【インタビュー】「現地市場で完結させる経営を」…セガゲームスに訊く海外市場におけるモバイルゲーム事業展開の現状と将来像


 
モバイルゲームの世界的な市場の拡大に伴い、大手ゲーム企業各社は海外進出について検討フェーズから積極展開フェーズに移行しつつある。その中でも、セガゲームスはコンシューマー、アーケード各事業で長年培った知見と、モバイルゲーム事業に求められる最先端のマーケティング・マネタイズ手法の両輪を駆使し、「ぷよぷよ!!クエスト」「チェインクロニクル」シリーズ、「モンスターギア バースト」など、国内で数々のヒット作品を生み出し、注目を集めている。また国内のみならず「チェインクロニクル」の海外展開にも成功しており、今後は海外市場でのモバイルゲーム事業の拡大を加速させる方針である。

今回はそうした中で「海外市場におけるモバイルゲーム事業展開の現状と将来像」について、株式会社セガゲームス セガネットワークス カンパニーCOOである、岩城農氏にインタビューを行った。
(インタビューアー:デロイトトーマツ 美田和成)
 
 

■想定より早い日本市場の寡占化 次のポテンシャルはアジア


――:よろしくお願い致します。まずは、御社のモバイルゲーム事業の基本方針について教えて頂けますでしょうか。
 
2013年頃までは日本市場において、開発費も安く、売上ランキング50位以内のタイトルが固定化されていなかったこともあり、開発のパイプラインを増やすことでビジネスを拡大できました。しかし2014年後半からそれが固定化される傾向にあり、新規の大ヒットタイトルがランキング上位を塗り替えていくケースは非常にめずらしくなりました。この早いタイミングでの寡占化は我々にとって誤算でした。ゲーム業界に携わる皆様にとってもそうであったかもしれません。

開発費も高騰している中、市場の寡占化を踏まえると、弊社としてはパイプラインを増やして事業を拡大する戦略から、より質に重きをおいた戦略に大きくシフトしました。また更なる成長のためには日本国内だけでは厳しいということが鮮明になり、海外展開の重要性を再認識しましたので、今後は海外展開の強化が、弊社の戦略において更に重要になると考えています。

 

――:海外展開の強化とは、具体的にどの様なことでしょうか。
 
近い時期に海外売上高を増加させ、海外売上高比率を半分以上にしたいと考えています。この業界はビジネスの変化が激しいため、将来の話をすることはむずかしいですが、最終的には、各エリアの市場規模に即した売上を生み出すことが理想だと思っています。

自国だから、現状の市場規模が大きいから、といった理由で、人口1.2億人の日本市場に固執する必要はなく、もっと積極的に外に目を向けなければならないと考えています。英語圏、中国語圏のマーケットにはそれぞれ10億人以上いるわけですから。

日本に留まり続けるのは最大のリスクですね。短期的な収益にこだわるのではなく、事業基盤を連続的に構築するために、また海外市場が日本市場の様に寡占化する前に、海外市場には積極的に進出していかなければならないと考えています。

 

――:海外展開を実施するにあたって、どこのエリアを優先的に攻めるとか、進出基準はありますでしょうか。
 
弊社の国際事業部内にて、市場規模、自社のコンテンツとの適合性などを中心に総合的に判断し、どこのエリアに進出するかを決定します。法規制や過去の経験値なども判断基準になります。市場規模の観点からは、中国、北米、欧州などが魅力的ですが、適合性の観点からは台湾・香港や東南アジアなどが魅力的です。市場規模が著しく大きなエリアであっても、適合性が低ければ進出に当たっての優先順位は低くなります。
 

――:なるほど、現時点での優先順位の高いエリアは、どこになりますでしょうか。
 
中国を除く東アジア(台湾・香港・マカオ)や、東南アジアになります。理由としては、次の10億台はアジアと言われているほど今後のポテンシャルが高いことです。さらに、地理的に近いこともあり、弊社のコンテンツ含め日本のコンテンツとの親和性が高いこと、日本の様に寡占市場になっておらず、趨勢が固まっていないため参入しやすいことが挙げられます。

グローバル展開の拠点については極端な話、欧米や中国ではなく、台湾・香港・マカオや、東南アジアでも良いと考えています。これらの市場を攻略した経験がその先を攻略する経験につながっていくと考えているからです。

 

――:中国や欧米等よりも、台湾・香港・マカオや東南アジアの優先度が高いのは驚きました。
 
中国は市場規模から非常に魅力的ですが、日本企業にとっては直接参入できないなど障壁が高く、事業確度から考えると、リソースが限られている中、優先順位は低くせざるをえません。北米・欧州はコンテンツ面での違いがさらに広がるため、むずかしい市場だと捉えています。繰り返しになりますが、今後の成長性や事業確度、コンテンツとの親和性などを考慮し、台湾・香港・マカオや東南アジアがよりビジネスポテンシャルが高い市場として、積極的に取り組んでいきます。
 
  
 

現地市場で完結させる経営を


――:ありがとうございます。海外展開に関して戦略的な側面からお話頂きましたが、組織・人事的な側面からもお話頂けますでしょうか。
 
まずは、国内の体制の話をさせて頂きます。弊社は60年間ゲームを作り続けている会社であり、弊社の価値の大きな源泉は開発者の質と量にあると考えています。従って、開発者の人数は原則として減らしてはならないと考えています。弊社においては、日本発のコンテンツの質を高め、それを国内外のお客様に広く展開していくことは至上命題であり、そのためには開発者の確保が絶対に必要です。その点を念頭におかずに短期的な勝ち負けに走るのは危険だと考えています。

また、弊社では、日本でのゲーム開発の段階においても海外への意識が高まっており、日本で展開しているタイトルの海外向けローカライズにおいても、ゲーム開発部門と国際事業部が密に連携しながら行っています。

 

――:海外拠点に関しても、お話頂けますでしょうか。
 
海外拠点に対して、国内からビジネスの観点、マーケティングの観点など、プロセスに口を出すことはありますが、現地に対してマイクロマネジメントをしていくということはありません。これは私だけでなく、弊社社長の里見(治紀)の考えでもあります。セガネットワークス設立前からの一貫した方針として「日本人の経営者を立てず、現地市場で完結させる経営」を目指しています。海外では文化が大きく違い、IPや知財、契約に関する考え方なども日本と異なっており、日本の考え方だけで動かすとミスコミュニケーションや判断ミスがあらゆるところで発生します。そのため、現地のネイティブの方に経営を任せています。
 

――:なるほど。現地で完結させるという方針になった背景を教えて頂けますでしょうか。
 
現地のトレンドを真に理解できるのは、現地で生まれ育ったネイティブだけであり、日本人では難しいと考えています。私自身、北米で幼少期から長期滞在していましたが、それでもアメリカ文化の微妙なニュアンスについての理解は十分ではなく、その点でアメリカで生まれ育った方々とは大きな差があると考えています。現地で何が流行っていて、それらが過去のトレンドとどの様な連続性があったかなど、重要となる現地トレンドを真に理解する組織を構築することは、現地の社長に任せます。コンテンツのことを申し上げているのではなく、組織やプロセスにおける日本のやり方を現地にそのまま輸出することは、それ自体はリスクを低減している様にも思えますが、実は低減した結果何も残らず、現地市場での成功には結びつきにくくなると考えています。
 

――:現地トレンドの理解以外に、海外拠点の経営者に求める資質はどの様なものがありますでしょうか。
 
事業責任者としてのビジョンと戦略がきちんと定まっていること、事業を成功するに当たっての展望を、説得力と情熱を持ってロジカルに語れることが重要です。また、日本本社の顔色を伺うのではなく、日本本社が策定したビジョンや戦略をベースに、自分のテリトリーを自発的に守り育てていくスタンスで事業を進めて欲しいと考えています。例えていうなら、スポーツチームの監督やGMのイメージです。ただ、その様な人材は非常に希少で、世界中で探していますが、なかなか獲得が難しいのが現状です。
 

――:海外拠点では、現地発のプロダクトを制作しているのでしょうか。
 
弊社はいくつか海外スタジオも保有しており、今後、海外で良いスタジオがあればパイプラインに加えていきたいと考えています。そこから現地発のプロダクトもリリースしたいと考えていますが、それを主流にするつもりはありませんし、現地発のプロダクトを手がけるのであれば日本では絶対に開発できないゲームでなければならないと考えています。ただ、グローバルでの成功を見据えた場合、何本かのタイトルは海外から仕込んでおかなければならないと考えています。
 

――:基本的には、日本発のプロダクトを現地でも展開して行きたいとお考えでしょうか。
 
はい、その通りです。パイプラインが一番多い日本から輸出しないのはナンセンスです。日本の強みはコンテンツにあると思っています。IPにしても世界観にしても、作りこみが丁寧であり、その深みはすごいものがあります。こんなに漫画やアニメ、同人誌マーケットまで展開している国はありません。物語やキャラクターを生み出す点はものすごい強みがあると考えています。

また、弊社に限った話ではありませんが、コンテンツをどれだけ広めていけるかは開発側ではなく、ビジネス側の責任だと考えています。コンテンツを制作するスキルはあるのだから、あとはマーケティングやビジネス部門が、コンテンツを広範かつ効果的に広めていく機能やスキルを備えることができれば、結果につながっていくと思っています。弊社としても、コンテンツを的確に顧客に届ける仕組みを早期に確立させ、海外にコンテンツをどんどん展開していきたいと考えています。

ただ、簡単な話ではないということは理解しています。開発者や事業担当者の一人ひとりが、国内だけでなく海外のお客様にもコンテンツを届けたいという強い気持ちを持ち、色々な挑戦をして、沢山の失敗をしなければならないと思います。

また、ビジネスサイドの話としては、海外展開にあたって「Noah Pass※1」「goPlay※2」の活用にも大きな期待を寄せています。マーケティング支援ツール「Noah Pass」は、「アドネットワーク」「コンテンツ分析」「ノウハウやユーザープールの蓄積」等の機能を盛り込んでおり、また最近発表したグローバルパブリッシング支援サービス「goPlay」は、日本の開発会社向けの海外パブリッシャーとしての機能も有しており、海外展開する上で大いに貢献できると考えています。

弊社は自分達さえ海外展開に成功すれば良いとは考えていません。むしろ自社の成功のためには、海外展開に対して高い志のある日本の他の企業との連携が必要不可欠であると考えています。そのためにも異業種やゲーム業界の競合他社も巻き込んで、Noah PassやgoPlayを通じてみんなで海外に進出し、日本発のコンテンツの存在感を示して行きたいと考えています。

 

※1 Noah Pass:セガネットワークスが展開するマーケティング支援ツール。ゲーム画面上にバナー広告を表示し合うことにより、ゲームアプリ間で相互に送客・集客することが主な機能。2015年10月末時点で113社が提供する554のゲームアプリが参加し、累計接触端末は約1億2,138万件。
※2 goPlay:セガネットワークスが子会社であるgoGame Pte.Lte.(シンガポール)を通じて提供を開始する、グローバル市場におけるスマートデバイス向けゲームの展開を目指す企業を支援するサービス。スピーディかつ簡便に海外展開に必要な機能を実装可能なSDK(ソフトウェア開発キット)や、「Noah Pass」の相互送集客機能、マーケティングやローカライズなどの各種ソリューションをワンストップで提供し、国外での事業展開コストの軽減を実現する。

 

――:ありがとうございました。

 
株式会社セガ
https://www.sega.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社セガ
設立
1960年6月
代表者
代表取締役会長CEO 里見 治紀/代表取締役社長COO 杉野 行雄/代表取締役副社長 内海 州史
決算期
3月
直近業績
売上高1916億7800万円、営業利益175億3900万円、経常利益171億9000万円、最終利益114億8800万円(2023年3月期)
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デロイト トーマツ

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