【セミナー】新作『リトル ノア』の制作秘話を吉田明彦氏と皆葉英夫氏らが語る… 貴重な講演となった3DCGデザイナー向けの採用セミナーを取材


Cygamesは、2015年2月11日に、3DCGデザイナーに向けた採用セミナーの一環として、サイゲームスの子会社であるデザイン制作・ゲーム企画事業を展開するCyDesignationの代表取締役・皆葉英夫氏、取締役の吉田明彦氏によるトークイベントを開催した。
 
当日は、サイゲームスの子会社であるBlazeGamesの開発タイトル『リトルノア』のアートディレクターを務めた吉田氏を中心に、両者のコンシューマーゲーム開発の経験も交えつつ、制作上での3Dの画作りにおける工夫や新たな発見、制作秘話について語られた。また、『リトルノア』の3DCGを背景パート・リアルタイムパート・キャラレンダリングパートの3つに分け、本タイトルに携わったメンバーと共に解説。
 
ちなみに皆葉氏と吉田氏が公の場で語り合うのは今回が初となる。本稿では、そんな貴重なイベント模様をレポートしていく。

 

■女の子・ノアは“マッドサイエンティスト”からイメージ



セミナーに登壇したのは、前述した吉田明彦氏と皆葉英夫氏に加え、BlazeGamesの代表取締役・岡田佑次氏、そして進行役としてCygamesの3DCGデザイナーチーム マネージャー・谷本裕馬氏の4名。はじめに岡田氏より、今回の講演題材とも言える『リトルノア』について紹介してくれた。
 
『リトルノア』は、アートディレクター吉田明彦氏、サウンドコンポーザー崎元仁氏という数々の大ヒットタイトルを手掛けてきた制作陣が参加したリアルタイムストラテジー。プレイヤーは、錬金術が栄えた世界で、巨大な方舟を駆る天才錬金術師ノアと共に世界一の錬金術師を目指していく。
 
特徴は、吉田明彦氏によりデザインされた可愛らしいキャラクターたちと隅々まで描き込まれた方舟と背景、そして崎元仁氏作曲による優しく重厚な音楽。さらに、ユーザー間での対戦はもちろんのこと、巨大なレイドボスとの多人数バトル、最大4人までのリアルタイム協力バトルを実装しており、従来のリアルタイムストラテジーとは一線を画するタイトルとなっている。



ここからは「『リトルノア』制作秘話」として、キャラクターや世界観の知られざる誕生経緯について語られた。もともと本作には、プレイヤーの拠点となる方舟(はこぶね)が登場することは決まっていたものの、じつは当初、明確な主人公キャラクターは存在していなかったという。

「主人公は私が勝手に描きました(笑)」と吉田氏。方舟というキーワードをもとに、「ノア」と命名された彼女は、可愛らしい姿のなかにも注射器と試験管を手に持つ白衣姿といった、これまでには無いキャラクタービジュアルが特徴となっている。
 
岡田氏は開発当初の世界観について、「はじめはドラゴン・魔法など様々な要素が入っていて世界観が統一されていなかった」と振り返る。さらには、方舟をテーマにしていたこともあり、はじめは “世界滅亡”などかなりダークな世界観となっていたようだ。しかし、吉田氏が手掛けたノアの登場により、「可愛いキャラクターだったので、もう少し明るい世界観にしようと思い、ゲーム内容もユーザーと一緒に方舟を発展させていく形になりました」と、岡田氏はノアが世界観にも影響を及ぼしたことを語ってくれた。
 

ちなみにノアのデザインは、前述したように錬金術師にも関わらず白衣姿である。これに関して吉田氏は、「方舟の上には軍事施設も並ぶため、ノアはマッドサイエンティストをイメージしてデザインしました。当時は理系女子がブームでしたので(笑)」と会場の笑いを誘いつつも、ノアの制作秘話を明かしてくれた。なお、没デザインでは神様をイメージしたおじいさんのデザインもあったという。
 

▲「ノア」(CV.竹達彩奈)。マナセリス王国の天才錬金術師。14歳とまだ若いながらも類いまれな才能を持ちアニマという不思議な力で自らを様々な姿に変えて戦う。勝ち気で強がりな性格ではあるが、自分が作ったキャラクター達にはとても優しい一面を持つ。

 

■「解像度を落とそうか」…容量とクオリティの絶妙なバランス



続いて、同作の3DCGを背景パート・リアルタイムパート・キャラレンダリングパートの3つに分けて解説してくれた。
 
まず背景パートでは、本作の代名詞にもなっている方舟について。当初は浮遊大陸を舞台にして考えていたとのことだが、他作品との差別化を図るために方舟になったという。なお、方舟のラフデザインは10分ほどで手掛けたと吉田氏。「閃いたときは本当に良いものができる。ただ、悩むときはずっと悩む。今回の方舟はラッキーでした」と振り返った。
 

皆葉氏は開発中の吉田氏を見て、「私は『リトルノア』には直接関わっていないですが、吉田さんとは席が隣同士なんですよ。なので、制作途中の画面を覗き込んで、どんなゲームになるのかワクワクしていましたね」と当時の現場の様子を語ってくれた。
 
そして、吉田氏が手掛けたラフデザインをもとに、3DCGデザイナー班がモデリング、デプスレンダリングを施していく。開発中はCygamesの人気RPG『グランブルーファンタジー』のチームからも何名か『リトルノア』のデザインに携わったという。吉田氏は方舟について、「方舟は一番力を入れました。これを作るのに半年はかかっています」と、スマホゲームとしても贅沢な世界観作りになっていることを明かしてくれた。
 

方舟のデザインはプリレンダリング(事前に計算して用意した画像)と、リアルタイムレンダリング(直接CGを描写しグラフィックス化する手法)を合わせたハイブリッドであるという。プリレンダリングの画像は、板となるポリゴンに素材を貼り付ける形になっており、UI(ユーザーインターフェイス)も全て同じやり方で行っているとのこと。

方舟には、いたるところに3Dの草が生えているのだが、じつは草がない状態のところから制作されているようだ。「甲板の上とか“別に作る必要ないじゃん”というところも、こだわって作っています」と吉田氏。ちなみに周囲の草はファー機能を用いて生やしていて、中心のメインとなる菱形の芝生だけは別レンダリングで、ループテクスチャ(上下左右が繋がった画像)を使っているという。
 


すでにクローズドβテストを遊んだ方なら分かるが、じつは本作のズーム機能は芝生のきめ細かいところまでも見られるほど近づくことができる。進行役の谷本氏は当時のことを、「最初はテクスチャーの容量が大きくなって、“解像度を落とそうか…”という話し合いをしていました。ですが、吉田さんのクオリティ高いデザインを最大限表現するために、試行錯誤の結果、パズルのように草を切っては貼ってを繰り返し、当初の解像度のまま実装することができました」と、クオリティ維持のためにチーム全体で打開策を見つけたことを語ってくれた。
 
▲方舟が登場する実際のゲーム画面

また、方舟における影についても言及。「芝生の周辺を黒く(暗く)落とすことで、本来ループテクスチャだけでは平坦になってしまうところでも、結構いい感じに絵がしまってくれました」と吉田氏は解説。ちなみに細かい工夫として、当初は方舟のプロペラの枚数が少なかったのだが、これだと回すためのアニメーションパターンが増えるため、枚数を増やすという「せこいことをやりました(笑)」と吉田氏は打ち明けてくれた。これに続けて皆葉氏からも「昔からの技法ですよね(笑)」と共感する場面も。
 

 
 

■「『白雪姫』など昔のディズニーアニメの背景をイメージ」


続いて、方舟の上に作る施設について。『リトルノア』では、バトルや生産施設で得られた資源を使って方舟(街)を発展させることができる。方舟を発展させることによって色々な機能が開放され、バトルをより有利に進められるのだ。スライドに表示されているのは、錬精術士「アニマ」をアップグレードするための施設。ノアはバトル時に精霊の力を使い巨大化することができ、「アニマ」と呼ばれる錬精術士になることができる。それらを強化していくための重要な施設だ。
 

吉田氏はデザインした当時のことを、「はじめは“アニマ”として使われる施設だとは知りませんでした。とりあえず魔法が関係していることは分かっていたので、魔法使いがかぶるトンガリ帽子のようなデザインにしました。どこか某黒魔導士に見えますが(笑)」と説明してくれた。
 

実際に3D化したものは、赤い線がディレクションライトになっており、板のようものが写真で言うところのレフ板の役割となっている。しかし、左のモデリングを見てみると、イラストのときよりも屋根が高くなっているのが分かると思う。「イラストの通りにしたら、潰れたデザインになり、イメージと全然違いました。あくまでも見た目に合わせるため、ここはうまく調整してもらいました」と、イラスト重視でモデリングをしたようだ。

ちなみに、この施設は最初に作ったこともあり、建物の質感についてもこだわりがあったという。「『白雪姫』など昔のディズニーアニメの背景をイメージしてテクスチャーを作りました。解像度も最初はこんなにはっきり出なかったのですが、プログラマーさんに頑張ってもらった結果、解像度の面積を4倍にしてもらい凄い表現力が上がりました。おかげさまで、細かいデザインが生きてきました」と吉田氏。
 
続けて「でも、ふつう逆ですよね」と吉田氏と皆葉氏は口を揃えて言った。吉田氏は「今までコンシューマを作っているときは、容量を抑えてやりくりするところに喜びを感じていましたが、本作では逆に“もう少し解像度上げてもいいでしょう”と言う立場でした」と語り、続けて岡田氏が「今後スマホのスペックも上がっていくことを考えると、我々も解像度の高いグラフィックを実現する必要もありました。とはいえ、ゲームでは高画質版と通常画質版のプログラムを作りました」と言葉を添えた。

 

■リアルタイムモデルとの差異を無くすための努力と検証

 

そして、『リトルノア』の醍醐味でもある巨大な敵と戦う「ボスバトル」。スライドにもある鉄巨人は、プレイヤーが最初に出会うボスキャラクターということもあり、格好良くかつ威圧感が出るように仕上げられたようだ。しかし、この鉄巨人のデザインは、じつは皆葉氏が『グランブルーファンタジー』のときに手掛けた没デザインだったという。「これまでもいくつかの開発現場で転々としていましたが、晴れて『リトルノア』で本採用が決まりました」とのこと。
 
また、鉄巨人はキャラクターの動きに合わせて様々なAIや動きをしないといけないため、プリレンダリングのモデルではなく、リアルタイムレンダリングできちんとプログラムで制御できるように手掛けられたようだ。デザインをもとにモデル化されて、(スライド)左からアンビエントオクルージョンの焼き付けで凹凸によって明るさ暗さが分かるようになり、ディレクションライトの焼き付けでほぼ真上からのライティングが施される。最後にディフューズマップを足したものが完成系となる。
 

ライトの焼き付けなどについては、吉田氏によるふたつの狙いがあったという。ひとつは、バトルに出てくる小さいユニットがプレリレンダリングされたものなので、それらとの差異をなくすために、ライティングを自動化させて質感を揃えたこと。もうひとつは運営が長く続くことを鑑みて、色々なスタッフがモデルを作るため、クオリティが個々のデザイナーに依存しないよう統一感を保てるようにするためとしている。
 

さらに仕上げには擬似スペキュラを採用。スペキュラとは、ライトとカメラの角度と実際のポリゴンの差分などにより、照り返しを入れること。ただ、実際にそれを施すと、ライトの角度・距離・色味を全て計算することになり、処理不可が高くなってしまう。そのため、擬似スペキュラと呼ばれる技術として、色味を無くしてカメラの方向を調整して、スペキュラっぽく見えるように施し、処理不可を軽くしたという。リアルタイムで動くため、この擬似スペキュラの導入により金属っぽい質感が出るようになった
 

▲鉄巨人が登場する実際のゲーム画面
 
 

■量産とクオリティ…双方を優先させた開発体制を実現




最後にキャラレンダリングパートについての解説。ここでは、吉田氏が最初に描いたというヒーラーキャラクターを引き合いに出して、プリレンダリングならではの造形にこだわったことを語ってくれた。たとえば、普段ヒーラーが手をおろしているときは、手がマントのなかに隠れるデザインになっており、手は切り目から外に出てくるような形となっている。「こうしたデザインはリアルタイムでやるとよく却下されてしまいますが、工数的にもプリレンダリングでは実現できます」と吉田氏。
 

▲本採用されたのは、上列のふたつ。

スライドの左からモデリング、スケルトンを入れたポージング、レンダリング、最終的に背景とあわせてレタッチした完成画像となる。キャラクターの質感のこだわりとして、吉田氏は「施設と同じように、ライティングが大事だと思っています。とはいえ、キャラクターは100体以上いるため、各キャラで設定を変えてしまうと、いちいち調整するのが大変になります。そのため最初の1体目を作ったときに、汎用できるようライトセットを作成しました。どんなキャラクターをそこにおいても絵になるようになります」と解説してくれた。このほか、ヒーラーは指先が見えないようなっているが、そうした隠れたところも描いているという。まさに量産とクオリティ、双方を優先させた開発体制を実現している。
 

さらに細かい話に移り、なんとゲーム中に登場するヒーラーの“鼻の影の出方”で議論する場面も開発中に起こったという。スライドでは、実際に複数パターンの鼻の位置が映し出されたが、開発に関わった吉田氏と岡田氏も、どれが本採用されたキャラクターなのか分からないほど、細かい演出が随所に施されているようだ。
 

また、アニメーションパターンでは、画面を斜め上から見ることを想定して、フードを後ろに下げた状態でデザインしたことも明かしてくれた。「ふつうのモーションをつけると、顔が前のめりになってしまうため、このモデルに関しては顔を後ろに反らすようにデザインしています。少しおかしなモーションですが、可愛さを優先してこの形にしている」と解説してくれた。
 


​そしてセミナーの最後には、『リトルノア』のプロモーションビデオが公開された。登壇者たちによる技術の解説と制作秘話を聞いた直後だと、キャラクターの動きひとつとっても細かいところまで見てしまうものだ。
 

さらに、現在Cygamesが制作中の3DCGタイトルを少しだけ公開された。既報の『LINE ペーパーダッシュワールド』に加えて、新作タイトルの映像がサプライズで流された。こちらについては続報に期待しよう。

セミナー終了後には、希望者の方に向けて個別面談の場も設けられた。また、イベントに参加した方には、お土産として吉田氏と皆葉氏のサイン入りポスターがプレゼントされた。著名クリエイターたちによる技術の解説など、来場者にとっても刺激になる貴重な機会となったことだろう。
 

▲吉田氏と皆葉氏のサイン入りポスター。本当に直筆です。
 

▲左から岡田佑次氏、吉田明彦氏、皆葉英夫氏、谷本裕馬氏
 
(取材・文:編集部 原孝則)



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