【イベント】インディゲームパブリッシャーとゲームライターの協業は成立するか? 「ゲームライターコミュニティ#11」レポート

世界的な広がりを見せているインディゲーム。日本でも京都で開催されるBitSummitを筆頭に、さまざまなイベントが開催されている。しかし、インディゲームは一般的に広報・宣伝力が弱く、良作が埋もれがちだ。一方でメディア側の窓口となるのがイベントを取材するゲームライター。それではインディゲームとゲームライターの協業はあり得るのか・・・。こうしたユニークな勉強会「ゲームライターコミュニティ#11」が10月11日に開催され、熱心な議論が行われた。

 
加藤賢治氏(左)と住田康洋氏(右)


講師はポラリスエックス代表の住田康洋氏と、モバイルゲーム攻略サイト「ゲーム攻略!SQOOL.NET」代表の加藤賢治氏だ。ポラリスエックスでは韓国製インディゲーム『中年騎士キム・ボンシク』を日本語化し、『中年騎士ヤスヒロ -おじさんが勇者に- ドット絵RPG』として国内展開。リリースして約1年で20万ダウンロードを達成した。SQOOL.NETでもリリース時から積極的に記事を展開しており、現在は専用の攻略コーナーも設けている。

ポラリスエックスは京都に拠点を置く住田氏の個人会社で、ローカライズや運営実務は外部スタッフと協業で行っている。「SQOOL.NET」の記事制作も外部のゲームライターに発注しており、両者は外部との協業によるコンテンツ運営という点で一致している。その中でも住田氏はフリーランスのゲームライターにハブとなってもらい、共同でゲームを盛り上げていきたいとアピール。加藤氏もタイトルの広報戦略と紐付く形で企画提案できるゲームライターは大歓迎だとコメントした。

 


 
◆パブリッシャー側・メディア側が抱える共通の事情

カプコンでビジネスデベロップメントをつとめた後、紆余曲折を経てポラリスエックスを立ち上げ、『中年騎士ヤスヒロ』をリリースした住田氏。App StoreとGooglePlayで過去6~7回ほど「おすすめソフト」にフィーチャーされており、これがダウンロード数を押し上げる最大の要因になっている。もともと韓国版が大ヒットしていることと、日本の文脈にあわせたアップデートを毎月のように行っていることが、フィーチャーされる要因に繋がっているのではないかと分析した。

現在同社では日々の運営業務と共に、ウェブコミックやフィギュア化などのクロスメディア展開も視野に入れている。新作ゲームについても仕込中だが、まずは『中年騎士ヤスヒロ』のブランド化が重要で、ファンを大切にした運営がモットーだ。そのためにはアップデートやイベントだけでなく、日々の情報発信が必要で、ひらたくいえば「流行っている感じ、盛り上がっている感じを演出したい」。そのためにも、ライターとの結び付きを深めたいという。

 


一方で加藤氏もメディアの立ち場から「モバイルのインディゲームを積極的に取り上げたい」と語った。「SQOOL.NET」のような攻略サイトの場合、ランキング上位のゲーム攻略記事を掲載することがPV獲得に効果的だが、それだけでは体力勝負の消耗戦になる。こうした中で、これから流行るインディゲームの記事を「青田買い」できれば、独自性を高められる。もっともストアの全ゲームを編集部でチェックすることはできないので、ライターからの記事提案を歓迎したいというわけだ。


 
◆DAUと継続率が二大指標

『中年騎士ヤスヒロ』はブラウザゲームの『クッキークリッカー』に代表される「放置系アクション」。進行状況を確認しながら画面をタップしていくことが操作の中心だ。グラフィックも8ビットのピクセルアート風で、レトロゲーム的な世界観が特徴。中年ニートが主人公で、名前の「ヤスヒロ」も社長の名前から命名されている。加藤氏はリリースを見た時、「良くわからないけど、わかる」と妙な共感を得たという。「いろいろなフックがあり、記事にしやすかった」と振り返った。

当初は単発記事だったが、次第に記事がたまり、連載コーナーに昇格。攻略にくわえて、スタジオ訪問などの記事も掲載した。その中でも加藤氏は最初の紹介記事と、序盤の攻略記事のPVが突出しているとあかした。「ゲームを遊んで序盤で詰まった人が検索で飛んでくる。そのためチュートリアルを兼ねて序盤の攻略記事を掲載するのが効果的」(加藤氏)。これには住田氏も「ダウンロードして1週後の継続率を押し上げてくれるので、非常にありがたい」と同意していた。

続いてトピックは「ポラリスエックスが重要視するKPI(重要評価指標)」に移った。今さら言うまでもないが、『中年騎士ヤスヒロ』を筆頭にモバイルゲーム市場はF2P(基本プレイ無料のアイテム課金モデル)が大勢を占めており、リリースではなく運営でマネタイズされる。しかし、運営時に何を重視するかはパブリッシャーの方針によって異なる。そして、そこを応援してくれるような記事だと有り難いし、場合によっては記事広告の出稿もあり得る・・・となる。

ちなみにポラリスエックスが重視するKPIは、ずばり「DAU(デイリーアクティブユーザー)と継続率」。ひらたくいえば「毎日遊んでくれるファンを増やしたい」というわけだ。日々の運営施策は、この二点を押し上げるために行っており、そのための活動を記事にして欲しいというのが本音。プレスリリースなどを打っても、実際にどの程度ユーザーに刺さっているか確かめる術がない。それよりもメディアに記事が載る方が、確実に効果が見込めるという。

これに対して加藤氏も「人気タイトルの攻略コーナーも、そのほとんどは捨て記事で、コーナー内で記事を露出し続けていることが大事。その中で一部の記事がスパイクし、全体の収益を押し上げている」とあかした。そのために重要なのは「ゲームの運営に華があるか否か」だ。単発の有料ゲームよりも、運営が継続するF2Pの方が、PVの伸びを見極めやすい部分もあるという。一方で「話題の超大作」も、運営が地味なことでコーナーがなくなることもあるとあかした。

また、一般的に広報宣伝が集中するのはリリース直前だと言われる。しかしポラリスエックスのようなインディパブリッシャーでは、リリース準備に忙殺されて宣伝まで手が回らないのが実情だという。そこで住田氏は「ライターによる開発レポートなども嬉しい」と語った。もっとも開発が進んで修羅場になると、メディアの取材が疎ましがられることもある。これについても「問題があれば最初から言うはず。特に取材範囲の取り決めなどは最初からしておくべき」だという。

むしろパブリッシャー側からすれば、ローンチにあわせて大量のマーケティング予算を組むことに慎重なむきもあるという。それよりもローンチ後しばらく経過し、本格的にいけそうだとわかったところで、あらためて広告予算を組むというわけだ。もっともインディパブリッシャーにとって、すべての媒体にコンタクトをとり、その動向を知ることは不可能だ。そのため多くの編集部と付き合いがあり、情報を持つライターの存在は非常に大きいという。

「大手媒体が半年後にこういった特集を組むという情報が事前にわかれば、それにあわせてゲームのローカライズ権を取得する。極論すれば、そういったことまで考えるわけです」(住田氏)。これに対してメディア側も、すべてのゲームを応援することは不可能だ。そのため加藤氏はタイトルごとのマーケティング情報が事前にわかれば、ありがたいという。ライターにとっても記事広告などの企画提案ができれば、双方にとって望ましく、自身の収入も増えるというわけだ。


 
◆ゲームライター側の選択肢も増加

他に住田氏は「自社タイトルのストア評価(★の数とコメント)を常に注視している」とあかした。特にGooglePlayではユーザーのレビュー投降に対してコメントが返せるため、暇を見てまめに「ありがとうございました」と書き込むほど。中には返答があったことで★の数を増やすユーザーもいるほどで、「他では周りでもやっていないパブリッシャーが多かった。しかし最近はGoogleが推奨していることもあり、同じようにコメントを返しているところが増えてきた」という。

 


もっとも、地味ながら時間を要する仕事であることも確かで、こうした広義のユーザー対応も含めて、ライターに外注できればありがたいとした。ユーザーコミュニティの管理業務をライターと協業して行いたいというわけだ。実際に大手パブリッシャーではQA部門がこうした業務を担当しているが、インディパブリッシャーが内部に人材を抱えることは難しい。ライターはパブリッシャーとユーザーの中間的な立ち場に属しているため、こうした業務を任せやすいという。

「パブリッシャーは目立ちたい、自社タイトルを露出させたい、これが本音です」とあかす住田氏。ストアの寡占化が進む中、仮にフィーチャーされてランクが一時的に上昇しても、すぐに落ちてしまうのが現状だ。これに対してゲームメディア側も常に「ヒット作の芽」を探している。モバイルゲームの普及と共に、パブリッシャーやメディアの数が急増している。だからこそ、ゲームライター側の選択肢も増加している・・・そのように感じさせるセミナーだった。

 
(取材・文:ライター  小野憲史)