【上期総括】ガンホー森下社長インタビュー「ゲームは破壊と創造の繰り返し。新しいフォーマットのゲームが求められている」 海外版『パズドラ』は成長余地十分
スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2015年上期の市場動向と下期のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2015年上期振り返り」。今回はガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765>の森下一喜社長にインタビューを行い、上半期のスマートフォンゲーム業界とともに、ガンホーとしての取り組みを振り返ってもらうとともに、下半期の展望についても語ってもらった。
■国内市場は停滞 新しいフォーマットの遊び方が求められている
ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社
代表取締役社長CEO
森下一喜氏
――:本日はよろしくお願いします。はじめに上半期を振り返っての感想をお願いします。
う~ん、特に何もない気がしますね。市場全体としては踊り場という状態にあって、市場の変革を起こすようなものもありませんでした。別に今年の上半期に限ったことではありませんけど、市場の飽和状態の中の踊り場にあると見ています。
――:市場が寡占化しているのではないか、という声も出てくるようになりました。
同じようなゲームばかり出ていますからね。ゲームがフォーマット化されてしまっており、ユーザーからすると、また見た目や世界観だけを変えたゲームばかりと受け止められています。様々なゲームが出ていますが、バトルやクエスト、合成、ガチャ…で構成されるフォーマットは変わりません。
「あ! そういう遊び方、楽しみ方があるのか!」と思えるゲームがなかなかでてきていないのが現状です。そういう意味で、「踊り場」になりますし、市場における需要と供給のバランスが崩れています。ただ、穏やかといえば、そういえるのではないかと思います。
――:新しい遊び方を提供するゲームがあれば、また市場も活性化していくると。
そうですね。スマートフォンに限っていえば、新しいゲーム体験やゲームサイクルを提供するフォーマットが出てくれば、また動きが出てくると思います。そんなゲームがでても、また模倣する動きがでてくるんでしょうけどね(笑)。ゲームというのは、破壊と創造の繰り返しです。
家庭用ゲーム市場でも同じようなものばかりになれば、ユーザーが飽きてくるし、需要と供給のバランスが崩れます。家庭用ゲームは、参入企業が限られていましたが、スマートフォンは、ゲーム会社以外の多くの会社が参入しています。参入障壁が低い分、市場の飽和や寡占化に至るスピードが早いのではないでしょうか。
――:業界内での出来事として気になったことはありますか。
「E3」でしょうか。今年の「E3」は、VRが目玉になっていましたが、海外ではゲームの新しい可能性を求める動きがより積極的です。日本のゲームは、どうしても右向け右になる傾向が強く、新しいことよりも儲かっていることをやりたがる傾向があります。それはそれでひとつの考え方ですが、個人的には違和感を覚えています。
「E3」ではスマートフォンが少なく、家庭用ゲーム市場における新しいチャンレンジが出ていました。ゲーム業界としては新しい選択肢があって、イノベーションが挑戦できるのは非常に良いことです。当社もスマートフォンだけをやっているわけではありません。スマートフォンはあくまでひとつのプラットフォームにすぎませんし、ベストのプラットフォームとも考えていません。
――:他に気になったことはありますか。
つい最近のことですが、SPAJAMに参加していい勉強になりました(関連記事)。25時間でゲームを作るのは、普段ゲームを作るよりも辛いですね。チームとしてもいい経験・刺激になったと思います。参加できたことは本当にありがたかったです。当社でいうと、毎年参加するサンバカーニバルでやることが一番大変だと思っていたのですが、それよりも大変だと感じました(笑)。普段、ゲームを作れていることが幸せだとあらためて感じました。
▲森下氏も参加した「SPAJAM」の様子
――:SPAJAMの意義ですが、短い時間で集中して作ることで得られることは何でしょうか。
時間というプレッシャーがありますし、エキシビション参加では賞はもらえないとしても、アプリをきちんと作りたいと考えていました。本当は、もっと面白いアイディアがあったんですが、それをやろうとしたら、チームのメンバーに止められました。「それはガンホーとして取り組むゲームでやりましょう」と(笑)。ただ、代わりになるアイディアがなかなかでなくて大変でした。
――:そのアイディアで出てくる新作が楽しみですね。気になっていたのですが、あの「シェー」はなんだったんですか。
なにもないです(笑)。チームメンバーの肩の力を抜かせるためのものですね。あとは、周りを錯乱させるためのものです。
――:すっかり騙されました(笑)。
■長く、地道に育てていく方針が結実した『サモンズボード』
――:『パズル&ドラゴンズ(パズドラ)』ですが、マルチプレイを導入すると発表しましたが、その狙いを教えて下さい。
マルチ協力プレイは5月に発表しましたが、技術的には決して難しくありません。もともとMMORPGをやっている会社ですから、むしろお手の物です(笑)。今回の決定は、マルチ協力プレイを入れればいい、という安易な発想ではありません。
『パズドラ』の今後のアップデートを考えた時、新しい要素にはマルチが生きてくるのではないか、という考えが根底にあります。今後、こういうダンジョンを入れるから、マルチ協力プレイが生きてくるよね、という考え方です。
▲マルチ協力プレイが発表された「ガンホーフェスティバル2015」の様子
――:なるほど。『パズドラ』が長期間にわたって支持されている理由のひとつとして、上達する楽しさがあるのではないかと感じます。
そうですね。私がこのゲームのなかで一番重要視しているのは、修練度と偶発性です。修練度は、プレイして上達し、連続でコンボを発生させることができる、そして、間違えないで美しくコンボを決める、といったアクションゲーム要素です。これをより重視したのが『パズドラチャレンジ』です(関連記事)。ただ、修練度ばかりを重視したゲームにすると、「無理ゲー」もしくは「死にゲー」になる恐れがあります。ここに適度な偶発性を入れるようにしています。
――:このバランスが重要だった、ということですね。
はい。ただ、私自身は、それぞれそのときに作りたいものを作っていくので、すべてのゲームがアクションゲーム的なうまさを求めなくてもいいと思っていますし、それが正しい訳でもないと思います。
例えば、『サモンズボード』は、戦略シミュレーションゲームです。プレイヤーのデッキ構成と先読みが重要なファクターとなります。私自身、アクションゲームばかりやるのですが、『ファイアーエムブレム』のようなシミュレーションゲームも大好きなんです。スマートフォンでタクティクスシミュレーションをもっと単純にできたら、その面白さがより多くの人に伝わるのではないかと考えました。
――:よく御社は『パズドラ』以外のタイトルがない、などと誤解されます。『ディバインゲート』や『サモンズボード』、『ケリ姫スイーツ』はいずれも立派なヒットタイトルです。なぜそう言われると思いますか。
よくいわれますね。それはおそらく『パズドラ』が目立ちすぎるためでしょう。実は、『パズドラ』がなくてもそれ以外のゲームだけで上場できるだけの規模はあるんです。とはいえ、何か一つ突出するものがあるというのは、ゲーム会社を経営していく上では非常に大事なことではないかと思います。かつては『ラグナロクオンライン』しかないといわれたものです(笑)。
あと、『ディバインゲート』や『サモンズボード』は非常に好調ですが、いずれも実は顧客単価は低いんです。うちのゲームは基本、長く楽しんでもらうために無理に収益を追求しないというポリシーでやっていますので、顧客単価は高くないんです。他社さんのように、強く意識すれば、顧客単価を上げることも可能ですし、そんなに難しいことでもないですが、そういうやり方はしないだけです。いまの温度感が丁度いいと思っています。
例えば、釜に薪をくべればどんどん温度が高くなります。熱くなりすぎると人は引いてしまい、味が凝縮されて、濃い人だけが残って、必然的に狭く深く、になります。薪をくべれば、当然、薪の量が少なくなりますよね。自分たちが用意できる薪の量とくべ方のバランスを取っていくことが大切です。オンラインゲームで色々なことを経験していく中で、ほどほどにするのがいいという結論に達しました。
もちろん、これは当社の価値観であって、私としては「狭く深く」という考え方が悪いと言いたいわけありません。価値観の違いと考えています。
――:コンテンツのマルチユースを打ち出しておられますが、『パズドラ』以外も強化していくのでしょうか。
はい。作品に合った形での展開を模索しています。例えば、『ディバインゲート』はアニメ化すると発表しましたが、このゲームではキャラクター性や世界観が評価されています。キャラクターごとにバックグラウンドやキャラクター相関図などを用意しており、ユーザーの中でキャラクターに対するイメージが強く、アニメ化しやすい作品です。アニメ化をテコにして展開を広げたいと思っています。『ディバインゲート』のアニメ化を発表した時、泣き出す女性がいらして驚くと同時に、とても嬉しかったです。こういう反応が出るとは思ってもいませんでしたから。
▲『ディバインゲート』のアニメ化が発表された「ガンホーフェスティバル2015」の様子
――:『サモンズボード』もゆったりしたスタートで、気が付くとランキングの上位に入ってくるようになりましたね。
『サモンズボード』も根強く支えていただきました。このゲームは、玄人受けはするんです。モンスターの配置を逆L字にしたのは、いろいろな意味があります。例えば、縦一列に並べると、将棋の「歩」のように前に出すことしかできません。逆L字にすることで、敵の出方を読みながら、どれをどう動かすか、駆け引きが楽しめるようになっています。
また、敵と戦っている最中、「石版」が出てきますけど、これは当初はありませんでした。私がずっとテストしていたとき、どうしても眠くなるため、その対策として思いついたものです。石版がたまにポンと出てくると、「石版を取りに行くべきか、放っておいて敵を倒すべきか。取りに行ったら攻撃されるかもしれない」など頭を使います。
テレビCMでは、「このゲームは一見地味だけど、面白い」ということをどう伝えていくかを考えました。クリエイティブも私が考えたんです。テレビCMは幸いご好評いただき、CMをきっかけに始めた方の継続率も高く、非常に良い効果が出たと思っています。『パズドラ』でもそうでしたが、藪から棒にテレビCMを打つのではなく、ある程度の水準に達してからやるようにしています。
――:CMを打ったのもリリースから1年以上経過してからですよね。
『サモンズボード』は、当社のじっくりと育てていくという方針に加え、ゲームが地味なので、リリース当初は一気に、ではなく、じわーっと伸びていきました。ディレクターは少し不安そうにしていましたが、ユーザーが面白さに気づくまで多少時間がかかるものの、いずれ伸びてくると確信していました。熱心なファンが付いて伸びてきて、それに合わせてテレビCMを打ち、さらに伸ばすことができました。
――:タイトルをバンバン出さないのは、大事に育てるというお考えにも関連しているのですか。
マーケティングや開発・運営に必要なリソースは限られていますから、いま注力すべきタイトルを会社全体一丸となって押していく・育てていくことが理想だと考えています。当社には、私が本部長を兼任する開発本部がありますが、部や課がなく、プロジェクトごとに人が組織されています。例えば、あるゲームで何か重大なトラブルが起きた時は他のプロジェクトのスタッフもいったん手を止めて助けに入ります。新作を連発しない理由はここにあります。
別の理由を言うと、私の体力に限りがあることもあります(笑)。私自身、いちゲームデザイナーとして、企画コンセプトをたてて、仕様をきって、デバッグも行っていますから自ずと限界があります。企画書を自分で作る場合もありますし、プランナーに仕様を伝えて作ってもらって直したりすることもあります。スタイルは、SPAJAMでの開発のまんまなんです。でも辛さはSPAJAMの方が上です(笑)。寝ないでやったのと、色々なプレッシャーがかかりましたからね。
――:個人的な関心なのですが、御社は、オンラインゲームのパイオニアですし、スマホのMMOには特に興味はないんですか。
ないわけではないです。PCで出ているタイトルをスマートフォンで出すのは、技術的にも可能ですが、それだけではダメだと感じています。スマートフォンに最適化された、多人数参加型のオンラインゲームのあり方には悩みますね。MMORPGはさんざんやってきましたし、MMORPGに強いスタッフも在籍し、技術もノウハウもあります。スマートフォンに最適化された、我々が独自に考える、全く新しい"多人数参加型オンラインRPG"を作れればと思っています。
■『パズドラ』の成長余地は十分 海外市場での取り組みは”布教活動”
――:御社の海外市場への取り組みをお聞きしたいのですが。
皆さん、「海外、海外」と軽くいいますけど、短時間でうまくいくような市場ではないと考えています。時間をかけてじっくりと取り組むべきです。そのために会社として体力を付ける必要があります。あわてて海外市場に出て行って、うまくいかないとすぐに撤退する、というところが少なくありません。当社はそうではなく、地道に積み上げていくことが大切と考えています。
当社には、韓国に子会社がありますが、韓国でビジネスしていくのがすごく大変でした。最初はビジネスにならないんです。日本と韓国の文化の違いがありますからね。自分たちのやりたい方向や考えを一致させた上で、しっかりと作っていくようにしました。アメリカにも子会社がありますが、アメリカでも20~30人が在籍しており、一気に人を増やしているわけでもありません。
地道な取り組みの結果、『パズドラ』は北米で700万ダウンロードを突破しましたし、『PUZZLE & DRAGONS SUPER MARIO BROS. EDITION』が発売できました。我々の北米での活動は、ある種の「布教活動」のようなものです。例えば、『パズドラ』は、自由に動かしてコンボを作る遊びが3マッチパズルの中では新しい遊び方でした。その遊び方をみんなに知ってもらう必要があります。
――:布教活動というと具体的にはどういったことをされているのですか。
ゲーム内イベントやアップデートはもちろんですが、地味なことですが、アメリカのスタッフがYoutubeでの動画配信をやったり、Anime Expoやインディーズゲームといった各種のイベントに参加したりとファンを増やす活動をしています。広告費を一気に投じる空中戦ではなく、いわゆる地上戦がメインですね。地上戦中心でも700万ダウンロードを超えましたし、売上ベースでも日本にははるかに及びませんが、「これだけの売上があれば十分」というくらいあります。
――:アメリカのアプリストアの売上ランキングをみていると、ヒットタイトルといえるものですよね。
アメリカ版『パズドラ』は、上下の波がありますが、上がっているときはTOP10に入れます。アクティブユーザー数は伸びていますから。アメリカでも日本と同じく、顧客単価を無理に上げることはしていません。ゲームを作るとき、狭く深くではなく、あくまで広く浅くでやっています。『ケリ姫スイーツ』も台湾や韓国でも好調で、ランキングでも上の方に入るようになっています。
出所:AppAnnie
『パズドラ』はまだまだ成長余地は十分あると考えています。かつての日本の電機産業や自動車産業も米国に参入してすぐに成功したわけではありません。先人たちに倣って、地道に長く提供していくことが大事ではないかと思います。これからダウンロード数を1000万、2000万、3000万と伸ばしていきたいですね。
■ソフトバンクから”独立”の意味
――:ソフトバンクから自立するような方向というお話でしたが、具体的になにか変わるところはあるんでしょうか。
正確にいうと、もともと経営として自立しているんです(笑)。ソフトバンクから経営に関して、何かいわれることはありませんでした。
ただ、外部からみたとき、ガンホーは、ソフトバンクの連結子会社ですので、ソフトバンクグループとみられていました。実質的に独立していますが、さらに外形的にも独立することが主な趣旨です。もうひとつの理由は、東京証券取引所の本則市場に上がるとき、ソフトバンクと親子上場になってしまうことに対応したものです。そして、株主還元にも取り組みたいと考えていました。
これらは本来、別々のものですが、併せて考えた時、株式市場での流動比率を上げるためにもソフトバンクから自社株買いを行うことにしました。ただ、それだけですと、株主還元になりませんから、取得した自社株の半分を消却しました。
――:M&Aなどは考えていらっしゃるのですか。
M&Aは、今後の成長への投資として、積極的に考えなくてはなりません。ゲーム作りの観点からも私が企画・開発に携われるのにも限界がありますからね。日本に限らず、世界中で既存のゲームとは違うフォーマットにチャレンジしていて良いゲームなのに、埋もれてしまうタイトルが少なくありません。
そういうものを作る会社と一緒にやりたいですね。これは別に子会社化することだけでなく、投資することも選択肢の一つです。大事なことは、良いゲームをちゃんと作り、そして長い目で育てていくということです。育てていくことこそが真のワンソース・マルチユースだと考えています。
――:ありがとうございました。
(編集部 木村英彦)
■ガンホー・オンライン・エンターテイメント
会社情報
- 会社名
- ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社
- 設立
- 1998年7月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO 森下 一喜
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高1253億1500万円、営業利益278億8000万円、経常利益293億800万円、最終利益164億3300万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3765