【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」


 
ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、DeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。


 

■第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」



最近、学生さんにどうあるべきか? みたいな話を多く書いてきたので、今回は企業の採用について思うところを書きたいと思います。
 
まず最初に、新卒採用を担当されている皆さん、本当に大変だと思います。

これは、ゲーム業界であろうがなかろうがだと思います。いまどき座って待っているだけで、学生さんがわんさか押し寄せて受けてきてくれるほど、甘い時代でもないですし、そもそも、少子化は始まっており、更に何年後かには、大きく就職活動年の学生さんの数が減るときがきます。

夏期や冬期に、短期のインターンを開催して、業界の仕事はどんなものか? を経験してもらい、選択肢の1つくらいにしかイメージしてくれていない学生さんにこの業界をしっかりと印象付けようとの啓蒙活動、おつかれさまです、としかいいようがありません。裏を返せばいまの学生さんたちは、
 
とてつもなく、恵まれている
 
わけです。特にゲーム業界においては、我々が就職活動をしていた頃なんぞは、インターネットは開通していれども、まだまだ情報は少なく、且つ普及しているとまではいいがたいところがありました。ですので、情報を仕入れるのも、就職雑誌や、OB訪問、書類をいきなりエントリーとして出す、こと以外方法がありませんでした。

わたしなぞは、学部の一期生であったために、OBがそもそもおらず、且つ、浪人して、留年して、大学院まで行っていましたので、27歳! という年齢で就職活動をせねばならず、まあ、そもそも受けさせていただけない企業さんがほとんどでした。

また、SNSなどもないので、大人と交わっての情報交換や、事前に業界がどんなものであるのか? を知る方法は、ほぼほぼ、ありませんでした。

おもいきって、エントリーするしかない! そういった厳しい状態でした。と、いってもそれが当時は普通でしたので、なんら疑問ももっていなかったのですが……(笑)。おまけに年を取っていたのも自業自得ですので、何らそこを悲しんだり、卑下していたわけではありません。ありがたいことに、運よくセガさんに拾っていただけたので、今があるわけです。当時のわたしを採用してくださった方は、27歳のわたしになにを感じてくださったのでしょう???
 
年齢を重ねていることは、良いことも、やや懸念されることも、両方あります。

まず、良いのは、
 
・社会性が高い、大人である(わたしが、そうであったかは、甚だ怪しいですが)
・新人といっても、これまでやってきたことから、信念や自信をある程度もっている
・経験を経てきているので、思考の幅が広い可能性が高い


などが、あげられます。ただ、これらの良いところは、裏返せばすべてが懸念されることでもあるのです。

・変にすれている
・根拠のない自信が過信につながっている
・学校で得た経験の延長しかやりたくないと言う →思考が硬直化しているところがある


などです。ちなみに、博士課程にまですすんだ人であれば、自身の研究で得た知見が自身と信念につながっているのは、当然だと思います。学位を取得している人ならば、なおさらです。なんせ、そこまで必死に研究をしてきたわけですから。

ただ、もしゲーム業界への就職を考えるならば、まずは、冷静にあたりをみわたしてみましょう。敵を知り、己を知れば、百戦危うからずと、孫子も言っているように、もし業界を志すならば、その業界のことを研究する、自身の「できること」ではなく「やりたいこと、やれそうなこと」つまりは、可能性=ポシビリティをじっくり考えましょう。

あとは、仕事と自身のスタンスをどうすりあわせていくか? だと思います。
 
ゲームというものは、多様な価値から成り立っていますし、正解も1つではありません。

面白さも構造化すれば、さまざまな図式が成り立つことでしょう。ただ、骨子となる必須要素はかわらないと思いますが……。なので、この骨子となる構造のうえに肉付けしていくための、さまざまなアプローチや価値を、まずは、
 
多様な価値、相手の意見をいったん受け止める
 
ことが大事になってきます。そのためには、謙虚でなくてはいけませんし、思考の幅が必要となります。なので、あるべき、ではなく、それもあるな、そのうえでどう考えようか? ができる人材になってほしいですし、めぐりあいたいと思っています。
 
年齢が若い人が有利で、年齢がいっている人が不利ということでは決してありません。

ただ、おのおの、相手の立場になって、つまりは、採用する側の立場にたって考えていただきたいのです。若い人には、経験の不足が懸念され、且つ、即戦力度合いもあまり高くないかもしれません。

また、社会性や一般常識といったものも、育成しなくてはいけないかもしれません。ただ、逆に「教える」ことさえすればいいんです。なぜなら、若いので、時間があるからです。

26,7歳で一人前になって会社の中核をささえてほしい! という会社があったとします。通常の大卒ではいれば、4,5年、専門学校から入れば、6,7年、あるわけですね。わたしなんかは、もうまったなし! の状態であったわけです(あくまでもこの例の場合。すべてにこれがあてはまるわけではありません)入ったその年に、かなりのことをマスターしてもらって、2年目からはもうバリバリ中核を担わないといけないのは、かなりの覚悟と努力が必要です。

4、5年あれば、かなりのことを学ぶことができるはずですし、自分の責任でフィードバックを得られるくらいの業務を任されるようにもなっている可能性があります。もちろん、運もあるので全員がなれるわけではないですが……。

そう考えると一人前になるまでに、時間的余裕があると、育成もできますので、現在能力だけで無理に採用の合否を決める必要がなくなります。つまり、
 
ポテンシャルを見ての採用
 
が可能になるわけです。もちろん、大学院に進学されているような方々でも、未来にむけてのポテンシャルは間違いなくあります。ただ、それを発揮する前に待ってもらえる時間が比較的少ないということですね。

なので、覚悟をもってがんばらないといけないということです。まあ、このわたしが、なんとかまだこの業界で食べていけているので、必死にやれば、なんとかなるものです!! 勇気付けることができていないかもしれませんが、あきらめずに業界を目指してください!
 
さて、ここまでは「いまの学生さんは情報と機会に恵まれている」話でした。
 
 
では、採用する側はどうでしょう?

それこそ、インターンや合同説明会など、いろいろな接触機会を模索して、全国を飛び回っておられるように見受けられます。多くの学生さんに接触しやすくなったことは間違いなくいいことです。今回お話したいのは接触後、どこをみて、採用をしているか? ということです。実は、学生さんによくきかれることがあります。
 
・ゲームをつくったことないとダメですか?
・絵もプログラムもかけないんですけど、就職できますか?
・最近あまりゲームやってませんけど、ゲームって楽しそうですけど…

などなど
 
最初の質問、よくきかれますが、これはほぼ大学生からの質問です(専門学校は、つくっていないわけがないので)答えから言うと、「ゲーム開発経験はあるにこしたことないが、なくてもかまわない」です。

ただし、工学系の学生さんには、「ゲーム開発経験はなくてもいいけど、自分で仮説をたて、研究し、必死に結論を導き出した経験があれば、それは、ゲームをつくるのに非常に近しい経験だから、あとはゲームが好きであれば、方法論としてはもう体験できているから、あとは時間が解決してくれるはずだよ」と応えています。
 
2つめの質問は、ちょっと難しいのですが、昔はこれで、「だから、自分は企画でうけたいです」といわれることがよくあったんです。おいおい、企画の仕事を馬鹿にしてる? なにもできないから、企画ならできそう、と思ってたりするんじゃないの? と思ってしまうことです。なので、これNGワードなので学生さん気をつけましょうね(笑)。

でも、絵もプログラムもかけなくても、実際に就職した人はいます。熱意です。ゲームがとことん好き! 自分がつくったもので他人を喜ばせたい! とか心から思っている人ならば、入社してから、もしくは内定でてから、残り時間で勉強してある程度やれるようになるでしょう!
 
3つめの質問は、10歳くらいでゲーム経験がとまっていると、やや厳しいかもしれません。トレンドを追う気のない人はやや、この業界不向きだからです。ゲームはデバイスに対応してどんどんと進歩していきます。やはり、フロンティアをある程度は、ウオッチしてないといけません。ただ逆にまったくの業界素人であったからこそ、金字塔として燦然と輝くタイトルを生み出せることもあるのです。ただし、その場合は、おうおうにして、異業種のプロフェッショナルの人物が手がけた、とかが多いんですけどね。
 
いずれにせよ、学生時代にゲームをつくっていたとしても、その実力ですぐにプロの世界で通じる人は、そんなに多くありません。だとすると、どんな学生さんでも、やはり、
 
ポテンシャル
 
をはかって、企業は採用をしているわけです。また、わたしは、学生さんに、
 
「企業は、落とすための選考、きみたちの悪いところを探して、落とすためにやっているわけじゃない。採用はコストがかかるし、軍でいえば兵站にあたるところで、もっとも大事なところだからです。なので、基本、よいところを探して、選考をしてくれています。あとは、仲間たりえる人物像かどうか?の確認はされていると思いますけどね」
 
と話しています。企業の採用担当の方や、面接に出てこられる方は、基本的にこれに近いマインドで臨んでおられると思います。誰もいじめてやろうとか、まさかこのご時勢に圧迫面接をする人もいないことでしょう!(わたしみたいな、なりをしていると、ひるむ人もいるかもしれませんが……)
 
また、選考方法も、書類を提出して、面接を何回かだけ、という企業さんも減ってきました。まさに、学生さんのポテンシャルをいろいろな角度から見極めようと、グループディスカッションや、チーム制作、演習形式などなど、いろいろな手法で見極めようとされていますし、工数もかけてきていらっしゃいます。なので、学生の皆さんは、自身の可能性を企業の皆さんにこれでもか! と見せに行ってほしいですし、回数をこなすことで、自身の中で整理されてくるものもあることでしょう。
 
企業さんも毎年あらたなチャレンジをされてきているわけですから、学生さんもそれの負けじとチャレンジしたほうがいいですし、一度や二度の敗退でめげずに、夢をかなえるために全力でがんばってください!

今回は以上!
 


■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
 
 



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」