【CEDEC 2018】Wright Flyer Studios、モバイルゲームの問い合わせ対応にAIチャットボットを導入し件数を約20%削減…その秘密に迫る


8月22日~24日の期間、パシフィコ横浜でCEDEC 2018が行われている。開催2日目となる23日、「モバイルゲームのお問い合わせ対応にてAIチャットボットを導入してお問い合わせ件数を約20%削減した話」と題したセッションが開かれた。

近年、モバイルゲームではDAUの増加に比例して、問い合わせ件数が増加。それに伴いCS対応コストも増加している。また、不具合が発生すると、関連する問い合わせが、15分で数百件着信することも珍しくない。その対策の一つとして挙げられるのが、チャットボットを使った自動応答だ。

本セッションでは、グリーの保倉光貴氏(Wright Flyer Studios事業本部 / Native Game Publishing部)、郡司匡弘氏(Wright Flyer Studios事業本部 / Native Game Publishing部 シニアエンジニア)の両名が、AIチャットボットを使い、ユーザーの自己解決につながる案内や適切なフォームへの誘導を行なうことで、問い合わせ件数とCS対応コストを削減した事例や、AIチャットボットのシステム構成や開発体制など技術的な観点から紹介した。

マイクを手にしたのは保倉氏。始めにどういったものを開発・実装したのかを説明するため、ゲームの問い合わせボタンを押してAIチャットボットに遷移する画面を公開。そして具体的な施策について話を進めた。ちなみに今回は『ダンまち~メモリア・フレーゼ~』に実装されているAIチャットボットが題材となった。



▲保倉光貴氏。



企画・検証面について紹介した保倉氏は、モバイルゲームのお問い合わせ対応に、AIチャットボットを導入した背景について、「2017年1月以降、2ヵ月に1本新しいタイトルをリリースする時期があり、そこで色々なお問い合わせが想定以上にあった」と振り返り、現場がかなり大変な状態で問い合わせ対応に関する課題があったと説明。

お問い合わせ対応の考え方の大前提として、"最終的に目指すのは「お問い合わせをしなくて良いサービス」"であり、「それがストレスなくユーザーが遊べることにつながる」と保倉氏。問い合わせ件数の急増は、サービス運営、コストに影響する。通常、"ゲーム内お知らせ"や"FAQ"を最適化し、問い合わせを抑制するが、それでも減らなかったため、AIチャットボットによる自動応答を検討したそうだ。



そしてAIがホットになってきた17年頃に、問い合わせ全体の70%においてAIによる自動応答が可能と判断。今回はラッピングされたAIチャットボットツールを利用し、チャットUIの企画、開発、学習データの運用はWright Flyer Studiosで対応したそうだ。



施策については、UIの企画、設計、デザインを実装し、学習データの作成、メンテナンスを実施。チャットUIでは、ユーザーからの問い合わせ頻度の高いトップ3を初期項目として表示。文字の入力は不要、ボタンを押すだけで回答を表示させるという特徴を持たせた。

また、現在発生中の不具合に対しては公式Twitterに誘導したり、データ復旧を希望する問い合わせの場合は専用フォームに誘導、「重い!固まる!」といった動作不良に対しては再起動やタスクキル等を案内するなど、ケースに応じて対応。



次に学習データの作成についてだが、今回はIBM Watsonのエンジンを使用。導入時は80個のFAQ×10パターンの学習データを事前に準備した。その後、AI学習データの運用となるが、ユーザー評価のみでAI回答の精度を計るのは難しかったそうだ。そこでAI回答を目視で確認し学習データを更新(回答がない項目は追加、回答はあるがマッチングできていないものは正すといった作業)したとのこと。

そしてABテストの実施。ABテストでは、UID偶数はAIチャットボット経由、UID奇数は従来の仕様どおりお問い合わせフォームに直接遷移させた。その結果、AIチャットボット導入後2週間はあまり効果が出なかったものの、最終的に20~40%の削減。初期項目を中心にそれぞれ40~50%の削減につながったそうだ。





続いて、開発・実装面のことを話してくれた郡司氏。


▲郡司匡弘氏。

検討内容として、なぜジェナ社のサービスを使ったという理由について、ジェナ社がIBM Watsonを使用していること、管理画面も提供してくれることなどの利点を並べた。



Webブラウザ上のJSを使った理由についても語り、①iOS/AndroidのWebviewを使う、もしくは②Webブラウザ上でHTMLを表示する、という2パターンがあったが、①はゲーム側のビルドが必要(数十分)、ゲーム毎にWebviewのバージョンが異なる、ゲームによってはWebviewの設定を変更する必要があるなど、トータルで組み込み・確認に時間がかかるため、ブラウザだけで品質を上げられる②を採用したと明かした。

ほかにも、Veu.jsにした理由や、3名でトータル2ヵ月で対応した開発体制及びスケジュール、システム構成などについても紹介した。






そして、実際リリースしてみたところ、リリース後は品質も良くネガティブな発言もなかったという。また、リリース後2週間は削減効果が出なかったこともあり、初期項目を5個から3個に減らしたり、文言を変えるなどUIの一部を見直したとのことだ。

最後に、他ゲームに順次対応、海外向けのチャットボットシステムを構築と今後の開発項目について触れ、「保倉(のまとめと)同様に、件数の削減はでき、長期的にサービス品質向上、コスト削減に繋がると感じました」と郡司氏。開発・実装の観点からのまとめを発表し、セッションは終了した。


 
グリー株式会社
http://www.gree.co.jp/

会社情報

会社名
グリー株式会社
設立
2004年12月
代表者
代表取締役会長兼社長 田中 良和
決算期
6月
直近業績
売上高754億4000万円、営業利益124億9800万円、経常利益130億8600万円、最終利益92億7800万円(2023年6月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3632
企業データを見る
株式会社WFS
https://www.wfs.games/

会社情報

会社名
株式会社WFS
設立
2014年2月
代表者
代表取締役社長 柳原 陽太
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