【インタビュー】​「最大の目標はサーヴァントを愛してもらうこと」…『FGO』デザイナーチームが持つ独自の考えを訊いた


配信から1周年を迎え、800万ダウンロードを突破しているTYPE-MOONが贈る、スマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』。今回は『Fate/Grand Order』を企画・開発・運営するディライトワークス株式会社でデザイナーとして活躍する増川浩介氏と島野伸一郎氏にインタビューを実施した。『Fate/Grand Order』の制作に携わるデザイナーはどんな思いで制作を進めているのかを聞いてきた。
 

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ディライトワークス株式会社
デザイナー
増川浩介氏(写真右)
島野伸一郎氏(写真左)

 

■とにかくクオリティにこだわる制作現場

 
――本日はよろしくお願いします。早速ですが、お二人がディライトワークスに入るまでの経歴について教えてください。
 
増川氏:私は前職が同じ職場だった方に声をかけてもらったことがきっかけで転職しました。ゲーム創りに集中できる環境があると感じたのと同時に、新しい会社を自分たちで育てていく経験ができるのは非常に貴重だと思ったことも大きかったですね。

島野氏:私は前職、前々職はコンシューマ系の会社に勤めておりまして、いずれもデザイナーとしてゲームの開発に関わっていました。その過程で、自分がやりたいことを追求したい気持ちが強くなったため転職を考え、見つけたのがディライトワークスでした。
 
――ということは、どちらも以前からゲームの開発を経験していたのですね。
 
島野氏:そうですね。私の場合は社会人になったときからずっとゲームに携わっていて、コンシューマやアーケード、その途中には遊技機の開発も行っていました。
 
増川氏:私はフィーチャーフォン向けのアプリを作っていた会社から始まり、そこで2Dに関することを多く学びました。UIからキャラクター、マップ、エフェクトと一通り経験することができました。

 
――島野さんがディライトワークスに入社することになった決め手はなんだったのですか?
 
島野氏:ひとつのポイントとなったのが、私が応募した当時、設立して2年に満たない会社であったことです。以前の会社は社員の数も多い大企業で、次も安定した会社が良いと最初は思っていました。しかし大きな会社ゆえの制作以外の仕事への時間の使い方に感じるものがありました。そのため、今度は自分の意志が素直に反映できる、制作に集中できる会社がいいと考えました。ディライトワークスのような若い会社であればのびのびと制作ができますし、体制の足固めにも貢献できると思ったのです。
 
――お二人ともコンシューマ系の会社を経験しているとのことですが、ほかのデザイナーも同じような経歴を持つ人はいるのでしょうか。
 
増川氏:もちろんコンシューマを経験しているベテランのスタッフもいますが、ほかの部署に比べると全体的な年齢層が低く、ほかのソーシャルゲームでイラストを担当してきた人も多いです。あとはアニメ業界で撮影監督を務めていた人もいたり、他業界から転職してきた人もいたりしますね。

――デザイナーといっても業務内容はさまざまだと思いますが、お二人はどのようなものを制作しているのですか?
 
増川氏:私は2Dのパートを担当しています。初期のころは本当に人が少なく、特に2Dキャラクターを描けるスタッフがいなかったため、バトルシーンのキャラクターデザインを担当しました。今は人数も増えたのでセクションリーダーという形でチームのマネージメントをしています。
 
島野氏:私のほうは背景やエフェクトを含む3Dのパートを主に担当しています。

 
――デザイン面ではTYPE-MOONさんのチェックも当然入ると思いますが、ディライトワークスさんなりに、世界観を守るためのこだわりはありますか?
 
増川氏:サーヴァントとよばれるキャラクターたちは全員が主役級の特別な存在で、TYPE-MOONさんも私たちもものすごく大事にしているところです。キャラクター性を損なわないよう見た目から動き、エフェクト、効果音にも気を配りながら制作しています。
 
島野氏:社内でもクオリティを第一優先に考えています。スケジュールや予算との兼ね合いもありますが、それを言い訳にクオリティを落とすわけにはいきません。そのためキャラクターを制作する際のミーティングでも工数の削減などの話はしません。「どんなものを作りたいか」を徹底的に話し合うようにしています。どうすれば良くなるかをイメージした上で実作業に入り、そこからどんな工程を踏めばスムーズに作業できるかを考えます。

 

――CEDEC 2016の講演でも塩川さん(FGO PROJECT クリエイティブディレクターの塩川洋介氏)が、奈須きのこさんが描く世界観や物語、キャラクターが最大の魅力だと語っていました。
 
島野氏:『FGO』はユーザーさんにサーヴァントを愛してもらうことが最大の目標であり、それは塩川も私たちも変わりません。キャラクターを引き立てるためにはモーションだけでなく背景も欠かせないですし、すべてのパートで気を抜くことはできません。例えば、どんなにサーヴァントのグラフィックに力を入れても、背景が適当だと世界観は一気に壊れてしまいます。サーヴァント以外の部分も大切な要素として描き込んでいます。
 
増川氏:たくさんのキャラクターが出てくる作品は、テンプレを作り更新していくのが普通だと思います。しかし私たちはモーションを非共通化し、すべてオリジナルのキャラクターとして制作しています。ときには特殊なモーションを作るためのシステムそのものから作るケースもあり、毎回プログラマーも巻き込んでの開発になっています​。

 
――モーションの非共通化というとデザイナーとしても相当大変な話だと思います。その中で、デザイナー側から「こんな動きがいいのでは」と提案することはありますか?
 
増川氏:基本的には、まずはTYPE-MOONさんから絵コンテをいただき、それを元に私たちが制作します。ただ細かい動きになると「このパーツにこんな動きをさせると全体を再現できます」とか、「絵コンテのままだと見栄えが良くないので、やり方を変えたい」といった提案をすることもあります。
 
――TYPE-MOONさんとやりとりを繰り返す中で、こだわりを感じる機会はありましたか?
 
増川氏:それは常にあります。以前、特定の動きの中で一瞬だけ背中を見せたいという要望をいただいたことがあります。しかし当時は背面パーツ自体が存在しなかったため制作することになったのですが、背中といっても1枚の絵だけでは終わらず、それにつながる肩や腕も作らなければいけません。ほんの数フレームのためにこれほどのこだわりを見せるのはTYPE-MOONさんならではと思いますし、私たちも可能な限り応えられるよう努力しています。
 
――こだわりを持って見てくれると、苦労もある分クオリティも上がりますよね。
 
増川氏:いただく要望に間違いはないので、とても信頼しています。言われたものを形にすると、本当に良いものが出来上がるので、いつも驚かされます。

 

■『Fate』シリーズの知識も大きな武器に

 
――:現在御社では、新しい人員を募集しているとのことですが、どのような人物像を求めていますか。
 
増川氏:とにかくゲームを作りたい人ですね。イラストを得意とするデザイナーからの応募では、ゲームを作るよりもイラストで有名になりたいという人が多いように感じます。もちろんそれ自体は立派な志なのですが、まずはゲームのためにイラストを描けることが大事だと思います。どの分野でも、面白いゲームを作るという共通の意識を持って動ける人を求めています。
 
島野氏:ゲームが好きなことはもちろん、情熱を持ってゲームに接してくれる人だと嬉しいです。基本的にはその人が得意とするパートで働いてもらいますが、それでも持っていないスキルを求めるケースは出てきます。場合によっては違うパートを補助してもらう可能性もあります。そうなったときでも情熱を持って取り組めなければ、活躍するのは難しいです。「できない」と思ってしまったら、その瞬間から本当にできなくなってしまうんです。

 
――:では現在のスタッフにも、情熱を持った人は多いのですね。
 
島野氏:そうですね。常に自分のできる範囲を広げようと考えたり、新しい企画が立ち上がったらすぐに興味を持ったりと、好奇心旺盛なスタッフが多いと思います。
 
――:入社後に希望に沿った業務をできるチャンスはあるのでしょうか?
 
島野氏:毎日同じものを制作しているわけではなく、必ず新しいチャンスを与えるように努めています。
 
増川氏:現在はスタッフがまだまだ少ない状態で、『FGO』というタイトルを開発・運営するにはもっと多くの仲間が必要です。しかし人数が増えてくれば、「ほかのプロジェクトに参加したい」などスタッフそれぞれの要望を反映した仕事を与えられるようになると思います。

 

――:スキルや技術の面では、あると役立つものはありますか?
 
増川氏:キャラクターで言えばパーツごとのアニメーションを制作した経験があればすぐに活躍できます。テクスチャに関してはFlashやSpriteStudioなどで動かしたことがあると、馴染みやすいです。また3Dで動かすよりもリミテッドアニメが好きという人のほうが、理解も早いかと思います。
 
――:ゲームだけでなくアニメーションの技術も役立つと。
 
増川氏:TYPE-MOONさんからもアニメ的な演出を求めてられることが多いですし、手法は問わずに最終的な見た目を2Dアニメーションに寄せていきたい考えがあります。ゲームでもアニメーションでも、2Dに関わっているとありがたいですね。
 
島野氏:3Dでは、Mayaなどを扱えると仕事もすぐに慣れると思います。あとはゲームに実装することを見越して、Unityのスキルも持っていると大変ありがたいです。


――:『Fate』シリーズやTYPE-MOON作品に詳しいと、その知識が業務に役立つケースもあるのですか?
 
増川氏:キャラクターひとつとっても「TYPE-MOONらしさ」が求められますし、新キャラクターだと「Fateのキャラクターならこういう動きをするだろう」といった想像力が力になります。知識があるだけでも作り方にかなりの差が出てくると思います。
 
島野氏:例えばサッカーゲームを作るとなったときでも、そもそものルールや選手を知っていなければわからない部分が沢山出てきますよね。それと同じで、TYPE-MOON作品に対する知識は基礎として役立ちます。だからといってそれが絶対でもありません。『Fate』に馴染みがなかったとしてもカバーできるだけのスキルや情熱があれば充分活躍できます。​
 

――:サポートの面で特徴的な点はありますか?
 

増川氏:仕事をする場ではなるべく慣れ親しんだ機材を使ってもらうようにしています。人によってペンタブレットでも通常のものと液晶とで好みが分かれますし、モニターを2台使用したほうが作業しやすい人もいれば1台の方がやりやすいという人もいます。すべてを叶えられるわけではありませんが、できるだけその人に会った機材を準備し、能力を最大限発揮できるようにしています。
 
島野氏:新入社員に用意するPCには、その時点で最高のグラフィックボードを載せています。マシンの影響で能力を発揮できないのは困りますからね。逆に言えば、マシンの性能を言い訳にはできない環境でもあります。それだけ良いものを揃えてもらっているので、モチベーションも上がりますね。

 
 
――:わかりました。では個人でもデザイナーチーム全体としてでも構いませんので、今後の目標があれば教えてください。
 
島野氏:ディライトワークスの開発チームは人を増やして、制作を強化していきたいと考えています。私自身も実務を行う傍ら、新しいスタッフにも目を配り、クリエイターとして成長させていきたいと考えています。
 
増川氏:どんな案件が来ても「任せてください」と言えるチームを作っていきたいですね。そして最終的には、新たなIPを作りたい気持ちもあります。自分たちで生み出す経験も、いつかはしてみたいですね。​
 

――:ありがとうございました。

 

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ディライトワークス株式会社
https://delightworks.co.jp/

会社情報

会社名
ディライトワークス株式会社
設立
2014年1月
代表者
代表取締役 庄司 顕仁
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