【インタビュー】KLabがスパイスマートを子会社化 良質なアプリレポートの創出や海外展開など、そこで生まれるシナジーについて訊いた


KLabは、7月3日、モバイルオンラインゲームのリサーチ・海外コンサルティング事業を行う株式会社スパイスマートの株式を取得し、完全子会社化を発表した。

スパイスマートは、モバイルオンラインゲームのゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供している。

何故KLabは、スパイスマートを子会社化したのか。そして、両社間ではどのようなシナジーが生まれるのか。経緯や今後の展望について伺ってきた。

KLab株式会社
取締役副社長 COO
五十嵐 洋介 氏(写真左)

株式会社スパイスマート
代表取締役 CEO 張 青淳 氏(写真中央)
取締役 藪内 茂弘 氏(写真右)
 
  

■より運営目線に近いサービスへ昇華


――:本日はよろしくお願いいたします。はじめにスパイスマート社の子会社化の経緯について教えてください。

五十嵐洋介氏(以下、五十嵐):弊社では、KLabグループの企業価値を高めるため、これまでも優れた会社をM&Aさせていただいてきました。スパイスマートについては、同社の業績推移が優れていたこともありますが、KLabの本業であるゲーム事業とのシナジーが明確であることが挙げられます。また、我々自身が元々スパイスマートのサービスを利用しており、品質の高い分析や優れたレポート、企業としての安心感を、いちユーザーとして実感していました。

海外コンサル事業では、新規市場も分析しているほか、日本の動向を中国企業にも届けるなど、日本だけに閉じない発想で事業を作り、実行していることも魅力的です。弊社としても日本のIPを海外に展開していく姿勢を持っているため、スパイスマートの知見が即戦力になる確信がありました。


■スパイスマートのサービス紹介

【Sp!cemartカレンダー】
<人気タイトルのランキング推移と期間中のアプリ内イベントが“ひと目”でわかるWebサービス>

人気タイトルのゲーム内イベント、アイテムセール、新キャラ導入やプッシュ通知などその内容や、 実施時期をカレンダー形式でデータベース化しており、WEB上の専用画面でいつでも閲覧できる。日本版・中国版・韓国版・香港版・台湾版を用意。

▼活用想定シーン
・ヒットゲームアプリのイベント運用について徹底的に分析調査したい
・競合ゲームのイベントを分析&モニタリングし差別化を図りたい
・自社ゲームのイベント運用をもっと効率化させランキングをあげたい
・Grossingランキング推移とイベントを関連づけて研究したい
・国ごとのイベント成功要因の違いを知りたい

 

▲各国Storeのトップセールスタイトルのゲーム内でのイベント、ガチャ、アイテムセール、新キャラクター導入やプッシュ通知等、その内容詳細や実施時期をデータベース化しカレンダー形式で提供。


【Sp!cemartマーケットトレンドレポート】
<各国ゲームアプリ市場の最新マーケットトレンド情報を毎月提供>

売上・ダウンロードランキング、主要タイトルの運用データの総括や分析、注目のプロモーション事例や新規タイトル情報など、 定番情報に加え旬のテーマをピックアップし、レポート形式で閲覧できる。日本版・中国版・韓国版・香港版・台湾版を用意。

▼活用想定シーン
・売上を伸ばしているタイトルのイベント詳細が知りたい
・他社の最新プロモーション手法を知りたい
・IPタイトルのリリース状況などの市場トレンドが知りたい
・ガチャ規制などに対する各社の対応方法を把握したい
・海外の最新、且つ正確なゲームトレンド情報を知りたい

 

▲「日本マーケットトレンドレポート 2017年2月」の<特集『モンスト』のV字回復>抜粋。ゲーム内外、様々な視点から成功要因を調査(※一部ぼかしを入れています)


――:スパイスマート社としては、最初にM&Aのお話を伺った際の印象はいかがでしたか。
 
張青淳氏(以下、):非常にありがたいお話をいただいたと思いました。私たちはサービスを立ち上げてから3年経ちますが、これまではレポートのエリア拡大や、「Sp!cemart カレンダー」の収録タイトルの本数を増やすなど、人の生産力に合わせてサービスを作ってきました。

しかし、システム開発をはじめ新機能を導入する面での技術オピニオンが欠けており、それに付随する新規事業を自分たちだけで完結させることに難しさを感じていました。そこで各方面からアドバイスをいただいたほうが、スムーズに進みやすいのではないかと考え、2016年末からパートナー探しを始めました。そのタイミングでKLabにお声がけいただいて、現在に至るというところです。


――:スパイスマートのサービス開発について、エンジニアやデザイナーなど、一部職種をアウトソーシングしているかと思いますが、今後の機能拡充を考えた際に、人員・技術不足にぶつかったということですね。

藪内茂弘氏(以下、藪内):はい。国内マーケットだけですと、事業としての成長にも限りがあるため、弊社では海外展開も含めて積極的に取り組んできました。海外マーケットの成長スピードに鑑みると、我々の提供サービスの拡充や品質向上のスピードはまだまだ足りていないと常々感じていました。そういう意味でも、今回のKLabからのお話は我々にとっても大きなビジネスチャンスだと思いました。



――:BtoBサービスを展開しているスパイスマート社が、KLab社の子会社になることで、既存顧客から不安の声があったのでは?

:今回の件で挨拶周りをさせていただいた際に、引き続き使いたいという声を多くいただきました。一部には、もうKLab以外の外部の事業者にはサービスを提供してくれないのではないか、というようなご心配の声もいただきましたが、引き続きサービスを提供していくことと、KLabとの連携により機能強化を行っていくことを伝え、みなさん総じてご理解くださり応援してくださっていると感じています。

弊社が提供しているサービスは、ゲームアプリの運用を分析するもので、機密情報に当たるデータは取り扱っていなく、既存の情報を効率よく加工し分析しているものです。今後は機能開発をすすめ、より良いサービスであることをお客様に提示すべきフェーズだと思っています。だからこそKLabグループに入るということは、言わば一番身近なデベロッパーから直接アドバイスをもらえることにもなり、ひいては我々のサービス価値向上の近道になるのではないかと考えました。

五十嵐:M&Aという手段をとる以上、対象企業が売上・利益をきちんと出していることは勿論ですが、今後の事業拡大もしっかり見込めるということが大事です。スパイスマートは今後もお客様に対して、より良いサービスを提供していくつもりですし、しっかりと拡大を目指していきたいと思っていますので、KLab内だけでレポートを独占しようなどとは全く考えていません。
 
スパイスマートのサービスは、色々なお客様からのご要望や、多くの方々が見ていただいているプレッシャーがあるからこそ、品質が高まっていくものだと思います。お客様からのフィードバックやアイデアを聞かずに、自社の分析部門だけに閉じてしまうのは、事業の退化を表しますし、ひいてはレポートそのものの質も下がってしまいます。それは我々にとっても得策ではないと思っています。そのため、今回のM&Aは既存のお客様に対しても、win-winの関係を構築できるはずだと考えています。


――:先日発表されたプレスリリースでもシナジーについて言及されましたが、スパイスマート社は今後KLab社のノウハウを様々なところで活用できるかと思います。現時点のお取り組みで構いませんが、KLab社のノウハウが入ることで、具体的にどのように事業が昇華されていくのかお聞かせください。
 

藪内:まずはSp!cemartというツール自体を大きくブラッシュアップし、お客様へ提供できる価値を大幅に高めていきたいと考えています。これまで70社以上もの企業様にご利用いただき、様々なご要望をいただきましたが、その中で実際に何が一番重要で、ゲーム運営についてどのような課題を感じているのかは、デベロッパー様でしか知り得ない情報でした。このような状況下、我々は出来る限りお客様の課題や要望をヒアリングし、それらの解決に役立つようイメージを膨らませながらプロダクト制作に向き合ってきました。

それが今後は、ゲーム事業を展開しているKLabメンバーとの意見交換やブラッシュアップの機会を作ることで、よりお客様課題の解決にフィットしたプロダクトにしていくことができるかと思っています。言わば、より運営目線に近いサービスを目指せるのではないかと期待しています。


――:一方でKLab社はスパイスマート社の事業を活用して、どのような部分でメリットが発揮されていくのでしょうか。

五十嵐:スパイスマートの持つ東アジアを中心とした海外顧客網に対して、タイトルの輸出入の提案をしたり、アニメなどの原作開発プロジェクトに対する共同参画の提案したり、というような取り組みを考えています。


――:スパイスマート社では、モバイルゲームの海外進出コンサルティング事業として、これまでも中国をはじめとする東アジア圏の進出を斡旋してきたと思います。改めてですが、御社の海外進出コンサルティング事業のサービス内容について教えてください。
 

:最近になって、中国企業が日本で成功しているのを見かけるようになりましたが、中国本土を見ると、まだまだ日本では見たことのない魅力的なタイトルが多々あります。対して、人気IPや秀逸なゲームシステムを保有しているにも関わらず、日本企業が中国で成功しているのは極わずか。失敗の要因として挙げられるのが、現地企業とのコミュニケーションコストです。ビジネスの習慣や考え方の相違などに起因して、タイムロスしているところがあります。

そこで、我々が間に入って、ビジネスチャンスをスピーディーに創出するためのアドバイザリーを行っているのです。そして今後は、KLabのノウハウとリソースを活用して、個別タイトルの海外進出支援やIPの輸出入など、ワンストップサービスにも繋げていこうと考えています。


――:KLab社のノウハウとリソースが加わることで、アドバイザリー業務に加えて、実際の進出までもフォローする、包括的なサービスを見出せそうですね。まさに、これもひとつの新規サービスとして考えられそうですが、五十嵐さんのほうでは直近考えられていることはありますか。

五十嵐:確実にやりたいと思っている取り組みは、インアウト事業(海外企業の日本進出及び日本企業の海外進出の支援)です。スパイスマートが持っている中華圏のトップデベロッパーとのコネクションと、KLabが持つ日本でのゲームの企画・開発・運用・マーケティングのノウハウを組み合わせることで、中華圏のデベロッパーに対し日本でのゲームパブリッシングに係る一連の業務をワンストップで提供するサービスをやっていきたいと考えています。
 
弊社には、KLab Chinaという現地の拠点があり、じつはそこで当社ゲームの海外版の運営を受け持っています。英語版のインハウス運営に加え、中国や各国のパブリッシャーとの連携をする上での「フランチャイズ本部」のような機能を果たしています。また、緊密な協力関係にある現地のパートナー企業を通して、中国でゲームをパブリッシングする体制も構築できています。それらを組み合わせることで、日本企業が海外進出する際に、配信・運営からユーザーサポートまでを一手に引き受けることが出来ます。
 
今までは自社タイトルしかやってこなかったのですが、今後は他社様のタイトルにも活動範囲を広げ、日本のゲームを中国に適応させること、中国のゲームを日本に適応させることの両方で結果を出していきたいと考えています。


――:それでは、最後に「Social Game Info」の読者にメッセージをお願いします。


五十嵐:Sp!cemartはBtoBビジネスです。いかにお客様のお役に立てるのかが全てだと思っています。優れたレポートを提供することで、お客様のゲームでより良い運営やプロモーションに繋げていただけるよう、ひいてはそれらがユーザーさんの笑顔を増やすきっかけになるよう、両社で力を合わせて取り組んでまいります。
 
スパイスマートに対しては、これまで以上に贅沢な要望、または厳しい声などもお寄せください。それらは、必ずサービスの品質を磨き上げるきっかけに繋がると思います。

藪内:まずは、Sp!cemartをここまで育てていただいた方々に改めて感謝したいと思います。これまでお客様からのご要望やご期待に応えられないことがあったり、その期待に応えるので精一杯だったりという状況でした。これからは、KLabグループとしてのバックアップを有効に活用しながら、期待を超えられるようなサービスを提供してまいります。

:日本と中国をはじめとする東アジア、これらのコンテンツの越境サービスのラインナップを増やしてまいります。恐らくそこには、既存の座組以外にも、新しいビジネスモデルが多々あるかと思っています。ゲームを中心としてエンターテイメントを展開されている各国のお客様が、国境を越えて大きな収益を得られる機会を創出することで、産業に貢献していまいります。すでに何件か仕込んでいる案件もありますので、今後の発表をお楽しみください。


――:本日はありがとうございました。


■企業サイト
 

KLab株式会社

株式会社スパイスマート




Copyright © Sp!cemart Inc. All Rights Reserved.
KLab株式会社
http://www.klab.com/jp/

会社情報

会社名
KLab株式会社
設立
2000年8月
代表者
代表取締役社長CEO 森田 英克/代表取締役副会長 五十嵐 洋介
決算期
12月
直近業績
売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3656
企業データを見る
株式会社スパイスマート
http://corp.spicemart.jp/

会社情報

会社名
株式会社スパイスマート
設立
2015年7月
代表者
代表取締役 久保 真澄
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