【SCI新連載】30代♀、東京のすみっこで さんかく座り - 第1話「はじめまして」


IT企業で働く30代女性(プロジェクトマネージャー職)の作者が、仕事におけるアレコレを語っていく連載記事「30代♀、東京のすみっこでさんかく座り」。女性目線ならではのキャリアアップや仕事上の立ち回りはもとより、ついつい職場で起こりがちな衝突や悩み、そして新たな気付きを赤裸々につづっていく。倒れては起き上がり、それでもひた向きにデスクへと向かう彼女の「仕事」との付き合い方を、少し覗いてみましょう。


 

■第1話「はじめまして」


はじめまして、原と申します。ぱっつん前髪に眼鏡をかけている者です。縁あって、今回から連載を担当させていただくことになりました。

タイトルどおり、30代女性のわたしが、さんかく座りで仕事のあれこれを書いていくコラムです。めんどくさいけど離れがたい、そんな「仕事」との付き合い方を、ゆるい感じにお話しできればと思っています。お仕事の合間に、通勤電車の待ち時間に、ゲームのスタミナ回復待ちの間に、そして、これからの働き方がふと気になったときなんかに、読んでいただけたらうれしいです。


 

■わたしの仕事について


東京のとあるクラウドサービスの会社でプロジェクトマネージャーをしています。2015年の3月に今の会社に転職し、ここ1年間はいろいろなプロジェクトをお手伝いしながら、自身もWebセキュリティ関連のクラウドサービスを立ち上げ、なんとか軌道にのってきたかな、という状況です。

プロジェクトマネージャーというと、なにやらカッコイイ仕事のように聞こえますが、実は、ものすごく地味で、ありえないほど幅が広い(要するに面倒な)ポジションです。というわけで、記念すべき初回のコラムは、プロジェクトマネージャーの地味でリアルな仕事内容をお伝えしたいと思います。


 

■そもそもプロジェクトって何ですか?



プロジェクトマネージャーは、まさに”プロジェクトのマネージャー”なのですが、そもそもプロジェクトって何でしょうか。プロジェクトマネジメントを体系的にまとめた世界標準の教科書『PMBOK(ピンボック)』には、このように定義されています。

 
“プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期性の業務である。”


そして、定義は以下のように続きます。

 
“プロジェクトの独自性という特性から、プロジェクトが生成するプロダクト、サービス、所産には不確実性や相違を伴う。プロジェクト・チーム・メンバーにとって、プロジェクト活動は新規なことが多いので、定型業務よりも一層綿密な計画が必要となる。”


……思いのほか、ややこしいですね。

全部読むと大変なので、まずは、最初の定義に「創造」という言葉が含まれていることに注目してみてください。創造とは、新たに創り出すこと。つまり、プロジェクトとは、今までになかった何かを創り出すために行われる業務全般を指すのです。

続いて、2つめの定義を読んでみましょう。もし「不確実性」という言葉が気になったら、かなりスルドイです。プロジェクトは「今までに無い何かを創り出す仕事」なわけですから、その内容も未知でどうなるかはわからない、すなわち、「不確実性」に富んだ仕事内容になります。ざっくりまとめると、

プロジェクトとは、何か新しいものを創り出すための業務
プロジェクトとは、その具体的な内容はまだはっきりとはわからない、未知の業務


ということになります。


次に、長々と続く定義の中でもう1つ重要なポイントを紹介したいと思います。それは、プロジェクトを実行してくれる担当者についてです。PMBOKではこんなふうに書かれています。

 
“プロジェクトは組織のすべての階層で実施される。プロジェクトは、ひとりもしくは複数の人が関与する場合があり、また、ひとつの部門もしくは複数の組織から、複数の部門が関与する場合がある。”


「複数」という言葉が何度も出てきています。そう、プロジェクトという業務ははひとりぼっちでは完遂できません。どんなに優れたアイディアも、一人ではなかなか実現できませんよね。そこで、プロジェクトです。

プロジェクトは複数の担当者(プロジェクトメンバーといいます)によって実施されます。プロジェクトメンバーは全員が同じ部署の人とは限りません。たいていの場合、複数の部署から様々な職種(企画、エンジニア、営業…など)の人が集まります。

プロジェクトにおいて、「複数」という言葉は最も大事なキーワードの一つです。複数の部署の人が集まるということは、各プロジェクトメンバーはそれぞれ別個のレポートラインを持っているはずです。また、複数の職種が集まるということは、役割や知識分野が全く異なる人で構成されるグループになるでしょう。

背景が全く異なる人たちが、新しい何かを作るために、未知の業務に一緒に取り組む。

この、どう考えても空中分解しそうな話がプロジェクトの実体なのです。

だからこそ、プロジェクトは難しいと言われますし、世界の8割のプロジェクトが失敗しているという話さえあります。あなたの周りでも「炎上プロジェクト」なんて言葉が飛び交っているかもしれません。でも、何とかプロジェクトを成功させ、世に無かった新しいものを創り出し、事業を興したい。そんな希望と目標のために生まれたのが、わたしのような「プロジェクトマネージャー」という役割なのです。


 

■プロジェクトマネージャーはえらくない


コラムの冒頭で、プロジェクトマネージャーは”プロジェクトのマネージャー”であると言いました。確かにマネージャーなのですが、しかし、えらい人や管理職というわけではないのです。実際、私の名刺には、課長とかチーフとか、そんな肩書きはありません。(くれるならほしいけど)

プロジェクトマネージャーの“マネージャー”は、管理職という意味では無く、野球部やサッカー部の“マネージャー”という意味合いが近いかもしれません

たとえば、高校の野球部を想像してみてください。

選手となる部員は何人もいますが、学年もクラスもバラバラ、試合での役割も異なります。4番を背負うスラッガー、速球のピッチャー、手堅い守備のショート、みんな欠かすことのできないメンバーです。そんな選手たちがいつでも全力で試合に臨めるよう、マネージャーは周到に準備し、膨大なデータを監督へ報告します。用具の維持管理、試合や練習場所の手配、練習メニューの伝達、部費の管理といった庶務に加え、試合中はスコアブックへの記録も行います。

 
もし、マネージャーがいなかったら、チームはどうなるでしょうか。
 


選手全員で庶務を分担するほかありませんが、その分、練習時間がだいぶ短くなってしまうでしょう。さらにやっかいなのは部費の管理かもしれません。選手が各々ほしいものを購入してしまっては、あっという間に予算を使い切ってしまいます。監督が管理してもよいのですが、選手からの購入依頼を度々受け付けなければならず、試合の戦略を立てたり、選手を育成するといった本来の仕事のための時間が足りなくなってしまいます。

しかし、時間が不足していようがいまいが、なんであれ、甲子園の日程は変わりません。締め切りを延ばすことはできないのです。1年間を可能な限り充実させ、効率的な練習を積んだチームが優勝することは、言うまでもありません。そのために、マネージャーは必要不可欠な存在なのです。

このような野球部の構図は、そのままプロジェクトに当てはまります。プロジェクトメンバーは、先ほどお話ししたとおり、背景が全く異なる人たちで構成されています。まさに、学年も役割も異なる選手たちが集まる”野球部”のような状態なのです。そして、メンバーが全力でプロジェクトに取り組めるよう、あらゆる準備、庶務、交渉、情報共有、記録を担うのが、プロジェクトマネージャーの仕事というわけです。言ってみれば、プロジェクトのための究極の雑用係です。どうでしょう、プロジェクトマネージャーの地味な仕事ぶりがおわかりいただけたのではないでしょうか。


 

■良きプロジェクトマネージャーとは


プロジェクトマネージャーという職をいただいたからには、やはり「良きプロジェクトマネージャー」になりたいものです。そんな気持ちで本屋さんに立ち寄るのですが、まぁプロマネ本の多いこと多いこと……。一生かかっても読み切れないほどのタイトルが並んでいます。そして、まじめにプロジェクトマネジメントを学ぼうとしている方ほど、必ず「おすすめの本はなんですか?」とおっしゃるのですが、正直なところ、答えに窮してしまいます。

というのも、プロジェクトマネージャーの仕事内容は、プロジェクトごとにまったく異なるからです。

プロジェクトの規模、メンバーの熟練度、作りたいものの性質、関係者同士の利害関係などなど、プロジェクトマネージャーが取り持つ(マネジメントする)ものは多種多様で、「このポイントを把握すれば万事うまく行く」というような攻略法は残念ながら存在しないのです

そういうわけで、おすすめの本は特になく、わかりやすそうなものを数冊読んでおくと良いかなぁと思うぐらいです。私もいくつかプロマネ本をよみましたが、未だにプロジェクトマネージャーはどうあるべきか、答えにたどり着いていません。ただ、社内外で尊敬されるプロジェクトマネージャは、自分のためにメンバーをうごかすのではなく、みんなのために働くことが好きだという人が多いように思います。これまた地味なポイントですが、案外そういうことが仕事で一番大切ではないでしょうか。


 

■プロジェクトと冒険は似ている、かも?


繰り返しになりますが、プロジェクトとは未知の業務の集合体です。ゴールはありますが、そこまでの道筋は暗中模索することになります。

まるで、謎の洞窟に挑むRPGの勇者のようです。プロジェクトという洞窟の中では、落とし穴にはまったり、交渉不能なモンスターに出会ったり、遠くから弓矢が飛んでくるなんて日常茶飯事です。ダメージを受けるとわかっていても、越えなければならない毒沼もあるでしょう。なのに王様は100ゴールドしかくれなかったりします。冒険も楽では無いのです。

進まなければゴールにたどり着くことはできません。でも、もし、あなたや、あなたの隣に座っているメンバーが疲弊しているようなら、さんかく座りでちょっと休んでみましょう。そして、お酒ではなく、甘いカフェラテを飲みながら、もう一度、冒険の目的を思い出してみてください。まだ歩けそうでしょうか? それとも、やっぱりダメそうですか?


やっぱりダメそうな方、心配しないでください。

次回以降、「とりあえず全滅しないコツ」をお話ししていこうと思います。それではまた!

 


著者:原美恵

1984年生まれ。NHN テコラス株式会社所属。 サービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。 ビジネスモデル立案、プロジェクトマネジメント全般が専門。アジャイルやDevOpsによる、“みんなが楽しくなるプロジェクト”を目標にしている。趣味はガンダム研究とゲーム全般。最近、『スプラトゥーン』でA-に昇格。

イラスト:黒川依 (Twitterアカウント

漫画家。代表作に『ひとり暮らしのOLを描きました』シリーズ(公式サイト)。待望のコミックス第2巻は5月20日に発売予定。
 
 
 
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