【連載】岩野Pの「なれる!プロデューサー」 - 第8回「プレゼンが苦手な人にオススメなプレゼン法」


『乖離性ミリオンアーサー』や『アリスオーダー』など、数々のスマホゲームを手掛けてきた、スクウェア・エニックスのプロデューサー・岩野弘明氏。同社に勤務してから10年以上もの歳月が経っているが、そんな彼にも新人時代があった。上司や先輩に教わったこと、成功や失敗から得たこと、様々な経験を経て今がある。この連載は、岩野氏がプロデューサーになるまでの道のり、その後に直面する幾多もの気付きを形にしてくれた、自叙伝。
 

■第8回「プレゼンが苦手な人にオススメなプレゼン法」


こんにちは!正月休みを利用して『ファイナルファンタジー15』をようやくクリアしました。ネタバレになるので詳しく書きませんがエンディングで盛大に涙してしまいました。自社のゲームなので宣伝っぽく見えてしまいますが、はじめてゲームで涙するくらいメインの4人のキャラ達に引き込まれたので気になる方は是非プレイ(できればクリアまで)してみてください。笑

さて、本題ですが今回は2011年の頃について触れていきます。

<2011年>
『拡散性ミリオンアーサー』のプロジェクト発足。実は立ち上がるまで1年くらいかかっています。ゲーム内容も紆余曲折。さらにプリプロダクション(テスト期間)から本プロダクションに移行する際に仕様をガラッと変えています。この年は他にも『星葬ドラグニル』『ソングサマナー2』などのプロジェクトも立ち上げています。
 

■提案資料の作り方とプレゼンのコツ

 
それまでいくつかプロデューサーとして担当した企画はありましたが、自分らしさ前回で自分で一から立ち上げた企画というのは『拡散性ミリオンアーサー』が初めて。それだけに気合も入ったのですが、その結果それまで担当したタイトルとは比にならないほどの予算が必要となりました。そうなると企画立ち上げの難易度は当然高まります。

というわけで、まだまだ提案初心者だった僕でもなんとか形になるように、提案書作りとプレゼンの仕方について徹底的に上司に教え込まれたのですが、自分でやってみてかなり実践しやすい方法だったので、今日はその方法について書いていきたいと思います。

※今回お伝えするのは、あくまで提案に慣れていない状態の方向けのオススメ方法です。提案に慣れてくれば人それぞれやりやすさは異なると思いますのでご注意を。
 
 

■初めて企画を立ち上げる際のポイント


その前に、提案に慣れていないということは企画を考えること自体慣れていないと思うので、その際の考え方からお伝えしたいと思います。

プロジェクトの規模は現実的に可能な範囲にとどめる。最初はコンパクトな企画が吉。

手練れの人間でも風呂敷を広げすぎれば対処しきれないのに、ペーペーではとても無理。自分の能力とできる範囲を冷静に把握し現実的な計画を立てないと、途中でとん挫する可能性が高いでしょう。

実は『拡散性ミリオンアーサー』も最初はPC向けのアクションMMOという企画内容で、さらにメディアミックスも同時に展開、と今考えるととてもじゃないけど現実的ではない内容でした。そもそもアクションMMOを作ること自体難易度ベリーハードなのに、同時にメディアミックスとか、火傷するのが目に見えてますね…。


当然上司にダメだしを食らいまくったので、色々調整した結果当時ハマっていた『ブラウザ三国志』みたいな領地奪い合いゲームという形に落ち着きました。実は『拡散性ミリオンアーサー』はプロジェクト立ち上げ時はカードゲームではなかったのでした。(テスト段階で仕様変更を決断し、最終的にシンプルなカードゲームに落ち着くことになります)

 

■プレゼンのポイント


提案の内容が固まったらいよいよ企画会議でプレゼンです。弊社の企画会議では社長を含めた役員の方々に対してプレゼンするため慣れるまでは結構緊張します。僕も初めての提案の際は心臓バクバクだったのですが、最初からプレゼンをちゃんとできる人などほぼいません。もうこれは場数を踏んで経験から勘所を拾い上げていくしかないのですが、それでも何も準備をしないと何言ってるかわからないプレゼンとなり大失敗です。なので、プレゼンに慣れていなくてもそれなりに形になるようなポイントを挙げてみます。

・とりあえず提案書を読むことに集中する
 →でもただ提案書読むだけではテンポも悪く聞く方も興味がそがれる。
  そこで提案書の書き方に工夫が必要(ポイントは後述します)。
・とにかく要点だけ伝える。細かいことはどうでもいい。聞く方も気になることがあれば質問してくる
 →質問されそうなことは事前に予想して準備を万全にしておく。
・短い文章で話す
・マイクがあっても使わない。大きな声を出せば自信があるっぽく聞こえる
・プレゼンの練習は事前に何度もしておく


プレゼンに慣れてないとやってしまいがちなのが「うまいことしゃべろうとする」ということ。ただ、大体途中から自分で何を話しているのかわからなくなりグダグダになります。聞いている方としては何を言っているのか全く分かりません。

また、その場の状況を読み取れず提案書を読むことに精いっぱいになってしまい、聞く方としては「さっさと進めてよ」という雰囲気にもなりがちです。

なお、上記で「提案書を読むことに集中する」ということをポイントに挙げていますが、これは「提案書を読むことに精一杯なのであれば、いっそそれを逆手に取ってしまおう」というもの。提案書を簡潔な内容にした上で、それをプレゼンの台本にしてしまえばいいのです。

プレゼンに不慣れであっても、とにかく伝えたいことを伝えられれば提案の第一段階突破なので、まずはそこをクリアしましょうというのが今回お伝えしたいことです。

 

■提案書作りのポイント


次にプレゼンの台本、もとい提案書作りのポイントです。そもそも提案の際に提案書は使わない、という人もいるでしょうし、また作るにしてもフォーマットは様々だと思いますが、今回はパワーポイントを使う場合の想定で書きます。

・1ページの情報量は極力少なくする
 →見やすくなると同時に、話す方も余計なことを言わなくて済む。
  ページ数が多くなっても仕方ないくらいの感じで。
・1ページの中に書くことは基本的に1つの話題に絞る
 →伝えたいことが明確になる。
・絵多め
 →文字より絵の方が見やすい。
・文字は少なめに、大きく表示する
 →文字が小さく多いと読む気がしない。
・ページ間に関連性を持たせる(そこで〜、なので〜、という形で次のページに)
 →提案書を読んでいればそれがそのままプレゼンになる。

とにかく要点を絞り情報量を少なくすることで、プレゼンする側は正確に伝えたいことだけを伝え、受ける側は提案内容を理解しやすくするということが狙いです。

また、プレゼンのポイントの方でも書いたとおり、最初は提案書を読むことで精一杯なので、そうなったとしても余計なことを言わず、テンポも悪くならないようにするためのコツでもあります。

僕もそうだったのですが、提案書を作りなれていない人の多くに、文字が多くなるという特徴があります。あれも伝えなきゃこれも伝えなきゃと考えてのことかと思いますが、良かれと思って書いても悲しいことに書けば書くほど読んでくれません。文字が多いと読む気が失せるからです。

そもそも、会議というものは議題が一つとは限りません。企画会議においても提案が複数あることの方が多いです。会議が長引けば聞く側の集中力もずっと高く保つのは難しいかもしれません。提案をする相手がそういう状況で提案を聞いているということを想像し、自分だったらどうだろうかと考えて聞きやすい、見やすい提案にすることで成功確率は高まるのではないでしょうか。

提案を承認してもらうためには、提案内容を正しく理解してもらい判断してもらう必要があります。場数を踏むとシチュエーションごとに承認者がどういったことを気にしているのかを想像したり、また提案の場の雰囲気に応じて話す内容を調整したりできるようになるのですが、不慣れな状態ではそれも難しいです。そういう方におかれては今回お伝えした内容が少しでも役立てばうれしいなと思う次第です。

実はもう少し書きたいことがあったのですが、ちょっと長くなったのでこのくらいにします。 ではでは今日はこの辺で!



P.S.
『幼女戦記』というアニメが面白いです。タイトルだけ見るとなんだかロリロリしい作品のように見えますが違います。確かに主人公は幼女なのですが、その中身は別世界から転生してきたサラリーマンのおっさんです。つまり、幼女の皮をかぶったおっさんです。

実はこのおっさん、仕事ができない人間は容赦なく首を切る感じの冷酷だけど優秀なサラリーマンで、その意識を保ったまま幼女の体に転生したものだから、頭脳的には強くてニューゲームみたいな状態。

そんなおっさん幼女が、魔法が存在する世界で魔導兵士として活躍するお話です。訳あってすさまじい魔力も持っており、幼女なのにめちゃくちゃ強い!幼女TUEEEE!となる作品。残虐な表情を浮かべて無双する幼女(おっさん)のギャップに酔いしれてしまうこと間違いなしです!

 

■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki


■バックナンバー

第7回「IPタイトルプロデュースで大切なこと」

第6回「オリジナルのゲーム作りで大切なこと」

第5回「失敗の新体験が成功のチャンス」

第4回「どうしたら企画が通るの?」

第3回「ゲーム開発、内製と外注どっちがいいの?」

第2回「いまいち今の仕事が好きになれないあなたに」

第1回「2006年4月、スクエニ入社」
 
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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