【寄稿】迷路級?! 中華圏にみるゲームの大規模プロモーション事例 vol.2 〜中編:独特なパブリッシングスキームとプロモーション事情〜


本稿は、スマホゲームの運用方法を分析するサービス「Sp!cemart(スパイスマート)」を手掛ける株式会社ワンオブゼムで海外事業を担当する取締役 張青淳氏による寄稿である。「Sp!cemart」は、日本国内のタイトルに加え、2014年9月よりアジア圏の人気タイトルの分析も始め、様々なサービスを提供している。

同社の独自取材で得られた旬の現地情報を紹介する本シリーズの第2回目は中国のスマホゲームプロモーションを特集、その前編においては、中国における驚きの端末流通事情とその特殊性ゆえに独自に振興を続けるアプリ配信マーケットについて伝えした。それに続く中編・後編では、いよいよプロモーションの本題に入る。

前編:中国大陸におけるスマホ流通事情はこちら

 

■ゲームパブリッシングの実態とは!?


海外タイトルが中国でパブリッシングする際は、ほぼ必ずと言っていいほど現地大手企業と組んでおり、アプリを配信しそこでプロモーションをするのは現地側の仕事であることは前編で触れた。数えきれないほどプレイヤーのいる配信プラットフォームへのアプリの流し込み、そこには独自のエコシステムともいえそうなパターンがある。そのローカルなビジネスフローを概観してみよう。
 

▲レベニューシェア・MGによる提携スキーム


海外デベロッパーと現地パブリッシャーの一般的なアライアンス形態は、お互いにリスクをとっての「レベニューシェアモデル」である。レベニューもケースにより定義が変わるであろうが、一般的にはアプリの課金売上(プラットフォーマーによる配信手数料徴収後のネット売上)を、あらかじめ決めておいた配分率で分けあう。この比率で多く見られるのは「3:7」、パブリッシャーが圧倒的に収益を取る。

そしてもう一つ、アライアンスの重要な点がミニマムギャランティスキームである。パブリッシャーが最低報酬保証(=ミニマムギャランティ・MG)を行うのだ。このMGでデベロッパーは先行費用となるローカライズやカルチャライズ開発費を賄い、そして提携先にプロダクトを託す。収益の7割を得る権利をもつパブリッシングとMGはセット条件であるのが特徴的である。

パブリッシャーの役割は多々あるが、自社運営アプリ配信プラットフォームでの役割のみならず、配信先を拡大し、プロモーションによりゲーム売上ひいては自身の収益を最大化するのが彼らの主目的であり、そこに注目してみよう。
 

▲「複次パブリッシングスキーム」


前編で触れたが、中国ではアプリ配信マーケットが数百を数え、実態を把握しえないほど乱立している。この巨大なマーケット群にアプリを流し込むためのスキームが、複次パブリッシングスキームだ。デベロッパーと直接提携しレベニューを分かち合う主体を「1次パブリッシャー」と呼ぶとすると、その先には複数の「2次パブリッシャー」が存在し、彼らが自身のプラットフォームで配信しながらも次のパブリッシング相手(「3次パブリッシャー」)と組んで配信先を拡大させていくといったピラミッド構造が中国では一般的なのである。

これら第何次パブリッシャーであっても、ほとんどがアプリ配信を行うプラットフォーマーで、彼らが抱えているユーザーに向けてアプリを提供している。2次以降のパブリッシングにおいても収益を互いに配分しており、ケースバイケースであるが、折半していることが多いようである。そして通常、海外のデベロッパーは2次パブリッシング以降の実態を事細かに把握できるような提携形態ではない。

<1次パブリッシャーの特徴>
潤沢な資金を持ち、ゲームパブリッシングの実績が多く(自身もゲーム開発・配信による実績豊富)、かつインターネット上の各種サービス運営により巨大なユーザーを抱えているなどして有力なアプリ配信プラットフォーマーでもある。2次パブリッシャーを自在にアレンジし確保できる力量を持つ。(前編の「中国展開する海外タイトルの共同運営事例」ご参照)

<2次以降パブリッシャーの特徴>
前編で取り上げたように、アプリ管理アシスタントサービス系や通信キャリア系、メーカー系などプラットフォーマーの分類としては多彩であるが、2次パブリッシャーは1次パブリッシャーと直接提携またはプロモーションを請け負えるほどの規模をもつプレイヤーである。

アプリマーケットとしては大規模でなくとも特徴があってターゲットとなりうるユーザーが見込めれば、3次、4次とパブリッシング先は増えていく。

 

■多様なプロモーションチャネル


1次パブリッシャーは、2次、3次とレベニューシェアモデルで配信先を広げていく一方で、プロモーションも同時に手がける。海外デベロッパーと提携の場合、プロモ費用はパブリッシャー負担とするケースが多い。資金力をバックに先行投資でユーザー獲得を一気に進め、レベシェア収入の拡大に努めるのだ。

彼らは広告関係の代理店を起用することもあれば、2次パブリッシング先へプロモーションを直接手配することも多い。配信プラットフォームがプロモーション媒体になっていることが多いためだ。(この場合、プロモ費用を出す代わりにレベシェア比率を調整する。)

ということは、取りも直さずゲームアプリ配信・プロモーションのチャネルはほぼイコールで、その複雑なチャネルのなかで手広く配信し効率よくプロモーションすることを可能にするのが、複次パブリッシングスキームなのである。

ここで、Sp!cemart中国大陸版でも情報提供している各プロモーションチャネルの主要プレイヤーや広告形態等を下記する。(出稿トレンドの変化も激しく料金などはあくまでも現況感をお伝えするものとしてご参考願いたい。)

日本においてマス広告を除けば、配信プラットフォームの広告枠、リワードやアドネットワークの活用、アプリ紹介サイトでの告知等が主要なプロモーション手法だが、中国ではプロモ媒体の種類が多様を極めていることや、グレーと思われる手法もよく活用されることが特異と感じることだろう。

①Android向けサードパーティプラットフォーム
主要プレイヤー:安卓(Hiapk)、安智(Anzhi)、机锋(Gfan)、应用汇(Appchina)、木蚂蚁(Mumayi)
出稿形態:純広、ランキング掲載等
参考情報:大型プラットフォーム多く、配信先・ユーザー獲得媒体としては必須チャネル。出稿料金は5万元前後が多い。
 

▲应用汇(Appchina) 一日のアプリダウンロード数は200万回以上


②アプリインストール管理系プラットフォーム
主要プレイヤー:豌豆荚(Wandoujia)、360手机助手、91助手、腾讯手机助手(Tencent)、百度手机助手(Baidu)
出稿形態:純広、ランキング掲載等
参考情報:大型プラットフォーム多く、配信先・ユーザー獲得媒体としては必須チャネル。出稿料金は4万元前後が多い。
 

▲豌豆荚 2013年Softbankより1億ドルを資金調達。ユーザー数約3億人


③メーカープラットフォーム
主要プレイヤー:Xiaomi、Huawei、Samsung 
出稿形態:純広、ランキング掲載等
参考情報:各メーカーのアプリマーケットへアクセスするアプリがプレインストールされている。出稿料金は4万元前後。
 

▲Xiaomi Store


④通信キャリアプラットフォーム
主要プレイヤー:中国電信、中国移動、中国聯通
出稿形態:キャリアとのアライアンス
参考情報:ユーザーの質が高く人気枠のためある程度のアプリ品質が求められる。アライアンス料金は個別交渉によることが多い。


【中国聯通(China Unicom)サイト】
⑤WEBポータル系プラットフォーム
主要プレイヤー:腾讯(Tencent)、网易(Netease)、搜狐(Sohu)、新浪(Sina)、阿里巴巴(Alibaba)
出稿形態:純広告、ランキング掲載等
参考情報:プレイヤー数多く200社以上あると言われ、うち10社がトラフィック全体の80%以上を占める。それらは広告効果が比較的高く、多くのアプリが配信・出稿している。
効果事例)CPC:0.5~2元、CPA:2~8元、CPT:1日1,000~10,000元

⑥アドネットワーク
主要プレイヤー:友盟(Domob)、力美(Limei),admob,微云(Weiyun),有米(Youmi),亿动(Yidon)
出稿形態:クリック課金型、成果報酬型、インストール課金型広告
参考情報:獲得ボリュームがあり獲得単価は比較的低いものの、媒体による不正やツール統一されてなくトラフィックが困難。
料金事例)CPC:0.3〜0.8元、CPA:0.5〜2元
 

▲友盟(Domob) 中国最大手アドネットワーク。トラッキングツールも同時に手がけている。


⑦正規端末プレインストール
主要プレイヤー: Hhuawei、ZTEなど主にAndroid端末メーカー
参考情報: フィーチャーフォン時代からの伝統的な手法で、出荷量に応じて正規端末購入ユーザーへ広くアプローチできるため大型予算を要する。ただしプル型の露出に比べてアプリ課金売上への貢献度合いが高いとは言えない。CPC:0.5〜1元、CPA:1.5〜5元


⑧水貨端末プレインストール
主要プレイヤー:Xda、酷乐(Coolhc)、刷机精灵(Shuame)等の業者
参考情報:アクセスユーザーの品質は低い。アドネットワークに参画していることも多い。
効果事例)CPA:2元程度
 

▲刷机精灵(Shuame)のサイトでは「ランキングに入らなかったら弁償する」堂々と宣伝


⑨ランキング上げ代理店
主要プレイヤー:中小代理店を中心に多数
広告形態:目標ランクに応じた成果報酬型
参考情報:「課金ブースト」や「ロボットプレイ」など。
不正が多くプラットフォームからアプリ自体がリジェクトされるリスクがあるが、よく使われる手法である。

⑩ブーストメディア
主要プレイヤー:解决网(00544)、手机猪(Sjzhu)
広告形態:目標ランクに応じた成果報酬型
参考情報:有力プラットフォームのランキングTOP30位以内保証10万元〜。TOP200位以内保証1000元〜。2013年は大流行したものの獲得ユーザーのアプリ利用継続率が低く、日本より衰退傾向。

⑪レビューサイト・攻略サイト
主要プレイヤー:金山(Ijinshan)、搞趣(gao7)、苹果园(App111)、i点评(idianping)、限免大师(Pconline)
出稿形態:純広告、ランキング掲載等
参考情報:優良ユーザーを獲得でき費用対効果は高いものの、獲得ボリュームに限界がある。
効果事例)CPC:約0.5元
 

▲苹果园(App111)専門ライターをかかえ、レビューのクオリティが高い。


⑫クロスプロモーション専門
主要プレイヤー:金山(Ijinshan)、91.com、网易(163.com)
出稿形態:アプリ間相互送客アライアンス。専門業者が取り次ぎアプリ間で提携をする。

⑬ジェイルブレイク端末向けプラットフォーム
主要プレイヤー:91手机助手、同步推(Tongbu)、pp助手、苹果园(App111)、威锋网(Feng)
出稿形態:純広告、ランキング掲載等
参考情報:iphone端末の約半数がジェイルブレイクしており、そのジェイルブレイクツールを提供しているサイトはアプリマーケットとしても盛況。アプリユーザー獲得のボリュームも稼げ、人気の出稿枠である。
効果事例)CPA:3〜5元

■今後のプロモーショントレンド
中国におけるパブリッシングの実情とプロモーションチャネルについて注目すると、海外デベロッパーにとって、アプリ配信先の確保とユーザーアプローチが大変特殊なマーケットであることがわかる。さらに昨今、マスメディアを介した派手なプロモーション事例が出てきており、今後のトレンドに大きく影響を与えることが予想される。

本稿中国大陸編の後編にて、このプロモーション最新事例をお伝えしよう。
 


■著者 : 張 青淳(ちょうせいじゅん)
2003年国内大手インターネット企業に入社。投資事業部門に所属、中国での投資事業の立ち上げに関わり、約7年に渡る上海駐在の間、中国・ 台湾・香港など、中華圏のベンチャー投資活動を行う。2013年モバイルゲーム開発の株式会社ワンオブゼムに参画、取締役就任。ゲーム運営部門の責任者を経て現在海外事業および新規事業開発担当。主力事業「Sp!cemart」や国内外のゲーム企業へのソリューション提供を手掛ける。

株式会社ワンオブゼム:http://oneofthem.jp/
Sp!cemart:http://oneofthem.jp/apps/spicemart/
Sp!cemartに関するお問い合わせ
メール:spicemart@oneofthem.jp
電 話:03-5919-1181
担 当:高橋 遥人(たかはしのりひと)


<中華圏にみるゲームの大規模プロモーション事例 - バックナンバー>
vol.01 驚愕予算?! ~台湾編~
 
vol.02 迷路級?!  中国大陸編:前編 ~中国大陸におけるスマホ流通事情~


 
株式会社ワンオブゼム
http://oneofthem.jp/

会社情報

会社名
株式会社ワンオブゼム
設立
2011年1月
代表者
代表取締役 武石 幸之助
決算期
12月
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