【CEDEC 2018】Cygamesとパスコ、空撮フォトグラメトリー技術とレーザースキャン技術の融合で実現させた"ベストアメニティスタジアム"の3Dデータ化方法を公開


8月22日~24日にかけて、パシフィコ横浜で開催されたCEDEC 2018。その最終日(24日)、Cygamesと測量会社のパスコが「空撮フォトグラメトリー技術とレーザースキャン技術の融合による広大な現実空間の3Dデータ化方法」と題したセッションを行った。

近年、オープンワールド型ゲームの人気に伴い、広大な空間を効率的に作成する技術の需要は高まり続けているが、現実世界の空間を高精度な3Dデータにすることは、数年前までは容易ではなく膨大な時間と労力を要した。

しかし現在では、レーザースキャニング技術やフォトグラメトリー技術、ドローンによる空撮技術などの発展が目覚ましく、大規模エリアであっても比較的容易に3Dデータ化が可能になってきている。

本セッションでは、同社で制作したプロモーション映像で大規模施設の高精度な3Dデータを作成した事例を紹介。最新技術を適材適所で組み合わせ、大規模エリアを高精度に3D化する方法を開示した。

登壇したのは、Cygamesの國府力氏(デザイナー部 3DCGアーティストチーム CGディレクター)と、パスコの林大貴氏(環境文化コンサルタント事業部 技術センター 文化財技術部 技術二課)。


▲Cygamesの國府力氏(左)とパスコの林大貴氏(右)。

始めに、國府氏がマイクを手に取り、"レーザースキャニング技術"、"フォトグラメトリ技術"、"ドローンによる空撮技術"を有効に使用することで大規模エリアを高精度な3Dデータとして作成し、どのように"大規模エリアを高精度3D化"したのかを解説していった。

今回、何を3Dデータ化したのかと言うと、佐賀県鳥栖市にある、Jリーグ・サガン鳥栖のホームスタジアムである"ベストアメニティスタジアム"。1996年5月の開場から年月を重ね、老朽化した同スタジアムのリニューアルに伴う、プレスリリース(関連記事)用の3D映像の制作が「3D化の目的だった」と、國府氏。





▲7月10日発表のプレスリリース用の映像が上映された。



▲映像制作にあたり使用された点群データや最終データ。

では、このベストアメニティスタジアムをどのようにして3D化したのか? 國府氏は「広大な現実世界を高精度な3Dデータにする場合、人の手による地道かつ膨大な作業をこなしていくしかなく、さらに今ほどの精度を実現すること自体が困難だった」と、数年前までの状況を説明。

しかし、現在は"レーザースキャニング技術"、"フォトグラメトリー技術"、そして"ヘリやドローンによる空撮技術"により、広範囲、高精度な3D化は比較的容易とのこと。そして各技術についての概要や利点、問題点などを挙げていった。



高精度レーザーレンジスキャナで実空間をスキャンし、点群データから3Dメッシュを作成できる"レーザースキャニング技術"は、レーザー照射により精度の高い位置情報が得られるため、高精度な位置データの取得が可能。

ただ、スキャナを中心としてレーザーが飛ぶため、死角となる入り組んだ部分などは複数回撮影するなどの工夫が必要で、スキャナから撮影した天球画像をテクスチャとするため、用途によっては解像度不足となる場合もあるそうだ。


▲レーザースキャニング技術の活用事例として紹介された"ウォークスルーデモ"。

次に「最近スタンダードになりつつある」(國府)という"フォトグラメトリー技術"。これは3次元の物体を複数の観測点から撮影して得た画像から、視差情報を解析して現状を作成するというもの。手軽で入り組んだ複雑な形状の立体化も得意とし、写真の解像度に依存するのでテクスチャーも高解像度が得られるところが利点。

しかし、撮影現場で撮りこぼしがないか確認することが難しく、高精度な情報を得るにはそれなりの経験と技術が必要という。さらに情報の少ない撮影物を撮影する場合、マッチングが難しいケースもあるといった問題点も。



▲ゲーム用のアセット製作や3Dスキャンスタジオ(主に人物などを撮影)に、このフォトグラメトリー技術が活用されている。


3つ目の"ヘリ、ドローンによる空撮技術"は、ヘリコプターやドローンに搭載したカメラやレーザーレンジスキャナから点群データを取得する手法。利点は、高い位置からのデータ取得、広範囲のデータ取得が可能なこと。國府氏は「機動力を活かし、人力に頼らず撮影できます。(ドローンも)今は許可を取れば撮影できるので敷居は低い」としながらも、それでも"飛ばすまでの手続きが手間"、"天候、風の影響をダイレクトに受けるため撮影自体が困難"、"被写体に近づくことが難しい"といった問題点にも触れた。



▲空撮技術の活用事例として、鳥栖駅周辺の空撮の模様を映像とともに紹介。

3つの技術はそれぞれ利点があるが、問題点もある。しかし「1つ1つはデメリットがあるが、技術を融合させることで問題点を補える」と國府氏は、2017年の「グラブルフェス」で初公開されたユーザー体験型"MR"アトラクション「VR四騎士」を技術融合の一例として紹介した。



技術の融合により問題点を補える、ということでこれら技術を基準に3D化を進めていくことになったわけだが、ここで新たな問題が(以下の3点)。

・撮影規模が約260m×200mと広大(その時点での撮影実績は数十メートル)
・この規模を撮影するノウハウが足りない
・リリース日を考えると検証を進める時間もあまりない

この問題をどう解決したのか? 國府氏は「測量的知見が必要」であると判断し、親交のある測量会社に相談。これらの技術を基準に測量技術を踏まえてデータ化していくという、測量会社との連携を図る方向へと舵を切った。

そして、本プロジェクトにて連携を図ることになった測量会社がパスコというわけだ。ここでバトンタッチが行われ、パスコの林大貴氏が登壇した。




アメニティスタジアムの計測工程についての説明を始めるまえに、大規模な現実空間の3次元化の前提として、「空間の破綻」が一番の問題になると林氏。

建造物は1ヵ所だけを撮影し、一度に全てを計測することは基本的に不可能で、何度も移動しつつ計測することになる。そして、何度も移動し計測していると伝播する誤差(少しのズレの積み重なりが大きなズレとなって全体の3次元形状が破綻)が生じてしまうという。



その誤差を小さくするための方法はさまざまあるそうだが、今回用いた方法は「まず基準点測量を行い、誤差の少ない点を基準として全体として整合のとれた3次元形状を計測しました」(林)。これは1800年頃から行われていた、伊能忠敬による測量と考え方としてはそれほど大差はないそうだ。


▲現実世界をモデル化する際の誤差の例。

現実世界をモデル化する際に、必然的に生まれる誤差に関して、林氏は「どの程度まで誤差を許容するか」が重要とし、成果をどのように利用するかによって決める必要があると話した。

ちなみに、今回のプロジェクトは、人の目線でモデルを見る必要があったため、位置精度の内「水平精度±12cm以内、高さ精度±25cm以内」を目指したという。



ここからは、実際のアメニティスタジアムの計測工程について。

まず工程1.として"地理空間の基準となる基準点を作成"した。今回はGNSS測量機を利用したスタティック方式による3級基準点測量を実施。スタジアム周辺に8点の新設点を設け、設置した基準点間で基準点網を作成し、基準点計算を行った。

そして、ドローンやレーザースキャナで計測するにあたって、基準点を使用して地上に標定点を設置。最後の計算で標識座標を利用して基準点の誤差を収束。ここまでの過程で座標が出来上がった。




続く工程2.は"UAVを使用した大縮尺の空中撮影測量"。細かく計測する前に、屋根の上など人が潜入できない部分をドローンで撮影計測した。今回、3次元レーザー機器を搭載したドローンを2機飛ばしたという。


▲ドローン計測の位置合わせ。写真の赤い丸の部分が座標。

そして空中写真撮影によるフォトグラメトリー処理を経て、ドローン搭載のレーザースキャナによるデータを取得。ただし、これは上空から見た範囲で網羅した点群となり、点群密度が薄くこのままではモデル作成に適さない。



そこで行われるのが"地上レーザーを利用した小縮尺の測量"が工程3.だ。地上レーザースキャナを使用し、レーザーによる小縮尺の測量により3次元形状の取得(スタジアム全体で計428回の据替と計測)を行った。





最後の工程4.は"設置標識点を使用した位置合わせと整合"で、設置しておいた標識を利用して各データを整合。これでレーザスキャナのデータが出来上がった。






林氏は、今回の計測工程における全体の誤差について、「基準点の誤差が最大7mm程度、全体のデータ取得精度はおおむね5cm以内に収まりました」とし、「精度の高い3次元測量を行えると、後続のモデル作成で迷う部分が少なくなるので破綻のないモデル作成が可能です」とコメントした。


▲そしてソリッドモデルの完成。

ここで再び國府氏がステージに。パスコによって完成したソリッドモデルを元に、アメニティスタジアムのニューカラーデータに調整する3Dデータ加工を行ったことを紹介。完成したモデルについて國府氏は、「本来は柵の数など細かい部分の数などを数えるなど、膨大な時間とコストがかかりますが、3Dモデルによって時間やコストを抑え、クオリティの高いものになった」とコメントした。



最後に國府氏は、「各技術の特性を知り、利点、問題点を明確に把握し、異なる技術を融合することで問題を補うことができました。また、異業種との協力により新たな技術や知見を得ることができ、大幅な時間短縮とクオリティーの向上を実現させることができました」と本セッションをまとめ、「Cygamesは"新しいこと"、"おもしろいこと"が大好きです!」とメッセージを送った。


▲今回のスタジアムデータを大学や研究機関等に無償で提供公開するなど、今後の展望についても発表された。