【連載】岩野Pの「なれる!プロデューサー」 - 第3回「ゲーム開発、内製と外注どっちがいいの?」


『乖離性ミリオンアーサー』や『アリスオーダー』など、数々のスマホゲームを手掛けてきた、スクウェア・エニックスのプロデューサー・岩野弘明氏。同社に勤務してから10年以上もの歳月が経っているが、そんな彼にも新人時代があった。上司や先輩に教わったこと、成功や失敗から得たこと、様々な経験を経て今がある。この連載は、岩野氏がプロデューサーになるまでの道のり、その後に直面する幾多もの気付きを形にしてくれた、自叙伝。

 


 

■第3回「ゲーム開発、内製と外注どっちがいいの?」


皆さんこんにちは! ついに日本でも『ポケモンGO』が配信されましたね! 僕も早速遊んでいますが、のめりこみすぎて歩きスマホしないように気を付けたいと思います。

さて、第三回は2008年にさかのぼります。その時私はこんな感じでした。

<2008年>
引き続き柴プロデューサーのアシスタントをしつつ、プロデューサーとして初のタイトル『ファイナルファンタジークリスタルクロニクル 光と闇の姫君と世界征服の塔』(以下、FFCC姫塔)を担当。また、それを機にプロデューサーとしての独り立ちを意識し始める。企画を考えるもなかなか形にならない日々を送る。


 

■内製と外部発注の違い



エニックスでは外部発注(以下、外注)でゲームを作っていた流れもあり、エニックスの流れを汲む部署であったプロデューサー統括部では基本的に外注がメインであり、それまで僕が担当していたプロジェクトも外注ばかりでした。そんな中、『FFCC姫塔』というWiiwareのDL専用タイトルで初めて内製のプロジェクトを担当することになりました。

スクウェアの流れを汲むIPである『ファイナルファンタジークリスタルクロニクル』シリーズは基本的に内製チームで作っていたのですが、プリプロダクション期間(テスト版作成期間)が終わり本プロダクション期間に移行するタイミングで正式にプロデューサーが必要という事で僕が担当することになりました(※)。

(※)基本的に企画の立ち上げからプロデューサーはいるべきですが、当時社内の内製チームで意欲的な企画のプリプロを積極的に行う流れがあり、その立ち上げはディレクター中心に行っていたため、後からプロデューサーがつくというケースがありました。

ここで、内製と外注どちらの開発も経験してみての、プロデューサー視点でのそれぞれのメリット・デメリットをあげてみます。

<内製>
○メリット
・プロデューサーと開発スタッフの距離が物理的に近いのでコミュニケーションをとりやすい
・結果、成果物のリテイク数やリテイクにかかる時間を減らせる
・チームにノウハウが蓄積し、次のプロジェクトの精度が高まる

×デメリット
・開発スタッフを抱えることは人件費の増加につながりランニングコストが高まる
(規模が大きいほどリスクが高い)
・そのスタッフのスキルに依存したゲームが多くなる


<外注>
○メリット
・外注の開発スタッフとは契約関係になるので、契約関係故の進めやすさがある
・プロジェクトに応じて適したスキルを持つスタッフを集めることができる

×デメリット
・プロデューサーと開発スタッフの距離が物理的に遠いのでコミュニケーションをとりづらい
・プロジェクト毎に開発会社が異なる場合が多く、ノウハウを浸透させづらい

ざっとあげるとこんな感じなのですが、それまで外注ばかりだった僕にしてみたら内製のコミュニケーションのとりやすさは驚くべきものでした。

もちろん、開発スタッフとは契約に縛られた関係ではなく同じ社内の人間なので、接し方には気をつけなくてはならないのですが。(外注スタッフとの人間関係はおろそかにしていいという意味ではなく、外注の場合もしもめたとしても契約に準拠していただく必要があるのに対して、内製の場合はスタッフ間に契約関係はないので人間関係の悪化が開発の進行に悪影響を及ぼすということが起こりうる)

なので、ゲーム開発のスケジュールは大体遅れるものですが、「FFCC姫塔」はほぼスケジュール通りに進みリリースできました。スケジュール通り進む=売れる、ということではないものの、スケジュール通り進むにこしたことはありません。プロジェクトの難易度にもよるものの、後にも先にも僕が担当するプロジェクトでスケジュール通り進んだのはこれだけです(苦笑)

 

■開発スタッフが代わった際の落とし穴


また、もう一つ内製のメリットとして大きいのがノウハウを蓄積できる点です。特にここ最近は運営ありきのゲームが基本ですから、開発が終わり運営に入ったとしてもしばらくコアスタッフが抜けることはなく、よって別プロジェクトを立ち上げる際外注の場合別の会社と組むことが多いです。

そのため、企画の発起人たるプロデューサーには以前のプロジェクトで得たノウハウがたまった状態ですが、そのノウハウを新たに組むことになったスタッフに浸透させるために一から説明しなくてはならず、それが結構大変。

説明に時間がかかるという事だけではなく、「これはお互い共通認識だよね」という勝手な思い込みが生まれてしまうところが非常に怖いのです。僕もこの思い込みに何度も陥ってしまい、開発が遅れる原因を作ってしまったことがあります。(例えば転職して、それまで内製しか経験してこなかった人が初めて外注でゲームをプロデュースすることになった時なんかは特に陥りやすいので、そういう状況の方はご注意を!)

上記の問題は、ゲームサイクルやマネタイズといったノウハウの蓄積が生きてくる要素に対して、会社としてチェック体制を設けておくことで未然に防ぐことも可能ですが、そのチェックにかける以前に食い止めていないと作り直しが発生します。問題を残したままリリースするよりはるかにましではあるもののやはり無駄作業が発生する。

また、こういった体制があったらあったで、そこで下される判断が絶対!という空気になるとトレンドに乗り遅れたり突き抜けたものが生まれにくくなる、といった弊害もあります。

打率10割が不可能であることからわかるように、特にエンタメにおいては運やタイミングといった要素がからみ、結局絶対的に正しい進め方などないのですが、常に課題を意識しておくということは少なくとも心がけておきたいですね。

そんなわけで、内製も外注もそれぞれ良しあしがあるのでどちらが良いかはケースバイケースなんですが、特にコミュニケーションを密にとった方がいい役割の人間は社内にいた方がいいと思います。例えば、デザイナーやグラフィッカー、ゲームサイクルやマネタイズを考える企画スタッフなどは個人的に社内にいてくれると嬉しいですね!

以上、内製と外注についてでした。実はこの年についてはまだ書きたいことがあるのですが、ちょっと長くなってしまうので、続きは次回にしたいと思います。 ではでは今日はこの辺で! ヨーソロー!


P.S.
「ラブライブ!サンシャイン!!」の第3話で、渡辺曜ちゃんというキャラが駅前で(たぶん)初対面の女子高生20人くらいと集合写真(しかも自分が真ん中)を撮ってたのですが、すさまじいコミュ力ですね。僕には到底できません。すごすぎて3回見直しました。
 

■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。新作は超能力×ミリタリーRPG『ALICE ORDER /アリスオーダー』。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki


■バックナンバー

第2回「いまいち今の仕事が好きになれないあなたに」

第1回「2006年4月、スクエニ入社」

 
 
ゲーム業界の転職お役立ち情報を逃さずキャッチ!
 
    
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
企業データを見る