【インタビュー】ディライトワークスの塩川洋介氏がゲーム業界に一石を投じる…創点プロジェクトの次なる一手、キーワードは「弟子」




ディライトワークスが、9月2日に1Dayインターンシップとなる「創点 ~ディライトワークス 1Day インターンシップ 2017 夏の陣~」の開催を発表し、実施したのは既報の通り。

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「創点 ~ディライトワークス 1Day インターンシップ 2017 夏の陣~」は、FGO PROJECTクリエイティブディレクターの塩川洋介氏が講師を務め、「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」という同社の開発理念に共感する学生を対象とし、面白さを創り出す点、すなわち“創点”をテーマに、ディライトワークスでの業務を体感してもらうというもので、人材育成を視野に入れた採用を目的とした内容と言える。

今回、その“創点”をテーマにしたインターンシップを開催した塩川氏へのインタビューを実施。ゲーム業界における人材の採用・育成面の現状や課題、そしてインターンシップの狙いや、今後の展開についてお話を伺った。
 


■”ゲームを創れる人”が減ってきているゲーム業界


ディライトワークス株式会社
FGO PROJECTクリエイティブディレクター
塩川 洋介 氏




――:本日はよろしくお願いします。まずは、新卒や中途などの様々な採用形式はあると思いますが、昨今のゲーム業界における採用は、どのような状況なのでしょうか?

まず業界の現状についてご説明すると、リリースされるタイトル数が多くなってきていて、さらに、スマホに向けたタイトルは、ほぼ全て運営を行うことが前提です。そのため、我々も含めたメーカー各社が、“ゲームを作る人”を多数求めるという状況がここ数年続いています。ゲーム業界自体が急拡大しているため、この状況はすぐには変わらないと思います。しかし、現状としては採用や人材育成が追いついていないと感じています。

――:人手が足りていないということでしょうか。
 
一言で言ってしまえばそうです。「人手」というと、単純に「人数」だけと捉えられがちですが、「人数」に加えてそれぞれがもつ「技術」の面でも需給のバランスが取れていないと感じています。恐らく一番の要因は、昔と比べてゲーム業界の状況が大きく変化したことで、個々人に、より幅広いスキルが求められているためだと思います。

にもかかわらず、そこを教える教育の環境は整っていません。採用する企業の側からすると現場経験がない人を採用するのは判断材料がなく、“賭け”のような状況になってしまうため、「何を基準に採用したらよいのか?」となってしまっているのではないかと思います。かつ、応募する方たちも、企業から何を求められているか分からない。

採用する側も応募する側も、それぞれの持つカードをオープンにして真剣に勝負しなければいけない時が来ているのに、お互いに何をどう見せたらいいのかさえ分からない状況に陥っている。本来、双方ともニーズは多いのに、何故かマッチングがうまくいかないということが業界全体の課題だと思います。

――:人材育成があまり上手くいっていないと。
 
現在の人材育成に関しては、ほぼすべてがOJT的な手法になっていると感じます。タイトルが多様化する中、タイトルごとに求められる業務も多様化しているため、本来なら広く深く教える、もしくはその中からある側面を深く教えるのですが、どちらも非常に難しい状況になっているために、「とりあえず手を動かそう」という教え方が中心になってきています。

ゲーム業界全体に、もともとそういう面はありましたが、近年より顕著になっていると感じます。特に運営型のタイトルにおいては、新しい人は入った瞬間から活躍することを求められます。

パッケージゲームの場合は、開発期間が数年ある場合も多く、その期間に「ここまで到達すればいいよ」という目標があって、時間をかけてじっくり育成することができました。

しかし、運営型タイトルが中心の今は、作ったものが来月には出るというようなスピード感ですので、新しい人が入ったら翌月からすぐに活躍してもらわないとならないという流れです。即戦力と言うか、即結果を求められる状況のため、一人一人が見ることができる範囲が狭くなっているように感じます。そういった部分で、人材を育成する難易度が上がっていると感じています。

――:いまお話に挙がった課題がある中で、ディライトワークス社では採用や育成において、どのような取り組みをしてこられたのでしょうか。

会社が設立から3年半ほどですので、採用に関してまだ多くの経験はありませんが、それでも中途採用を中心に当初20人程度からスタートした会社が、現在は200人以上になりました。しかし、だんだんと採用がむずかしくなっていると感じています。常に一定数以上の方からご応募いただいていますが、プロジェクトや会社の理念に対するマッチング率が低くなってきていると感じています。

そのため、最近は学生さん向けに講義や講演を行ったり、合同説明会に積極的に参加したり、また自社でもセミナーを開催するなど、我々が何をしたいのか、何を目指しているのかを発信する機会を増やして、お互いのマッチング率を高めるための活動を始めています。
 
――:マッチング率を上げるための講義や講演を行う中で、何か課題を感じたりはしませんでしたか。

何事もすぐに結果が出るものでもないので、即効性を求めてはいないのですが、採用に関していうと、まずは自分たちがもっと発信する努力をしなければと思っています。

基本的に、正社員として長く一緒に働ける仲間を求めています。そうすると、技能はもちろんのこと、人柄や、会社の理念への共感度が大切になります。採用する側の能力をより高め続けなければならないことや、会社からの発信をより増やさなければならないことなど、多くの課題や改善点があります。



――:ゲームに関わる様々な職種の中で、特に採用が難しいのはどんな職種でしょうか。

一言で言うと“ゲームを創れる人”です。

非常に曖昧ではありますが、プランナーだけではなく、ディレクターなど、企画的な職種の中で、“ゲームを創れる人”が少なくなってきていると感じています。ディレクターであれば“ゲームディレクター”や“クリエイティブディレクター”ですし、プランナーであればどちらか言うと“ゲームデザイナー”といった人たちです。“ゲームを創れる人”というのは、“面白さを生み出せる人”のことです。

現在のスマートフォン向けゲームの業務は多様化し、かつ長期的に運用しているプロジェクトに途中から参加することも多くなります。そこではモノを作る経験は積みやすいのですが、自分で“面白さを生み出す”経験をする機会は減っています。

私自身もそうでしたが、運営中のタイトルに加わり、途中からディレクターやメインプランナーをやっているという方とよく面接でもお会いします。それは素晴らしい経験だと思うのですが、一方で、ゲームを生み出したという経験や、そのための力は、そういった経験だけではなかなか身に付きません。

これは我々だけの問題ではなく、業界全体として、そういった経験や技能を持った方が圧倒的に減ってきていますし、それを学ぶ機会もものすごく減ってきています。

――:ゲームを創れる人、生み出せる人が減ってきていると。

「何のスキルを持っていますか?」と聞かれた時に、プログラマーであれば、C++、C#、PHPが書けますなど、技術を羅列できます。デザイナーであれば、2D、3Dモーション、キャラクターが描けるなど。ただ、プランナーの場合は、やること自体はものすごく多いはずなのに、職分が明確になっていません。

肩書が同じプランナーやディレクターという名称でも、やることは会社によってバラバラです。そういうところにも原因がある気がします。プログラムやグラフィックのように、体系立てた本や実技の本があるわけでもないですし、ゲーム作りについて順序立てて教えてくれる講義があるわけでもないです。

基本的にOJTで覚えていくしかないのですが、現在のOJTの環境は先ほどご説明したような状況になっているため、“ゲームを創れる人”を育てる機会自体も減っています。“ゲームを創れる人”、つまり“面白さを生み出せる人”は、たまたま良いところに居合わせていた人の中から、非常に少ない確率でしか生まれない“絶滅危惧種”のような存在になっていると思います。

経験がものを言う場でもあるのですが、そもそも経験自体を積める場も減ってきていますし、自分で学べる方法もないという状況で、各社とも、本当にたまに芽が出る人がいるという状況になってしまっていると感じます。

――:狙って育てるというより、たまたま育ってくれた、才能の芽が出たという形になってきていると感じられるわけですね。

あるいは、前任者が辞めた後釜として、この中から選ぶならこの人かな、という流れでたまたまそのポジションに入れられるパターンでしょうか。恐らく各社ともそのような感じだと思います。そして当然、現役世代がそういう状況なので、そこに続く世代は、そこに学べることもどんどん無くなっていくという。構造的にゲームを創り出す職種の人は、先細るしかない状況だと思います。
 

■一石を投じる取り組み”弟子プロジェクト”


――:そういった課題を解決するために始めたのが、「創点 ~ディライトワークス 1Day インターンシップ 2017 夏の陣~」だったと。

そうですね。“創点”というのは、今回のプロジェクト全体を指すことばでして、「1Day インターンシップ」はその中の1つとして始まったものです。もちろん、会社としての採用・育成という側面もあるのですが、本来の意図は名前にも込めている“ものを創り出す”ということです。先ほどの課題と繋がりますが、“ものを創り出す”力や経験で、やり方というところにフォーカスをあてています。

そうした部分を体系立てて教えたり、やりたいという人たちにお話したりできる機会をつくりたいということから、プロジェクト化して“創点”という名前を付けました。そして、第1弾として就職活動にむけて準備している学生さんを対象に、「1Day インターンシップ」をやらせていただきました。



――:今回のようなプロジェクトは、昔からやろうと考えていたのですか。
 
いいえ。同じ考えを持つ方々と話している中で、最近考えるようになりました。 もともとインターンシップに興味はありましたが、確固たるテーマやゴールがない状態で「インターンやりますので、会社に来て、業務を経験してみてくださいね」という形式的なものはやりたくありませんでしたし、やるならば、ディライトワークスらしいものがしたいと考えていました。

もともと「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」という開発理念を掲げていますが、それを色濃く反映させたインターンシップができるかもしれないと、自分の中でアイデアが結び付いたんです。我々の開発理念をテーマにしたインターンをやってみよう、と考えたのがキッカケです。

――:“創点”という名称にはどのような思いが込められているんですか。
 
“創点”は、ディライトワークスの開発理念「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」を実現するための、人材育成に関するコンセプトになります。なにかを創造する場所、もの創りの出発点、創り続けたい志のあるクリエイターがたどり着く地点、そういった様々な意味を込めて、この言葉を選びました。

――:ところで、創点関連で“弟子”をキーワードにした企画があるとうかがったのですが。

インターンシップに続く新たな取り組みとして、「塩川洋介弟子入りプロジェクト」というものを立ち上げます。私自身がクリエイティブディレクターという仕事を長年やっています。自分自身の経験から、ディレクター職はディレクターを見て育つものだと率直に感じています。

自分がどうやってクリエイティブディレクターになったのか。その一番の要因を振り返ったときに、ディレクターとは何をしているのか、どういうことを考えて行動するのかという事を、間近で諸先輩を見てきた経験が活きたのだと気付きました。それと同じことを、たまたまそういう環境があったからではなく、もっとシステム的にできないかということから“弟子”という考え方に辿り着きました。

先ほどもお話ししたように“面白さを生み出せる人”は絶滅危惧種だと思っていますので、多くの偶然に恵まれてディレクターになる人もいるかもしれませんが、OJTを進め一子相伝的に発生する部分もあるとは思うんです。それをシステムとして意図的にできたら、すごくよいのではないかと思いました。そこで、敢えて徒弟制度というシステムに行き着いたという経緯です。最初は「弟子をとるなんて、すごくおこがましいのではないか?」と思っていたのですが、周囲から「どうせやるなら、弟子をとるくらいの覚悟で踏み込んでやりきったほうがいいのでは」などと言っていただく機会が増えていたこともあり、課題解決の一助になれればと一度やってみることにしました。

――:あくまで育てたいという気持ちですね。弟子制度は、ひとりに対してひとりのお弟子さんというイメージですか。

必ずしも一人である必要はないのですが、基本的にはかなり少数が良いと思っています。10人、20人と大所帯になると、今度はそれぞれをしっかり見られなくなったり、接点を持てなくなったりすると思いますので。

――:プログラムといいますか、具体的にどのようなことを教えるのでしょうか。

具体的に何を、というのは多岐にわたりますね。ただ、まずは、ディレクターを間近で見続けることが一番重要だと思っていますので、私が開発で経験しているいろいろな状況を肌で感じて体験してもらおうと思います。

いま現在の私の状況でいうと『Fate/Grand Order』のような非常に大きなプロジェクトにかかわっていますので、その中心で行われていることがどんなことなのか、実際に感じてもらいたいと思っていますし、なるべく大きなチャンスも経験してもらいたいと思っています。

それ以外ですと、発表済みのものだけでもアーケードゲーム『Fate/Grand Order Arcade』やPS VR『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』など、スマートフォンの運営タイトル以外にも、多様なプロジェクトが進行しています。その中心で、いろんなものを見て、感じるということが非常に重要だと思っています。

まだ表に出していない、数年先を見据えた新規プロジェクトも仕込んでいます。運営中のものもあれば、さまざまなプラットフォームのもの、これから生み出していくものもあり、とても多様です。そのど真ん中に身を置いて、実際に何が起きていくのかをぜひ肌で感じてもらいたいです。当然、未経験だとわからないことだらけになると思うのですが、わからないながらも色々なことを見て吸収していくのは何にも代えがたい良い経験になると思います。



――:まず何よりも、そういう状況に身を置いてほしいというのが一番の思いなんですね。

実際に何をするかというのは業務の中で変わってくると思うのですが、ひとつ確実に思っているのは、“失敗しても許される”チャンスを与えたいです。弟子となった方には私ができるかぎりの、“失敗しても許される”というチャンスを、少しでも多く、大きく与えることがこの弟子プロジェクトの意義だと思っています。

そのチャンスは貴重な経験になるので、数多く、少しでも大きなチャンスを与えて、仮に何も成果が出せなくても、それでプロジェクトが崩壊することもなければ、クビになることもない。そんな大きなチャンスをどれだけ与えられるかというのが、弟子に対して私がやらなければいけないことかな、と考えています。

――:ちなみに師匠の立場の方というのは塩川さんのほかにもいらっしゃるんですか。

まずは、塩川洋介への弟子入りプロジェクトなので、私一人です。塩川一門です。落語のような世界だと思っていただければイメージしやすいでしょうか。落語も高座に上がる前に弟子の皆さんが、あらゆるところに同行していますよね。師匠たちが何をやらなきゃいけないかを弟子が全部見ている。そういう風に、私も弟子にクリエイティブディレクターが何やっているかをまずは背中で見せていければなと思っています。

一応、見習い、前座、二つ目、真打ちというシステムを作って、いずれその弟子が孫弟子をとる状態になってくれるとうれしいです。その弟子を募集するために、まずはこの弟子入りプロジェクトをやっていきます。

――:お話を聞くと、面白そうなプロジェクトですね。

ゲーム業界ではまだ誰もやっていないので、先陣を切って始めようかなと。これをきっかけにいろいろな会社のクリエイターたちがやり始めて、いろいろな一門ができればいいですね。

――:塩川さんはどういう人を弟子にしたいと思っていますか。

一番重要としているのは、向上心と責任感です。向上心って要は成長の意志だと思うのですが、自分に対する謙虚さがないと、そういう心は失われると思います。

例えば、学校の中で一番の成績だからといって、それがトップだと思って、そこで慢心しているような人は多分難しいと思います。それは広い業界から見たら小さな範囲のことに過ぎないのです。そういう事を認識した上で、常に学びたいとか、いろいろなチャンスを活かしてもっと吸収したいと思う謙虚さが必要で、そういう考えの方を求めています。技術や経験は後から身に付けられるので、そこは重視していません。

――:そのふたつの要素を持っている人を見極めるのがインターンシップだと。

見極めるというより、まず出会う機会を作ることが目的ですね。インターンシップもそうですし、これからのイベントでも。インターンシップは学生さんが対象ですが、学生さん以外でもより幅広い範囲から弟子を迎えたいとも思っています。この弟子入りプロジェクトで、業界に一石を投じられればいいな、と思っている部分もあります。ほかの企業の皆さんも、ぜひ弟子をとっていきましょう。色々な方が弟子をとって一門が増えたら、浅草演芸ホールを使って弟子同士が戦う一門対決をしたいですね(笑)

――:本当に楽しみなプロジェクトですね。

9月2日にインターンシップを行い、今度は10月14日に「第1回 塩川洋介独演会」というものを企画しています。これは、年代層を広げて人を集めた、インターンシップよりも濃いものです。そこで弟子というか見習いの人が見つかればいいかなと思っています。名前はやや冗談みたいですが、本気で取り組んでいきます。そうでないと、わざわざ個人名で独演会、などとはしませんから。

――:最後に、今回のプロジェクトについてメッセージをお願いします。

賛否両論あると思っていますが、敢えて一石を投じるつもりでやっていきます。そして、それに飛び込んで来るぐらいの覚悟がある人でないと、そもそもクリエイティブディレクターをやるのは難しいと思います。そういった覚悟を問うという意味も含めて、敢えてちょっと「えっ」と思うような、あまり例のないプロジェクトにチャレンジしたいと思い立ち上げました。客観的には、これは滅多にないチャンスだと思いますので、本気でこのチャンスをものにしたいという方を待っています。この後、10月にイベントをやりますので、そちらにもぜひご参加ください。この後も、ぜひよろしくお願いします。

――:本日はありがとうございました。

 
 

「創点」 弟子プロジェクト

ディライトワークス株式会社
https://delightworks.co.jp/

会社情報

会社名
ディライトワークス株式会社
設立
2014年1月
代表者
代表取締役 庄司 顕仁
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