【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」


ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、おもにDeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事を展開。

 

■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」

 
今回より、このコラムを書かせていただくことになりました、馬場です。拙筆ではございますが、お付き合いください。このコラムでは、主に、ゲーム業界の
 
・仕事のありかた
・求められる人材
・学生さんにとっての業界

など
 
について書かせていただきたいと思っております。
ときおり、ゲストも招いて座談会方式もやっていきたいと思っております。

さて、第一回は、「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」というタイトルで書かせていただきます。わたしは、現在、DeNAにおいて、
 
・ゲームを開発するプロデューサー
・ゲーム系人材を採用、育成する人事


…という二足の草鞋をはいております。前職はセガ(現セガゲームス)にてゲーム開発をしておりましたが、セガやDeNAのようなパブリッシャーも、わたしが今もお付き合いさせていただいているようなデベロッパーさんにおいても、皆さん、口を揃えて、
 
「いや~、人がいない」

とおっしゃいます。
 
果たして、本当にそうなのでしょうか?

パブリッシャーの方々の立場からは、
 
「クオリティを担保して、安定してゲームを市場に供給していきたいから」
 
というところがあると思います。スマホや携帯ゲーム機でのゲーム開発もされているでしょうが、それ以上に、コンシューマ系のパブリッシャーの使命として、ハイエンドマシン向けのゲーム開発に大きくリソースを割いておられます。時間も、人も、お金も必要とし、リスクは大きいものの、
 
・会社の看板タイトルとなり
・技術を向上させる

 
ところがあるがゆえに、挑戦し続けられていると思います。

おまけに、単にリリースするだけではなく、これがアートではなく事業であるために、事業安定のためには、企業ブランドをさげないようクオリティを担保した上で、決められた期限でモノを世に送り出していく必要があります。
 
デベロッパーの方々の立場からは、
 
「もっと人がいたら、たくさんお声がけいただいている仕事を断らなくてもいいのに…」

とか

「もっと人がいたら、受託に加えて、チャレンジするラインもつくれるのに…」
 
とかが、あるのではないでしょうか?
 
・受託したタイトルのクオリティを担保し
・現場が発信者、創造者としての気概を失わないための施策を考える

 
などのためにも、いかにして、ラインを構築するか? がポイントになってくると思います。
 
 

■需要数と供給数は多いはずなのに…

 
このように、パブリッシャーであろうが、デベロッパーであろうが、業界として
 
「人(= 開発者)を必要としている」
 
のは間違いないと思います。やはり、本当に人手不足なのでしょうか? ですが、大学、専門学校はじめ人材の供給源は決して少ないわけではありません。

今年、渋谷、梅田で開催いたしました、HEATというイベントがあります。
 
※5/16 に 渋谷にて、HEAT渋谷 を実施。企業10社以上、学生350人以上を動員
※7/19 に 梅田にて、HEAT関西 を実施。企業20社以上、学生200人以上を動員

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どちらのイベントも、企業、学校、学生さん、いずれも非常に多くの方々にご参加いただき、新たな出会いをご提供することができました。各企業さま、学校さま、多くの学生の皆さん、そして、快く梅田で会場をご提供いただき、ご協力いただきました、インテリジェンス関西支社の皆さま、この場をお借りして御礼申し上げます。
 
上記のように、数多くの企業さんに、数多くの学生さんが出会っているわけです。

「HEATきっかけで、内定決まりました!」
(企業からも、学生さんからも)
 
という話をお聞きすることも増えてまいりましたので、喜ばしく思っていると同時に、その数は、残念ながら、50人、100人に届くような大きな数ではありません。
 
需要も供給も大きいのに、なぜ、人手不足が解消されないのでしょう? つまりは、なぜ、もっと数多くの内定がでないのでしょう? 各企業とも、新卒採用ではなく、即戦力の中途採用ばかりをおこなっているわけでは決してありません。

 

■質と距離が、壁をつくる…


需要も供給も数があるのに、マッチングできない理由、それは、ひとえに、
 
①「求められる質との乖離」
②「就職できる会社と、自身が住む地域との距離」

 
この2つが、単なる人の頭数では解決できない実情を生み出しているということかもしれません。
 

①に関しては、求められている質と候補者である学生さんの質が必ずしも一致していない、つまりは、
 
人手がいる ≠ 人材がいる

ということです。これは、学生さんが力不足! ということだけではなく、そもそも、どういったスキルが求められているのか? を知るすべが、これまであまりありませんでした。特に「企画職」と呼ばれる仕事などは、
 
・アイデアマンであること?
・企画書をしっかり書くこと?
・うまくプレゼンすること?

などなど
 

具体的なようで、端っこのスキルばかりが注目され、本質的に企画に求められる部分が、あまり明確にされておらず、学校さん側でもどうすればいいのか? 悩まれているというのが実情だと思います。(ちなみに、これらの技術は、入社後でも学べるものもありますし、アイデアは企画でなくても考えられるのでそこだけでは勝負できません。天才でない限り)
 
また、「ゲームが好き」という状況が、​

・ゲームをプレイするのが好き
・ゲームを開発するのが好き
 
とでは、大きく異なるというのもあります。
 

今は、誰しもがUnityなどのゲームフレームワークを使って、動くもの、ゲームをつくることができる時代になっています。ですので、ゲーム開発が好きかどうか? は昔に比べれば自身に問いやすくなっています。

ですが、そもそもゲームにまったく関心が無かった人が通用するほど甘い世界ではないので、大前提としてゲームが好きで、その上で、ものをつくることが楽しい! という人でないと継続できないということです。ものづくりの上でのメンタルが強くないと、他人に1度や2度ダメだしされたくらいで折れているようでは、10万、100万のお客さんを相手にゲームを世に出すことはできませんので!

技術云々よりも一番の差はこの「ものをつくって世に問う」メンタル、諦めない根性なのかもしれません…やや精神論っぽく聞こえるかもしれませんが、「ゲームという正解のないものをつくっている」以上は、諦めない、信念、覚悟のようなものが大事になりますし、問われるとわたしは考えています。
 
次に、②についてですが、就職先としてのゲーム会社は、東京と大阪に多く存在し、札幌や福岡を除けば、全国に多く点在している…という状況にないのも事実です。が、逆に大学や専門学校は全国にあり、数多くの学生さんたちが、毎年のように業界にはいることを夢見て学校の門を叩いていると思います。が、いざ、就活の時になると、物理的に遠い東京や大阪に、何度も選考に通うことが時間的・費用的にできない…。

そのために、2,3社受けてうまくマッチングしなかったら、諦めざるを得ない…ということが起きています。これは、せっかくこの業界を夢見てくれた人がいたのに、夢の実現にむけて業界が手を差し伸べることができていないことになります。

そこで、わたしは、HEATというイベントを開催し、同日に数多くの企業さんに参加いただくことで、学生さんが一度に多くの企業さんと会って話をきくことができる機会を設けたい! という考えに至ったわけです。
 
参加者全員が、HAPPY & WINNER !!
 
これが、HEATのコンセプトです。
 

まだまだ、産声をあげたばかりのイベントですが、今後もゲーム業界に、業界を夢見てくれる方々に少しでも出会いの場をご提供していければと考えております!! 今回は、ここまで。
 

■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発に従事すると同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。

 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1349億1400万円、営業利益42億0200万円、税引前利益135億9500万円、最終利益88億5700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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