【上期総括】ネクソン社長インタビュー「世界のゲーム市場は危機的状況」「必要なのはコモディティ化したゲームではなく、独創的で面白いゲーム」



スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2016年上期の市場動向と下期のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2016年上期振り返り」。今回はネクソン<3659>のオーウェン・マホニー社長にインタビューを行い、世界のゲーム市場と同社の取り組みを振り返ってもらいつつ、下半期の展望について語ってもらった。



――:上半期の世界のスマートフォンゲーム市場についてどうご覧になっていますか?

一言でいいますと、世界のゲーム市場は危機的な状態にあると思っています。各国のゲーム業界の関係者と話をしていると、競争環境が厳しく、マーケティングコストがとんでもなく高騰しているのが今の状況です。そのため、世界中のパブリッシャーや開発会社はこの問題になんとか対処しようと努力しています。これは日本に限らず、中国やアメリカなどでもいえることです。国ごとに多少異なる点はありますが、市場のファンダメンタルな問題は一緒であるとみています。


――:ネクソンさんも様々な市場で事業に取り組んでいる中で、この問題は実感しておられるのでしょうか。

世界中のほとんどの開発会社は、ゲーム業界における永遠の真理とも言える考え方を忘れていてしまっていることが多いです。ゲームは「アート(芸術作品)」です。そのため、アートビジネスで成功することは、ゲームビジネスで成功することと同じです。そのためには素晴らしい「アート=ゲーム」を創り上げていかなくてはなりません。そういう考え方がなくなってしまうと、おのずと成功から遠ざかっていくことになるのです。

E3のために先日アメリカに行ったのですが、そこで各国のゲーム開発会社の方々とお話をする機会がありました。どんなゲームを作っているのかと聞いてみると、「『クラッシュ・オブ・クラン』に似ているが、ちょっとした違いがあって・・・」や、「こういうIPを使う予定で・・・」といった話ばかりです。こうした話は、E3に限ったことではなく、あらゆる機会で耳にします。

直近の流れをみていると、可能な限り早くヒット作品に追従していく「Fast Follower戦略」こそが、ゲーム業界で成功するための戦略であると結論づける会社が多い印象があります。その結果として、出てくるのがコピーキャット、つまり、品質の低い類似品です。それは、いわゆるコモディティ化されたゲームとも言えます。コモディティ化されたゲームは、ゲームそのものの差別化が難しいため、マーケティングコストの高騰につながるのです。

なぜこのような現象が起きているのかというと、一昔前までは、ゲームを作る人が会社の意思決定の中枢にいましたが、いまはビジネス側に立つ人が権限を握り「ゲームビジネスの成功の鍵はコピーキャットを作ることだ」と発言権を持つようになってきており、そうした戦略をとる会社が増えていることが、この問題の要因の一つであるように感じています。

 


私は、「もっと独創的で、差別化されたゲームを創り上げる方が良い」とよく色々な人に話をしていますが、相手からは、「独創的で差別化されたゲームを創るのは、リスクが高い」と言われます。私としては、「それは違いますよ。コピーキャットのようなコモディティ化されたゲームのほうが、利益を上げることができないのではないですか」と言いたいです。つまり、コモディティ化されたゲームの方が、上手くいかない可能性が高いように見えます。コモディティ化されたゲームは、一定の売上は出るかもしれませんが、広告宣伝費が非常にかかるので、結果として利益がほとんど残らない可能性があります。

ゲームビジネスは、本質的にはアートビジネスであると考えられるため、素晴らしいアート、すなわち、面白くて差別化された、ユニークなゲームを提供していくことが大切です。この考え方はまさに、ネクソンの戦略の中心にあると言えます。

ネクソンにおける「アーティスト」とは、ゲームを開発する人たちや、ゲームを運用する人たちです。当社では、そういった人たちを会社の中心に据えて事業に取り組むことが大事だと考えています。この考え方は、ネクソンと協業するパートナー企業に対してや、採用についても同じことが言えます。

今お話したような状況は、中国や韓国、アメリカだけでなく、日本にも当てはまっています。優れた開発会社の多くは、より優れた、素晴らしいゲームを作りたいと思っているでしょう。そして、日本の優れたゲーム開発会社の多くは、日本のゲーム市場の現状を残念に思っているのではないでしょうか。

独創的なゲームを提供したいと思っている日本のパブリッシャーは少ないと思います。むしろ、どうしたら成功するかという計算ばかりに力を入れてしまい、攻めることをしていないような印象があります。結果として、差別化されたチャレンジングなタイトルは出ていない現状となっているのです。日本の開発会社の多くは、チャレンジすることが良く思われない日本のゲーム業界の現状にフラストレーションを感じています。ネクソンは、得意な分野や強みを活かして、面白くて差別化されたゲームを本気で作りたい、と思っている開発者にとってのホームになりたいと思っています。



――:世界のゲーム会社もビジネスサイドの方が意思決定権を持っているのですか。

はい。私はかつてEAに9年間在籍して、経営企画に携わっていました。当時やっていた仕事は、経営陣に雄弁にプレゼンを行い、なぜそのゲームに投資をすべきかを説得することでした。一般に、ゲーム開発者は、プレゼンが上手で雄弁に説得できる人があまりいません。ゲーム開発に忙しすぎて、プレゼン手法を学ぶ時間がないからです。したがって、ゲーム開発者よりもビジネス側のほうが往々にしてプレゼンが上手です。ビジネス側の提案が通りがち、という現象は世界的に起きています。

ネクソンは、ゲーム開発者やゲームの運用を行う人たちが、会社の意思決定に関与できるようにしています。その結果、ゲームが長期間にわたって愛されることで収益が安定し、ビジネス的にも成功するという状況を生み出しています。

 


――:市場での競争環境が厳しくなる中で、ゲーム開発会社が取り組むべき課題は、差別化された、面白いゲームを作ることとお考えになっているわけですね。

ネクソンは、もともとPCオンラインゲームの分野から事業を始めました。PCやコンソールゲームは、広い意味で「ハイスペックなゲームがプレイ可能」という点で類似しているのに対し、モバイルゲームはスペックにおいて明らかな差がありました。例えば、5年前のモバイルは、端末のスペックはもちろん、通信環境なども全く違っていましたが、最近は徐々にPCへと近づいてきています。5年後はよりスペックが高まって、さらに両デバイス間の距離は近づいていくのではないかと思います。モバイルでも、ゲーム性が深く、何千人、何万人が同時に接続できるようなオンラインゲームがプレイできる時代が来ています。つまり、ハードウェアの進化に伴い、PCでしか体験できなかった面白くて差別化された体験が、モバイルでもできるようになりつつあります。

そうしたなかで、ネクソンの日本事業に関してお話ししますと、日本で10年以上サービスをしているゲームが複数あります。そういうゲームは、アップデートによる要素の追加や、コミュニティの形成などにより長期間運用されて、どんどん面白くなっていくものです。つまり、10年以上ロングランしているPCオンラインゲーム事業で培った経験を、日本においても、より一層活かしていきたいと考えています。

市場統計を見ると、日本のPCオンラインゲーム市場は、モバイルやコンソールに比べて規模が小さく、マイナス成長していますが、モバイルとPCのデバイス間の差がほとんどなくなっている現状を考えると、PCオンラインゲーム事業で培った長期間にわたってゲームを運用する経験は、モバイルにも活かせるようになってきたと捉えています。この強みを活かして、今後日本の事業を成長させていきたいと考えています。

ネクソンは多くの強みを持っていますが、サービス中のゲームを長期間にわたって運用し、ゲームを継続的に成長させることを、得意中の得意としています。長期間にわたってゲームを運用できるスキルは、世界中のゲーム会社と比較しても非常に稀だと思います。なぜ稀かというと、このスキルを身に付けるのは、そう簡単ではないからです。PCオンラインゲームで経験してきたような、10年以上の長期サービスの実現や、ゲームを主軸に置いてビジネスを成功させてきた実績を、モバイルゲーム事業においても活用していきたいと考えています。



――:質問が変わりますが、マホニー社長から見て、ネクソン以外のアプリで、気になったタイトルや会社はありますか?

モバイルだとほとんどありません。個別のタイトルを挙げるのは難しいですが、どういうゲームが好きかというと、「Easy to Learn, Hard to Master」ですね、気軽にプレイできるけど、習熟するのが難しいというゲームが好きです。気がついたら何度も遊んでしまうようなゲームですね。頭を使うゲームや、チャレンジを求められるゲーム、簡単にはクリアできないゲームが好きです。

多くのモバイルゲームは、課金の導線を考えすぎていて、あまりに効率的に早く課金に持って行こうとする傾向があります。効率的で洗練されすぎているがゆえに、長くプレイしたいと思わないゲームが多いです。逆に、そういうところが、ネクソンにとっての大きな事業機会だと思っています。

また、アーティストの名前になってしまいますが、任天堂の宮本茂さんは世界のゲーム業界において数少ない本物のアーティストといえる方だと思います。国籍や文化に関わらず通用するゲームを作ることのできる、優れた開発者です。PCオンラインゲームでは、『シヴィライゼーション』や、『マインクラフト』、『EVEオンライン』といったタイトルが好きですね。



――:御社としての2016年上期の取り組みを教えて下さい。第1四半期は非常に良い決算だったとのことでした。他方、大きな新作タイトルが少なかったですが、下期に向けた仕込みの時期と見て良いのでしょうか。

ネクソングループ全体では、現在モバイルゲームは25本、PCゲームでは5本開発を進めています。上期はそんなにたくさんのゲームの配信を開始したわけではありませんが、下期は、海外で期待作の配信が控えております。例えば、先日発表しました『アラド戦記』のモバイル版(3D)が韓国で出ますし、PCオンラインゲーム『LawBreakers』も欧米でリリースされます。また、日本市場に限って言うと、下期はリリースラッシュになる見通しです。最低月1本のペースでモバイルゲームを出していく予定で、新作ゲームの配信開始に向け、現在頑張って準備を進めている段階です。


――:日本企業はアジア市場に注力する事例が非常に増えています。こうしたなか、御社は中国や韓国で成功していますが、その理由はなぜだとお考えですか?

日本の会社に限らず、欧米のゲーム会社も中国をはじめとするアジアに進出していく、という話をよく聞きますが、私から一つ言えるのは、成功する前からあまり強気なことは言わないほうが良いかもしれない、ということです。特に中国市場に関しては、それくらい難しい市場なんです。

それでは、中国市場でどうしたら成功できるかというと、それも説明が難しく、逆にどうしたら成功しないかを説明する方が簡単です。多くのゲーム開発会社が、「中国で展開されているゲームは、グラフィックのレベルが低いので、ハイクオリティなグラフィックのゲームを中国に持っていたら、きっとユーザーはグラフィックの美しさに感激して遊んでくれるのではないか」という話を10年以上前からしていますが、この戦略で成功した事例を、私は今まで見たことがありません。

冒頭で紹介した、ゲーム業界の永遠の真理と重なる部分がありますが、『アラド戦記』を中国でリリースした当時は、中国のPCオンラインゲーム市場には、『アラド戦記』のような「差別化された面白いゲーム」はありませんでした。中国は、ネクソンにとって非常に重要な市場ですが、『アラド戦記』のようなユニークで面白いゲームが、市場拡大のきっかけのひとつとなったのであれば嬉しいです。

 
▲中国版『アラド戦記』のゲーム画面。


ネクソンでは、『アラド戦記』のような配信中のゲームについて、アップデートコンテンツの開発のことを「配信中ゲームの開発」と呼んでおり、配信ゲーム運用と配信ゲーム開発の両方の専門性が必要とされます。『アラド戦記』は、Neopleという子会社が開発を担当していますが、長期にわたりユーザーの皆さんにお楽しみいただけるようなゲームの開発を得意としています。例えば、向こう1年以上、継続的に遊んでくれるだろうか、としっかり計画して、アップデートコンテンツの追加やゲーム運用を行うことのできる会社です。目先の課金プッシュではなく、いかに長期間にわたってユーザーを楽しませるかを考えています。また、現地のパートナー会社とも密に連携をとり、短期的な課金プッシュではなく、いかに長期的に楽しんでもらえるゲームにするか、という点でのお互いの意識共有を徹底しています。こういった点こそが、中国市場で成功している要因ではないかと感じています。



――:これまでの決算説明会でも「ユーザーにお金を使わせることよりも、しっかりと遊んでもらえるようにした」、という話をよくされていますよね。

『アラド戦記』のようなゲーム運用の方法は、本当にゲームそのものを気にかけていれば、当たり前かつ自明なことといえます。ゲーム業界の多くの人は、そういう考え方をせずにゲーム運用を行っている傾向があります。つまり、財務的な成功を再優先に考えて、ゲームを運用しているように見えます。皮肉のように聞こえるかもしれませんが、財務的に成功するためには、目先の利益を一旦忘れることが重要だと考えています。
 


ゲームではないですが、ビートルズを成功例として挙げると、もし彼らがお金を儲けることだけを考えていたら、絶対に成功しなかったでしょう。逆に、どれだけ良い音楽を作るかにフォーカスしたからこそ、いまのような地位が築けていると考えています。これはゲーム業界にも通じるものがあります。目先の財務的な成功ではなく、どうしたら優れたゲームの開発及び運用ができるかという点にフォーカスすることは、成功を100%保証するものではないですが、成功する確率を上げることにつながると思います。

ゲーム開発者が、優れたゲームサービスの開始点を作るものだとすると、ゲームの運用担当者は、ゲームをより優れたゲームへと大きく成長させる役割を担う人たちです。開発者も運用者も共通して考えるべきことは、「どうしたらこのゲームが、ユーザーにとって優れたサービスとなるか」、ということです。ゲームが財務的に成功を収めることができるのは、その次のステップであると考えています。

 


――:これまでゲーム開発会社とのアライアンスを進め、昨年から一定の成果が出てきたといえるかと思います。引き続き進める考えでしょうか。またアライアンスを組むとしたらどういったゲームを開発する会社がいいと考えていますか?

最初のご質問への答えは、YESです。提携は今後も進めていきたいと考えています。後半のご質問ですが、ネクソンと同じような考えを持っている会社、さらには考えに共感してくれる会社とアライアンスを組みたいと考えています。優れたゲームを世の中に提供し、長期にわたってサービスを提供し、成長していきたいという想いを持った会社です。その次のステップとしては、その考えを持っているだけではなく、実際に実現できる力を持っている会社と組みたいです。

ネクソン側としても、何かの形でサポートや付加価値を相手に提供していきたいと考えております。あらゆる点において、完璧な開発会社はめったにいません。ネクソンとしては、パートナー企業の力になりたいと思っています。シナジー効果を生み出せるパートナーがいたら一緒に協力し、長期間にわたって繁栄するビジネスを作りあげていきたいです。当社は『アラド戦記』や『メイプルストーリー』をはじめとする主力ゲームを10年以上育て上げていますので、自社のゲームをそういうふうに育てていきたいという想いを持っている会社と、協業していきたいです。

例えば、パートナーを組んでいる外部の開発会社ですが、オンラインゲームでの開発経験が少ない会社ですと、ネクソンの配信中のゲーム運用のプロ達と一緒に働いてもらうこともあります。この目的は、オンラインゲームの開発経験が少ない会社に、どうやったら長期間にわたってユーザーを魅了し続けられるゲームを作るのかを、学んでもらうためです。

配信中ゲームの運用者からのアドバイスがあれば、長く遊べる仕組みを予めゲーム内に組み込むことができるはずです。これによって、オンラインゲームの経験が浅く、「1、2年もてば良いゲームだ」という考えを持っていた会社も、「こういう仕組みがあると5年、10年続くゲームが作れるのか」と新たな引き出しが出てくるようになります。これは、開発会社にとっては非常にいい話ですし、実際に運用しているチームにとっても、自分たちの運用スタイルを踏まえてゲームを開発してくれるということは、自分たちの経験やノウハウが役立つということにつながり、非常に嬉しいものです。



――:下期以降に出すゲームで注目して欲しいというものはありますか

日本に関しては、2016年下期に、月1本以上のペースで新作モバイルゲームのローンチを予定していますが、まだほとんど詳細を発表していないため、今後の発表を期待していただければと思います。その他で言うと、韓国でローンチする予定の『3Dアラド戦記』(モバイル)、欧米でリリースする予定の『LawBreakers』(PC)、グローバル展開を予定している『野生の地:Durango』(モバイル)に注目していただきたいです。
 
 
(編集部 木村英彦)

 
株式会社ネクソン
http://www.nexon.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ネクソン
設立
2002年12月
代表者
代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
決算期
12月
直近業績
売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3659
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