【セミナー】「トライ&エラーは無限ではない」…企画の効率化で業務をスムーズに 第5回「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾」を取材


ディー・エヌ・エー<2432>(DeNA)は、10月27日、ゲーム企画職を志す学生およびゲーム企画職の若手を対象としたセミナー「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾 〜未来を担う人に伝えたいこと〜」の第5回目を渋谷ヒカリエ DeNA本社にて開催した。

第5回目では、Unity Technologies Japanの簗瀬洋平氏が講師を務め、「企画の効率化」について講演。本稿では、いかにして企画・業務を効率的に進めていくか、実際の演習を通して行われた第5回「座・芸夢」の模様を取材。

 

■企画効率化における3つのポイント


そもそも「座・芸夢」は、毎回著名なゲームクリエイターを講師に迎え、講演と直接指導を受けられる演習の二部制で行われるセミナー。「若手ゲームプランナー育成塾」として、これからのゲーム業界の未来を担う人に、ゲームプランニング・デザインの基礎を体系的に伝え・学んでもらう場となっており、これまでも定員を超える多数のエントリーがある。

過去、「ゲームの神様」遠藤雅伸氏からはゲームの本質、『もじぴったん』シリーズのディレクターを務めた中村隆之氏はゲームアイデアを生み出す手法など、著名クリエイターたちが登壇してきた。そして、第5回目では、第2回にも登壇した簗瀬洋平氏が講師を務める。

Unity Technologies Japan  クリエイティブ・ストラテジストの簗瀬氏は、1995年よりシナリオライター、ゲームデザイナーとして『ラングリッサー』『グローランサー』シリーズや『ワンダと巨像』『Folks Soul 失われた伝承』『魔人と失われた王国』などのゲーム開発に携わる。2012年より研究者として「StratoJump」「誰でも神プレイできるシューテグゲーム」などインタラクティブシステム、コンテンツを通じて主観的体験に関する研究を行っている。

第2回のときには、「アナログとデジタルの両面から“ゲーム”を作り上げる要素」について講演した簗瀬氏。今回はテーマを変えて「企画の効率化」に関する講演となった。
 

▲モデレーターを務めたDeNAのプロデューサー 兼 採用担当の馬場保仁氏(写真左)
簗瀬洋平氏(写真右)

はじめに簗瀬氏は、ゲームデザインの定義として「ゲームにおける個々の要素の相互作用を設計する仕事」と説明。そのなかで、どれだけ目的に沿ったものをデザインすることができるかどうかがプロフェッショナルの企画だという。

また、プロとアマの一番の違いについて「納期をきちんと守る」ことも挙げた。「ゲームは手を加えれば加えるほど良くなっていくが、スピードは非常に重要」と簗瀬氏。長い時間を掛けると「もちろん結果的に傑作が生まれるかもしれないが」…言葉を添えつつも業務の効率化の重要性を語ってくれた。

さて、企画効率化のポイントについて「事前調査」「解析」「要素を絞る」の3つを挙げた。

「事前調査」では、同ジャンル、同ターゲットの作品の情報、レビューなどをひたすら集めて傾向を分析するということ。たとえば、よく企画書に「登場する敵は100種類」と安易に書いてしまうことがあるが、一部色違いを取り入れたとしても、その100種類を作るための工数・スケジュールは果たしてきちんと考慮されているのか。企画書としては見栄えはいいが、本当に100種類の敵を登場させるのであれば、そこにいたるまでの理由や具体的な作成方法も答えられる必要があるようだ。

“このゲームはこのくらい敵がいます。何故ならこのように配置されていて、作品のボリュームは○○時間なので、○○種類の敵が必要。または、ゲームのうりであるこのような体験をさせるためにこの種類の敵が必要“などと説明できる必要がある。研究発表や論文などでは、サーベイ(事前調査の事)を行うが、ゲーム開発の現場ではサーベイはあまり行われていない。実際に簗瀬氏もとあるアクションゲームに携わる際、ひたすら関連した動画を集めて画面の位置や行動などを事前調査し、記録として残し、無駄な議論の時間を減らすことができたという。0から自分たちのゲームをどうするか考えるよりはるかに早い。ともコメント。

続いて「解析」では、視覚化・言語化のみで説明しにくいものを数値化することを指す。たとえば、ゲーム画面のカメラ操作は好みの差が激しいもの。実際に自分がプランナーとして、カメラの感度や位置をプログラマーに伝える際に、どこをどう変えるのは到底言葉では説明できないため数値化する必要があるのだ。カメラが動作する速度を測るなどして、感覚をきちんと数値化することが重要であり、その数値をもとに別の作品にも流用できることも可能になる。企画中や業務中でも何か問題が生じた場合は、一度解析したり、計測したりすることがベストのようだ。

最後に「要素を絞る」。「ゲームって、よくこのアイデア面白い、つまらないと思うものですが、これってだいたい主観ですよね」と簗瀬氏。本来これらも可視化できればいいのだが、現状では無理なこと。みんなが面白いと思ったものは大抵面白いものだが、そこからある程度取捨選択をしなければならない。そこで効率化のひとつとして、「要素を組み合わせで発散するものを使う」と説明する簗瀬氏。言わば、ふたつの要素を掛け算して面白さを昇華させるということだ。
 

敵の攻撃パターンを考える際も、画像のように「移動パターン」×「攻撃パターン」×「リアクション」と最低限の要素を取り揃える。実際にスタンダードな敵を1体ベースとして作ることで、そこから様々な要素を足し算引き算していくとバリエーション豊かな敵を簡単に生み出すことができる。ただ、簗瀬氏の場合は通常の敵に対して要素を足して強い敵を生み出すよりかは、はじめに一番強い敵を作ってそいつをベースにするとのこと。「一番要素が多いため、そこから要素を減らすだけで効率的に敵を作れる」と簗瀬氏。

続いて、効率的な企画立案に必要なものとして「シミュレーション」「プリプロダクション」「チャレンジ」の3つを挙げた。シミュレーションはプログラムを作るということではなく、言わば仮説を立てること。仮説のなかでうまく機能していれば、そこからプリプロダクションとして実際に作っていく。仮説の段階で間違っていれば、何度も修正を試みることができるが、一度プリプロまで作ってしまうと変更するまで工数が大変になってしまう。

また、企画の段階で面白いアイデアを思いついても、たいがい世界中の誰かがすでに思いついているもの。しかし、世に出ていないのであれば、それ相応の欠点があるかもしれないので、簗瀬氏は失敗事例がないかもきちんと調べるとのこと。そうして、ほかの人がやったことのないものにチャレンジしていく。ゲーム開発においては人にチャレンジをさせることでもあるので、人を納得させるためにもサーベイなどを行い、無駄な議論を極力抑えて、効率的に企画の立案と業務を進めていくという。

 

■効率を上げるために、まずやらなければならないことは…


ここからは、実際にゲームの解析をテーマにしたワークショップに移った。会場で用意されたパソコンのなかに、「TheGameRPG.exe」というRPGの戦闘シーンが延々と繰り返されるゲームが入っており、これらの「戦闘計算式」と「敵それぞれのパラメータ」を推測するというもの。基本的に戦闘は自動で行われており、敵にやられたり最初からやり直したりしたい場合はEnterキーでリセットできる。敵はスライム、ウィザード、ドラゴン、ナイト、魔王の5体。なお、バトルを終えるたび、一定の経験値を得てキャラクターはレベルアップもする。

1チーム約4~5人、合計10チーム以上で一斉に始まった本ワークショップ。制限時間は40分。はじめに受講者は、それぞれ戦闘シーンを食い入るように見つめて、各テーブルに用意された紙とペンでひたすらダメージ量を書き込んでいった。戦闘画面が自動で進んでいくうえ、一時停止もできないため、受講者は数字を追いきれなかったり、ダメージ量を忘れてしまったりと四苦八苦。
 



と、気付けば40分経過。残念ながら全チームが答えにたどり着けなかった。

解き方に入る前に、簗瀬氏が「このなかでエクセルやスマホを使った人はいますか?」と訪ねると、1チームのみが手を挙げた。ちなみにスマホは“動画を撮影するため”に使用したとのことで、簗瀬氏は「みなさんにはそれを最初にやってほしかった」とコメント。当たり前だが、動画で画面を撮影すれば後から再生・停止を駆使して、ゆっくり数字を出すことが可能だ。加えて、それらをパソコンでエクセルにまとめて平均値も出てくるもの。各テーブルに紙とペンが置かれていたため、瞬間的に手に取ってしまったのだろう。

が、それは簗瀬氏の罠であった。紙とペンでメモするのは簡単だが、確実にデータとして残して処理するにはPCへ入力したほうがいい。動画を撮るということはひと手間掛かるが、ひと手間掛けるほうが後々楽になる。動画を撮るとものすごく集計効率が上がる。ゲームに限らず、何かを観察するときには「まず、動画を撮りましょう」。

動画を撮らないと、自分が注目したところしかデータが残らない
動画を撮ると、自分が注目していないところもデータが残る

単にこうだろうと思うのではなく、データを取って検証をする、ということを覚えて欲しい。同時に検証する手段が正しいかも考える必要があると簗瀬氏は言う。

さて、実際の解き方の例は下記の通り。

・誰が誰を攻撃したかダメージと共に記録
・パターンごとの平均ダメージを求める
・各パラメータとダメージの関係を推測
・AT+1につきダメージが+1、DF+1につき被ダメージ-1を推測
・ATとDFの間にダメージ=(AT+N-DF/2)±ランダム

敵と味方の戦闘計算式は一緒のため、ATとDFの関係について(AT-DF/2)は成り立つのだが、ここで重要なのは敵側のパラメータが公開されていないこと。つまりは、この間に何らかの式が入っていても分からないため、答えるときは戦闘計算式に加えて、“ただし何かしらの数字Nがある”と添えるのがベストという。ちなみに、実際の戦闘計算式の答え:ダメージ=(AT-DF/2)±6.25%。パラメータは下記のとおり。

【パラメータ】
・スライム、HP:69、AT:18、DF:15、AGI:13
・ウィザード、HP:54、AT:21、DF:18、AGI:16
・ドラゴン、HP:84、AT:25、DF:22、AGI:22
・ナイト、HP:75、AT:25、DF:29、AGI:19
・魔王、HP:90、AT:30、DF:30、AGI:23

簗瀬氏は「仮説としては当たっていたものはあったが、検証が不十分。よって正解はなかったと言える。」と総評を語った。「データが取れていれば表計算ソフトなどに入力して機械的に相関関係を求めることができる。よって仮説が正しい必要はあまりない。むしろ予断に引きずられて間違った結論を出すものが多かった。根本的にはデータが取れていないのが問題で、データを取るために手元に有効な手段があるにも関わらず使われていない。データを取るために工夫しよう、という動きがあまり見られなかった」とコメント。

簗瀬氏は、何も確率統計の知識を試そうとしたのではなく、前述したように「解析・観察するときは、まず動画を撮影しよう」ということを繰り返し語ってくれた。このように、事前調査や解析がきちんと出来ていないと、間違った仮説で業務を進めたり、ときには人を動かしたりしてしまうと、プロジェクトにも大きな損失を与えてしまうのだ。

最後に簗瀬氏は「トライ&エラーは無限にできるわけではないです。だからこそ、こういう小さいものも確実にこなしていく必要がある」と、改めて効率化の重要性について触れて、講演を締めくくった。


■第6回は11月26日(木)開催 エントリー受付中
 

なお、次回の第6回「座・芸夢」は11月26日(木)19:30から渋谷ヒカリエ21F DeNAオフィスにて開催。スクウェア・エニックスの塩川洋介氏が登壇し、テーマ「ゲームプランナーとして“長く”活躍するために知っておくべき、たった1つのこと」を講演するという。

◆参加資格:
・ゲーム企画職(ディレクター、リードプランナー、プランナー)を目指す学生
 ※学生は学年不問
・若手のゲーム企画職の方
   ※32歳以下
 
◆参加費:無料
 
◆参加エントリーはこちら 申込締切:11月17日 結果連絡:11月19日
 

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 ※事前エントリー制ですので、必ずお申込みください。 
 ※定員を超える応募があった場合は抽選となります。
 ※当日はメディア取材、写真撮影が入る場合がありますが、撮影について配慮させていただきます。​

 

▲毎回恒例の講師による塾生証のスタンプ。
参加回数が多くなると等級が上がり、特別なプレゼントが貰える。
 

 
(取材・文:編集部  原孝則)
 
 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1349億1400万円、営業利益42億0200万円、税引前利益135億9500万円、最終利益88億5700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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