【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第36回「WEBアニメ「弱酸性ミリオンアーサー」を作ってみた結果」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、ゲームプロデューサーの安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:岩野弘明氏

 

■第36回「WEBアニメ「弱酸性ミリオンアーサー」を作ってみた結果」



私がプロデュースしている『乖離性ミリオンアーサー』と『拡散性ミリオンアーサー』の中では、『弱酸性ミリオンアーサー』(以下『弱酸性MA』)というゲーム内四コマを展開しいるのですが、その『弱酸性MA』をWEBアニメにして先月からニコニコ動画とYoutubeで配信しています。そこで今日は、その結果どういうことが起こったのかをお伝えしたいと思います。


■そもそもの狙い

実は前から「ミリオンアーサーをアニメ化してほしい!」という声はユーザーの中にあったのですが、詳しく言えないもののいろいろな事情があり本編である『拡散性』『乖離性』をちゃんとユーザーの期待に添えるクオリティでアニメにすることが難しい状況でした。以前別の記事でも書きましたが、そんな中で「とりあえずアニメ化してみました」的な内容では、既存ユーザーは満足しないし、そこで初めてそのコンテンツに触れた方にはIP全体にしょぼい印象を与えてしまうだけで、プロモーションとしての効果は見込めません。

そこで、上記で触れたいろいろな事情をすっ飛ばす形で実現が可能だった“短い尺のWEBアニメ”(以下、WEBアニメといいます)に目を付けました。

最近ではTVでも5分枠のアニメが多く放映されていますし、『モンスト』のYoutubeでのアニメ展開も話題になりましたね。

WEBアニメのよさは
・普通に30分アニメを作るよりも大幅に安く作れる
・スマホからアクセスしやすい
・尺が短い分気軽に視聴できる
・繰り返し見ることも苦にならず動画サイトなどで再生数が上がりやすい


といったことがあげられます。

高いクオリティの30分アニメを作るには、大体1話2000万円程度、1クールにして大体2.5億円くらいは必要で、さらにクオリティを高めようならもう少しお金が必要です。また、無理なく作ることを考えると仕込みも含め2年くらいは期間を見ておいた方がいい。

30分アニメを作るというのはそれくらい大変でお金と時間がかかります。そのため、即時性が求められるスマホゲームのプロモーションとしては、なかなか扱いづらい側面があります。

一方、WEBアニメの場合、お金は1/10以下で済みますし、尺も短いので例えば1クール分なら制作期間もうまくいけば半年程度で済みます。

そんな感じである程度作りやすいとされるWEBアニメなのですが、尺が短ければ構成や演技もそれを加味したものにしなくてはいけないため、どうしても作品との相性が問われます。ざっくりいうとギャグモノの愛称がよく、それ以外は結構つらいです。

実は私は以前いち視聴者としてニコニコ動画で配信されていた「カッコカワイイ宣言!」(関連サイト)のWEBアニメに激ハマりしたことがありまして、同じ話を何度も繰り返し見て楽しんでいたことがありました。あの尺だからこそでる雰囲気やギャグのキレみたいなものがWEBアニメの神髄のような気がしました。

…と、上記のような事情や流れがあり、今『ミリオンアーサー』をアニメとして表現するなら「弱酸性をWEBアニメだろ!」と思った次第です。

なお、どちらかというと既存のユーザーへのファンサービス的な側面を強めに、新規ユーザーもとれるといいなくらいの考え方でのプロモーションでした。そのため、話の流れは一切わからんがとにかく勢いのよいギャグを、という感じの内容にしてあります。

■「弱酸性ミリオンアーサー」 #1



■配信してみてゲームはどうなった?

前置きが長くなりましたが『弱酸性』アニメを配信してみた結果をお伝えします。まず、この『弱酸性』アニメ、非常に好評でして、ニコニコ動画では第1話が約59万再生されていて、24時間の全カテゴリランキングで1位をとることができました。また、第2話、第3話もそれぞれ30万再生を超えており引き続きご好評をいただいています。

ニコニコ動画のコメントを見ていると

・「話はよくわからんが勢いだけでおもしろい」
「○○さんがこんな演技をw」
「中毒性がある」
「ゲームはしらないけどやってみようかな」
「ゲームはやらないけど弱酸性は見る」

などといったものが印象的でしたが、これは実はかなり狙い通りの反応です。

そもそも『弱酸性MA』は本編の世界観は一切無視のぶっとんだ内容のギャグ四コマです。ですので、それをそのままアニメにするだけでもインパクトはあるのですが、本編のゴージャスな声優の方々がその内容を演じるとなれば、そのインパクトはかなりのもの。普段見られないような演技を『弱酸性』でなら見れる、ということで、『弱酸性』を知らなかった方にも興味を持ってもらえると考えていました。

そういった方がゲームも遊んでくれたらうれしいですが、アニメだけ楽しんでもらっても十分です。ゲーム以外も含めたIP全体が盛り上がればいいので。

とはいえゲームの方にも少なからずいい結果が出ていて、前日までの新規登録者数が3倍以上となり、その勢いは2週間程度続き、今もなお配信前と比べても多くの新規ユーザーを獲得できている状況です

もちろん、『弱酸性アニメ』以外でも様々な施策も含めての結果なので、これがアニメだけの効果とは言い切れませんし、正確に測ることはできません。しかし、話題性という意味ではかなりの効果があったと考えています。


■この結果を踏まえて次の展開を

以前リアルのカードゲーム(TCG)を運営しているプロデューサーから、メディアミックスとしてのアニメは、母体であるTCGを運営している限り、ずっと放映しなくてはいけないと聞きました。理由は、アニメの終わりのタイミングが、そのコンテンツ全体の終わりのタイミングとなりえるから、とのことなのですが、確かにアニメで一区切りつけて引退するということは私自身も過去にあったような気がします。

ですので、『弱酸性』も可能な限り長く続けたいと考えていて、当面は4クールはやろうと考えています。(もちろんその後も続けたいと考えています)

また、アニメとしては『弱酸性』を長く続けながら、定期的に30分アニメをユーザーが満足する形で実現したいと考えています。『弱酸性』アニメはいわば飛び道具的な面白さで話題性を高めましたが、30分アニメはまた打ち出し方が変わりますので、30分アニメなりの仕掛けでもってやりたいと考えています。やはり元がスマホゲームのアニメ展開としては、ならではの仕掛けをしていきたいですし、『弱酸性』以上の話題性を狙っていきたいところです。

ただ、話は戻りますが、やはりスマホゲームのスピード感やタイミングに合わせたプロモーションであるべきという意味では、そこをちゃんと見据えた展開が必要で、アニメ化は無理にやることではないと思います。

今やとてつもない数のスマホゲームが展開されている世の中ですが、私はこういうやり方でアニメをプロデュースし、ゲームにこういう結果が出ました、というとこを今回はお伝えしてみました。 ではでは今日はこの辺で!

P.S.
『弱酸性』アニメ、今週水曜配信予定の第4話はとっても素敵なお話なので、ご興味ある方は是非ご覧ください!


■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
 
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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