【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第六十六回「リモートだからこその報連相」


株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
 

■第六十六回「リモートだからこその報連相」



コロナウイルスで世の中が大変であろうと、4月1日という日はやってきました。SNSの書き込みを見ていても、

・新卒でプロの第一歩を踏み出す!
・中途転職で新たな企業に移籍する!
・プロが、教鞭をとるようになる!!
・教鞭をとっておられる方の移籍!!

など

多くの方が、そして、いろいろな方が、新たな挑戦を始められる意思表明をされていました。まず皆さま、おめでとうございます!

間違いなく、新たな門出です。いきなり在宅、リモート、テレワークとなっている方もいらっしゃるかもしれませんが、大変な時期だ、入社式すらないのか…と嘆くのではなく、数年後、

「いやいや、俺たちの時は入社式すらできなくてさ!」
「でも、そんな中で、初日からエンジン全開やってたな!」


と語れるように、前向きに考え、行動していきましょう!

学生時代と、プロになっての最大の違いは「責任」ではないでしょうか?

もちろん、学生時代も、アルバイトをされていれば、そこに責任はあったでしょう。でも、最悪バイトは辞めても、次のバイトを探す!みたいなことが、できなくはなかったことでしょう(辞める権利もありますからね)

学業においての責任は、自分自身に対してであって、誰かがなんとかしてくれるわけでもなく、自分が勉強、研究しないと、卒業できないですし、研究も日の目を見ることはありません(認められ評価されるか?はまた別の問題ですしねw)

就職や進学が決まっていても留年することもあるでしょう…それはどこか自分に対する過信があったのかもしれません。かくいうわたしも留年経験者ですしww

専門学校や大学で、ゲームや研究の「共同作業」をしている時は、その仲間に対してはもちろん、責任があったでしょう。多くの学生を見ていても、そこにコミットしてやり切っている学生もいれば、途中から参加しなくなり、ずるずると貢献なし、で終わってしまう学生もいます。

非常にもったいない…学費払って学校じゃないとやりづらい「チーム制作」を経験するチャンスだったのに…です。

でも、社会人となり、給料をもらって仕事をしている以上、それは許されません。給料にみあったアウトプットができるよう、1日もはやくならなくてはいけないのです。

でも、でもですよ…誰しもが最初から、新卒→即戦力のわけはないのです。それが簡単にできるなら、中途採用なんか不要で、全部新卒採用すればいいことになってしまいますからね!w

もちろん、業務内容や負荷の重さ次第では、いきなり一人前の仕事ができることがあるかもしれませんし、抜きんでた能力をもつ人ならば、可能かもしれません。

でも、いずれにしても、いきなり「権限」をすべて与えられることはないでしょうし、自分だけですべてを独断専行することも難しいでしょう。特にそれが、大勢の力、多くのお金を動かすことになる場合はそうでしょう。

学生時代、アマチュア時代は「頑張っていれば」しょうがない…ですむというところもあり、許されたかもしれませんが、プロは、頑張っていることが「当たり前」なので、それで許されることはありません。

ただ!誤解にしないでくださいねw

失敗を1ミリたりともしてはいけない!ということではないんです。

それこそ、新卒の1年間は、どんどん失敗していった方がいいのです。痛い目にあわないとわからないことが人間はたくさんあります。それこそ、亡くなった野村克也さんが座右の銘的に使われていた松浦静山の「甲子夜話」の一節、

勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし

じゃないですけど、成功は「たまたまうまくいく」ことも良くある話なのです。

時期、運、他者の見えないサポートなど…自力ですべてうまくいくことは、なかなかないですし、準備万端整えたつもりでいても、その時がきて実行したら、案外、想定ほどはうまくいかなかったというのも、あるあるなことだと思います。

つまり、「勝ち=成功」の再現は、簡単ではないということですね。

そこから得られるものはあるにしても、「経験」としては、自信はつくかもしれませんし、会社の中の地位やお金を多少得ることはあるかもしれませんが、そこからもう一度似たようなことをやって成功するか?というと、はなはだ微妙である、ということだと思います。

成功体験に縛られると(成功事例のみをエビデンスとしてはかり、PDCAをまわすようなことをし始めるとシュリンクに向かっていきかねない危うさがありますよね?最低保障を守るためならいいですけど…)次のステージに飛躍することが難しくなるかもしれません。

でも、逆に、負け=失敗に関しては、振り返り、掘り下げていくと「原因」がそこにあり、たいていは、後から見たら防ぐことができたこと、であることが多いです。

つまり、失敗したほうが先々においては大きな経験値を得ることになるわけです。もちろん、失敗しても、

・失敗しただけで振り返らない(感情的に落ち込むだけ)
・そもそも、やる前に、仮説たてずに勢いのみでやって振り返れない
・失敗を失敗ととらえない→振り返らない
・失敗を他人のせいにするww

など

ですと、意味がありませんけどね。ただ、「仮説立てる暇もなく、超クイックに判断してGOしないといけない場合」というのもあると思います。

その場合は「いつ、どういった振り返りをするのか?」くらいは決めて(つまり、期間とか、チャレンジする内容を小さくする)突撃するしかないかもしれませんね…)

あとは、挑戦(全部が新しいことである必要はありません。何割かがそうであればいいのです)した結果の失敗であってほしいです。

挑戦を避け、わかっている安全なことだけをやっていてば、上記したPDCAからのシュリンクじゃないですけど...そもそもPしてないので、基本は「失敗しないが成功してない」状況になりかねないでしょうね。

ただし、ここも誤解しないでください!w

失敗を絶対にしてはいけない、挑戦するのではなく1つ1つをコツコツと着実に「失敗しないで」まわしていくことが重要な仕事もありますからね。

Doctor-X で大門未知子が、「わたし、失敗しないので」とおっしゃってますが、外科医なので、失敗しないことが成功だからですね。

たとえば、ゲーム開発の世界でも、バグチェックなど、最後の砦を担ってくださっている皆さんは、そうだと思います。ただ、これも、負けに不思議の負けなしを追及していくと、

俺作る人、あいつらチェックする人

のようなカルチャーの開発チームでは、どうしてもバグが頻発しますし、お客様に迷惑をかけてしまう障害が発生します。そもそも、エンジニア、プランナー、デザイナー、といった開発者は、

「最初のユーザにして、1人目のチェッカーである」

はずなのです。

実際に、組んで動かしてみた最初の時に得られるUXは、果たして想定のものからずれていないか?を感情チェックできる貴重なタイミングですし、そこに違和感があれば、担当チームを緊急招集して、すぐに、その違和感を共有して解決をはからないといけません。

でも、そこを怠り、そんなもんかな…まあ、俺仕様の通り組んでるだけだし…とかですと「たまたま」上手くいくときはいいですが、ユーザに反感を買ってしまった時は、その初動にこそふり返るチャンスがあったことを意識してほしいところです。

もちろんこれ、エンジニアだけでなく、担当の誰もが「最初にさわったときの感覚」はあるわけですし、そもそもチーム内の人間であれば、担当でなくてもあるわけです。

ここで、恐れずに声をあげることが大事なわけですし、チームリーダーも

「声があがりやすい環境と空気づくり」

を大事にしていただきたいです。

ムードメーカー的な人材がこういうときには非常に貢献してくれるますけどね…ムードメーカーって、なかなか社会人になってから獲得できるスキルじゃないですしねw

なので、この貴重なスキルを面接などで見落とさずに、大事な戦力として考えられる企業さんが1つでも多くでてくるといいなぁとも思います。

話し戻しまして…そうなんです! 作っているメンバーが責任もって「ある程度自分たちで安全性を確保」したうえで、チェッカーさんにクイックにわたすことができれば、かなり精度があがるわけです。

ここのリレーションも、「役割分担」でなく、各々がタスクに対する責任があることをリーダーは、明確にしていく必要があることでしょう。

さて、本題の「責任」に話をもどしますww

つまり、新卒社員は、挑戦こそすれども、全部の責任をとれるだけの権限は与えられないことが多いわけです。

もし、ある事業の一端を3カ月とか半年とかで託されることがあったとしても、ストレッチアサインか、ほんとに人がいなくて困ってのアサインでしょうからw

そうなった場合、経験の少ない新卒は、いかにして、「理由のある負け」をしないですむようにできるでしょうか? それには、間違いなく、「報連相」をしっかりすることが一助となることでしょう。

つまり、「負いきれない責任は、負える人に失敗となってしまう前に、共有しておくこと」です。タイミングが悪く、時すでに遅し、の段階か、もしくは失敗してしまってから報告されても、上長はなにもできませんからね!

ただ、これも繰り返しますが、上長側も「報連相」が励行される、しやすい空気をつくらないといけないです。

「相談にいったけど、怖い顔して「なに?」と言われたからいけなくなった」
「報告にいったら、「そんなのSlackですませとけ」言われたから、報告しなくなった」
「連絡したけど、「メールしといて」いわれたので、出したのに見てくれてなくて怒られた」


とかがあると、新卒に限らず報連相は、行われなくなるでしょうからね…苦笑

でも、これ、極端な例のようで実際にいくつもの企業さんでおこっていることですからね!

自分は大丈夫…ではなく、もしこの記事に目を通していただけた方は、念のために襟を正してみられることをお勧めいたします。かくいうわたしもですね!

そして、この「報連相」がそもそもうまくいっているチームは、リモート、テレワークになっても、情報がロスしづらい、齟齬をおこしづらいと言えるでしょう。F2Fでやっていても、報連相が滞っていたところが、すんなりリモートで情報ロスなく運用できるとは思えませんので…

でも、逆に考えたら…このリモート状態で、うまく齟齬なく報連相できる状態をチームの中で構築することができたら、手法を確立することができたら…F2Fで仕事ができる時がきたら(再開されたら)、どれだけパフォーマンスが向上することでしょう!(リモート中と比してはもちろんのこと、リモートになる前と比べても大きな変化をきたすことになると思います)

ゲームや企画も、ルールや制限があった方が考えやすい

という側面がありますよね?w  こういった機会もある種の制限がかけられているので、だからこそでてくる手法を創出することが次にステージにあがることができる貴重な機会なのかもしれませんし、ぜひ、そう活用したいですね!

それでは今回はこれまで!

皆さん、健康にはくれぐれもご注意くださいませ!
そして、新たな船出をした皆さんの「挑戦」を期待しますし、どんどん「失敗」していきましょう!(そして、ちゃんと振り返ってくださいねww)

 
ご相談、お問い合わせは…

 

株式会社ファリアー

 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。


■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第六十五回「”スタイルな”●●(後編)」

第六十四回「”スタイルな”●●(前編)」

第六十三回「志望動機とは何か?」

第六十二回「行動・体験に勝る師なし」

第六十一回「人をみきわめる…」

第六十回「按図索駿(あんずさくしゅん)」

第五十九回「”敬意” と “覚悟” ~採用チームと選考項目~」

第五十八回「学生から学ぶこと」

第五十七回「なにごとにも、準備が大切」

第五十六回「"When the student is ready, the teacher appears."」

第五十五回「削りだし、肉付けする」

第五十四回「最新を知らずして…

第五十三回「ヒトがひとを採る

第五十二回「誇り、やりがい、お金」

第五十一回「キャップは、誰が決める?」

第五十回「出口に対する意識〜後編〜」

第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」​

第四十八回「ゲーム業界に就職すること」​

第四十七回「お金の話」​

第四十六回「伝える姿勢」​

第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」​

第四十四回「体験する重要性」​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)​

第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」

第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
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