとボロがでます。カップリングによる設定はあくまでユーザーの妄想によって生み出されていけばいいので、コンテンツ側は材料だけ用意すればいいのです。例えば、姉妹、パートナー関係、チーム内の役割設定、師弟関係、ライバル関係などなど、ちょっとした関係性を用意するだけで、それをきっかけにユーザーの妄想が広がります。得てしてこういう事は計算してうまくいくものではないので、そこは注意したいところです。

というわけで、こういったカップリングを盛り上げるためにも、ある程度のキャラクター数は必要になってきます。ですので、「③バリエーション」の数はやはり大事ということになります。


⑤深堀り
ただし、キャラクターが多すぎても良くないです。なぜなら、一人一人のキャラクター性を掘り下げることができないからです。みんながみんな魅力的であったとしても、登場する時間が少なければそのキャラクターの魅力は十分に伝わらずせっかく作ったのに無駄になってしまうばかりか、他のキャラクターの魅力も薄れます。そもそも覚えきれなかったり、どうしても似たようなキャラがでてきて見分けがつきづらいです。

特にキャラクターをガチャで販売する類のゲームはこのようなキャラクター過多のケースに陥りやすく、私が手がけた『拡散性ミリオンアーサー』もそうでした。ですので、同じキャラクターガチャを採用している『乖離性ミリオンアーサー』では、能力やイラストに変化をつけるなどした上で同じキャラを繰り返し登場させて、キャラクターの深堀りをする方向にしました。

ただ、最近では同じキャラクターのレアリティ違いだったり、キャラクターに武器を装備できるようにして、そこを課金要素にするなどしてキャラクターを増やしすぎないようにする動きもありますし、『スクスト』(『スクールガールストライカーズ』)のようにキャラごとに装備品を用意してキャラクター数を抑えながら売上を維持するタイプもあります。今後はそういった工夫をしないと難しくなるかもしれませんね。


以上が私の考える魅力的なキャラクターを生み出すためのポイントだったわけですが、他にも色々と方法はあると思いますし、それこそ漫画やアニメの編集者の方なんかはより深くこの辺のことを考えていると思いますので、近くにそういった方がいればコツを聞いてみるといいと思います。

私も人づてでとある編集者の方にキャラクター作りのコツを聞いたことがあるのですが、「そのキャラで○○○ーができればOKですよ!」と聞いた事があります。全部表記するのはさすがにはばかれる内容でしたので伏字にさせてくださいw ではでは今日はこの辺で!
 
P.S.
「はまち」や「俺ガイル」でおなじみの「俺の青春ラブコメはまちがっている。続」というアニメが面白いです。特に最近は6話あたりから他校の生徒会メンバーが登場してくるのですが、そのメンバーが見事に全員意識高い系でして、IT系の横文字使いまくるわ、ろくろ回しながらしゃべるわ、ブレストとか言って毎度話し合いしても結局何も決まらないわで、とにかく笑えます。

もはや何の意識が高いのかわからなくなってくるほど意識が高い(けど仕事はできない)。さらに、そのよくわからない会話の合間にアホっこ女子高生が「それあるー!」と合いの手? を入れてくるのがまた笑えまして…

私も「それあるー」、使っていこうと思います。
 


■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。


■スクウェア・エニックス

企業サイト


■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)

第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)

第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)

 
© 2015 SQUARE ENIX CO.,LTD. All Rights Reserved. powered by GRIPHONE, Inc.
© 2015 DMMゲームズ/Nitroplus
© 2014 DMM.com/KADOKAWA GAMES All Rights Reserved.
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
企業データを見る