『怪盗ロワイヤル』から生まれた成功のジレンマとは 第1回クリエイターたちの失敗談から学ぶ赤裸々セミナー「つうこんの大ダメージ」を取材


クリーク・アンド・リバー社とSocial Creator Info は、7月20日、ゲームDJ・安藤武博さんを司会に迎えたセミナー「クリエイターたちの つうこんの大ダメージ!」を開催した。

テーマは、ずばり「クリエイターたちの失敗談から学ぶ赤裸々セミナー」。第1弾では、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)執行役員の渡部辰城さんが登場し、当日は自身の体験をもとに、一体どんな失敗を経験し、それを乗り越えてきたのかが語られた。

普段から親交のある両氏だけに、オープニングから2人の出会いからこれまで携わってきたゲームソフトの話で会場を盛り上げていた。中には約15年前の“しくじり話”も披露する一幕もあり、軽妙なトークで笑いを誘っていた。


 

■登壇者プロフィール


■司会:安藤武博(あんどう たけひろ)
株式会社シシララ 代表取締役/ゲームDJ/ゲームプロデューサー

過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマゲームやスマートフォンゲーム事業に携わる。 スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。 2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。最新作はAppleWatch専用RPG『コスモスリングス』。


■ゲスト:渡部辰城(わたべ よしき)
株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員
Japanリージョンゲーム事業本部 エグゼクティブプロデューサー

1976年生まれ。1999年に株式会社エニックスに入社。主にドラゴンクエストシリーズの開発や、スマートフォン向けゲーム事業の立ち上げに携わる。 関わったタイトルは『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』(PS2)など多数。2011年にDeNA入社。『忍者ロワイヤル』『Blood Brothers』などを担当。 最近では『ファイナルファンタジー レコードキーパー』『戦魂』などの開発に携わりつつ、同社のゲーム事業全体を統括している。


 

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■『パズドラ』リリースでもすぐには変わることのなかった意識


今回のセミナーでは大きく分けて2つのテーマを軸にトークが展開。最初のテーマは「パズドラリリース」。
 

今でこそ『パズル&ドラゴンズ』はスマートフォンを代表するゲームに成長したが、配信された当初は静かなスタートだった。しかしブラウザプラットフォームに依存しないネイティブアプリとして徐々に知名度を上げていくと、ついにデイリーの売り上げが1,000万円を超えるという、当時としては衝撃的なニュースが業界内に飛び交ったのだ。

渡部氏はこの時を振り返ると、「2012年は業界的にもターニングポイントだった」と話す。だが同時に「じゃあネイティブアプリにシフトしよう、とはなれなかった」という。

これは「ユーザーもすぐに移行しないんじゃないか」「ビジネス的に他社に利益が行ってしまうのでは」という不安に始まり、いつしか自分たちにとって都合の良い未来ばかりを考えてしまったことが原因だとのこと。都合の良い未来を考えては、そこから逆算するように行動を起こしてしまう。DeNAは4年前、そんな失敗を体験したというのだ。

反面安藤氏は、2012年当時に関しては失敗ではなく成功を体験している人物だ。安藤氏がプロデューサーを務めた『拡散性ミリオンアーサー』は『パズドラ』に匹敵する人気を誇り、デイリーの売り上げも月に5回ほど抜く機会もあったとか。

また、スクウェア・エニックス(スクエニ)に単独で明快なブラウザでの成功体験がなかったことも、結果的にはネイティブへのシフトをスムーズにさせたのではと分析していた。

これは渡部氏が話した『パズドラ』リリース時のDeNAにも言えることで「今までの(ブラウザゲームの)技術でもいけるんじゃない?」といった盲目的な認識があったと振り返る。
 

個人個人ではスタッフも『パズドラ』もプレイし、力があると感じていたが、組織の中だと「ブラウザでいいのでは」という話になってしまう。思い切った舵を切れなかったのは大きな反省点であったが、この反省こそが今の新規タイトルの開発や野球やロボット事業など、新しい事業への進出にも生きている。

安藤氏は手軽さが売りのスマートフォンアプリだが、『シャドウバース』などルールが複雑なゲームが流行るケースは今後もあり得ると話す。カジュアルとコア向け、どっちがどっちを駆逐するのではなく、多様化しているというのが安藤氏の見方だ。隆盛の兆しを見せるVRも5年前はまったく想像できなかった流れであり、あらゆる可能性を排除しないことがカギを握るという。

渡部氏はこれまでのトークを踏まえ、自分の都合の良いように考えていないかを注意することが大切だとまとめた。「面白いものには後から売り上げがついてくる」という原理原則のもと、新しい技術にも目を向けていくと語った。


 

■『怪盗ロワイヤル』から生まれた成功のジレンマ


 
渡部氏が続いて切り出したのは、Mobageで配信中の人気アプリ『怪盗ロワイヤル』ヒットから今に続く話題だ。

本作はゲームを作ったことのない少人数のチームが開発しヒットしたことで知られており、渡部氏自身もゲームを知らないからこそ斬新なアイディアが生まれたと話す。その一方で、「面白いことに価値があるはずなのに、いつの間にか作ったこと自体が価値になっていた」と、社内における『怪盗ロワイヤル』の価値がすり替えられていたというのだ。
 
価値のすり替えによってDeNAでは、新たな企画を立ち上げてスタッフを集めようとしても「怪盗の時は少ない人数で作れてたじゃん」と返されてしまう。大きな成功に縛られる現象が発生したのである。「どう作ったかは本来参考でしかない」と渡部氏は語るが、考え方を変えるのは容易ではない。ゲームの成功が、むしろジレンマになってしまった例だ。

ここから話題はゲームにおける企画の難しさへと移っていく。安藤氏は『ファイナルファンタジー レコードキーパー』を例に出すと、同作はオート機能を付けたことでヒットしたと分析する。では、他のゲームもオート機能を付ければ良いのかというと、もちろんそんなことはない。それはさじ加減の問題であり、複雑なシステムを楽しむゲーム、見ているだけで楽しいゲームの両方が存在するというのが安藤氏の意見だ。
 

渡部氏は「最近のゲームは企画書に情報を詰め込みすぎなのでは」と持論を展開する。
 
渡部氏が企画書を出す際はキーワードしか書かず、雰囲気さえ分かればいいくらいの簡単なものに仕上げるそうだ。安藤氏もテーマありきでゲームシステムを後から考える渡部氏のやりかたを絶賛する。テーマに合った最適なシステムを考えたほうが面白いゲームになり、逆にシステムから入ると似通ったゲームになりがちとのこと。
 
セミナーの終盤、渡部氏は「道の選び方ではなく道の歩き方が重要」と話す。振り返ったとき「もっと早く行けたかもな」と思いながら次の道へ進めばいいと聴衆に伝えると、安藤氏も「ダメージを受けることは必ずある。ダメージ受けたことを忘れないようにしてほしい。必ず次の糧になる」とメッセージを残した。
 
次に渡部氏はこれまでの失敗経験を振り返りつつ「現在は一定のところまで取り戻せたのかな」と一言。当時と同じダメージを受けないように、ゲーム以外の事業も含めて新しいことにチャレンジしていくと今後の抱負を述べていた。
 

……なお、当日はとても記事化が出来ないようなぶっちゃけトークも展開。参加者だけが持ち帰られる金言も豊富にあるので、ぜひ次回は会場に訪れてみてはいかがだろうか。
 
(取材・文:ライター  ユマ)
 

 

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■第2弾は8月17日に開催 参加(無料)受付中!


第2弾では、株式会社gumiの代表取締役社長 國光宏尚さんが登場。映画・テレビドラマのプロデューサーとして、様々なコンテンツを手掛けてきた國光さんは、2007年にgumiを設立。以来、ソーシャルゲーム事業やネイティブシフトなど、業界が変化するタイミングにて、 様々なヒット作を創出してきた。そんな順風満帆に見える國光さんですが、その陰には様々な難航や幾多もの決断があったようです……。

【日程】
2016年8月17日(水)19:45~21:45(受付19:15~)

【場所】
株式会社クリーク・アンド・リバー社 本社 セミナールーム
東京都千代田区麹町2丁目10番9号 C&Rグループビル 2F 地図はこちら

■ゲスト:國光宏尚(くにみつ ひろなお)
株式会社gumi 代表取締役社長

1974年生まれ。米国Santa Monica College卒業後、2004年5月株式会社アットムービーに入社。 同年に取締役に就任し、映画・テレビドラマのプロデュース及び新規事業の立ち上げを担当する。2007年6月、株式会社gumiを設立。代表取締役社長に就任する(現任)。

【参加費】
無料

【定員】
70名
※定員を超えた場合は抽選とさせていただきます。あらかじめご了承ください。

【持ち物】
受付時に名刺が2枚必要です

【対象】
ゲームや映像などエンタメ業界に身を置く方

【こんな方に特にオススメ】
・プランナー、ディレクター、プロデューサーの方
・現在の働き方について悩んでいる方
・若手クリエイターの方

 

参加はこちら

 

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