【連載】岩野Pの「なれる!プロデューサー」 - 第7回「IPタイトルプロデュースで大切なこと」


『乖離性ミリオンアーサー』や『アリスオーダー』など、数々のスマホゲームを手掛けてきた、スクウェア・エニックスのプロデューサー・岩野弘明氏。同社に勤務してから10年以上もの歳月が経っているが、そんな彼にも新人時代があった。上司や先輩に教わったこと、成功や失敗から得たこと、様々な経験を経て今がある。この連載は、岩野氏がプロデューサーになるまでの道のり、その後に直面する幾多もの気付きを形にしてくれた、自叙伝。
 

■第7回「IPタイトルプロデュースで大切なこと」


こんにちは!パワフルサッカーにハマりすぎて連日寝不足です。基本的にパワプロとやることは同じなのですがサッカー大好きな僕としてはさらに楽しめていいですね!

さて、前回はオリジナルタイトルをプロデュースする際のポイントについて触れましたが、今回はIPタイトルをプロデュースする際のポイントについて触れていきたいと思います。

<2010年>
完全にスマホアプリのプロデュースにシフト。この辺から『ミリオンアーサー』の企画を考え始める。世界観・シナリオの作成を人気ライトノベル作家の鎌池和馬さんに相談しにいったり、開発会社を探したり。加えて『FFT獅子戦争』のiOS移植も開始。
 

■そのIPを好きになるべし!


IPタイトルを取り扱う際に最も重要なことは、当たり前のことですがそのIPを好きになることです。

なぜなら、そのIPには既にファンが存在し、IPタイトルはそのファンに向けて作られるからです。自分もそのファンの一人となり、ファンがそのIPのどういう部分が好きで、ゲーム化する際にどういったことをすると喜ばれるのかを理解しないとそのIPにとって良いゲームにはなりません。


なので、本来ならばそのIPが好きであるスタッフで固めておきたいところ。大好きだ!とまではいかなくとも、最低限そのIPの原作をすべて嗜んでおくことが重要です。
 
 

■アニメや漫画などのゲーム化のポイント


ちなみに同じIPタイトルでも、漫画やアニメといった原作がゲームではないもののゲーム化と、ゲーム原作でIP化したタイトルの新作開発とは、少々アプローチが異なります。

ゲームは他のコンテンツとは違いインタラクティブ性があることが大きな特徴です。自分が入力した結果が出力されて戻ってくる能動的に楽しむコンテンツです。

そのため、原作が漫画やアニメといった受動的なコンテンツのゲーム化には、プレイヤーの操作によっていかにそのIPの魅力を体験できるかということが期待されます。

具体的な例を出すと、自分の操作によりキャラがかっこよく動き、さらにはキャラそのものやプレイヤースキルの成長によりさらに強い必殺技を繰り出せる。あたかも自分がそのキャラになったかのように操作し、その世界の魅力に能動的に触れることができる、ということができれば、そのIPのゲーム化としては最低限のお題はクリアかと思います。(プロジェクトの成功という意味では売って利益をださなければいけませんが)

まとめると、

・そのIPの魅力が何かを理解し
・その魅力をハードやプラットフォームにあわせて最大限楽しめるゲーム性を検討し
・その魅力をちょうどよく(クオリティやテンポなど)楽しめる演出を考える


というところがポイントかと思います。
 

■ゲーム原作のIPタイトルのポイント


一方、ゲーム原作の場合は、インタラクティブ性も含めた魅力で成り立っているので一概に上記のポイントだけ押さえておけば正しいとは言えません。また、たとえガワ(世界観など)をかえたところで同じ体験を提供しただけでは「それもうやったわ」と感じられてしまうため、そのIPが持つ魅力をしっかり押さえつつ、ゲームとしての「新体験」をも提供する必要があります。オリジナルにせよIPにせよ、新体験が重要であることに変わりはありません。


ただ、新体験にこだわりすぎるとそのIPが持つ本来の魅力が損なわれたり、そもそもゲーム開発が困難になったりと結構悩ましいことになります。

ですので、ゲームを構成する要素において既存の要素と新体験要素のバランスは、大体9:1くらいの割合がちょうどいいんじゃないかと僕は考えています。もちろん新たなハードやプラットフォーム、技術の到来により、8:2くらいのバランスで考えた方がいい状況もあるかもしれないので、あくまで目安としては、という感じです。

 

■移植タイトルの面白さ


また、ここで僕が担当した「FFT獅子戦争」のiOS/Android移植版を例に、移植タイトルのおもしろさについても触れたいと思います。


このプロジェクトが特に面白かったのは「物理ボタンを要するコントローラで操作するコンソールゲームを、フルタッチデバイスのゲームとして移植する」という点でした。

画面と分離されたコントローラを操作するのと、画面そのものに触れて操作するのとでは操作感が全く違います。そのため、本来コントローラありきで考えられていたゲーム性のおもしろさをいかにストレスなく楽しめるようにするかを考えなくてはなりません。

特にFFTのようなSRPGはただ移動と決定ボタンを押すだけではなく、細かくユニットの位置を指定するなど、小さな画面上で複雑な操作を行う必要があるのでなかなか骨が折れました。


さらに大きな問題がもうひとつ。当時のハードよりもスマホの方がグラフィック性能が上がってしまっていたことで、素材をほぼすべて作りなおす必要がありました。

しかも、フルタッチデバイスの場合、スワイプやスクロール、ピンチイン/アウトといった、特有の操作をプレイヤーはどうしても行ってしまうのですが、その際画面が意図した動きをしないとストレスになります。そこで初めて顕在化する操作要望もでてきたりで、そういった独特の操作に対応することが大変でした。

ただ、例えほぼ元と同じ内容のゲームでも、UIや操作性、グラフィックなど、移植先のハード・プラットフォームでしか味わえない新鮮さがあり、懐かしさと共に新しい楽しさを感じることができるというのは、移植タイトルならでは。

もちろん、元のゲームを知らなかった方々に遊んでもらうきっかけになるという意味でも移植というのは意義があります。ちなみに、「FFT獅子戦争」iOS/Android版は売り切りアプリですが、リリースして3年ほどたった今なお売れ続けていて、今では最新のスマホアプリを1,2本作れるくらいの利益を出しています。売り切りのタイトルでここまで売れるというのは元々のゲームのすばらしさがあってのことであり、そういったタイトルに関われたというのは僕の誇りです。移植タイトルのプロジェクトというのはそういった意味でも開発の楽しさがありますね。

 

■オリジナルタイトルとIPタイトルの適正



前回と今回とでオリジナル/IPそれぞれの開発のポイントに触れてきましたが、プロデューサーに限った話をすると明確に適性があると思います。(他の職種にもあると思いますが、専門外なのでここではプロデューサーに限った話とします)

何も縛られず自由にのびのび自分のアイディアを具現化したい人と、そのIPの魅力を理解しファンに求められるものを具現化していきたい人。僕は前者だったので、最近はオリジナルタイトルしかプロデュースしていません。

今ではスマホ市場も成熟し、IPタイトルのアドバンテージが高まっています。そのためIPタイトルで勝負する会社が多くなっているように思います。ですが、オリジナルタイトルがそうであるように、IPタイトルをやるにもその適正が必要。

なので、今やっている仕事がいまいちうまくいっていない、そもそも楽しくないと思っているのであれば、今一度自分のできること、得意なことを見つめなおし、それを活かせるアプローチをするべきです。

もしかすると、その結果プロデューサーは向いていなかった、という事もあるかもしれません。でもそれならそれで別の職種や業界にチャレンジした方がより仕事を楽しめるかもしれません。

日々の仕事をこなしながらそういった事を考えるのはなかなか難しいことではあるのですが、仕事は人生の大半を占めることなので、自己分析をしっかりとして楽しんで仕事に挑みたいものですね! ではでは今日はこの辺で!



P.S.
「ユーリ!!!」11話のJJに泣きました。

 

■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。新作は超能力×ミリタリーRPG『ALICE ORDER /アリスオーダー』。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki


■バックナンバー

第6回「オリジナルのゲーム作りで大切なこと」

第5回「失敗の新体験が成功のチャンス」

第4回「どうしたら企画が通るの?」

第3回「ゲーム開発、内製と外注どっちがいいの?」

第2回「いまいち今の仕事が好きになれないあなたに」

第1回「2006年4月、スクエニ入社」



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株式会社スクウェア・エニックス
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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