【Unite Tokyo 2018】「ヒットはユーザーがさせてくれるもの」…『旅かえる』は如何にして”ゲーム別 月間収益額 世界1位”を獲得したのか

 
マルチプラットフォーム向け統合開発環境「Unity」を提供するユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは、5月7~9日の3日間、Unityに関する国内最大のカンファレンスイベント「Unite Tokyo 2018」を、東京国際フォーラムで開催した。
 
Unite Tokyo 2018は、Unity本社からゲームエンジンを開発している精鋭スタッフが来日するほか、国内のエンジニアやUnityユーザーも登壇し、様々なジャンルでUnityの最新機能の解説をはじめとしたテクニカルな講演やブース出展が数多く行われる。
 
本稿では、5月8日16時30分より行われた、「旅かえる - 中国でのヒットとともに何が起きていたのか&課金・広告共存の収益化」についてのレポートをお届けしていく。
 
なお、本講演にはヒットポイントでプロジェクトマネージャーを務める高崎豊氏と、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン Unity Ads ディレクターの金田一確氏が登壇。『旅かえる』のヒットとともに起きていたことや、後から考えると先にやっておけば良かったこと、どういうスタンスでゲーム作りに取り組んでいるかという話を展開した。また、その際に収益化手法として課金と広告を共存させた工夫についても紹介している。
 
【講師紹介】

▲ヒットポイント プロジェクトマネージャーの高崎豊氏(写真右)と、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン Unity Ads ディレクターの金田一確氏(写真左)。
 
『旅かえる』の開発・運営を担うヒットポイントは、2007年9月に創立され、名古屋本社と京都開発と2つのオフィスを構えている。主にスマートフォン向けゲームアプリの開発・運営を行っており、これまでには『ねこあつめ』や『幻想クロニクル』といったタイトルを制作してきた。
 

 
まずは高崎氏が『旅かえる』のゲーム概要を紹介。本作は、日本全国を巡ることが好きなかえるを旅に送り出し、その旅で得たお土産や写真をもらって楽しむゲームとなっている。プレイヤーは、かえるに対して旅の準備をしてあげることができるのだが、こちらの意志とは関係なく旅立ってしまったり、帰ってくるのに3~4日かかることもあるなど、かなり振り切った形の”放置ゲーム”になっていると高崎氏は説明した。
 
 

▲2017年11月にリリースされ、約5ヶ月で3800万ダウンロードを達成している(関連記事)。
 
この『旅かえる』、配信開始から短期間でかなりのダウンロード数を誇っているにも関わらず、日本ではまだあまり知られていないという。その理由は、ダウンロードの約8割が中国、残りの1割が台湾からのものであるからだと紹介された。
 

 
『旅かえる』の中国・台湾でのヒットは、本サイトをいつも拝読いただいている読者の方々にとっては、まだ記憶に新しいことだろう。
 
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さらに、金田一氏よりUnity Adsの観点で凄い点として、世界中のデベロッパーが持つヒットゲームを抑え、ゲーム別 月間収益額 世界1位”を獲得したということが発表された。これは、「圧倒的なダウンロード数」と「中国のeCPMの高さ(4000円弱)」の掛け合わせで成り立った数字であるという背景を説明。「なぜヒットしたのか」という問いに関する答えは提示できないが、過去には『どうぶつタワーバトル』や『TIMELOCKER』で似たような現象が見られているという。
 
 
▲これらのタイトルに共通しているのは、「ありそうでなかったゲーム」という点だと金田一氏は話す。この「ありそうで、ない」度合と、楽しめるプレイヤー層の広さがマッチしたときにヒットが生まれるのではないかと推察した。
 
しかし、上記で考えられるヒット理由は再現性があるものではないため、中々参考にはしにくい。その中でも参考にできる点として本講演で伝えたいのが、下記の3点であるとのこと。
 

 
1.旅かえるで起きていたこと
そもそも、『旅かえる』のヒットは予期していなかったものだと高崎氏は語る。日本でもヒットした『ねこあつめ』は3年という準備期間を経て2000万ダウンロードに至ったが、本作では英語へのローカライズ対応を行った後に北米のダウンロード数が伸びたため予測も立てやすかったという。一方、『旅かえる』はリリース後1ヶ月ほどで一気にダウンロードが伸びてしまったため、準備ができておらず何をするにも後手になる状態が続いたと振り返った。
 

 
さらに、開発・運営以外の部分にもかなり工数を割かれてしまい、「電話が鳴りやまない」、「メール-サーバーのパンク」、「大量の取材申し込み」など、普段慣れない業務をこなす中でプログラマーの方が滅入ってしまったという話も明かされた。
 

▲残業や深夜労働が発生したわけではないが、普段とは異なる業務の連続で仕事が回らなくなり精神的に参ってしまうとのこと。
 
そのほか、実務以外の部分で「海賊版の横行」、「偽アプリ、パクリアプリの氾濫」、「勝手なコラボ」、「勝手なグッズ販売」といった問題も発生。従業員数が26名しかいないヒットポイントでは一度に全てを解決することが厳しかったため、下記のように優先順位を決めて対応していったという。
 

▲ユーザーから届くメールでサーバーがパンクしてしまうことを防ぐため、不具合の修正やFAQを作成。権利や収益に関わる問題はひとつずつ対応することが難しいので、中国でパブリッシャーやライセンス事業パートナーを探して解決したとのこと。
 
こうした経験を経て高崎氏は、もしも今リリース前に戻れるのであればやっておきたかったこととして、下記の4点を挙げた。特にゲームタイトルのローカライズをしないことは偽アプリの横行を許してしまう結果にも繋がるため、英語や中国語など狙っている国のものに関してはタイトルだけでもローカライズしておくことがオススメされた。
 

▲メールや電話については、連絡先をなくすのではなく、問い合わせをまとめられるようなシステムを作っておく必要があるとのこと。
 
2.口コミの力
では、なぜ『旅かえる』は中国でヒットしたのか。高崎氏は、今、振り返ってみても理由は「わからない」と話す。”極端な待ちゲーム”、”主役が両生類”、”ローカライズしていない”など、売れいない理由は挙げられるが、結果として中国のユーザーからは今までとは違う見守っているだけでいい”仏系ゲーム”として話題を呼び、口コミやSNSで広まっていったという。
 
 
▲中国では、日本に比べてSNSによるコミュニケーションの力が強い、幅が広いという情報も。
 
また、『旅かえる』ではSNSに発信したくなるような工夫が施されているとのこと。
 
ひとつ目は、「画像の投稿をできるようにする」こと。スクショではない特別なものを用意し、なるべく他の人と異なるものを撮れるようにしている。
 
ふたつ目は、かえるがどこに旅立ったかを「わざと分かりづらくする」こと。写真やお土産はもらえるが、かえるが旅の思い出を話してくれるわけではないので、手に入れた写真から発見したことをユーザー同士で共有し、コミュニティの話題にしてほしいという狙いがあると高崎氏は述べた。
 
3.ゲーム作りそのもの以外でやるべきこと
ここで話し手を金田一氏に切り替え、ここからは「ヒットを最大限生かすために、または次回作のヒットの確率を高めるために、ゲーム作りそのもの以外でやるべきこと」と題して話を展開。
 
そもそも、Unityでは成功を支援することが目的として掲げられている。では、何を支援していくのか……それは、”皆さんが作られたゲームがより多くの人に遊ばれること”だと金田一氏は話した。
 

▲ゲームを遊んでもらうには、ゲームそのものの面白さを核として「DLを増やすための取り組み」、「継続してもらうための取り組み」も必要となる。Unityでは、この2点に加えて「収益をあげるための取り組み」という部分を支援している。
 
最もキーとなるのはゲームそのものの面白さであることに変わりはないが、上記の面をサポートすることでゲームを面白くする工夫に最大限時間を取れるのではないかと話す。
 

 
今回は、「収益をあげるための取り組み」の中でも『旅かえる』のケースとして発表されていた部分を中心にレポートしていく。
 
まず、無料アプリの収益方法には「アプリ内課金」と「広告収益」の2パターンがある。ハードルの高さや世界観構築において、どちらの手法もメリット・デメリットを併せ持つ形となっているが、『旅かえる』では様々な工夫を凝らしつつどちらも採用しているとの話だった。
 

▲『旅かえる』では、郵便ポストを開くことでかえるの友人からチラシが届く。このチラシをタップすることで広告が表示されるという仕様になっている。ただ単にボタンを表示させたり強制的に流すのではなく、ゲームの世界観と連動する理由があることでユーザーにも受け入れてもらいやすいと解説した。
 
また、「アプリ内課金」と「広告収益」の両方を入れている理由として、それぞれに役割分担を行っているという。基本無料で遊べる『旅かえる』の「アプリ内課金」は、多くのユーザーから少しずつ課金してもらえることを狙う薄利多売タイプだ。そこで、ユーザーの人数に比例して継続的な収益が期待できる「広告収益」をベースにしている。
 

▲こちらはUnity Adsの導入事例。青線がAndroid、赤線がiOS導入後の結果となっており、ユーザーの数が増えると共に収益が上がっている。
 
では、なぜアプリ内課金を実装しているのか。この問いに対して高崎氏は、収益以外の目的として大きなところで、初期ブーストの選択肢を用意したいからだと答えた。SNSで広がることで、後からゲームを始めた人が先に進めている友人に追いつきたいと思うのはプレイヤーの心情である。そうしたプレイ意欲のあるユーザーに応えられるようなシステムとしてブーストをする課金を実装していると述べた。
 

 
最後に高崎氏は、『ねこあつめ』や『旅かえる』や制作してきた経験から感じたことを発表。開発者はエンターテイナー側であることから、どうやってユーザーを楽しませるかがゲームを作るうえで大切なことになると話をまとめた。結論として、開発者は日々ヒットを狙ってゲームを作っているが「ヒットはユーザーがさせてくれるもの」とコメントして講演の締めとした。
 


 
そのほか、『旅かえる』の事例ではないものの、各タイトルに対してUnityが支援する「DLを増やすための取り組み」や「継続してもらうための取り組み」、「収益をあげるための取り組み」についても発表されていたので、気になる方は下記のページで公開されている講演スライドを参考にしていただきたい。
 
▼講演スライドはこちら▼
https://www.slideshare.net/UnityTechnologiesJapan/unite-tokyo-2018-96375762

 
 
 
 
 
(取材・文 編集部:山岡広樹)

  

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