新年のご挨拶(株式会社ソーシャルインフォ 長谷部潤)



明けましておめでとうございます。株式会社ソーシャルインフォの長谷部です。いつも弊社メディアサービスをご覧いただきありがとうございます。

弊社は昨年10月に社名をこれまでのソーシャルゲームインフォ株式会社から株式会社ソーシャルインフォへと変更しました。「Social+〇〇+Info」とソーシャルな(社会的な)目線でゲームのみならず様々なジャンルのインフォ(情報)に対しアプローチしてゆきたいとの思いが、そのきっかけでした。

まずは複層化の第一弾として、現在の主力メディアである『Social Game Info』に加え、新たに『Social VR Info』を立ち上げました。VRもプラットフォームとしてはまだ産声を上げたばかりであり、(黎明期によく見られる現象ですが)コンテンツの多くはゲームによって占められています。そのため、Social Game Info と被る部分も多かろうとは思いましたが、VRの持つこれまでにない独自な革新性を鑑み、独立したメディアとしました。

2016年は、ウェブメディアの意義が改めて問われた年であったと考えています。株式会社ソーシャルインフォは、これまでと同様、自らの足で取材をし、自らの頭で考え、自らのペンで書いた「骨太な記事」を、きっちりと愚直に皆様にお届けしてゆきたいと考えております。2017年もこれまでと変わらぬご愛顧を頂けましたら幸いです。


 
■主力ユーザ層が大きく変化した2016年のスマホゲーム市場

さて、2016年のスマートフォン(スマホ)ゲーム業界ですが、劇的な変化を迎えた年でした。それはハードウェア・ソフトウェアを中心とする技術面での変化でもなく、課金スタイルを含めた運営面・制度面での変化でもなく、スマホゲームを利用するユーザ層に大きな変化が起きた年でした。他者との競争を意識しない、故に課金への関心も大変低い――そうしたユーザ層が台頭してきた年なのです。

マーケティング理論の一つに「イノベータ理論」というものがあります。サービスや技術に対する「感度の高さ・敏感さ」の程度によってユーザ層を「5つの層」に分解し、サービスや技術の変遷を説明するものです。この理論に基づき、スマホゲームのユーザ層を分解して見てみましょう。


 
■誰よりも早く新しいものを触ってみたい16%のマニア層

新サービスや新技術が登場し始めた時、誰よりも真っ先に新しいものを使いたい・手に入れたいという感度の高い(=冒険的な)人たちがいます。最も敏感な層をイノベータ(革新者)と呼び、その次に新し物好きな人々をアーリーアダプタ(初期採用者)と呼んでいます。これら二つの最も先鋭的な層を合わせると全体の16.0%を占めるとされています。

彼らは、高い買い物で仮にその買い物が失敗であっても後悔はしません。なぜなら誰よりも早くそれを手に入れることこそが彼らにとっての価値だからです。マニア層と言っても良いかもしれません。

そして、ある意味、あらゆる新サービスや新技術は、まずは彼らによって「良いものか悪いものかの精査」がなされているとも言えます。例えば、今をときめくiPhoneもAndroid端末も初号機はひどいものでした。彼らが費用対効果を無視してまずは購入し、使用し、そして声を上げることで、改善点もクリアになっていったわけです。


 
■スマホは2012年に一般層へと拡大(キャズム超え)=パズドラ登場と同時期

この最初の敏感な層を超えられるか否かが、次の「一般層」へと普及し定常的なサービス・技術として定着するかどうかの分岐点となります。つまり最初の敏感な層の合計値である普及率16.0%を超えるかどうかが大きなポイントであり、マーケティング用語では「キャズム(Chasm:なかなか超えられない深い淵)」と呼ばれています。古くはビデオのβ(ベータマックス)やMD(ミニディスク)、最近では3Dテレビなどが、このキャズムを超えることが出来ず、徐々に人々の記憶から消えようとしています。

各種調査結果を見ると、日本のスマートフォン普及率がキャズム(=普及率16%)を超えたのは、2011年終わりから2012年初頭と推計されます。ゲーム利用までの若干のライムラグを鑑みますと、2012年中にスマホゲームは一般層へと広がり始めたと考えられます。2012年と言えば、そうです。ガンホーから「パズル&ドラゴン(パズドラ)」がリリースされた年です。

ご存じのようにパズドラは大ヒットとなります。アプリセールスランキング2位のアプリが月に一桁億円前半の売上だったのに対し、1位のパズドラは100億円を超えるという状況で、まさにスマホゲーム市場=パズドラという状況が続きました。


 
■スマホがマニア層だけの頃にリリースされた忍者ロワイヤル

パズドラ登場の約1年前、2011年5月、極めて先進的なゲームがDeNAから出ています。その名前は「忍者ロワイヤル」。彼らにとって実質ネイティブ第一号アプリとなるそれは、残念ながら利用は広がらず、2013年に終了を迎えます。

DeNAとしても忍者ロワイヤルの伸び悩みを見て「やっぱり怪盗ロワイヤルのようなブラウザゲームが世間の主流なのだ・・・」と思ってしまったかもしれません。私としては、とても良い出来のゲームであると思っていただけに残念な記憶があります。


 
■たった1年の登場時期の違いが両者の成否を・・・

両者を分けたのは何でしょう。もちろんゲームの良し悪しが多くを占めているのかもしれません。しかし私はゲームが登場した時のスマホ普及率がとても重要だったのではないか、と考えています。忍者ロワイヤル登場は2011年春、おそらく普及率は10%いくかいかないかくらいの頃です。10人に1人しかスマホを持っていないところに、意欲的なネイティブアプリを投入しても、当然ながら広がりは期待できません。どんなにゲームの出来が良くても、分母の小ささはどうにもならないからです。

一方パズドラの登場時期は、スマホ普及率がキャズムを超えた2012年の2月です。マニアな16%の人々が「面白い!」と発信し、それを耳にして実際に遊び始める一般層が既に存在し、かつ拡大し始めている時期なのです。この「最初の一般層」をアーリーマジョリティ(前期追随者)と呼びます。

全体の34%もの比率を占めるこの人たちは、安心・安定を求める比較的慎重な人たちながらも、それでも平均的な多くの人と比べると、より早く新サービス・新技術を利用しようとします。その人たちに一気に受け入れられ、パズドラは大きく成長してゆきました。


 
■マニア層が一般層を呼び込む~スマホゲームが最も伸びた2013年から2015年~

ゲーム各社がマーケティング施策として「友達招待」を積極的に行い、大きな成果を挙げていったのもこの時期からです。この施策が有効だったのは、キャズム超え以前の尖った人たちがゲーム利用者の主体で、彼らを起点にどんどんと一般層を「招待」という形で取り込んでいけたためです。情報を発信する「インフルエンサー」が存在し、彼らの意見が「バズる」ことで一般層にもその利用が広がる――これが有効に機能した時期です。

2013年にはコロプラから「クイズRPG魔法使いと黒猫のウィズ(黒猫)」が、ミクシィから「モンスターストライク(モンスト)」が、それぞれリリースされ、ともに大ヒットします。最初の一般層たるアーリーマジョリティ層は、安心を求める層でもあります。ゆえにテレビCMはとても有効です。「テレビでやっているから安心だ」となるからです。パズドラ、黒猫、モンストが大きく飛躍したのは、何をさておきテレビCMによるところが極めて大だったのです。


 
■これまでとは全く異なる層のユーザが台頭し始めた2016年

2014年から2015年にかけての年末年始などは、どのチャンネルを見てもスマホゲームのCMが溢れかえっていました。各社の競争は熾烈ながらも、皆が皆、上だけを見ている――スマホゲーム市場の「幸福な時期」がそこにはありました。そして2016年、これまでとは全く異なる性質を持ったユーザ層が、スマホゲーム市場に台頭し始めるのです。

最も流行に敏感なイノベータ層から最初の一般層であるアーリーマジョリティ層までを足し合わせるとちょうど50%、つまりスマホ普及率の過半を意味します。この時期が2015年半ば頃と推計されます。つまりその頃から、最初の一般層の次に来る「遅れてきた一般層」――すなわち、レイトマジョリティ(後期追随者)がゲームユーザとして市場に登場し始めてきたのです。

レイトマジョリティ層は別名フォロワーズと呼ばれ、周りの多くの人が利用しているのを確認してからはじめて、自らの利用を始める人たちと言われています。換言しますと、自らが率先して調べ、自らがその良し悪しを判断することは少ない(=周りが使っているから自分も使う人たち)と言われています。比率はアーリーマジョリティと同じく34%と大きなボリュームとなっています。そして、彼らが相当数の規模をもってスマホゲーム市場に入って来たのが昨年2016年なのです。


 
■グラブル騒動勃発

遅れてきた一般層であるレイトマジョリティ台頭を示す象徴的な出来事が2016年のお正月に起きました。「グラブル騒動」と呼ばれるそれは、Cygamesが開発し、Mobage(DeNA)が提供するスマホゲーム「グランブルファンタジー」において、レアキャラクタの出現率アップの告知をしたものの、相当の課金をしてもなかなか希望のキャラクタが出ないため、ユーザからのクレームが頻発した騒動です。

これまでもユーザとゲーム会社とのもめ事は「DQMSL騒動」などいくつかありました。しかし、ここまで大きな騒動となったのはグラブル騒動が初となります。大きな騒動にならなかったのは、これまでのスマホゲームはアーリーマジョリティまでのユーザが主力であり、彼らは「なかなか希望のキャラが出ない」となっても、「(不満は大いにあれども)スマホゲームってそういうものだよね」と言った一種の割り切りがあったからかもしれません。

ところが、レイトマジョリティ層は、そういった感覚は持ち合わせていません。ごくごく普通の感覚をもって「こんなにお金を投じているのに何で出ないんだろう?」となります。そしてボリュームのある層ですからそうした疑問や不満は大きなうねりとなります。グラブル騒動がかつてない大きなうねりとなったのはそうした利用者層の変化があったためと私は考えています。


 
■セールスランキングの固定化

2015年からスマホゲーム売上ランキングが固定化してきたと言われています。2016年前半は特にそれが顕著でした。これもレイトマジョリティ層の利用が拡大してきたことが背景だと考えています。前述したように彼らは「周りで使っている」ということをとても重視します。自ら調べにいく、探しに行く、ということはあまりしないとされています。

周りで使っていることを最も分かりやすく伝えているのが、アプリストアにおける「ランキング」です。ランキングが高い=周りの多くの人が使っている・評価している、となります。結果、ランキングが高いから選ぶ、選ばれるからランキングが高くなる、のサイクルとなり、特に上位ランキングタイトルの固定化が加速した、というわけです。

ランキングと言えば、カカクコムグループが運営する「食べログ」は、今やグルメ口コミサイトとしてはかかせないものとなりました。こちらが急成長したのはサービス開始から2年後の2007年のことです。利用者数がわずか1年で2倍以上伸び、翌2008年春には500万人を突破しました。

そして、ネット利用する上で欠かせないブロードバンドの世帯普及率が50%を超えた時期――こちらが2007年、食べログの急成長時期とピッタリ一致するのです。それくらいに、レイトマジョリティ層はランキング好きなのです。


 
■テレビCMを打つ意味合いの変化

話が脱線してしまいましたが、そうした状況下では、上位タイトルを如何に今いる位置でキープできるかがポイントとなります。「固定化が進んだ」とはいえ、新作は次々に登場しており、ランキングがいつ下がるか知れません。そうなるとランキングを維持するためのプロモーションが必要となります。テレビCMも新規獲得のためというより他社に奪われないことが主目的となってきます。

「Share of Voice(SOVシェア・オブ・ボイス)」というマーケティング概念があります。これは同一カテゴリにおける広告出稿量シェアのことで、絶対的な広告出稿量ではなく、同業他社との相対的な比較で広告効果は決定される、という考えです。

例えば、洗剤や化粧品と言ったトイレタリ業界の商品のCMを私たちは今なお頻繁に目にすることと思います。でも、トイレタリ市場はそんなに広告宣伝費をかけるべき急成長している市場でしょうか?そうではなく成熟市場の代表的存在ですよね。でも、成熟市場だからこそSOVの視点で、大量のテレビCMを継続投下しているのです。


 
■パズドラ、モンスト、白猫、それぞれのTVCMのかけかた

同じことが2016年のスマホゲーム市場に起きたと考えています。前述した2012年から2014年にかけて一定規模のユーザを獲得した「パズドラ」「モンスト」そしてコロプラの「白猫プロジェクト(白猫)」は、それぞれ安定して上位ランキングにありました。ところが、「白猫」のみが2016年の5月頃から順位を下げるシーンが多くなりました。実際、コロプラの決算説明会資料を読んでも「白猫の不振」を業績悪化の理由としています。

ガンホー、ミクシィ、ともに特定の1タイトルの売上シェアが大きい会社です。そうなると必然的にその1タイトル(=メインタイトル)に広告宣伝費の多くをかけることになります。市場は成熟し、メインタイトルは数年前にリリースした「古いゲーム」ながらも、そのタイトルに莫大な広告宣伝費をかけ続けることになるわけです。

一方、コロプラは継続して新作を出すことを目指している会社です。自社における「白猫」の売上シェアがかなり高くなったとしても、新作を複数リリースし、そのたびに広告宣伝費の多くを新作へとシフトします。そうなると当然ながら「白猫」の広告出稿量は低下してしまいます。


 
■テレビCM出稿量の低下は、「オワコン感」につながる

上述したSOVの考えに基づけば、継続して大量出稿している「パズドラ」「モンスト」に比べ出稿シェアの低い「白猫」の広告効果は質量ともに低下し、結果、ランキングも落ちることになります。このロジックはあくまでも仮説に過ぎませんが、少なくとも昨年、コロプラで新作CMを始めた時期と白猫がランキング低下傾向を示し始めた時期は一致しています。

広告出稿量の縮小に関連してテレビCMの出稿減は、「周りで使っている」ことを重視するレイトマジョリティ層にしてみると、それは大変ネガティブに映ります。実態はどうであろうと、「周りで使われていない」というイメージに直結するからです。

俳優やタレントが映画や舞台にシフトしたためテレビ(それもバラエティなど)に出なくなっただけで「あの俳優はもう終わったよね」と言われるのと同じ感覚です。オワコン感を生じさせないためにもテレビCMを打ち続ける必要があるのです。それがレイトマジョリティ層が主役になった今のプロモーションの考えになるのです。


 
■社会現象にもなったポケモンGOの大流行

レイトマジョリティが台頭してきたもう一つの象徴的な事例が「ポケモンGO」の流行です。2016年7月に米国企業であるナイアンティックからリリースされ、社会現象化したと言っても過言ではない当ゲームの世界的大ヒットは、まさに利用者層の根底からの変化を指し示したものと言えます。

「ポケモンGO」というゲームは、良く出来ているゲームではありますが、とてもシンプルで悪く言えば飽きやすいゲームとも言えます。それを補って余りあるのが「ポケットモンスター」という数あるゲームIP(知的財産)の白眉ともいうべき優れたキャラクタ群です。

レイトマジョリティは、新しいものには強い警戒心を持ちます。言い換えれば知っているものでないと受け付けない人たちなのです。誰もが知っている優れたIPは、レイトマジョリティ層の心の扉を開かせるには打ってつけなのです。

米国で大ヒットしたこともこのゲームのメインユーザ層を物語っています。スマホゲームにおいては、世界的に見れば日本が言わばマニア層(イノベータ層+アーリーアダプタ層)となります。米国というスマホゲームに関してはレイトマジョリティ層とも言える人々が多くを占める地域で大ヒットしたということ自体、このゲームがIPに強く依拠した性質であることを示していると考えています。


 
■レイトマジョリティの台頭時期にこそIPはその強さを発揮する

2015年頃からファミコン時代より続く「ビッグタイトルIP」によるランキング上位進出が目立つようになりました。2016年はポケモンを代表例としてその流れが確固としたものになったと言えるでしょう。

ゲームアナリストなどが上記の事例をもって、「IPを持っているところが最後には勝つ」と述べられていることを良く耳にします。これは間違いではありません。しかしながら、正確には「IPを持っているところが最後になると勝つ」ということなのです。

あるゲームプラットフォームが生まれ(今で言えば「スマートフォン」というプラットフォーム)、それが成熟してゆく過程において、黎明期にはイノベータ層が好むプラットフォームの斬新さ(=特徴的技術)を生かしたゲームが流行り、成熟期にはレイトマジョリティ層が好む誰もが知っているIPの普遍性を取り入れたゲームが流行るというだけのお話なのです。IPを持っている企業が、最終勝者なのではなく、成熟期の勝者ということなのです。


 
■さらなる成熟へと進む2017年

2017年はどうなるでしょう?私は、ごくごくシンプルに2016年の流れがそのまま加速してゆくと考えています。イノベータ理論における残る16%はラガード(遅滞者)と呼ばれる人々で、相当利用が遅いか、そもそも利用しない層となります。この層にゲーム利用を期待することは出来ませんから、現在主力のレイトマジョリティ層の拡大をもって、スマホゲーム市場の拡大も一旦のお休みとなります。

その後は、以前の家庭用ゲーム機市場のように成熟し安定した市場になってゆくと考えています。嗜好品である家庭用ゲーム機とは違い、生活必須ツールであるスマホはもしかしたらより巨大で安定した市場として存在し続けるかもしれません。

ゲームに活かせるIPの獲得競争はより活発になることでしょう。スマホゲーム開発や運営も以前では考えられないほど大規模化かつ高度化してきており、IPを持つ企業が、中堅以下のゲーム開発会社にいわば「下請け」に出すような状況は少なくなると考えています。一定規模以上のゲーム会社との「対等な協業」によって、IPの良さを十分に考え抜いた素晴らしいゲームが次々に登場してくると予想しています。


 
■課金手法だけは全く新しいアイディアが求められている

このように2017年は、原則的に2016年に顕在化したレイトマジョリティ層台頭の流れの延長線にあると考えています。ところが「課金手法」については、各社これまで以上に頭を捻る必要が出てくると考えています。

イノベータ層やアーリーアダプタ層のように「まずは試してみる」というこれらマニア層は、課金も躊躇なく行います。このゲームの何たるかを知るには課金をしないことには分からないからです。最初の一般層であるアーリーマジョリティ層はボリュームも多く、「他者」を強く意識します。他ユーザに対して勝ちたい、自分の順位やポジションを上げたい、協力プレイで良い結果を出したいなどなど。そして、他者を意識するが故に課金もします。

ところが、レイトマジョリティ層は大きく異なります。遅れてきた一般層であるこの層は、ゲームに対するこだわりはあまりありません。周りがやっているから、テレビCMで何度も眼にするから、それで「ちょっとやってみよう」という感覚で利用しているに過ぎません。周りがやっているからやるだけであって、周りに勝ちたいという意識はとても希薄なのです。

レイトマジョリティ層に対し、これまでの主流であったアイテム課金方式は、かなり厳しいものになると思われます。特にランダムでアイテムが出現するいわゆる「ガチャ」は、彼らには全くといって良いほど受け入れられないのではないか、と考えています。お目当てのものが出るまでガチャを回す意味合いが、彼らにはないからです。そもそも「お目当てのもの」が彼らにあるのかどうかさえ不明なのです。


 
■売り切り制の試金石~スーパーマリオラン~

その目線でとても注目されるのが、昨年12月に任天堂からリリースされた「スーパーマリオラン」です。ゲームの一部を無料とし、すべて遊ぶには1,200円の売り切り制を採用しています。スマホゲームと言えば、アイテム課金が主流の中、これはかなり思い切った施策と言えます。

ユーザの評価は二分されているようです。1,200円ですべて遊べることで「とても良心的である」とのポジティブな評価もあれば、基本無料が今日のゲームの主流なのに「1,200円は高すぎる」と言ったネガティブな評価もあります。App Storeの評価は2.5ですので、どちらかというとネガティブな意見の方が強いようです。

ただ、最早従前のような単純なガチャのスタイルをレイトマジョリティ層に提供してもうまくいかないであろうことは(どのゲームであれ)目に見えています。スーパーマリオランという言わば世界最強のIPを使ったゲームで売り切り制がうまくいくかどうかは、任天堂のみならずスマホゲーム業界全体が固唾を飲んで見守っているところと言えるでしょう。


 
■レイトマジョリティ層も課金を楽しめるような工夫が必須となるだろう

今後はガチャそれ自体も、お目当てのものが出たときの快感のみを追わせる単純な仕組みではなく、より工夫を凝らしたエンタテイメント性の高い仕組みが登場するかもしれません。ガチャを回すことそれ自体が「楽しい!」と思えるような仕組みです。

これまで主流だった利用者層の満足度を維持しつつ、レイトマジョリティ層がどう言った人たちなのかを十分に分析し、彼らにも熱中してもらえるような仕組みを実現できたところが、成熟の進むスマホゲーム業界の勝者になると考えています。


 
■サービスの盛衰はあれども生活必須ツールは残り続ける

これまで多くのサービス、技術、商品などが、イノベータ理論に沿う形で黎明期を迎え、多くはそこでドロップし、数少ない成功事例が、興隆期、成熟期へと進んでいきました。例えば自動車(自家用車)は、長い時間をかけて普及が進みましたが、世帯当たり普及台数に関して言えば、2006年をピークにもう10年間も下落傾向を示しています。しかしながら、生活必須ツールの一つである自動車は今なお巨大な市場として存在しています。

スマホも生活必須ツールであり、その上で展開されるスマホゲームも息の長い市場として残っていくと考えています。その一方で新たなゲームプラットフォームも次々に登場してくるはずです。スマホのようにキャズムを超えるものも出てくることでしょう。


 
■次代のゲームプラットフォームとして最も期待されているVR

現在、最も次代のゲームプラットフォームとして期待されているのがVR(仮想現実)だと考えています。VRを利用するためのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が、まだあまりに発売台数が少ないためキャズムを超えるのかどうか、現時点で判断することは難しいところですが、最も有望なデバイスの一つであることは間違いないことでしょう。

日本の総世帯数を分母としたキャズム超え=16%超えは、約800万台となります。VRは持ち運ぶものではなく、どちらかと言えば家庭用ゲーム機に近いため総世帯数を分母とすると、この国内累計出荷台数800万台が一つの目安になるかと思われます。

任天堂の国内累計出荷台数を例に挙げると、ファミコン、スーファミ、Wiiで1,200万台~1,900万台、一方で64、ゲームキューブ、WiiUでは300~500万台となります。皆さんが抱く「このゲーム機、ヒットしたよね」という感覚と「800万台というキャズム」は、かなり一致しているのではないかと思っています。


 
■VRも最初はIPの有無ではなくゲーム造りの巧拙がポイント

プラットフォーム黎明期は、利用者層の多くはマニア層(イノベータ+アーリーアダプタ)ですから、IP(キャラクタ)のパワーよりも、ハードウェアの特性をよりうまく生かしたゲームが流行ると考えています。

パズドラ登場時、何かしら著名なキャラクタは存在したでしょうか。厳然として存在していたのは、スマホというハードウェアを活かした圧倒的なゲーム造りでした。イタリア系のヒゲの水道管工が登場当初から圧倒的キャラクタパワーをもっていようはずもありません。あくまでハードウェアの性能をとことんまで考え抜いたゲーム設計がスーパーマリオブラザーズの勝因だったのです。

その意味では、VRも当初はいかにVRの技術的性能やそもそもの意味合いを突き詰めて考えられるかどうかが、勝敗の分かれ目になると考えています。IPを持っている方が有利であることは言うまでもありませんが、それが決定的要因になることはないでしょう。もちろん数年後、VRにもレイトマジョリティ層が台頭してくるようであれば、IPが再び決め手になってくることは言うまでもありません。

換言すれば、VRに遅れてきた一般層であるレイトマジョリティ層まで入ってくるようになれば、VRはゲームのみならず今のテレビさえも代替するような存在になるかもしれません。極端な話、自宅も極小で十分であり、「VR空間上に大豪邸を構えればOKだよね」と考える人さえ出てくるかもしれません。


 
■2017年もゲーム業界にとっては面白い年になるだろう

2016年は、スマホについては成熟期への転換点(=レイトマジョリティ層の台頭)であり、VRについては実質的な一般向け販売の初年度(=イノベータ層の登場)でした。そして、2017年は、スマホについては成熟期のど真ん中を進み(=レイトマジョリティ層が主役)、VRについては立ち上がるかどうかの分岐点(=アーリーアダプタが入ってくるかどうか)の年になると考えています。

株式会社ソーシャルインフォは、2017年も引き続き良質なコンテンツを皆様にご提供してゆきたいと強く考えています。引き続いてのご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。


 
株式会社ソーシャルインフォ
代表取締役社長 長谷部 潤