PCオンラインゲームの雄として知られるネクソン<3659>が、国内モバイルゲーム市場で存在感を高めている。7月以降、月1本ペースで新作モバイルゲームを出すなどリリースラッシュとなっているうえ、『HIDE AND FIRE』がヒットするなど、徐々に結果も伴い始めている。今回、ネクソンモバイル事業本部 本部長の金 起漢氏にインタビューを行い、ネクソンの国内モバイルゲーム市場への取り組みと戦略について話を聞いた。
金 起漢(キム・キハン)氏プロフィール
ネクソンのモバイル事業全体を統括する、モバイル事業本部 本部長。大学卒業後、LG電子、NCSOFT、NC JAPANに勤務。2007年よりネクソン。2015年8月より現職。趣味は7歳~14歳まで続けたピアノとスキー。
ネクソンのモバイル事業全体を統括する、モバイル事業本部 本部長。大学卒業後、LG電子、NCSOFT、NC JAPANに勤務。2007年よりネクソン。2015年8月より現職。趣味は7歳~14歳まで続けたピアノとスキー。
――:よろしくお願いします。ネクソンさんは、これまでPCオンラインゲームのイメージが強かったですが、ここ最近、モバイルゲームに注力していますよね。これまでの動きを整理していただきたいのですが。
おっしゃるとおり、弊社は、これまでPCオンラインゲームを中心に事業展開してきましたが、グループ全体としては4年前からモバイルゲームにも力を入れてきました。これまで韓国やアメリカを中心に注力タイトルをリリースしてきましたが、日本でも去年8月にようやくモバイル事業本部を設立して、本格的に動き出せるようになりました。
――:設立されたモバイル事業本部はどういったことをしているのでしょうか。
モバイルゲームのパブリッシング事業を行っています。パートナーシップを組んだゲーム開発会社の良質なゲームをお客様に提供する、ということです。そのなかで、PCオンラインゲームの運用担当経験があり、豊富なノウハウを持つスタッフをモバイル事業に投入しており、適切なローカライズやカルチャライズを行っています。
どこからどこまでがゲーム開発で、どこからパブリッシングなのか、その境界線は近年、特にあいまいですが、弊社では、パブリッシングとそれに付随する業務を行っています。企画者やデザイナーも在籍しており、例えば、グラフィックやストーリーなどについては、ある程度は自前で対応できるようにはなっています。
――:体制整備が進み、日本国内でのリリースタイトルが非常に増えてきた、ということでしょうか。
はい。下半期(2016年7月以降)は、月1本以上のペースで新作アプリが出せるようになっています。『ファンタジーウォータクティクス』や『HIDE AND FIRE(以下、ハイドアンドファイア)』などがお客様から好評です。特に『ハイドアンドファイア』については、App Storeの無料ダウンロードランキングで最高順位2位、売上ランキングでも50位前後をキープし、最高で38位まで順位を上げました。さらに、リリース後1ヶ月で100万ダウンロードを突破することもできました。
――:『ハイドアンドファイア』は一見するとコアなゲームに見えましたが、どういったユーザーから支持されているのでしょうか。
PCオンラインゲームやコンシューマゲームでは、TPS(Third Person Shooting)というと、コアユーザー向けのゲームという印象を持たれるかもしれませんが、『ハイドアンドファイア』は、ライトユーザーでも楽しめるようになっています。昔のゲームセンターにあった、ガンシューティングのようなゲームを思い浮かべていただくと良いでしょう。他方、PvPや共闘などマルチプレイも充実しています。モバイルゲームでTPSは少ないですが、絶妙なバランスの良さが人気の秘訣ではないかと思います。
遊んでいる方の多くは、10代後半から20代後半までの方ですね。日本だけに限ったことではないですが、モバイルゲーム市場でTPSは決して大ヒットしているジャンルとは言えません。『ハイドアンドファイア』は幸い世界で唯一ヒットしているタイトルでしたので、自信はありましたが、それでも日本で受け入れられるのか少し不安な部分もありました。期待以上の実績が出ており、ホッとしています(笑)
先ほども申し上げたとおり、4年前からモバイルにも本格的に注力しており、実力のある開発会社とパートナーを組んできました。昨今のリリースタイトルの増加は、こうした取り組みの成果といえます。
――:モバイルゲーム市場は年々、新作をヒットさせることが難しくなっている、という声もありますね。御社は、後発といっていいかと思いますが、どういった点に気をつけているのでしょうか。
いまの日本のモバイルゲーム市場は、世界でトップクラスの規模にあります。最近は、スマートフォンのスペックや通信環境も良くなっていますし、ゲーム市場も成熟化しつつあるため、ライトユーザー向けのゲームから徐々にミッドコアが増えている状況で、今後はコア向けのゲームも増えてくると見ています。
他方、各社のゲームのクオリティが高くなった半面、同じような内容のゲームが増えてきて、ゲームのクオリティよりもマーケティング費用で勝負する傾向が出てきているのはもったいないと感じます。弊社は、リリースするモバイルゲームについては、クオリティを重視しつつ、既存のゲームとは違うスタイルやシステムの作品を提供していくように心がけています。
――:差別化といいますが、簡単なことではないように思うのですが…。
弊社は、世界各国の優秀なゲーム開発会社とパートナーを組み、クオリティの高いタイトルを日本で提供する戦略をとっています。日本で開発されたゲームではありませんので、自然と日本開発の他の作品とは違う、差別化された作品としてお客様から認知されます。しかし、逆の軸も同様に大事だと考えており、今後は、日本のゲーム開発会社と組み、日本国内のお客様に馴染みのあるタイトルも提供し、さらには日本で開発したタイトルで海外市場でも勝負したいと考えています。
――:先日、山椒スタジオさんとパートナーを組んだことが象徴的ですね。今後も日本の会社とパートナーを組みたいとお考えですか?
はい。ネクソングループでは、アメリカで開発したゲームを韓国や日本、ヨーロッパなどで展開したり、韓国で開発したゲームを他の地域で配信したり…といったことをやってきました。日本でもこれと同じことをやりたいと考えています。
では、どういう会社が良いかというと、国内市場でもヒットできるタイトルを開発できることが第一ですが、将来的には海外市場にも展開してヒットさせたいと考えている会社です。国内市場にとどまっているのではなく、海外市場でもゲームを提供することで、より大きな成長を成し遂げたいという考えを持つ会社とご一緒したいです。
――:少し生々しい話になりますが、御社と組むことで、開発会社にはどういったメリットがあるのでしょうか。
弊社は、10年以上、日本市場でPCオンラインゲームの運用を行ってきました。そこで得た経験やノウハウはとても貴重な財産です。パートナーとなった会社には、弊社がこれまで培った経験やノウハウを提供することができます。日本国内でMMOゲームの開発に取り組んでいらっしゃる会社はもちろんありますが、全体的には数があまり多くないため、弊社からのアドバイスは有益かと思います。
また、弊社グループは、世界各地でオンラインゲームを提供してきました。リリースしてからのお話になるでしょうが、海外進出を行うにあたってのアドバイスも可能です。各地域のユーザーの特徴や、ビジネスモデルのあり方などアドバイスもできますし、ご協力できるところも多いと思います。開発されたアプリを世界で展開する場合、各地にあるネクソングループの現地法人が運営を担うこともできます。
これ以外にも、契約条件によりけりではありますが、プロジェクトファイナンスのような形で、開発費を投入することもあります。そして、リリース後、レベニューシェア方式に移行することもあります。開発会社は、受託開発に慣れている会社が多いですが、弊社としては一緒にビジネスをやる以上、一緒に運営を行って、リスクと利益をシェアしていいゲームを作っていきたいと考えています。
――:最後に御社がこれからリリースする予定のタイトルで期待しているタイトルを教えてください。
期待しているタイトルは、大きく3タイトルあります。まず、今年の秋にリリースする予定の『ダンジョンストライカーG』をご紹介します。このゲームは、40種類という多種多様な個性を持つ「神兵」と呼ばれる相棒を組み合わせて、ダンジョンを攻略していくアクションRPGです。戦略を練る楽しさだけでなく、マルチプレイなど様々なコンテンツを用意しています。
年内リリースタイトルとして、『HIT』というオンラインRPGがあります。こちらはグローバルで実績のある作品で、全世界1100万ダウンロードを達成しました。日本リリースにあたって、カルチャライズとローカライズをきちんとやりたいと考えています。グラフィックの改修を行い、ストーリーもすべて書き直しました。日本語版では、グローバル版にはないマルチプレイも導入される予定です。
3つ目は、来年リリースする予定の『3Dアラド戦記モバイル(仮称)』です。シリーズ作品の持つアクションの爽快さを活かしながら、モバイル向けに最適化されたゲームとなる予定です。まだ開発途中ですが、PCオンラインにて同シリーズを遊んだ方はもちろん、初めて遊ぶ方も楽しく遊べるようになっています。
弊社としては、日本の優秀な開発会社と手を組んで、素晴らしいゲームを開発して、日本だけでなく、世界的に展開していきたいと考えています。そういったことを考えている会社がいらっしゃいましたら、ぜひ弊社とご一緒できたらと思います。
――:ありがとうございました。
(編集部 木村英彦)
会社情報
- 会社名
- 株式会社ネクソン
- 設立
- 2002年12月
- 代表者
- 代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3659