【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:安藤武博氏

 

■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」

 

今回は、前回(第十三回)の続きを書きます。クリエイターから最近感じるストレスの正体に迫るという話でした。スマゲ市場が未曾有の競争過多になり「先行きがある程度見えてきたことに対しての不安や退屈さ」が原因なのではと一旦推測してみたのですが、違うところにモヤモヤがあることが見えてきました。それはなにか?

サラリーマンクリエイターは自分のやることを固定しすぎて結果、窮屈に仕事をしている。プラットフォームもバラエティに富み、ビジネススキームも増えた現在。選択肢が昔に比べると格段に増え、お客様に喜んでもらう表現の仕方も様々になりました。そんな中、「奔放に」いまの時代のものづくりの楽しさを享受して、かつ人を集めている勢力が出現しています。

・ニコ生やYouTubeのゲーム実況者
法人の作ったゲームを個人がプレイすることで人を集めて商売している

・まとめサイトなどのニュースキュレーション
他人が書いたニュースをまとめて人を集めて商売している

など、とても「自由」ですよね。人の作ったものを使って新たに人気を集めるなんて、ズルいとさえ感じてしまいます。でも、YouTube全体で再生時間のトップランカーは、メインコンテンツがスマゲ攻略動画のマックスむらいチャンネルです。ニコ生人気生主のイベントには数千人の熱狂的なファンが集まります。マスクで顔を隠している人間に大勢の女性ファンがついている。彼らも出自はゲーム実況がほとんど。またゲームの情報を得るときに大手メディアより、「はちま起稿」や「俺的ゲーム速報@刃」などのまとめサイトをメインに読んでいる人も結構います。

一方で、サラリーマンクリエイターは規則どおりに丁寧かつ真面目に良いものを作っている。

楽しく自由に仕事をして人気も支持も獲得している前述の新勢力に比べると、窮屈です。ここが潜在的なストレスの原因なのではないかと強く考えています。

新しい形としてサラリーマンクリエイターも、この自由なやり方を受け入れる時期がやってきている。おそらく多くの人が気持ちでは受け入れはじめていると思いますが、杓子定規に会社の規則や常識に囚われていると、違和感がある人もまだまだ、というのが本当のところでしょう。

でも私は、このようなやり方を受け入れていかないと、今後ゲームというエンタメの世界では生き残れないと思っています

プラットフォーマーに保護されていれば良い時代は終わり、スマートフォンも未曾有のレッドオーシャン。次に何が大きくこの産業を変えていくのか? 明快なブレイクスルーもまだ見つかっていません。超混沌とした乱世なのが今です。その時に問われるのは臨機応変な自由さや柔軟さを持つことと、個人の力を強めること。これが有効な生存戦略だと思うのです。ではそのためにどうしたらよいのか?

・副業をすべきである
可能であれば。本当に自由な活動をしようと思ったら所属している法人とは別人格をもって、かつ売り上げが立つようにしたほうが、頑張りがいがあります。多くの企業は人材の流出や、本業に本来注入されるべきカロリーの低下を懸念しますが、優秀な人材ほど時間を適切に配分して完遂するはず。新しい発見、新しい食い扶持が見つかることで個の力は強まり、社員にも余裕ができ、本業でもより良い仕事ができるようになるはず

副業を悪用したり、本業で手抜きがあった場合は、その悪評から一生逃れられないという、狭いゲーム業界ならではの自浄作用もあり、無茶苦茶はできません。また、もはや既存の大手にしかできないゲーム制作の予算規模やノウハウというものがあり、作りたいものに対する予算が数億以上になっても投下される「クリエイターパラダイス」の状況が提供される限り、抜けるメリットもありません。

こういった状況から、今後は副業を認める会社も増えてくると思います。そういった寛容な会社に対しては、より社員の忠誠心が高まるといった動きも見られるのではないかと考えています。

・同人活動をすべきである
副業が無理な場合はこれでも十分。同人をつくることで実は大半のストレスが軽減されるのがクリエイターだったりします。また商業的な目的から外れることで、新しい才能が発掘されたりと、かえって本業にとってプラスになることが見つかる。企業側は同人活動に対しての権利処理等に対してすべてノーと言わず、理解を示すべきです。

6年ほど前から数年間、スクエニの若手プロデューサー陣が中心となり同人アニメや同人ゲームをコミケに出展するという活動がありました。私も楽曲提供で参加して楽しかったのですが、この活動で当時新人だった岩野が(いい意味で)変態で凶暴なシナリオを書けるというのがわかり、一緒にゲームをつくりたいと思うきっかけになりました
 
  

当時の作品群。パッケージがそれなりで中身がひどい、詐欺ゲー詐欺アニメといわれても異論は無い出来栄えでしたが、それでもいろいろな収穫がありました。その後、岩野は「けいおん!」の聖地巡礼本も制作していましたが、これは大変クオリティの高いものでした。

その他、副業や同人でなくても売り上げが目標ではないクリエイティブはすべきです。絵本を作るもよし、椅子を作るもよし(これらは著名キャラクターデザイナーたちにやりたい事を聞いたときに本当に出てきた話)。私個人の活動としては、10年くらいバンド活動をしてアルバムをコンスタントにリリースしていますが、音楽はゲームと違い評価やクリエイティブが感覚的なので、とても良い発見があります。
 

今夏発売予定の6枚目アルバムジャケット。お休みの日をつかって水田直志(楽曲提供)・窪洋一鈴木裕之(CG作成)というスクエニのトップクリエイターに制作をお願いしました。スマホでは試せないハイエンドのCG製作だったこともあり、勉強になったとの、ありがたい意見をもらいました(左端が著者)。
 
個人や法人が完成前から商売せずとも資金を集めてゲームをつくるキックスターターやインディーズ、ブランドがある法人では難しい広告課金でチャレンジグなゲームをつくるやりかたなど、アプローチはまだまだあります。

クリエイターがひとつのことに縛られている時代は終わりました。

才能のあるものがファンや自分を満足させるために選択する「自由」を、これからは積極的に実行するべきです。自由には「責任」が伴いますから、その良し悪しを慎重に考える必要もいまはあるでしょう。ですが、そのうち企業も許容して、この考え方が当たり前になるはずです。より自由な環境を求めて、人材が流出する方がダメージ大きいですからね。

これからは川村元気さんのように東宝の社員であり、サラリーマン映画プロデューサーでありながら、作家でもあるようなスタイルの人がゲーム業界でも増えます。また企業公式の動画攻略・実況部隊も増えるでしょうし、自らが作ったものを自らの手で再度コンテンツにしていく動きはオフィシャルになります。こういった時代、それぞれがどういうアクションを起こせばいいのか? 共に考えて行動していきましょう!

■追伸
前回から今回までの間に『メビウスFF』の出だしが好調という、とても良いニュースがありましたね!


■今回の記事
【AppStoreランキング(6/8)】4日リリースの『メビウスFF』が早くもトップ5入り 『戦国炎舞 -KIZNA-』『LINE レンジャー』はトップ10復帰

スクエニ、『メビウス FF』がリリースから5日で早くも登録者数88万人を突破! 「ダブルメビウス(88)」記念のキャンペーンを実施

もはや、単に「FFなので売れた」という時代でもありません。大きなチャレンジを乗り越えた結果だと思います。このプロジェクトの挑戦が上手くいったことでスマゲの歴史は大きく、大きく前に進みました。私が4年前に他誌ではじめた「スマゲ✩革命」(関連サイト)は、当時馬鹿にされていた携帯電話向けゲームの面白さをプレイヤーの皆さんに証明する活動であり、クリエイターにはスマートフォンのゲームづくりが面白いことを普及させるものでした。

コンソール出身の一流クリエイターが高いクオリティとサービスをスマートフォンで実現したわけですから、この革命は本作と、同じくコンソール出身者の開発チームによる『スクールガールストライカーズ』の成功でもって完結したと言えます

『メビウスFF』が継続的に支持されるかどうかは、始まったばかりですのでまだわかりませんが、きっと大丈夫でしょう。個人的にとても嬉しい出来事でした。また、この事がクリエイターの選択の幅を広げたことも、間違いのないことです。その点で今回の記事で迫っているストレスもいくらかは軽減されるでしょう! それではまた!
 


■著者 : 安藤武博
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部)ディビジョンエグゼクティブ兼プロデューサー。同社ではスマートフォンゲーム事業に携わり、F2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。
 

■スクウェア・エニックス

企業サイト


■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)

第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)

第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)

第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)

第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)

第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)



 
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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