【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第41回「あなたのゲームがTOP3に定着しないのは「これ」のせいかも」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、ゲームプロデューサーの安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:安藤武博氏

 

■第41回「あなたのゲームがTOP3に定着しないのは「これ」のせいかも」

 
ライバルが多くなりヒットが出にくくなったとはいえ、最近も『グリムノーツ』(関連記事)など新作のヒットが続きすごいなあと感心しています。それでも、なかなか「モンスト、パズドラ、白猫」TOP3の牙城を中長期的に崩すゲームは現れません。なぜなのか?

元も子もないことを言ってしまうと、こればっかりは、つくり続け、チャレンジを続けるしかない……のですが、諦めずにいろんな角度から考えてみるのも大事です。今回は大ヒットを狙うために、は”テーマの設定””ゲームの面白さ“”しっかりしたマネタイズ””良質な運営サービス”以外にも、「ある大事なアプローチ」が重要だというお話をします。

それは「インターフェイス」と「それにまつわる体験」に革命を起こせるか。ということです。

上記の”要素”に加えてこれがないと、国民的なヒット(大ヒットとはこの規模のこと)になりません。どういうことか?
 

元始アーケードゲームからスマートフォンに至るまでの「ビデオゲーム」……ここではコンピューターの演算と独自のインターフェイスが必要なゲームを全てこう呼びます。そもそも紙やサイコロ、鉛筆など「アナログなものだけでは実現できない遊び」をつくりだし、それが多くの人々に価値として受け入れれられた。ここからようやく事業として始まっています。

それは遊びそのもののルールや、おもしろさだけでなく、新しいインターフェイスやそれを操作・共有する体験とともに受け入れられてきた歴史があります。

例えば『PON』や『ブロック崩し』は、あのダイヤル型のコントローラーがあって初めて本来のおもしろさが体験できます。最近オフィスに『スペースインベーダー』のテーブル筐体を譲ってもらって置いたのですが、テーブルに座って上から画面を見下ろし、水平方向に生えているレバーと発射ボタンを操作していると、約40年前のゲームでもめちゃくちゃ楽しく遊べる。

これらはアーカイブになっており、色々なプラットフォームでほとんどタダ同然で遊べますが、今遊ぶと昔ほど楽しくないのは、当時のインターフェイスを再現できていないからです。そのくらい「入力の体験」とそれに応じた「出力の体験」というのはゲームにとって重要です。
 
私がエニックスに入社した当時、全てのゲーム提案は『ドラゴンクエスト』のプロデューサーである千田幸信さん(当時専務、現在はスクウェア・エニックス取締役)の審査を受けなければなりませんでした。国民的ヒットタイトルを手がけた方に企画を見てもらうという、その頃は怖いばかりでしたが、今考えればなんとも贅沢な環境で、数々の「金言・箴言」とも言えるメッセージをいただきました。

その中に「ゲームにはインプットとアウトプットしかない」というものがあります。

私が処女作である『鈴木爆発』のプレゼンテーション(3回やり直しがあった)をした時に「10年間は、わからないだろうけど、大事だから覚えておきなさい」と言われたことです。

22歳でゲームの構造すらよくわかっていなかった私は、イメージやキャッチコピー先行のプレゼンをしていました。それに対して、いかに感情的な表現を目指しても、ドラマチックな演出を実現しようとしても、それらはコンピューターに対してのインプットとアウトプットにすぎない。という大原則の話でした。

私がゲーム制作を始めた1998年は初代プレイステーションやニンテンドウ64など第四世代次世代ゲーム機の全盛期。グラフィックスや音楽・音声にも要領を飛躍的に割り振ることができるようになり、いわば頭で考えていることは、感情のおもむくままに「なんでも実現できそう」な雰囲気がしたものです。

結局、ハードのスペックが進化してもそれらをコンピューターへのプログラム入力と演算に頼るのは変わらないわけですから、感情のままに作るなど不可能。それが本当に腑に落ちるまで私の場合、本当に10年かかりました。20年近く経った今では前述のように「インターフェイス」と「それにまつわる体験」の重要さは年々深まるばかりで、永遠のテーマになっています。

 

■新しいインターフェイスの体験を提示


話は戻って、アーケードゲームの後「ファミコンのころ」はどうだったか? 入力がいわゆる十字キーとABボタンになり出力はテレビになりました。このスタイルでインターフェイスとその体験に革命を起こしたのは『スーパーマリオブラザーズ』です。
 
Aボタンを押すとマリオが脊椎反射的にジャンプする、十字キーで縦横無尽に駆け回ることができる。その体験は、当時とてつもない世界の広がりを感じたものです。今となってはこのジャンルのゲームはメインストリームではありませんが、ゲームデータが記録できない当時のファミコンと任天堂がやってのけた革命的な入力&出力の体験でした。

その後すぐ、ゲームデータが記憶できるようになり、自分のプレイが継続的に翌日以降にも持ち出せるようになった。技術がこなれ、ROM容量の容量が安価に増えたためです。その時に最も強烈な体験を提示したのが『ドラゴンクエスト』。今回の視点で『ドラゴンクエスト』を評価すると、セーブデータ&ファミコン&テレビを使った強烈な入力&出力体験だったとも言えますね。その結果、物語性がゲームに加えられた。
 

その後も、ニンテンドーDSやWii、アーケードのカードゲーム、スマホに至るまで時代を切り取った大ヒット作は、ほとんどが「インターフェイス」と「それにまつわる体験」に革命を起こしています。
 
「それにまつわる体験」の部分を掘り下げると、プレイ体験の共有も大きな要素です。『PON』はもともとジュークボックスの代わりに酒場や飲食店に多く設置されたもの。ビリヤードやダーツのように複数の人間がその遊びを共有することで流行ったはずです。『スペースインベーダー』が社会現象になったのも「テーブル」に変化して喫茶店に多数導入され、多くのサラリーマンの共有体験になったからです。ゲームセンターだって昔から共有の遊び場です。

PSPで『モンスターハンターポータブル』が大ヒット、スマホの時代に移り変わっても『モンスターストライク』も体験の共有によって大きくヒットしました。放課後のゲーム共有体験の様子をそのままCMで流している『白猫プロジェクト』もそう。ニコニコ動画でのゲーム実況もそうかもしれません。ファミコンの時代もクラスでゲームの進捗と攻略を話し合う楽しさがありました。入力と合わせて、これらがしっかりしているものは圧倒的に支持される可能性が高い。

『パズル&ドラゴンズ』の大ヒットもスマートフォンを使って新しいインターフェイスの体験を提示したからこそだと言えます。コントローラーから一枚の強化ガラスへと入力装置が変化した時に、マッチ系パズルの遊ばせ方とルールを見事にスマホ向けに昇華させた。だからこそ爆発的に受け入れられたのです。『モンスト』には「引っ張り」、『白猫』にも「ぷにコン」がありますね。
 
今あなたのプロジェクトには新しいインターフェイスとそれにまつわる体験が備わっていますか? 見直してみると良いかもしれません。

今年はいよいよ任天堂がスマートフォンの領域に進出してきますが、私は必ず何らかのインターフェイスに関連した発明を連れてやってきてくれると思っています。まだまだ発展の余地はあるはずです。トレンドの分析も確かに大事ですが、この部分でも切磋琢磨してお客様を楽しませるものをつくっていきましょう。それでは!
 


■著者 : 安藤武博
ゲームプロデューサー。過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマーゲームやスマートフォンゲーム事業に携わり、スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。

公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
 
 
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