【インタビュー】2017年、Cygamesの海外進出に注目…新執行役員の金瑞香(キムソヒャン)が語る『シャドウバース』におけるローカライズの展望とは


『神撃のバハムート』『グランブルーファンタジー』、さらに2016年には本格スマホカードバトル『Shadowverse(シャドウバース)』の大ヒットなど、オリジナルタイトルを始め、他社IPの受託開発でもクオリティの高い作品を配信し躍進を続けるCygames。
 
そんな同社では昨年(2016年)、『シャドウバース』が、日本を含め、140カ国以上の地域で展開されたことが話題となった。
 
そこで本稿では、2017年のCygamesの海外展開への取り組みについて、『神撃のバハムート』など過去の事例を交えながら、今後どういった構想があるのかを、新執行役員である金瑞香(キムソヒャン)氏に伺ってきた。

 

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■ローカライズ成功のカギは”コミュニケーションの活性化”

 

──:本日はよろしくお願いします。まずは金さんがこれまでにどんな業務をしてきたか、教えてもらえますか。
 
2012年にサイバーエージェントに新卒で入社し、すぐにCygamesに出向して韓国版『神撃のバハムート』に携わっておりました。2年目以降は、国内版『神撃のバハムート』の運用プロジェクトマネージャーや、他社IPタイトルの韓国版も担当をしておりました。そこから一度サイバーエージェントに戻り、子会社の立ち上げなどを行っていたのですが、Cygamesが再度、海外に向けてゲームを配信するというお話をいただき、プロジェクトマネージャーとして『シャドウバース』のリリースに携わりました。現在は、プロジェクトマネージャーの業務を後任に引き継ぎ、タイトルに縛られずに、Cygamesのコンテンツの海外展開を担当する役員に就任いたしました。

──:具体的には現在、どういった業務をなされているのでしょうか。
 
日本版の運用チームと協力しながら、各タイトルをどのように海外展開するのがベストなのか戦略を考え実行しております。その第一弾として今回、『シャドウバース』の韓国展開を自社パブリッシングとして現在準備をすすめております。(※2月7日に配信開始)中国など自社パブリッシングが法務的に、難しい国などは実際に現地のパートナー様とお会いしながらCygamesのコンテンツを深く理解していただくようなこともしております。主な地域都市は現在、中国・台湾・韓国となっておりますが、『シャドウバース』は英語での展開もいち早く行っていますのでそちらも、ローカライズのメンバーとどのように進めればより多くのユーザー様に遊んでいただけるかを日々考えております。また、台湾版や中国版についても、私が窓口となっておりますので、『シャドウバース』のアジア向けプロジェクトマネージャーというイメージを持っていただけると分かりやすいかもしれません。
 
 
▲韓国で行われたプレスカンファレンスに出展した際の様子。
 
──:韓国版『神撃のバハムート』を担当しておられた頃に苦労されたお話などを伺ってもよろしいでしょうか。
 
当時、弊社は北米版『神撃のバハムート』こと『Rage of Bahamut(レイジ・オブ・バハムート)』をリリースした直後でした。なので必ずアジアもヒットさせるという気持ちで挑んでいましたが、一番苦労したのはチームビルディングです。それぞれ異なるバックグラウンドをもったメンバーが集まってので当たり前といえば当たり前ですが、仕事に対する姿勢やメンバー間でもコミュニケーションの取り方で誤解を生んでしまうことも多かった記憶があります。

──:そういった問題は、どのようにして解決されたのでしょうか?
 
プロジェクトマネージャとして互いの橋渡しに徹しました。「何が嫌だったのか」を直接ヒアリングし、そのうえで文化的背景に関する説明を加えて伝えたり、お互いの落とし所を話し合う場を設けたり、とにかくコミュニケーションを活発に行いました。
 
また、海外展開にあたり当時はCygamesが直接パブリッシングをするのではなく、各パートナー様とご協力する形でリリースをしていたのですが、関わる会社様が多いとリスクを伴った決断がしにくかったり、スピード感が出にくかったりと、少し複雑になってしまっていた所があったと思っています。パートナーを組むのが悪いという訳ではないですが、各社で見ているところや考えていることをすり合わせるのには少し苦労をしました。

 
──:その際に学ばれたことを教えてください。
 
現在、弊社の子会社であるGameJeansの代表をしている飯野が、当時、海外展開の担当役員だったのですが、海外出身のメンバーから得た意見の活かし方が良かったと思います。日本人の感覚では突拍子もない内容の提案だったとしても、飯野は「面白いからいいよ」、「ここまではできないけど、ここまでならいいよ」と、自由にさせてくれたのです。そこには、ローカライズメンバーの方が、自分の国のことをよく知っているのだから尊重しようという考えがありました。
 
──:ちなみに、印象に残っているところではどういった提案がございましたか?
 
日本版では「レジェンドガチャ」と呼ばれていたものがあるのですが、韓国では当時あまり「ガチャ」というのが一般的ではなくそのまま訳してしまうと日本版のようなかっこよさを感じにくいという意見があがりました。その際に当時のディレクターが『エクスカリバーパック』という名称にしたい!という強い意見を飯野にあてて、その案が通ったときがとても印象に残っています。ゲームの各名称を変更することは、当時あまり考えられませんでしたが、直訳してカッコよさやゲーム感が失われることよりも、飯野は常に現地の方がより親しみやすい名称に変更することを推奨していました。
 
 

■海外でのプロモーションとゲームシステム最適化

 
──:今後、Cygamesの海外進出はどういった形で行われていくのでしょうか。
 
様々なタイトルで海外進出を検討していますが、まずは『シャドウバース』をヒットさせたいです。『神撃のバハムート』を海外展開する際に培ったノウハウを活かしながら、当時残った課題を解決して、改めて『神撃のバハムート』のIPを使った『シャドウバース』で挑戦してみたいという想いが強いです。
 
──:当時残った課題とは?
 
当時は展開する国ごとにチームが分かれておりましたが、チームごとに独自に運営を行っているような状況でした。今後は日本チームと各国の橋渡しをすることでより繋がりを強固なものにし、連携を取ることが課題です。全員の共通認識として、世界展開を目指すタイトルだという意識を持って開発を進める体制をどのように組織していくかが新たなチャレンジになってくると思います。

──:ちなみに、現在はどういった言語でローカライズを進められているのでしょうか。
 
ヨーロッパ言語、韓国語、繁体字、簡体字といった言語でのローカライズを進めています。
 

──:先んじて配信されている英語版の反響はいかがですか?
 
steam版をリリースした頃から、遊んでいただける頻度が増えた印象はあります。自社開発タイトルとしては、steam版は初挑戦でしたが、北米では力のあるプラットフォームであることを再認識させられました。
 
──:海外進出する際に意識したい点はございますか。
 
『シャドウバース』に関しては各国でもオフラインイベントを積極的に開催していこうと考えております。国内では、リリースしてすぐに大会を開催できましたので、各言語でローカライズした地域に関しても、その形に習ってイベントを実施し、e-sportsとしても盛り上げていけるのがベストです。また、国内では先日、RAGEという大規模な大会を開催できましたので、ローカライズに合わせて国外で世界大会を開催することも視野に入れていきたいです。
 
▲TICA 台北国際コミック・アニメフェスティバル《台北国際動漫節2017》に出展した際の様子。

──:ゲームシステムにおいて注意すべきところはどのようなところでしょうか。
 
『シャドウバース』では、世界大会を見据えたタイトルにもなるので各地域によって仕様を変えないという方針を重要視しております。特に、能力値を変えてしまうと世界大会を開催できないので、そこは厳格に行います。
 
あとは、日本や韓国では高スペックのスマートフォンが浸透していますが、台湾では両国に比べて端末のスペックが落ちてしまうので、快適な環境を作れるようにしなければいけないと考えています。現在、国内版でもバトル演出の軽量化を取り入れておりますが、海外で遊んでもらうためには、そういった細かい部分への配慮・改善が必要になると思います。

 
 
 
──:先ほど、韓国版『神撃のバハムート』を担当していた際にはプロモーションの難しさを感じたという話もございましたが、『シャドウバース』はどのように展開されていくのでしょうか。
 
ゲームの内容をしっかりと見せるクリエイティブと、芸能人を起用したマスへのアピールという点は日本と大きく変わらないと思います。どこに向けてプロモーションをかけることで、取り込みたいユーザーに見てもらえるかは、現地に詳しいチームメンバーと話し合いつつ、現地のパートナーと二人三脚で考えていかないといけません。台湾や中国には、日本の声優のファンがたくさんおられますので、推していきたいと考えています。日本と同じレベルでアピールできるのではないかと思っております。

──:なるほど。台湾でもベルエンジェルの「リンゴンリンゴン」が流行るかもしれないですね。
 
流行ると嬉しいですね(笑)。

▲日本のユーザーからも人気のリアルプロモーションカードの配布なども行われていた。
 

■Cygamesを世界規模でブランディングするために

 
──:仕事にやりがいを感じるのはどういった瞬間でしょうか。
 
ひとつは、海外のユーザーが『シャドウバース』を遊んで「このゲームが面白い」とコミュニティで話題にしてくれているのを目にした際です。自分がゲームをプレイしている時に海外ユーザーとマッチングすると、大変だった時期を思い出しながら「作って良かった」と思えます。
 
もうひとつは、チームメンバーが喜んでくれた時ですね。例えば、自分たちが作ったゲームタイトルのTVCMが全国区で流れたり、山手線に広告が出た時に写真を撮ったり、チームメンバーが「このゲームを作って良かった」と思う瞬間を共有できると、開発に携わったプロジェクトマネージャーとして幸せを感じます。

 
──:Cygamesの特徴を教えてください。
 
『神撃のバハムート』の頃から、ゲームらしく翻訳することに関してはプライドを持ってローカライズメンバーと話をしています。世界観の見せ方や、単語の統一性、ゲームらしいシステム翻訳といった点でローカライズメンバーにノウハウがありますので、外部に依頼した翻訳であっても必ず社内チェックを通すようにしています。
 
──:海外展開のチームにはどういった方が在籍されているのでしょうか。
 
日本のゲームが好きで、自分の国に出したい、知ってほしいという想いが強いメンバーが非常に多いです。あとは、日本のエンターテインメントについても詳しいですね。
 
──:経歴的にはどういった方がおられますか?
 
コンシューマーでローカライズを担当していた方が多いです。そのほか、フリーランスで翻訳家をされていた方や、海外のデベロッパーに勤めて培った経験を活かして入社された方もおります。
 
──:どういったスキルが求められるのでしょうか。
 
ローカライズ(翻訳)に関しては日本のゲームらしい文章の書き方や言い回しに明るい人が好ましいです。

あとは、ローカライズに関して感動したことがある人が良いですね。スキル以上に日本のコンテンツやエンターテインメントを海外の人に知ってもらいたいという気持ちが強いことも重要です。弊社で海外でのパブリッシングを行うのは初めてなので、これまでのノウハウや経験に従うだけではなく、様々な困難に立ち向かうことになると思います。法律的な問題や、各国の景表法がどのようになっているのか、CSへの対応の傾向確認、それらの事情が分からない日本のメンバーと協力しながら、現地の方に快適に遊んでもらえるようにしなくてはいけません。解決しなければいけない案件が多い中、最後の要になるのは、「このコンテンツを知ってもらいたい」という強い想いだと思います。自分が携わっているコンテンツを多くの人に遊んでもらいたいと思える人がいいですね。
 

──:職種的にはどういったところを求められているのでしょうか。
 
国内ではまだ浸透しておりませんが、これから社内でパブリッシングしていくにあたって、ユーザーと開発チームの架け橋になれるコミュニティマネージャーという職が必要になります。また、翻訳チームと開発チームの橋渡しをするコーディネーターという職種。さらに、依頼した日本語翻訳がいつ届くか、音声がどうなっているのかなど、プロジェクト全体の進行管理をするプロジェクトマネージャーについても人材を募集中です。
 
あとは、先ほどお話した通り海外でもオフラインイベントを開催したいと考えておりますので、そういったところに興味がある方に来ていただけると嬉しいですね。

 
──:オフラインイベントは、大会以外にどのようなものを考えておられるのでしょうか。
 
『シャドウバース』以外のタイトルも展開していきたいと考えておりますので、国内で言うところの東京ゲームショウやコミックマーケットのようなイベントに出展したいと思っております。もちろん、ゲームを遊んでいただくことも大きな目的ではありますが、Cygamesというブランドを世界で広めたいという目標もあります。
 
▲韓国のプレスカンファレンスでは、『シャドウバース』プロデューサーの木村唯人氏が登壇し、プレゼンを行ったり海外記者からの質問に答える場面も。

──:ちなみに、今後、海外進出を予定されているタイトルはございますか?
 
『グランブルーファンタジー』を海外展開するために準備中です。また、Cygames NEXT 2016で発表した『プリンセスコネクト Re:Dive』、『LOST ORDER』も海外展開を予定しております。特別な理由がない限り、今後、弊社からリリースするタイトルは海外にも展開できるという選択肢を持たせていきたいと思っています。自社パブリッシングにこだわりがあるわけではありませんので、パートナーと組むことも視野に入れつつ、如何に成功率を上げていくかを考えていきたいです。
 
──:最後に、今後の展望をお願いいたします。
 
日本では、Cygamesと言えば『グランブルーファンタジー』や『シャドウバース』など各自好きなタイトルを思い浮かべていただけるほどには認知されてきたと思います。次はアジア、そして世界で、「Cygamesの新作タイトルなら期待できる」と思っていただけるようにしていきたいです。そのためにも、各国でCygamesのゲームを遊んでくれるユーザーを増やしていきたいですね。
 
――:本日はありがとうございました。
 
(取材・文:編集部 山岡広樹)
  (撮影:TAESOO KANG)
 
 
 

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