【インタビュー】「裏ワザ入力」に「テラコンボ」…『クロスサマナー』の常識にとらわれないプロモーション戦略はなぜ生まれたのか!? ポケラボの柴田氏に聞いた


ポケラボが9月9日より配信を開始した本格アクションRPG『クロスサマナー』。本作はクオリティもさることながら、オリジナリティ溢れるプロモーション展開でも多くの話題を集めた作品だ。

まず事前登録の際には、ファミコン世代にはおなじみの裏ワザ入力を使用したキャンペーンを実施。開始初日から多くのメディアにて取り上げられ話題となった。また11月5日からは、本作の魅力であるコンボを題材にした「目指せ!テラコンボ!」企画をスタート、こちらも注目を集めている状況だ。

既存のスマートフォンアプリには見られなかったこれらのプロモーション戦略はいかにして生まれたのか。今回、ポケラボで『クロスサマナー』のマーケティングを担当している柴田和紀氏にインタビューを行い、発想の原点、そしてこれらのプロモーションで得た手応えを聞いてきた。


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■他のエンターテイメント作品のノウハウを活かしたプロモーション戦略


――:本日はよろしくお願いします。まずは、柴田さんが現在どのような仕事をしているのかを教えてください。
 
私は現在マーケティング事業部の副部長に就いています。マーケティング部といっても業務は会社によってさまざまですが、データの集計や解析を行うことが多いかと思います。もちろん弊社もこれらの作業は行いますが、さらに行動を起こし、ユーザーさんに反応してもらうことに重点を置いています。どんな施策であれ、実行することを前提に動いていることは、他の会社さんとの以前のポケラボにおけるマーケティングとの大きな違いだと思います。


――:『クロスサマナー』でも、同じ考えのもとプロモーションを行っているのですか。


『クロスサマナー』ですと、事前登録の際に実施した「裏ワザ入力キャンペーン」と、現在実施中の「テラコンボ」が特徴的な施策としてありますね。この施策について話すには、まず私の経歴から紹介したほうが良いかと思います。

そもそも私がポケラボに入社したのは2014年の4月からで、部署の統括を引き継いだのは6月末のことです。そして、『クロスサマナー』の事前登録が始まったのは8月9日です。つまり、私が施策の準備をできる期間は1ヵ月程度しかなかったのです



――:それだけの短期間だと、実現できることも限られそうですね……。その中で、「裏ワザ入力キャンペーン」はどのようにして生まれたのでしょうか。
 

▲本キャンペーンは、昔懐かしいファミコン、スーパーファミコンの裏ワザ(パスワード/コマンド)を入力することで、『クロスサマナー』で使える様々な特典がゲットできる施策。裏ワザ(パスワード/コマンド)は全150種を収録。マニアック度によって、獲得できるアイテムは全5段階を用意。

 
まず、社内から言い渡された目標設定が厳しいもので、「事前登録からの転換インストール数が5万以上」でした。元々私は広告代理店に勤めていたので、5万インストールが一体どれだけの難しさなのか、ピンときていませんでした。なので、以前から知り合いだった、KLabさんやドリコムさんの知り合いに電話をしたところ、口を揃えて「それはやばいよ…」と言われたんです…(笑)。

転換インストール5万というと、ドリコムさんの『フルボッコヒーローズ』と同規模で、それと同じことをやらなければいけません。時間もなかったので、はじめは公式Twitterを開設するなど一般的な対応から始めたのですが、そのうちに「周囲と同じことをしても、同じ結果しか出ない」と思ったんです。

他社さんのマネをしただけでは超えられないので、他のことにも手を出さなければいけない。しかし予算も時間も限られている。そこで、広告代理店時代にストックしていたアイディアの中からどんどん案を出して、部下であるスタッフにはとにかく実行に移ってもらいました。そこで上手くはまったのが「裏ワザ入力キャンペーン」でした。
 


――:一見じっくりと時間をかけて仕込んだキャンペーンに見えますが、実はかなりドタバタしていたんですね。

ええ、成功するかしないかを考える間もなく、とりあえず動いていました。例えばキャンペーンの正式タイトルの「ファミコン世代集まれ!懐かしの裏ワザ入力キャンペーン」という名前を見ても、「ファミコン」という単語を勝手に使っていいのか、最初は分かりませんでした。そんなときも、スタッフと会議を重ねるのではなく、任天堂さんに直接聞いたほうが早いと考え、すぐに電話をかけたんです


――:え、それで承諾もらえたんですか!?

とても快く対応してくれて、今回のような目的であれば問題ないと言ってくれたのです。会議でいつまでも答えの出ない議論をするよりも、はじめから聞いてしまって、OKならOK、NGならNGとなれば、次の議論に進むことができるので、結果的には良い判断ができたと思っています。もしもNGだったときは、心が少しげんなりするところですけど(笑)。

私にはソーシャルゲームを成功させるノウハウがあるわけでもないですし、それはマーケティングチームの他のメンバーにも言えることです。だからこそ、できることをどんどんやっていこうと考えることができ、結果につながったのだと思います。



――:しかし、成功するか分からないプロモーションに打って出るのは、プレッシャーもあったのではないでしょうか。

確かに、費用対効果も分からないプロモーションを展開するのは、ソーシャルゲーム業界では突飛なことかもしれませんね。ただ、コンシューマゲームや映画などのエンターテイメントに目を向けると、決して珍しいことではないんです。他のエンターテイメント作品だと、費用対効果は関係なしに、リリースへ向けてありとあらゆるプロモーションを打ち出します。そして、公開のタイミングが盛り上がりの最高潮になるように仕掛けていきます

また、PV動画にもこだわっていて、30秒と60秒ピッタリのものを用意しました。他のタイトルですと時間にこだわっているPVは少なく、キリの良い時間で収まっているものはほとんどない状態ですよね。それに3、4分の長い内容も多く存在します。だけどそういうのって、作り手の気持ちは伝わるものの、肝心のユーザーさんはすべて見ようと思わないんですよ。

ユーザーさんの気持ちを考えると、時間は可能な限り短くして方がいいですし、さらに言えばテンポも良くなければ見てくれません。ですから、『クロスサマナー』のPVではカット割りを多用し、映像がどんどん切り替わるようにしました。PV動画は通常、ゲームの開発チームが作成するものなのですが、今回はマーケティングチームで作成しました。


■アクション篇PV(30秒)


■ストーリー篇PV(60秒)



――:PVを作るのにもノウハウが必要だと思うのですが、どのように解決していったのですか。

まず、映画のトレーラーを制作しているスタッフを呼んで編集してもらいました。使っている映像はゲーム画面ですが、カット割りや、時間内にキッチリ編集する技術は、映画のそれと同等のレベルになっているんです。時間内に収めようとすると、どうしても排除しなければいけない情報も出てきますが、何を残すかを考えていくうちに、何を伝えたいかが徐々に分かってきて、結果的にシンプルながらもゲームの良さがよく分かる内容になっていると思います。

――:柴田さんが以前勤めていた、広告代理店時代の知識も活きたのではないでしょうか。

知識はもちろん、当時お世話になった方にも助けてもらいました(笑)。これまでソーシャルゲームに関わってこなかったスタッフが集まって、今までにない結果を出してくれと言われた以上、今までにないやり方を考えなければいけませんでした。計算ずくではないものの、今振り返ると活かされた部分も多いと思います。


――:「裏ワザ入力キャンペーン」はかなり作りこまれた印象でしたが、これも短期間で制作したのですね。

「裏ワザ入力キャンペーン」は、私がこの仕事に就いた5月当時にいろいろな企画会社さんに案を出してもらっていて、その中にあった、バーグハンバーグさんの企画でした。ただ、短期間ではあったものの、企画立ち上げ当初と比べると中身はかなり変わっています。

例えば、有名な「コナミコマンド」を入力すると「誰もが最初に入れちゃう裏ワザですよね」といったメッセージが出てきたり、裏ワザひとつひとつでユーザーさんとのコミュニケーションが取れるように変えていきました。このメッセージ手間かかるといやがられましたが、どうしても全ての裏ワザにメッセージを入れるようにこだわりました。

正直これがあるからといって、コンバージョン率がどれだけ上がるかは未知数です。しかし、ただの作業になってしまったらつまらないですし、ユーザーさんが楽しんでもらえる企画にしたかったので。何より、作っている私たちが楽しくなければ意味がないと思っています



――:楽しんでいたユーザー層は、やはり30代以上が多かったのですか。

いえ、中には「元になったゲームを知らないけど、裏ワザは発見した」という若い方もいましたね。若い方からすれば元になったゲームを知りたくなるし、リアルタイムで遊んでいた方であれば懐かしい気持ちになれるし、世代を超えて楽しめるエンターテイメントになっていたと実感しています。

とはいえ、私たちとしてはデモグラフィック特性にあまりこだわっていませんでした。解析で大体の年齢層を把握できたとしても、その人達が一体どんな好みを持っているかは分かりません。社内には30代のスタッフが多いので聞いてみると、好きな映画も、好きなアニメもさまざまです。なので、デモグラフィック特性でユーザー層を切り分けることはあまり意味のないことだと考えています。それどころか、データに頼りすぎてしまうと、見誤ってしまう可能性すらあります



 

■生放送中に神が降りてきた…。独自の発想から生まれた「テラコンボ」キャンペーン


――:現在は「テラコンボ」キャンペーンも実施中ですが、こちらを思いついたきっかけは何ですか。


▲「テラコンボ」キャンペーンとは、ユーザーによるクエストクリア実績のコンボ総数をリアルタイムで表示するコンボカウンターをPC、スマホサイト上に設置した施策。


▲『クロスサマナー』の戦闘は、爽快感溢れる空中コンボが魅力!


ふとしたきっかけでスタッフに、全ユーザーのコンボ数は集計できるのかを聞いたことがあるんです。するとそのスタッフは「すぐできますよ」とさらっと言ってきて、目の前のPCで簡単に見せてくれたんです。それを見て「そんな面白い数字取ってたのか!」と思い、ひらめきました。

一般的なキャンペーンですと、コンボ数1位の方にプレゼントをあげるという内容が多いですが、それだと不公平ですよね。そこで、全プレイヤーのコンボの総数でキャンペーンを行えば、夢があるし面白いのではと考えて行き着いた企画です。よくある募金企画でも、誰が何円寄付したかではなく、みんなでどれだけのお金が集まったかを発表したほうが盛り上がりますからね(笑)。

 

コンボカウンターサイト



――:この企画も、「裏ワザ入力キャンペーン」と同じくドタバタした中で作り上げた企画なのでしょうか。

『クロスサマナー』自体が難産のうえ早産のアプリで、今現在も多くのスタッフが必死になって作りこんでいるところです。そうなると私たちとしては、開発スタッフの手間をかけず、自分たちだけで取り組める施策をと思っていました。


――:つまり「テラコンボ」は、当時の状況を考えると最適なプロモーションだったわけですね。

もちろんいろいろな要因、偶然も重なってできたものです。「テラコンボ」が始まる前にニコニコ生放送を実施したときにも総コンボ数は発表しまして、そのときは約147億コンボだったんです。

そのとき「キリの良いコンボ数に達したら、ユーザーさんに感謝の気持ちを込めたキャンペーンをやりたい」という話になって、ふと神が降りてきて「テラコンボ」というタイトルが思いついたんです。なぜかこの5文字を使いたくなってしまって(笑)。



――:「テラコンボ」を始めてから、ユーザーの動向に変化はありましたか。

実は、単体の企画がユーザーさんにどれだけ影響を及ぼしたかは見ていないんです。以前のポケラボマーケでは単体での影響力をすごく気にしていましたが、結局一番大きな影響力を持っているのはアプリのクオリティじゃないですか。ですから、私はあまり聞かないし言わないようにしています。気にし過ぎるよりも、どんどん次の施策を打ったほうが良い結果につながりますから。


――:ユーザーの動向を気にしないというのには驚きました……。

しかし、「裏ワザ入力キャンペーン」では転換インストール数5万以上という明確な目標がありましたから、そのときはさすがにデータを注視していましたよ。結果を言うと、訪れてくれたユーザーさんの数が95万人、PV数は420万までいきました。初日はメディアへの露出が多かったこともあり、1日で50万PVを記録しています。そして、裏ワザ発見しEmail登録した回数は48万回で、そのうちのユニークユーザー数は20万人。

最後に、転換インストール数を見てみると6万2000人でした。目標は達成したのでまずはひと安心したあと、これがどれだけの規模かを知りたかったのでドリコムの知り合いに聞いてみたところ「1位って言っていいよ」と飲みの席で言われました(笑)。



――:振り返ってみると、かなり手応えのあるプロモーションだったのですね。

『クロスサマナー』自体とは直接関係のない裏ワザですけど、新しいコミュニケーションが生まれたことは成功と言っていいと思います。コミュニケーションを積極的に取る人が『クロスサマナー』をダウンロードしてくれたことで、リリースしてから1週間は本当によく盛り上がり、DAUはポケラボの他の作品と比べて約10倍を記録しました。


――:今後もWebと連動したキャンペーンは続けていく予定なのでしょうか。

ポケラボでは来年にも新タイトルを配信予定でして、それに向けて動いているところです。「次は何をやるんだ」と、社内からも期待している声が聞こえてくる状態で、ハードルもかなり上がっています(笑)。ただ、具体的に何をやるかは決まっていないんですよね……。次回はみんなでワイワイと盛り上がれるものにしたいなとは考えています。決して奇をてらうわけではなく、『クロスサマナー』で得た良い部分、悪い部分を踏まえて企画を練っていきたいですね。


――:ニコニコ生放送での配信であったり、動画を利用したプロモーションにも力を入れている印象があります。

ゲームがエンターテイメントである以上、ユーザーさんを楽しませることは不可欠です。有名なソーシャルゲームの生放送と比べると、視聴者数は桁が違いますが、集まってくれた方々が楽しんでくれたのであれば、一定の成功であると考えています。

どんなエンターテイメントコンテンツでも、楽しんでいる時間よりも離れている時間のほうが圧倒的に長いじゃないですか。ゲームを遊んでいる時間よりも遊んでいない時間のほうが長いですし、アニメや映画も、見ていない時間のほうが長い。365日24時間すべてを使って楽しむことは不可能です。私たちの仕事は、ゲームを遊んでいない時間でも楽しんでもらうことも仕事のひとつだと考えており、生放送はそれを実現できるコンテンツであるので、重要視しています。

 


――:動画というと、他のアプリメーカーを見てみるとTVCMに力を入れている印象があります。ポケラボとして、今後CMを展開する可能性はあるのでしょうか。

もちろんCMも、チャンスがあれば展開して、より多くの方に知って貰う機会を作りたいと思っています。私は1999年に社会人になり、テレビや映画の広告を担当するようになりました。その当時はインターネットも今ほど使われておらず、大手の代理店もWeb広告を扱っていませんでした。そのため、実はWeb広告のノウハウはあまり持ち合わせておらず、TVCMであれば過去の経験も大いに活かせるのではと思います。

とはいえ、TVCMが万能とは思っていませんし、TVCMだけでアプリの目標が達成できるとも思っていません。あくまでも、さまざまな施策の中のひとつにTVCMがあるという形になるでしょうね。



――:それでは、CMに限らず今後利用してみたプロモーションの施策はありますか。

どういったゲームが一番面白いのか、という議論は常に絶えません。ときには「もっとド派手に」という意見を持つ人もいますが、私は懐疑的です。私が考えるゲームの面白さは、気の合う仲間と一緒に楽しむコミュニケーションだと思っています。そういう意味では、実際に面と向かって楽しむ機会を提供できるプロモーション施策を作りたいですね。


――:今後は『クロスサマナー』を、どのように育てていきたいと考えていますか。

私たちが目指しているのはあくまでもプロダクトとしての成功であり、そのための改善もまだまだ行っていく予定です。最初に期待してくれたユーザーさん、そして今でもプレイし続けているユーザーさんのためにも、開発チームは必死になって開発を続けています。12月頃には、新しい要素や改善点が感じられるようになるのではないでしょうか。


――:新タイトルももちろんですが、『クロスサマナー』の展開にも注目ですね。それでは最後に、読者へ向けたメッセージがあればお願いします。

業界の大先輩の方々には、バカなことやっているな、と思いながらも温かい目で見守ってほしいです(笑)。また、アドバイスももっといただけたらと思います。私もまだ新人なので、いろいろな関わりの中で新しい施策を考えていきたいです。


――:ありがとうございました。


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株式会社ポケラボ
設立
2007年11月
代表者
代表取締役社長 前田 悠太
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