【セミナー】「ゲームを作ること」と「露出を増やすこと」を同時に考える…DeNA主催「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾」を取材


業界でも珍しいゲームプランナー向けの勉強会「座・芸夢」。第9回となる2月23日は、本勉強会の旗振り役でもあるディー・エヌ・エー<2432>(DeNA)の馬場保仁氏が登壇し、「ゲームプランナーに求められるプロデュース術」と題して講演した。

会場のDeNA本社セミナールームでは、いつものように学生と若手ゲームプランナーが詰めかけ、座学と演習で濃密な2時間を過ごした。

今や星の数ほどのタイトルが存在し、有名パブリッシャーの新作でもランキング下位に埋もれかねない昨今のゲームアプリ市場。そうした中ではゲームプランナーでも、企画段階から露出機会を増やす仕組みを考える必要があると馬場氏は主張する。おもしろいゲームを作ることが一番重要なのは変わらないが、それだけでは不十分だというのだ。

「おもしろいけれど売れないゲームはたくさんあります。出したタイミングが悪い、ターゲットが非常に少ないなど、さまざまな理由があるでしょう。しかし、ゲームが『認知されていない』ということも多々あります」(馬場氏)。

特にF2Pで収益を上げるためには、まずダウンロード数を稼ぐことが必用だ。そのためにはユーザーに認知してもらうことが、なによりも重要になる。
 

▲馬場保仁氏
 

 

■なぜプランナーにプロデュース視点が必要なのか


もっとも、一般的に売上に責任を持つのはプロデューサーの仕事だ。これに対してゲーム内容(=おもしろさ)に責任を持つのはディレクターで、ゲームプランナーはディレクターの指示でゲームを作っていく。しかもパブリッシャーには宣伝・広報を手がける部署もある。にもかかわらず、馬場氏は「現場のゲームプランナーであっても、プロデュース目線を持て」と力説する。

背景にあるのがF2Pにおける運用型ビジネスモデルだ。仮に他社ゲームとのコラボが実現して、新コスチュームが登場可能になったとする。しかしゲームのデータ構造が、そうしたアイディアを実現可能な形式(コスチュームだけが差し替えられるなど)になっていなければ、実現はおぼつかない。最悪の場合、タイミングを逃してしまって、コラボ企画自体が頓挫してしまうこともある。

だからこそ、企画段階からゲームプランナーが宣伝プロデュースの視点をもち、あらかじめ準備しておくことが必用というわけだ。具体的には次の4点が含まれる。
 

①プロモーション
お金を使って実施するもの(テレビCM、ウェブ広告など)
②タイアップ
企業と互いに持ち出しで実施するもの(他社製品やウェブサイト、メディアなどとのコラボなど)
③パブリシティ
基本的にお金を使わずに実施するもの(雑誌やウェブ記事に取り上げてもらう、SNS運用など)
④キャスティング
ゲーム内にユーザーへのフックを実装する(タレントや声優の出演、有名楽曲やデザインの導入)

 

■運用中のアプリにおける施策例


具体例として馬場氏は高校野球の監督となってチームを育成していくソーシャルゲーム『栄冠へのキセキ』(2014年リリース)の事例をあげた。プロデューサーとして本作の開発にかかわった馬場氏は、元ヤンキースの松井秀喜氏や、横浜DeNAベイスターズ監督だった中畑清氏らに、ゲーム内キャラクターとして出演交渉を実施。ベースボール・マガジン社の刊行物への出稿や、明治製菓「GOCHI」グミとのタイアップも実現した。



また、魔族の女子高生たちの先生になって指導・育成していくパズル育成RPG『JKヴァンパイア~運命のフェスタ~』の事例も紹介された。本作では企画中にゲーム内で「店舗」の登場が決まった時点で、リアル店舗とのタイアップが可能なデータ構造にしたという。キャラクターのコスチュームを差し替え可能にしたり、ゲーム中の店舗をリアル店舗に差し替えたりといった具合だ。
 


このほか、原始時代を開拓していく放置型シミュレーション『ガブ×2 アドベンチャー』でも、企画段階から媒体コラボを想定して、編集者がゲーム内キャラクターとして登場するイメージを持っていたという。
 

もっともソーシャルゲームでは、タイアップに特有のリスクが発生する。初回受注で一定の販売が見込めるパッケージゲームと異なり、ソーシャルゲームでは人気がなければ早期終了もあり得るからだ。そのためタイアップ先のみにリスクが発生する事態にもなりかねない。「あらかじめ企画だけしておき、ヒットしたら追加施策としてタイアップをかけていく方がいいでしょう」(馬場氏)

 

■好奇心を磨きアンテナを高くあげるための方法


では、こうしたプロデュース視点を磨くためには、どのような勉強をしたらいいだろうか。馬場氏はコンビニを巡回する・深夜番組をチェックする・アルバイト(できれば接客業務)をする、などのアドバイスを行った。ただし、いずれの場合も定点観測が重要で、日々の業務で観察される細かい変化を察知し、後から検証することが重要だという。これを繰り返すことでトレンドを予測できたり、お金の価値がわかるようになるというわけだ。
 

最後に馬場氏は家庭用とスマホアプリにおける、ターゲットユーザーの設定と訴求方法の違いについて補足した。売り切りモデルが中心の家庭用では、投資に対する回収手段が限定されているため(発売日直後の初動が命)、あまりにニッチすぎるターゲットではビジネスになりにくい。しかしスマホアプリをF2Pで運用する場合は、ニッチなテーマでも継続的な課金が見込めれば、ビジネスになる可能性がある。
 

もっとも、いずれの場合もしっかりとしたターゲットを設定し、そこに認知してもらうことが重要である点は、変わらない。そのため「プロデュースとは売ること、そのためにはターゲットにゲームを認知してもらうこと、そのためには作っている時から考えることが重要」だと繰り返した。

 

■就活に役立つアプリの企画と露出のアイディアとは?



後半の演習では、「ゲーム業界の就職活動に役立つゲーム」をテーマに、「ゲームの中身」と「露出方法」の両方について考えるワークショップが行われた。参加者はチームに分かれて「ゲームのコンセプト」と「露出方法(プロモーション・タイアップ・パブリシティ・キャスティング)」について、思い思いに考えたり、グループでディスカッションをしたりしながら、約30分間でワークシートに記入していった。

もっとも学生や若手中心の参加者にとって、今回の演習は比較的難度が高かったようだ。演習中はいつにも増して口数が少なく、ワークシートも空欄が目立った。その中でも最終発表では「面接に強くなるクイズアプリを作って、みのもんた氏をキャスティングしたい」「ゲーム開発の過程が学べるシミュレーションゲームで業界研究を深めてもらい、ランキング上位者とタイアップ企業とが直接つながる仕組みを作りたい」など、ユニークなアイディアが飛び出した。
 



これに対して馬場氏は「はじめに現状に対する課題を分析すると企画が立てやすい」と解説した。就職活動がテーマなら、そこで何が課題になっていて(企業と応募者のマッチングが難しいなど)、その解決のために何が必用か分析できれば、自然とゲームに落とし込めるし、露出方法も考えやすいというわけだ。

また、実際の露出試作を企画する上では、効果測定をセットで考える必要があるが、これが最も難しいとも補足。「自分たちで何かしら指標を決めて、それを越えたことを証明できなければ、継続的な施策ができません」(馬場氏)。そのためには露出機会を増やすだけでなく、ふり返りの指標を自分たちで設定することも、また必用だと語った。
 
 
(取材・文:小野憲史)
 

■第10回は3月24日(木)開催 エントリー受付中


次回(第10回)は第6回でも登壇した、スクウェア・エニックスの塩川洋介氏(代表作『MURDERED 魂の呼ぶ声』『いけにえと雪のセツナ』など)をむかえて、3月24日に実施される。内容は「ゲームプランナーとして“長く”活躍するために知っておくべき、アイデアの考え方」を予定しており、応募は公式サイトから可能だ。

◆参加資格: 
・ゲーム企画職(ディレクター、リードプランナー、プランナー)を目指す学生 ※学生は学年不問 
・若手のゲーム企画職の方 ※32歳以下

◆参加費:無料

◆参加エントリーはこちら 申込締切:3月15日 結果連絡:3月17日
・Peatixからのエントリーはこちら http://thegame10.peatix.com
・Wantedlyからのエントリーはこちら https://www.wantedly.com/projects/45117

※事前エントリー制ですので、必ずお申込みください。
※定員を超える応募があった場合は抽選となります。
※当日はメディア取材、写真撮影が入る場合がありますが、撮影について配慮させていただきます。

【ワークシート一覧】(一部抜粋)






 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1349億1400万円、営業利益42億0200万円、税引前利益135億9500万円、最終利益88億5700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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