【インタビュー】「かわいいを諦めない」をモットーに 個性が伝わるテキストなど細部にこだわったスクエニの新作『くまぱら』小嶋幸恵Pに聞く開発秘話


スクウェア・エニックスは5月17日に、新作スマートフォンアプリ『くまぱら』の配信を開始した。本作は、くまたちの願いを叶えて“くまぱら”を作ることが目的の“王道くまゲーム”だ。発表から配信までのスパンが非常に短く、その積極的な展開で注目を集めた。また、ファンタジー作品を得意とするスクウェア・エニックスとは一線を画したビジュアルも、大きな反響を呼んでいる。

本稿では、『くまぱら』のプロデューサーを務める小嶋幸恵氏へのインタビューをお届け。小嶋氏がこだわったというビジュアルやテキストへの想いや、同氏の個性が詰まったシステムの数々、また女性プロデューサーならではのゲームに対する向き合い方などを聞いてきた。そしてインタビューを経て、『くまぱら』の独自性も見えてきた、興味深い内容となった。

 

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■企画段階から女性プロデューサーとしての個性を発揮



株式会社スクウェア・エニックス
『くまぱら』プロデューサー
小嶋 幸恵


――:本日はよろしくお願いします。『くまぱら』についていろいろとお伺いしたいのですが、その前に小嶋さんのご経歴から教えてもらえますか。
 
以前はWeb系の会社に在籍していまして、キャラクター系のゲームを担当していました。スクエニに入社したときは『戦国IXA 千万の覇者』ロンチ直前のタイミングで、私も『戦国IXA 千万の覇者』のアシスタントプロデューサーという形で関わることになったのです。


――:『戦国IXA 千万の覇者』を経て、今回の『くまぱら』の企画を立ち上げることになったと。では、『くまぱら』の企画を立ち上げた経緯について教えてください。

まず、女性プロデューサーとしての目線から弊社としてはまったく新しい、メインターゲットを女性としたスマートフォンゲームを立ち上げようという思いがありました。また、市場を見てみると間口も広がっているので、あまりゲームをプレイしない方々もお手軽に遊んでいただけるようなゲームの開発を考えました。


――:やはり当初から、女性のユーザーを狙っていくことはコンセプトにあったのですね。

メインターゲットは女性ですが、男性でも気軽に楽しんでいただけるゲームになっています。また、作品を農園ゲームにすることもかなり早い段階から決まっていました。ただ、もともと私はプランナーではないので、最初は口を出すのも難しかったことも覚えています(笑)。なので、最初はどういう人にどんな遊びをしてほしいかを企画書に書いて、ディレクターを始めとしたスタッフと相談しながら作っていきました。


――:メインキャラクターに「くま」を据えたのも、小嶋さんの好みが反映されているのですか。

企画書に実写のくまの写真を載せて、「くまisかわいい」と書いて見せたくらい好きなんです(笑)。役員もさすがに最初は困惑していましたね。ですが、打ち合わせでも熱心に話を聞いてくれて、無事に企画が通ることになったのです。


――:そんな大胆な企画書は、確かにあまり聞きませんね(笑)。逆に打ち合わせの場で、役員の方から意見や要望は出なかったのですか。

「男性から嫌われないようにしてほしい」という要望は出ました。女性向けであることには変わりないのですが、男性も十分に楽しんでいただけるゲームとなっているため嫌悪感を抱かれないようにバランス感には気を配りました。キャラクターに関しては、「くま」以外にも猫や犬なども案として出していました。しかし、猫は他のゲームでも頻繁に使われている、犬は犬種ごとに好みが分かれる…という具合に絞られていきました。
 


――:ゲーム内容についてもお伺いしたいのですが、他の農園系ゲームと同じ感覚で楽しめるのでしょうか。それとも独自性が強いのですか。

大きな特徴として、畑がありません。通常の農園ゲームだと、畑で1個のアイテムを2個に増やしていくじゃないですか。本作では畑で増やすべきアイテムを、「くま」にいろいろな場所を探検して、拾ってきてもらうシステムになっています。そこが探検の要素となり、独自性を生み出しています。
 


――:なるほど。そして手に入れた素材をもとに、いろいろなものを生産していくと。そうなると、探検の部分がメインになってきそうですね。

そうなりますね。探検にも面白いシステムを導入していまして、「くま」が探検の様子を、レポートとして報告してくれるんです。例えば「小麦見つけたよ」といったものから、あばれ牛と遭遇したり、岩のような障害物に当たってしまうと「体力減っちゃった」とかもあります。探検中の様子がリアルタイムで分かるので、放置ゲームでありながら、見て楽しむことも可能です。
 



――:そのレポートは、さすがにプッシュ通知では送られてこないですよね。

基本的には送られてくるのではなく、自分の意志で見るかどうかを決められます。ですが、冒険の途中で体力が尽きたときだけは、プッシュ通知で教えてくれます。その場合は、コンティニューしていただくか、手に入れたアイテムを置いて帰らせるかの選択ができます。


――:プレイヤーのパートナーとなる「くま」にも多くの特徴がありそうですが、入手の手順はどうなるのでしょう。
 
まず、「くま」にはたくさんの種類がいて、そのほとんどがゲームを進めれば自然に手に入ります。本作は「くまのお願いを叶える」が大きな目標になっていて、お願いのリストをいつでも確認できます。そしてその中には「大切なお願い」もあり、これをクリアすれば新しい「くま」や家、新しいマップなどが登場するのです。ただし、「くま」はふくを着ていない素の状態だと弱いので、攻略のためには装備を充実させることも大切ですね。


――:装備品もあるんですね。

装備は基本的に洋服で、ガチャで手に入れてもらうことになります。また、課金の中には時短アイテムも用意しています。こちらは即時完了ではなく、探検時間を半分にするもの、探検の途中で取りたいアイテムが取れたら帰ってきてもらうものがあります。
 



――:すぐに帰ってこないようにしたのは、どういう狙いがあるのですか。

探検の即時完了はできた方がもちろん便利ですし、導入を検討していたこともありました。しかし最終的に、「“くまと一緒に”くまぱらを作る」というところに、思い通りにいかない部分を残したかったのと「くま」が探検で歩いている風景をリアルに感じていただきたかったので、時間が半分になるという仕様にしました。金シャケをあげると、よろこびのあまり早歩きになって、半分の時間でゴールできるんです。

「くま」との生活に関するリアリティの追及は、「ふく」の扱い方に関しても同じです。探検中のくまが装備しているものは、着せ替えたり、リメイク(強化合成)できません。「くま」が出かけており、村にいないためです。このように、とことん『くまぱら』の世界観に合わせてリアリティを追及しています。



――:世界観のお話も出ましたが、物語も気になるところです。

本格的な物語を用意しているわけではありませんが、ゲーム内の世界では昔、「くま」が平和に暮らしている幸せな国があったんです。しかし、それは昔の話であり、今は伝説の存在になっています。この伝説に憧れている「くま」が、たまたまプレイヤーと出会い、理想の国を…まず村から作るために、がんばっていくのです。


――:ゲームのシステムで気になるところといえば、ソーシャル性もあります。本作には他のプレイヤーとともに楽しむ要素はあるのですか。

意外に思われるかもしれませんが、実はこのゲーム、マルチプレイも搭載しているんです。マルチプレイでしか探検できないエリアがあって、1人1匹ずつ「くま」を持ち寄って、挑戦することになります。全員で同じ場所に行っているので、「くま」からのレポートも同じものが届きます。大体15分くらいで終わるように調整しているので、お昼ご飯を食べながら、話題の種にもなるかと期待しています。
 


 

■デザインやボイス、主題歌にも独自のこだわり


――:「くま」のデザインについては、小嶋さんならではのこだわりはありますか。

現在のデザインに落ち着くまではいろいろな案があって、紆余曲折でしたね。過去には四足歩行もさせたんですけど、さすがにシュールだったのでやめました(笑)。また、2Dか3Dにするかも悩んだところです。四足歩行のときは3Dのデザインも一度は作ったものの、スタッフから「人を襲ってそう」と言われてしまって(笑)。当初から目指していたファンシーなイメージとは違ったので、結局2Dで、二足歩行のデザインに落ち着きました。


――:そんなことがあったんですね(笑)。

そのときは爪まで描いていたので、その影響もあったのだと思います。また、シュールなかわいさを求めるために頭身も低くしましたし、企画が始まったときと比べると、かなりの変化がありますね。


――:その甲斐あって、女性に受けそうなデザインになっていると思います。

ここまで行き着くにはかなりの苦労がありましたね。頭身にしても、これ以上縮めると子供向けになってしまい、大人の女性が避ける可能性もあるのではと懸念していました。細かい調整の繰り返しでいたね。また、クマには名前も付いていて、そちらにも注目してほしいです。「シュナイダーⅢ世」とか「しゅうまい」とか、かなり個性的な名前なんです(笑)。名前はあくまでもデフォルトの状態で、自由に変更することも可能です。
 



――:「くま」はデザイン以外に違いはあるのですか。例えばステータスとか。

若干ありますね。例えば最初に仲間になるくまちーは、全体的に見るとステータスが低いんですけど、「運のよさ」だけは高く設定しています。探検に行くとレベルが上がり、ステータスも底上げされますが、やはり洋服などでの強化がメインになります。


――:洋服などの装備品には、どのくらいのバリエーションがあるのですか。

まず、原則的に「くま」は一着しか着ることができず、複数を組み合わせて着用することができません。加えて、「くま」は障害に遭遇しても本格的には戦わないので、武器も存在しないんです。服を着ると体力が上がるほか、力や賢さなどほかのステータスも上がります。ステージを進めていくと、特定のステータスが必要になるケースもあり、どんな服装で探検するかがポイントになるのです。


――:デザインにも力が入っていて、見ているだけでも楽しそうですね。

冒険に行っていない「くま」は村で遊んでいて、そこでのアクションにも注目してほしいです。たまに全力疾走したり、タップすると手を振ったりバク宙したりと、さまざまなアクションがあるんです。加えて、他のプレイヤーさんの「くま」が遊びにくることもあるので、見ていて飽きないと思います。
 


――:ボイスに声優の柿原徹也さんを起用しているのも驚きました。最初からボイスを導入することは考えていたのですか。

ボイスを付けたいとは思っていて、今の最先端を行く方である柿原さんにお願いすることにしました。ですが、ボイスの収録も少し特殊で、まったく関係ないなセリフを喋ってもらい、それを音響を担当しているノイジークロークさんに加工してもらうという手法で収録されています。「くま」でも人でもない、『くまぱら』ならではのボイスになっていますよ。


――:そして主題歌もあるということで、サウンド面への力の入れ具合も強いですね。

実は、私がノイジークロークの坂本さん(坂本英城氏)の大ファンで、プロジェクトが立ち上がった直後に、「主題歌を作ってほしい」と指名させていただきました(笑)。主題歌はオープニングで聞くことができますが、世界観にも合っているのでぜひ注目してもらいたいです。


 

■「かわいいを諦めない」をモットーに


――:これまでの開発を振り返って、特に苦労した点はありますか。

作り始めたときは、システムやビジュアルのかわいさはもちろん、動作を軽くすることにもこだわっていました。しかし、ゲームとしてできることが多くなった結果、やはり重くなってしまって……。この問題を解消するために、予定の3倍くらいの時間をかけて調整しましたね。


――:特にライトユーザー層にとっては、手軽さは絶対に必要ですからね。

そうなんです。また、遊びなれているゲームシステムではあるものの、まったく同じでもいけません。独自性を出すために、開発スタッフからの提案も積極的に受け入れていきました。そしていつしか、誰も見たことがないゲームを手探りで作っていく感覚になり、不安もありました。


――:では小嶋さんの、女性ならではのこだわりがあれば教えてください。

企画段階からデザインにこだわっていて、「かわいいを諦めない」をモットーに努めていました。チェックしたデザインの量は本当に膨大で、フォントひとつにもこだわりながら、細かく設定していきました。それもすべて、「どうしたら女性に受けるか」を追求したためです。絵本のようにしたいというコンセプトがあり、それに向かって一切手を抜かずに進めていきました。


――:そういったきめ細かなこだわりがあれば、ゲームをあまりやらない女性に対してもアプローチできるかと思います。

女性のユーザーさんはチュートリアルを飛ばすことも多いと思います。しかし、書いてあるお話を読むのは好きという人もまた多いです。本作ではテキストのひとつひとつにもこだわりを持っていて、アイテムのフレーバーテキストだけでも読み応えのある内容になっています。



――:そういえば、2016年5月26日(木)からはサンリオキャラクターズとのコラボレーションも始まりましたね。こちらはどういった内容になるのですか。 

サンリオキャラクターズとのコラボレーションでは、第一弾としてハローキティが村で雑貨屋さんをオープンするんです。雑貨屋さんでハローキティに素材を渡すと、特別なアイテムを作ってくれます。ハローキティ以外にも、「ポムポムプリン」や「けろけろけろっぴ」など、たくさんのサンリオキャラクターたちも登場するのでぜひ探してみてほしいです。サンリオキャラクターズとのコラボレーションイベントは第二弾も予定しておりますので、今後もぜひご注目ください。
 


――:たくさんのキャラクターが登場するとなると、開発側としても苦労する面があったのではないでしょうか。

本作では「くま」からたくさんのレポートが届くことを紹介しましたが、コラボレーションでも限定のレポートが多数届きます。レポートは「くま」の性格ごとに内容も書き分けているので、膨大な量になりましたね。探検中で出会うサンリオキャラクターとの掛け合いだけでも、すべてオリジナルのセリフを書き下ろしで制作しており、項目にすると1キャラクターあたり400以上になります。実際にプレイしてみても、同じテキストを見ることはあまりないのではないかと思います。


――しかし、それだけ作り込んでくれるとなると、コラボする側としても嬉しいことだと思います。今後もコラボは視野に入れているのですか。

はい。すでに別の会社にもお声がけをしている段階です。


――:分かりました。では最後に、コラボも含めて今後の展望があれば教えてください。

今後もコラボはしっかりやっていきたいと思います。私たちとしても、どうコラボすれば違和感なくキャラクターが映えるかを試行錯誤しながら取り組んでいます。コラボ先のキャラクターと本作、両方のファンに満足していただける施策を考えていきたいです。

あとは服のバリエーションも、絶対に手を抜かないよう頑張っていきたいです。開発チームも、ラフイラストが上がってくるたびに「かわいい!」と盛り上がるくらい、自信のある内容に仕上がっています。リリース時点では100種類近くが用意されていますが、これからも順次増やしていきます。また、着せ替えを楽しんでほしいので、入手手段も豊富に用意するつもりですので、ぜひ楽しんでください。



――:ありがとうございました。
 
(取材・構成:編集部  原孝則)
(文:ライター  ユマ)
(撮影:編集部  和田和也)


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設立
2008年10月
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代表取締役社長 桐生 隆司
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3月
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売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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