【セミナー】「Unity Adsミートアップ」取材 動画広告や海外展開など気になるゲームアプリ市場の動向を赤裸々に語る…開発会社が次に目指すのは

2017年1月25日、東京・渋谷にてユニティ・テクノロジーズ・ジャパン開催の勉強会「Unity Adsミートアップ #08」が開催された。

「グローバルで活躍するデベロッパーに聞く アプリ開発で大事にしていること」をテーマに、さまざまな国で好評を博すタイトルを生み出したクリエイターが登壇した。

 

■ゲーム内動画広告の需要について



勉強会の冒頭に、ゲーム内ビデオ広告 Unity Adsの日本統括ディレクター 金田一確(きんだいち かく)氏が、国内デベロッパーにおける海外展開の動向を説明した。

同氏によると、日本のデベロッパーによるUnity Ads収益額トップ20タイトルのうち、海外収益が20%以上を占める作品の割合は「2本に1本」だという。国内での収益を上回るケースも見られ、海外展開が大きな利益をもたらす可能性を示した。​



成功例の多い進出先としては台湾を挙げた。文化的に親和性が高く、ゲームの傾向が近いことが成功の理由だ。しかし、「打率は高めだが、収益額は日本の方が大きいケースが多い」という。一方、「当たると大きい」と評価されたのが中国だ。中国語にローカライズされていなくとも、英語対応のみでヒットしているタイトルもある。

Androidの利用が禁止されている中国だが、Unityは今年、Xiaomi(小米)でのパブリッシングを目指しているとのこと。Unity IAPもXiaomiのストアに対応する予定だという。実現すれば、中国市場でUnity Adsによる収益、あるいは、ゲーム内課金による収益の増大を期待できる。進出先を検討する上で今後大きなファクターとなるだろう。

 

■昭和の日本を舞台にしたゲームが海外でスマッシュヒットした理由



さて、最初のセッションでは、GAGEX 井村氏(写真左)と2D Fantasista 渡辺氏(写真右)が登壇した。両氏は、昭和の駄菓子店を舞台にした純和風の育成ゲーム『昭和駄菓子屋物語』と、その続編である『昭和駄菓子屋物語2』を開発したクリエイターだ。

2014年8月に公開された1作目は累計300万ダウンロード、2016年2月公開の2作目は累計200万ダウンロードに上った。国別に見ると、シリーズ累計ダウンロード数の約半分(47%)を中国が占め、以下、日本と台湾が同程度(それぞれ14%)、タイ、韓国と続く結果となった。
 
 

マネタイズの面では、2作目でリワード型動画広告が新たに採用されている。井村氏によると、「海外の方が動画の収益比率が高い」とのことで、特に中国で成果が出ているという。レビューでもリワード型動画広告は好評で、「マネタイズの圧迫は小さいゲームだが、しっかりと収益源にできている」と語った。





ローカライズは繁体字(台湾向け)、簡体字(中国向け)、韓国語、英語に対応しているが、「知り合いのツテを頼って翻訳者を探し、1件数十万円でやってもらった」と、実情を明かした。翻訳の精度を保つため、時にはGoogle翻訳を利用してダブルチェックできる体制にしているという。海外進出には付き物の「言語の壁」を上手く乗り越えることができたケースと言えるだろう。

ディレクションとプログラムを担当した渡辺氏からは、ローカライズにおける技術的なポイントが説明された。

『昭和駄菓子屋物語』シリーズの開発環境は、言語毎にリポリトジが分けられている。これは、ゲーム内に文字が書き込まれたグラフィックが多数存在したため、「ひとつのバイナリで全言語データを持つのは現実的ではない」という判断によるものだ。多言語対応が予定されている場合は、最初からリポリトジを分けておくことで、アプリサイズを小さくすることができるなど、技術的な工夫が紹介された。



表示内容と各言語での表記については、表示内容ごとにIDが振られ、表記と文字数が紐付くように構成されている。これを基に、Unityエディターでテキスト欄にIDを入力し、実行時にスクリプトで文字列に変換するように設定されている。フォントは言語毎に異なるものを使用しているため、変換用のコンポーネントも併せて動作しているとのこと。

ここで渡辺氏は「アジア圏のフォントは(データ量が)でかい」と、ローカライズならではの問題を指摘。「1つのフォルダに全言語をまとめるとアプリサイズが肥大化してしまう」といい、この点からも、リポリトジを分けておくことの重要性を強調した。

最後に渡辺氏は、UnityのAsset Bundleの可能性に言及した。『昭和駄菓子屋物語』シリーズでは、前述のとおり、画像として文字を保持していることが多い。渡辺氏は「本来はそうしない方がローカライズしやすい」としつつも、「こだわりポイントでもあり、譲ることができない」といい、地道に画像を修正してきた、と苦労をにじませた。この課題を解決するため、アセットを1つにまとめてエクスポートできるAsset Bundleを組み込んだ仕組みの開発を示唆し、「ローカライズを意識した作り」の必要性を語った。

 

■台湾ゲーム事情 ビジネスチャンスに溢れているのは何故か



SummerTimeStudio 代表取締役社長 CEO 弘津健康氏のセッションでは、開発拠点としての台湾・高雄市の魅力が語られた。SummerTimeStudioは、スマートフォン向けゲームアプリを専門に開発、運営する企業だ。社名が示す通り、本社は沖縄県にあり、昨年には台湾オフィスが開設された。

台湾オフィスは、台湾第二の都市である高雄市にある。設立のきっかけは、2015年に高雄市が開催したインディーズゲームの展示会「Game On Weekend」に同氏が基調講演として登壇したことだった。登壇の翌月には、全社を挙げて高雄市で1ヶ月にわたる開発合宿を行い、それから半年も経たないうちに高雄でオフィス設立となった。社内で移住希望者を募ったところ、多数の立候補があり、その全員が台湾オフィスのメンバーとなったという。



弘津氏によれば、高雄市は「横浜に似ている」都市とのこと。鉄道やバスなどの公共交通機関のPRにアニメーションが採用されたり、日本と同じようにスマホゲームの広告が街のいたるところに掲載されている。最近では、台湾の現総統である蔡英文氏が、自身をキャラクター化して選挙キャンペーンを行うなど、デジタルコンテンツと「萌え文化」への理解がかなり進んでいるようだ。

台湾政府はデジタルコンテンツビジネスに注力しており、高雄市は政府が積極的に投資を行う重要拠点とされている。そのため、高雄市経済発展局が運営するインキュベーションセンター「DAKUO」をはじめ、セミナー会場やイベントスペースといった施設が充実している。また、イベントや展示会に出展すると、「政府から補助金が出るケースもある」と弘津氏は言う。台湾政府にとって、デジタルコンテンツは外貨を得るための投資であり、このような支援が非常に積極的に行われているそうだ。

人材という面でも台湾は恵まれている。台湾の若い世代は、日本のコンテンツに幼少期から触れて育ったため、日本の感性にかなり近いセンスを持っている。しかし、台湾の大卒就職率は70%にとどまっており、ゲーム系・デジタルコンテンツ系の就職先が不足しているという。つまり、「優秀な若い人材が、日本を含む外資系企業での就業を求めている」状況なのだ。



現地の初任給は14万円ほど。台湾のインターン学生と日々接する弘津氏は「起業・自立志向が強いが、協調性のある人が多い」という印象を述べた。一方、ゲーム業界経験者もまた、台湾に集まっているという。海外で経験を積んだ台湾人クリエイターたちが、アジアのVR市場を目指してUターンしてきているのだ。中には、米国SONY出身者もいるなど、世界レベルの人材と出会う機会がある。

ビジネスチャンスに溢れる台湾だが、現地の暮らしはどのようなものなのだろうか。既に台湾で1年を過ごした弘津氏は「健康になりながら、ゲーム開発ができています!」と、明るく話した。比較的物価が安く、1食100元(約370円)ほど。日本食のディナーでも280元(1,000円前後)だ。住居は、家賃約35,000元(13万円弱)の4LDKを4人でシェアしているとのこと。家具付きの物件で、前述のDAKUOまで徒歩10分の近さだという。



弘津氏は「起業には、日本よりも台湾の方がやりやすい」と、その魅力を力説した。今後は、台湾というロケーションも選択肢に入れ、開発作業の海外展開を考えてみても良さそうだ。

記事の後半では、個人デベロッパーによる大ヒットアプリ『TIME LOCKER』の講演について取材。

 
(取材・文:Pick UPs! 神谷美恵<Twitter>)
株式会社SummerTimeStudio
https://www.summer-time-studio.com/

会社情報

会社名
株式会社SummerTimeStudio
設立
2011年6月
代表者
代表取締役社長 弘津 健康
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ユニティ・テクノロジース・ジャパン

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