【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第39回「”犯人はヤス”理論」であなたのゲームはグッと目立つ


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、ゲームプロデューサーの安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:安藤武博氏

 

■第39回「”犯人はヤス”理論」であなたのゲームはグッと目立つ



 
最近のゲームのプランニング(企画)を見ていると、いわゆる「サイクルを回す」ことばかりに意識がいっているものが多いように感じます。一昔前はサイクルが回らないようなゲームもありましたが、運営系のゲーム制作に各社慣れてきた昨今、これらが回るというのはもはや当たり前の事です。

しかしながら、システムやサイクルばかりに気をとられているプロジェクトが増えている。つまり全体的に遊ぶ方から見ると没個性的で「似ているものばかり」で、クリエイター側はリスクを取らずに「置きにいっている」企画ばかりつくるという状況。このままではお客様に飽きられてしまうし、せっかく作ったゲームも埋もれて目立たず、結果売れない。という事になります。

今回は、これからそうならないための”心がけ”について書きたいと思います。話は、そもそも運営型のゲームをつくる以前にゲームクリエイターはどのようにつくっていたかを振り返る事からはじめましょう。

振り返りには、タイトルにもあるように「犯人はヤス」を生み出したクリエイター堀井雄二さんに直接お伺いしたお話を引用したいと思います。(以下、ポートピア連続殺人事件の犯人をネタバレしますので注意してください)

「犯人はヤス」とは、1983年に堀井さんが企画、グラフィック、プログラムの全て(!)を制作されたアドベンチャーゲーム『ポートピア連続殺人事件』の真犯人が、プレイヤーの相棒である、真野康彦:通称ヤスであるという、あまりにも有名な衝撃のラストのことです。あまりにもこの展開が有名になりすぎたため、この手のトリックはゲームでは普通に通用しなくなったり、他の作品でも犯人がわからないときにはとりあえず「犯人はヤス」と言ってしまったり……。それほどのインパクトを持ったアイデアでした。33年前のゲーム体験がいまだに語り草になっているのです。

これからは運営型のゲームにも、このような「アイデア」が必要になります。いや、あらゆるゲームは今も昔もこれらのアイデアが無いと売れない、目立たない、残らない、といっても過言ではありません。
 
こういったアイデアの着想の仕方を伺ったところ
 
「プレイヤーにどのような体験をしてもらいたいか」

「その体験がワクワクするものであるか?」

 
を考えるところからスタートされたそうです。まず一番伝えたい、体験してもらいたいアイデアを思いついくのが最初。その後に、そこに向かってその他の部分をまとめていく。サイクルやシステムが回るかは後の話なのです。

これは宮崎駿監督が、作品で一番描きたい、伝えたいシーンをまず一枚の絵に描いて、それに肉付けしていくやりかたにもよく似ています。『崖の上のポニョ』はポニョが海の上を走りながら宗介を追いかけるシーンを描くことからスタートしている。その様子がテレビのドキュメンタリーになっていましたね。
 
堀井作品では「犯人はヤス」以外にも『軽井沢誘拐案内』での「写真をつかったトリック」、『ドラゴンクエスト1』の「もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんを @@@@にやろう」、『ドラゴンクエスト3』の「おうごんのつめ」、『ドラゴンクエスト5』の「花嫁選び」などなど……四半世紀以上たってもなお、思い出せる体験が堀井さんのゲームには必ずあります。
 
そういった体験が、今つくっている、発想しているゲームにあるかどうか? 一度考えてみてください。運営型のゲームに限って言えば、まだまだ少ないような気がします。

これまではサイクルを磨き上げることで、そのような体験が提示できていたかもしれません。なぜならスマートフォンでゲームをすること自体、ガチャをすること自体、共闘すること自体が、新しく面白い体験だったからです。ただし8bitの時代も家庭用ゲーム機でゲームを遊ぶこと自体が社会現象となりましたが、さまざまなアイデアも同時に続々と出ていました。


プラットフォーマーがソフトの販売価格をコントロールして、顧客は買い切りで商品を買っていた時代ですから、クリエイターはビジネスのことは考えずにものづくりに集中すれば良かった。ゆえにアイデアが出やすかったという構造もあると思います

運営&フリートゥプレイの時代になり、クリエイターもビジネスのことを考えないといけないようになりました。現在は「クリエイターがアイデアをつめこんだがマネタイズがうまくいかない」「マネタイズができる人がうまくつくったがアイデアが足りない」。一方で「制作運営費用がかさみ始めているので、攻めることができない」。閉塞の条件が揃ってしまっています。これを破壊して前に進まないとかなり危ない。
 
これだけ沢山の作品がリリースされた今、もはやシステムやサービスだけを磨き上げてもお客様には響くような時代は終わりました。
 
そもそもプレイヤーはゲームでしか経験できないものを求めています。たとえ基本無料であっても、暇つぶしであっても、運営型になってもそれは変わらないはずです。

これからは「マネタイズもアイデアも両立」しているものしか売れないのです。

そうするために、作品に後年語られるほどの体験がつめこまれているか? いまいちどアイデアに注目してみてはどうでしょうか? 私が組んできた一流の運営プロデューサー・ディレクター達は口を揃えてこう言います。
 
「ゲームがおもしろかったら、後からいくらでも売ります」

「ゲームがおもしろくなかったら、後からどうやっても売れません」


ゲームがおもしろいのは当たり前の話です。ここでのおもしろさは「忘れ得ぬほどの体験」があるかどうかに、置き換えて考えてみましょう。マネタイズでもサイクルでもなく、まずは「そこから」なのです。
 
ビジネス偏重の方は、ライバル過多で手詰まりの状況に活路が見出せるはずですよ。クリエイターはさらにアイデアを飛躍させてこの状況をアッと言わせる遊びを発想しましょう。常識を破壊してやるくらいの気持ちでちょうどいいと思いますよ! それではまた!
 


■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。

公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
 
 
■安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第38回「プロモーションの拡散力を高める秘訣」 (岩野)

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第36回「WEBアニメ「弱酸性ミリオンアーサー」を作ってみた結果」 (岩野)

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第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)

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第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

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