「現実と仮想空間の境目をどれだけ無くすかで、VRシンクロ率の高さが決まる」…VRにおけるゲーム/レベルデザインの重要性に迫る


2016年7月27日、株式会社ドリコム カフェスペースにおいて、VRコンテンツの開発者によるライトニングトーク型の勉強会「VR Tech Tokyo #2」が開催された。5月に発足した同勉強会は、高まるVR熱も手伝って初回には120名以上の参加者が集まった。今回開催された第2回目も定員170名を超えるほどの盛況振りを見せた。

当日は、VRコンテンツを手掛ける開発者が登壇し、ひとり10分ほどのライトニングトークを展開。VRにまつわる最先端の情報及び、多種多様な技術など多岐にわたる内容が語られた。当媒体では、各ライトニングトークの内容を取材。

本稿では、「VRにおけるゲームデザイン・レベルデザイン」と題した内容をレポートしていく。

 

■現実≒仮想空間(VR)と思わせる導入演出が重要


登壇したのは、モバイル・オンラインゲーム業界で企画・開発を続けてきた金春根(キム ハルネ)氏。現在は、株式会社Aimingでゲームの企画・開発に従事する傍ら、個人事業主として「VR IMAGINATORS」というチームで様々なVRコンテンツを開発している。

はじめに本題の「VRにおけるゲームデザイン・レベルデザイン」の前に、FPSゲームにおけるレベルデザインの話をしてくれた。ご存じの通りFPSとはFirest Parson Shooter(一人称視点シューティング)の略称で、プレイヤーの腕や武器・道具のみがゲーム画面上に映し出されており、主観視点による高い没入感・臨場感が得られるカメラ手法のジャンル。いわばVRコンテンツの多くがこのFPSに該当するだろう。

しかし、没入感があるからこそ、酔いの対策が必要のほか、徹底されたゲーム/レベルデザインが必要とされる。では、FPSゲームにおけるレベルデザインでどのようなことに気を付ければいいのか。

「ジャンル問わずレベルデザインには序破急が大切です」と金氏。序破急とは、物語でいう起承転結を指すもので、淡々とゲームを進行させるのではなく、大目的>中目的>小目的など段階ごとにプレイヤーを誘導して、操作を覚えてもらうような形を取ること。たとえば、FPSゲームでは人質を助けに敵基地に潜入するという大きな目的のなかに、見張りが徘徊している最初の部屋に差し掛かった際、倒すべきか、隠れて進むべきなのかなど、序のなかにもさらに細かい序破急が存在するという。

これとは別に、主体性を引き出す手法も存在。アイテムや敵を転々と配置して誘導するほか、人間は明るいところへ向かう習性があるため、これらを利用していくのだ。主体性を引き出すことで、プレイヤーに「自分が選んだ」と自然に思わせるレベルバランスが実現できるという。もちろん制作側の意図がバレないような配置が重要になってくる。
 


ただ、FPSゲームをそのままVRに落とし込んでも意味はなく、VRならではの序破急が存在すると金氏は語る。本来、大目的である「敵の殲滅」、中目的である「殲滅に向けた武器入手」などは既存ゲームと同じだが、細かい移動手段やアクションについては、特にVRならでは意識すべき段階とのことだ。

というのも、VRコンテンツは現実と同じような体験が出来るのが売りにも関わらず、意外と行動が制限されがち。現実では簡単にできるものも、ゲームのなかだと出来ないことが出てきてしまうため、まずは小目的の段階で「自分はこの世界で何ができるか?」を理解させる必要があり、現実と同じ感覚に陥るよう、プレイヤーを誘導していくという。

しかし、なかなかVRゲームではプレイヤーの視点を誘導するのが難しい。何処を向くか分からないうえに、制作側が本来見てほしいイベントシーンやキャラクターの会話などが発生中に、別の場所を向いていることがあるのだ。そのため、VRゲームでは、光や音、振動のいずれかでプレイヤーの意識を向けるのが大切とのこと。
 


また、金氏はVRゲームにおける“VRシンクロ率”の重要性も述べた。「現実≒仮想空間(VR)と思わせる導入演出が重要」と語る金氏は、その好例としてバンダイナムコエンターテインメントがプロジェクトの企画・プロデュースを行い、ナムコが施設運営を行う「VR ZONE Project i Can」(東京・台場)を紹介してくれた。そこには、巨大ロボットに乗り込んで戦う『アーガイルシフト』というVRアトラクションが置いてあり、金氏は「現実から仮想空間に移行するまでの流れが非常に素晴らしい」と評価。

VRコンテンツを体験していると、ふとした瞬間にヘッドマントディスプレイ(HMD)の重さが気になり、「いまゲームで遊んでいる」と目が覚めてしまうことがある。しかし、『アーガイルシフト』では仮想空間のなかでも同様にHMDを被らされるため、すべての感覚が上手い具合に絡まり合い、絶妙な没入感を味わえるようだ。金氏は、「現実と仮想空間の境目をどれだけ無くせるかで、“VRシンクロ率”の高さで決まる」と言葉を添えた。
 


また、VRコンテンツは何でも出来るが故に様々な企画が出てくると思うが、「VRである必然性をゲーム要素に取り込むこと」についても言及した。たとえば、単純にVRで周囲を見渡したくなるようなシチュエーションなどを作り上げるためには、四方八方から敵が襲って来たり、周囲の仲間との連携プレイが楽しめたり、壁や床に暗号のヒントがあったりと、その分かりやすさがVRである必然性に繋がっていくようだ。
 

▲最後に酔い対策について、Oculusベストプラティクス(関連サイト)を実践したうえで、プレイヤーが予測できない挙動にしないことを説明。