【CECED2017】制度的枠組みに関する知見を交え、国際カジノ研究所の木曽氏が語ったカジノとeSportsの未来


 
8月30日開催の「CEDEC2017」にて、国際カジノ研究所の木曽崇所長(写真)による講演「カジノIR、及びeSportsを含む賞金制コンピューターエンターテインメントの現状と未来について」が行われた。

「私はギャンブル業界では知られていますが、ゲーム業界だと個人よりも事象としてご存知の方が多いかもしれません。昨年、eSportsで高額賞金が出せなくなりましたが……その時のあいつです(笑)」と、木曽氏はユーモアを交えて自己紹介した。2016年9月に消費者庁から開示された景品表示法の賞金制大会に対する法令適用解釈。“eSportsショック”と呼ばれた“あの事件”の当事者である木曽氏が、賞金制大会にまつわる様々な制度について解説した本公演の模様をお届けする。
 
賞金制eSportsに関連する法と制度として紹介されたのは、刑法賭博罪、景表法、風営法、そしてIR実施法(案)。始めに刑法賭博罪について。“参加料を徴収して賞金制大会を行うことは違法なのか?”という問いに対して木曽氏は「ただちに違法とは限らない」とし、いくつかの例外があり得ると説明した。



1万円程度以下の日用品を賞品として提供したり、「賭博っぽい感じがするけど男気じゃんけん」(木曽氏)など、飲食等の支払いを賭けることは罰されないという。また、「そもそも賭博の定義に当てはまらなければいい」と木曽氏は言う。その定義とは、

(1)偶然の勝敗により
(2)財物・財産上の利益の
(3)得喪を争うこと

であり、この3つの要件で1つでも回避された場合には罪として成立しないそうだ。木曽氏は、(1)の要件を回避するのはゲームでは難しいとし、(2)と(3)の要件をなんとかクリアするべきだと説明する。財物・財産上の利益とならないものとは、流通価値はないので「利益」とはならないが、参加者にとっては非常に価値のあるもの。代表例として木曽氏は、「プレイヤー間のアイテム交換機能のないゲームにおけるレアアイテム」を挙げ、「ただし、交換機能がある場合は、私でも判断が難しい」と補足。また、ゲームでは交換できないが、第三者市場で金銭取引になると厳しいとも加えた。

レアアイテムではなく仮想通貨の場合はどうだろう。木曽氏も同様の質問はこれまでに良く受けてきたそうだが、ビットコインを始めとする仮想通貨は、2016年の資金決済法の改定により準通貨として定義付けられたため、「もう逃げられない」(木曽氏)とのことだ。財物・財産上の利益とならないものとして、逃げ道があるとすれば、プレイヤー間のアイテム交換機能のないゲームのレアアイテムというわけだ。

もうひとつの“得喪を争わないもの”。得喪を争うとは、プレイヤー同士が“獲得”及び“喪失”を争うもので相互性の必要が必須条件となる。ここで、得喪性を回避する事例が紹介されたが、「ここがゲームの一番目指すところです」と木曽氏。回避事例として、まず参加費無料で、第三者(スポンサー等)から賞金が拠出される場合。これはプレイヤーが損をしないため回避できるようで、囲碁、将棋の賞金制大会がそれにあたるとのこと。

もうひとつは、ゲーム参加にあたってプレイヤーから適当な金額の参加費は徴収するが、それらは運営費として消費され、賞金は大会運営者と異なる第三者から別途拠出される場合。これについて木曽氏は、「プレイヤーによる参加費の支払いは、サービス享受の対価と解され、損はしない」とし、ゴルフの賞金制大会を現存する具体例に挙げた。


▲刑法賭博罪との関係のまとめ。木曽氏は「eSportsではいくつかできるケースもある」とした。


続いて、木曽氏によって紹介されたのが消費者の保護を目的とした景表法。景表法における景品の定義は、

(1)顧客を誘引するための手段として
(2)事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する
(3)物品、金銭その他の経済上の利益

​で、上記3要件の1つでも外れれば、法には引っかからないそう。一般懸賞に対する規制では、懸賞による取引価格は、5000円未満なら最高額は取引価格の20倍、5000円以上なら最高額は10万円となっており、どちらのケースも総額については、懸賞に係る売上予定総額の2%。それなのに「数千万円を出す大会はいけない」と木曽氏は言う。


▲民間企業等国民が、事業活動に関係する具体的行為が特定の法令の規定の適用対象かを、あらかじめ当該規定を所管する行政機関に確認できる“ノンアクションレター制度”も紹介。


ゲーム種と景表法景品規制はどのようなものになっているのか。この件の論点は、景品が顧客誘引の手段となっているかどうかで、木曽氏は「有料プレイヤーが大会において有利になるかどうか」がポイントと語る。

家庭用ゲーム、アーケードゲームの場合は、売り切り、もしくは都度払いで提供される多くゲームは、技術向上のためにゲームを購入するか、繰り返しプレイするための課金等が必要。そういった有料プレイヤーに対し、ゲームを買っていない、繰り返しプレイしていない人はゲームで勝てないため、いまの消費者庁の判断では当てはまってしまうという。木曽氏曰く、「麻雀や囲碁、将棋といった既存ゲームをデジタル化したもの」ならば、有料プレイヤーが必ずしも有利とは限らないため、逃げられるかもしれないとした。

「この種のゲームは、家庭用やアーケードとは違うビジネスモデル」(木曽氏)というのが、スマホゲームとPCゲーム等。

売り切りや都度課金のものは、原則的に家庭用やアーケードと同じだが、基本プレイ無料でスタミナ制、アイテム課金の場合はどうか。基本プレイ無料のスタミナ制では、例えばレベル性のゲームではあるが、大会参加者全員が同じ要件(レベル)で競技を実施するなど、「課金プレイヤーが必ずしも有利にならない」といえる場合は回避できる可能性があるという。そして基本プレイ無料のアイテム課金制は、例えば大会は参加者全員が同じアイテムを保有し競技を実施する場合(カードバトル系ゲーム等なら、競技者全員が同じカードプールからデッキを選択し、競技を行う)など、ゲーム結果に影響を与えないアイテムや、ゲーム結果に影響を与えるアイテムだとしても、課金プレイヤーが必ずしも有利にならないと言える場合は回避の可能性があるとのこと。

木曽氏は「eSportsを前提に考えるなら、これらをクリアしたゲームを作り、方便を成り立たせるといい」とアドバイスした。


▲取引付随性の回避についても紹介された。
 
次に木曽氏が触れたのが、風営法による賞品規制。


じつは景表法以外にも、風営法も賞品提供規制を持っているとのことで、まず紹介されたのが、eSports施設と風営法の関係。

仮設・常設でも、無料であれば儲けの対象にならないため風営法規制対象外となる。木曽氏も「風営法から確実に外れるのは、参加費無料のゲーム大会」という。問題は、何かしらお金を取る有料の場合。2日以下の連続開催の大会は仮設と判断され規制対象外となるが、1泊2日以上の連続大会となると、常設と判断され規制対象となる。また、2日以下の連続大会であっても、6ヶ月に1回以上の割合で繰り返し開催される場合、その大会は規制対象となるという。

そして常設の場合、「取り扱うゲーム種で異なる」と木曽氏。例えばeSportsカフェは、ネットカフェと言えるかもしれないが、アーケードゲーム、家庭用ゲームなど、液晶画面を通じてゲームさせる施設になるため、eSportsカフェというていでも規制対象に。また、携帯ゲーム、スマホゲームなど、来店客がその場に持ち込んでやるものは営業者が提供しているものではないので規制対象外になる可能性もあるという。そのほか、汎用PCゲームの場合や、ゲーム観覧(映像、リアル)、店員が一緒にゲームをするなどのシチュエーション別の規制対象の有無についても語られた。


▲店員が一緒にゲームをするのは接待にあたり規制対象だが、ゲームを教授する場合はシミュレーションゴルフを例に「教えています」というていが整っていれば逃げられる場合もあるとした。

 
最後に紹介されたのは、IR実施法案。これは「2016年12月に成立した我が国の総合型リゾート購入を推進するIR推進法に後続する法案で、我が国のカジノの具体的な統制制度を示すもの」と木曽氏。そして現時点では、「政府会合でその法制案が示された段階であり、確定したものではない」と補足した。


▲ちなみに現在までの論議では、国内当初2~3区域の導入、1区域、1施設、1事業者などの項目があがっている。

そこで気になるのが、日本版カジノで提供されるゲームだ。現時点で決まっているのは以下の事。

・事業者がその公正な実施を確保することができる行為
・カジノ施設内でのみ実施される行為
・偶然の勝負に関し参加者が賭けを行う「賭博」に該当する行為を基準にカジノ管理委員会が社会通念上妥当と認めたものを定める


▲ただ、現在までの論議では、単純な顧客同士の賭けや、スポーツベッティング等他者が実施する競技を賭けの対象とすることなど、5つの項目が不可となっている。
 
また、eSportsとカジノゲームの兼ね合いに関しては、トーナメントゲームの導入可否、マシンゲームの技術介入の導入可否について論議されている。トーナメントゲームの導入可否の部分で、ポーカーや麻雀が認められれば、その先にeSportsの可能性もあり、木曽氏曰く「鍵を握るのはポーカー。これが許されればカジノ施設の中で賞金制大会ができるかもしれない」とした。マシンゲームの技術介入の導入可否については、米国を中心に技術介入性を認めた新たなマシンゲームの許可が進んでおり、カジノゲームとその他ゲームとの差がなくなってきているそうだ。

​技術介入性タイトルの例として、FPSゲーム『Danger Arena』(キル数を利用したギャンブルマシン)や、実機導入はまだだがパズルRPG『Lucky's Quest』(スマホでプレイしてレベルを上げてカジノでプレイする)などを挙げた木曽氏は、「こういう形で技術ゲームがカジノゲームに導入されているので、つぎの開発分野になるかもしれない」と語った。



講演の最後に木曽氏は、「ゲーム業界の方々と、前を進みましょうということで、現状“白”と言われているところにはっきり線を引いてやっていこうと考えています」と、新たな法人を立ち上げることを発表。プロジェクト名はBettleで、「10月を目途に何かしらの事を発表できると思います」(木曽氏)とのことだ。