【インタビュー】Unity向けリアルタイム通信エンジンの新しい選択肢―MRS開発のキーマンが進化のポイントを語る

モノビット社は、以前からゲーム向けのリアルタイム通信エンジンを展開しており、最近はVR-MMORPG開発を目指してVR事業にも力を入れている企業だ。そんなモノビットが、3月30日に新しいリアルタイム通信エンジン製品群を発表した。
 
この新しい通信エンジンは、モノビットCTOの中嶋謙互氏が開発を主導したとのこと。中嶋氏と言えば、知る人ぞ知る日本のオンラインゲーム開発の第一人者であり、国産MMORPGのほとんどのタイトルに採用された実績のある通信エンジンの開発者としても有名だ。
 
新しい通信エンジンでは、どのようなことが可能になったのか?従来の製品に比べて何が変わったのか?今後のVR対応は?開発のキーマンである中嶋氏を始め、モノビット代表の本城嘉太郎氏、ミドルウェア事業部部長の安田京人氏にお話を伺うことが出来たので、本稿ではその内容をお伝えする。
 

モノビットエンジン紹介ページ

 

◼︎新しい通信エンジンで、何が変わったのか?

  

株式会社モノビット
代表取締役社長
本城嘉太郎 氏(写真左)

取締役CTO
中嶋謙互 氏(写真中央)
著書「オンラインゲームを支える技術-壮大なプレイ空間の舞台裏-」
(技術評論社)
 
ミドルウェア事業部部長
安田京人 氏(写真右)


――よろしくお願いします。まずは、リアルタイム通信エンジンの新製品がどんなものなのか、あらためて教えてもらえますか。
 
安田 京人氏(以下、安田):新製品の「Monobit Unity Networking 2.0(MUN)」は、Unityで簡単にマルチプレイが実現できる無料アセットです。また、サーバ向けの新製品「Monobit Revolution Server(MRS)」は、MMORPGを開発できるほどの高性能を与えられたサーバ向けミドルウェアです。
 

――モノビットさんは以前から多くの通信ミドルウェアやライブラリを開発していましたが、それらとはどのように違うのでしょうか。
 
安田:「MUN」はUnityで簡単に使えるコンポーネントで、Unityにプラグインを入れてAPIを呼び出すと、なにもしなくてもいきなりオブジェクト同期やマッチングが可能になります。ここまでは従来品も同じだったのですが、MUN2.0になってから、通信コアを刷新したお陰で大幅に通信スループットや応答速度が向上しました。さらにUDPやRUDPに正式対応したり、MRSと連携することで、サーバにコードを書くことも出来るようになりました。
 

一方の「MRS」は、従来製品である「モノビットリアルタイム通信エンジン」の進化版という位置づけになります。従来品に比べての大きな特徴は、高速化はもちろんですが、C#言語でもサーバの開発ができるようになったことでしょうか。これによってUnityとの親和性がぐっと高まりました。MUN2.0と連携することで、非常にスムーズにUnityからゲームコードの一部をサーバに移植したりできるようになりました。
 

――この2つの製品は、セットで使うことでより効果を発揮するのですか?
 
中嶋 謙互氏(以下、中嶋):はい、そうですね。少人数での簡単なマルチプレイであれば、「MUN」だけでも充分に対応することが可能です。ただしクライアントのみで対戦ゲームなどを実装した場合、チートされてしまうなどの問題が出てきます。チートを防ぐため、重要な処理やデータをサーバに移植したいときに、「MRS」との連携が威力を発揮します。「MRS」を単体で使うというのは、比較的珍しいケースだと思います。
 
――クライアントとサーバ、2つの製品の連携はスムーズなのでしょうか?
 
安田:はい、ちょうどの4月28日に実施したセミナーで、私が実際にMUN2.0とMRSを連携させて、Unityからソースコードの一部をサーバに移植するコーディングの実演を行いました。講演の動画はYouTubeとSlideShareにアップされていますので、そちらをご覧頂ければ、どれだけスムーズに連携が行われているか、すぐにご理解頂けると思います。


▲講演にて用いられたスライド資料

▲講演模様
 

――なるほど。では、新開発のサーバ製品「MRS」について、詳しくお話を伺ってもいいですか。
 
中嶋:従来の「モノビットリアルタイム通信エンジン」は通信プロトコルとしてTCPのみを搭載していたのですが、新たにUDPとRUDPも搭載しました。これにより、重要な通信はTCP、応答速度重視の通信はUDPと、1つのタイトルの中でパケットの特徴にあわせて適切なプロトコルを選択できるようになりました。また、サーバの言語もC++しかなかったところにC#も加わりまして、Unityと同じ言語でサーバのコードを書けるようになりました。
 
――性能の面では、以前の製品とどのような違いがあるのですか?
 
中嶋:応答速度が圧倒的に早くなり、アクションゲームはもちろんVR向けのゲームでも最小限の遅延速度でマルチプレイが実装できるようになりました。また、通信コアのコードに対して徹底的な最適化を行った結果、今までのサーバと比較して、CPUの使用量が驚くほど小さくなっています。既存の製品でも1つのサーバにつき2,000から3,000同時接続を捌くことが出来ましたが、MRSでは2万同時接続まで捌くことができるようになりました。

これにより、高性能サーバ1台で1つのタイトルのリアルタイム通信をすべて捌くことも可能になり、サーバインフラの管理の手間を大きく減らすことも可能です。ただ2万同時接続はテストでの値であり、実際には余裕を持ったサーバ設計をおすすめしますが、それでも1万接続くらいまでは、どのメーカーであっても自由に利用できると思います。
 
――1万接続と考えても、従来の5倍近いボリュームになっていると考えればすごいことだと思います。
 
中嶋:ええ。さらに通信コアのプロトコルはTCPやUDPを用意していますが、世の中で使われているのはTCPのほうが多く、チューニングが進んでいるのもこちらです。応答速度はUDPが圧倒的に有利ですが、スループットはTCPに分があります。弊社ではUDPのスループットに関するチューニングも行っているところで、将来的にUDP、TCPともにさらなるスループットの向上を目指して開発を進めています。
 

――サーバを開発する環境にはどのような特徴があるのでしょうか?
 
本城 嘉太郎氏(以下、本城):MRSはマルチプラットフォームに対応しておりまして、同じソースコードでWindows、Mac、Linuxでそのままコンパイル可能になりました。例えばWindows上のVisual Studioでサーバを開発して、完成したらLinuxサーバにコードをコピーしてコンパイルして、Linuxサーバ上で運用することも可能になるわけです。Visual Studioの強力な開発支援機能で効率よくゲームサーバを開発しながら、運用しやすいLinuxサーバで本番サーバを構築できます。複数のOSの強みに合わせた美味しいどこ取りができるイメージですね。
 
またサーバプログラムはC++にも対応しており、大規模サーバの設計も可能になっています。C#だと処理速度の面で本格的なMMOサーバなどが作りづらいケースも見受けられますが、そういった問題も解決できます。また、 Unreal EngineやCocos2d-xなどC++ベースのゲームエンジンとの親和性も魅力ですね。

 
――サーバも大変開発しやすくなったのですね。それではクライアントの対応プラットフォームについてはいかがでしょうか。
 
安田:5月末にはJavaScriptクライアントにも対応する予定です。これはクライアント側のJavaScriptSDKから、弊社が作ったMRSのルームサーバーなどにアクセスして利用できるようにするものです。最近多くのプラットフォームが発表されている、ブラウザ向けのゲームなどでもマルチプレイを簡単に実装頂けるようになります。
 
本城:そのほかにもUnityの「UNET」インターフェースにも対応していこうと考えています。また Unreal Engineや、プラットフォームとしてはPS4、Nintendo Switchへの対応も進めているところです。

 
――すでにこの新製品を利用したタイトルもリリースされているのですか?
 
本城:大手メーカー様の複数のタイトルで新バージョンの通信エンジンを採用頂いており、いくつかは年内の配信が予定されています。
 

 

◼︎自分でリアルタイム通信クラウドを構築できる新製品も展開予定

 
――新製品の開発やアップデートを行う際、利用者からの要望や意見を聞く機会はあるのでしょうか。
 
安田:品質自体は非常に満足いただいていましたが、要望が多かったのはその先、使い方ですね。従来製品は本当にプロ仕様で、理解するまでに時間がかかる側面もありました。お客様から質問をいただくケースもかなり多く、できるだけ分かりやすく、なおかつ性能の良いものを作りたいと考えたのが今回の「MRS」と「MUN 2.0」です。また大規模なゲームだとサーバ台数も自然と増えてきます。そうなると管理の手間も問題になります。それも新しいバージョンだとサーバ台数が劇的に減るため、運用という意味でもお客様の負担を減らせるようになったのではと思っています。
 
――機能面の他に、なにか新しいサービスはございますか?
 
中嶋エンジンのソースコードを提供可能にしています。通信エンジンのコア部分のコードは、基本的に見る必要はないものの、セキュリティが厳しい会社さんだと、自分の手でコンパイルし、バグの修正をしたいものです。我々としても柔軟に対応し、採用企業様の希望をなるべく叶えていきたいと考えています。
 

本城:MMORPGや、VRでの大規模空間共有など、高度なサーバ設計が必要なタイトルについては、ただ単にエンジンを提供するだけではなく、サーバ設計や開発全般から弊社がご協力することが可能です。弊社はミドルウェア企業と思われがちですが、実はゲーム開発もしっかり行っており、エンジニアだけでも約40名の技術スタッフが、Unityや Unreal Engineを用いながら、ゲームサーバの開発なども行っています。その技術スタッフ達がエンジンと一緒にお客様の開発そのものを代行させて頂くことも行っています。

――現在は各社がクラウドサービスの提供を計画していますが、モノビットさんとしてはいかがですか?
 
本城:弊社では、自社でクラウドサービスを展開する計画もあるのですが、その前に、誰でもリアルタイム通信向けクラウドサービスを展開できるソフトウェアを提供してしまおうと考えています。要するに、このソフトをクラウド業者が導入すれば、自社オリジナルのリアルタイム通信クラウドサービスを展開できますし、大手ゲームメーカーの情報システム部門の方が導入すれば、自社の全タイトルのリアルタイム通信インフラを自分たちで管理、制御できるようになります。我々は、クラウドサービスに繋がった同時接続分だけを利用料としていただきます。

既存の製品では、効率的な運用監視や、負荷に合わせたサーバの増減を管理することが簡単ではありませんでした。このソフトを使うことによって、大変効率的な運用が可能になる予定です。この製品は夏前にリリース予定です。

 
――それはユニークな製品ですね!リアルタイム通信の専門家がいなくても運用ができるイメージなのでしょうか?
 
本城:インフラ構築を自分たちで行える技術力があれば導入可能です。また、これまでもさまざまなゲームの開発をお手伝いしてきましたが、毎回問題になるのが「複数のゲームサーバにどのように負荷をふりわけて、冗長化するのか?」です。これまでは「その部分はゲーム内容に依存するので、独自設計してください」と渡していたのですが、それだと無理な設計をしてしまったり、スムーズに冗長化できない設計になってしまったりと、提供方法に課題が残る部分でした。

そこで、このソフトを1タイトル向けだけでも導入してもらえれば、我々の提案する標準的なサーバ設計や自動冗長化が自然と行えますので、このようなトラブルを回避できるのではないかと考えています。
 

 

◼︎インディーズへの無料開放も予定

 
――3つ目の製品「VR Voice Chat」も近々アップデートの予定があるとお伺いしました。
 

安田:はい、5月中旬にリリース予定です。「VR Voice Chat 2.0」はコアにMRSを採用し、さらにボイスのエンコード、デコード処理も最適化を行って、応答速度が従来品より約30%向上しました。従来より、より自然なボイスチャットやVR空間共有がご体験頂けると思います。
 
――御社の製品について、どのような層に使ってほしいと考えているのですか?
 
本城:メーカーはもちろんですが、インディーズのみなさんにも是非使って頂きたいと考えています。メーカーではなかなかチャレンジできないような、リアルタイム通信を大胆に活用したゲームやVRコンテンツなどが増えて、ゲーム業界やVRコンテンツの業界が盛り上がっていければ、1ユーザーとして我々も大変うれしく思います。

そんな思いから、弊社の全製品について、インディーズや個人の方、学生、教員の方については、接続数無制限で完全に無料で提供させて頂くことにしました。100人同時接続までは、もともと無料なのですが、それ以上の接続を希望される場合は、弊社までご連絡を頂ければ、特別に接続数無制限版をご提供します。

 

安田:個人やチームで、VRゲームや本格的なMMOを作りたい人にはぜひ利用してもらいたいですね。

――それはインディーズや学生のみなさんにとっては嬉しいニュースですね!では最後に、今後の製品ロードマップを教えて頂けますか?
 
本城:はい、MUN2.0、MRS、VR VoiceChatともに、毎月ペースでどんどん機能を追加していく予定です。詳しくは、今後のアップデート予定表をご覧下さい。
 
中嶋:MRSでは、Unityだけでなく Unreal Engineも正式対応版を年内リリース予定です。また、単なる通信エンジンだけでなく、負荷テスト自動化ツールや、運用監視ツール、自動スケール機能など、実際に利用してみて便利さを実感できる周辺ツールも続々リリースしていきます。
 
安田:VRボイスチャットでは、年内にミキシングサーバを導入し、接続人数の上限を一気に100人以上にアップさせる予定です。これによって、本格的なVRMMOや、VR上での多人数の集会など、いろいろな使い方が出来るようになると思います。

▲各サービスのアップデートロードマップ。
Unityへの最適化も図られ、スマートフォンゲーム開発がしやすくなり、
VRコンテンツ開発に関するツールも更新されている。
業界の技術研鑽として、インディーズ無料開放も行っているモノビットには今後も注目していきたい。

 
――ありがとうございました。

 

モノビットエンジン紹介ページ

monoAI technology株式会社
http://monobit.co.jp/

会社情報

会社名
monoAI technology株式会社
設立
2013年1月
代表者
代表取締役社長 本城 嘉太郎
決算期
12月
上場区分
東証グロース
証券コード
5240
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