【セミナー】Wright Flyer Studios主催の「Flyers’ Lab #1」をレポート…f4samurai、gumiを迎えて3社がスマホゲームシナリオの作り方を講演

 
グリー<3632>のアプリ開発スタジオ「Wright Flyer Studios」は、10月20日、業界交流イベント「Flyers’ Lab」を開催した。
 
同スタジオ初の試みとなる今回は、ゲームのシナリオづくりにおける工夫に焦点を当て「シナリオと演出で命を吹き込む!!~スマホゲームとシナリオメイクについて~」と題した講演を実施。二部構成となる本イベントの第一部では、f4samuraiの田口堅士氏、gumiの今泉潤氏、Wright Flyer Studiosの古屋海斗氏らが順に登壇し、各社の取り組みについての発表を行った。また、第二部のトークセッションではWright Flyer Studiosの下田翔大氏がモデレーターを務め、3者がゲームシナリオをつくる上で大切にしていることなどを話し合った。
 
本稿では、当日の様子をレポートしていく。なお、本公演では一部掲載禁止とされていた資料があったため、その点についてはご了承いただきたい。
 
■「Flyers’ Lab」とは

 

●f4samurai



▲f4samurai・取締役COOの田口堅士氏。『アンジュ・ヴィエルジュ ~ガールズバトル~』、『オルタンシア・サーガ -蒼の騎士団-』、『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』のディレクターを務める。現場では企画からシナリオを中心に統括している。
 
最初に登壇した田口氏の講演については取材禁止となっていたため詳細なレポートはお届けできないが、これまでに同社がリリースしたタイトルの事例を通じて、シナリオを内製する利点や、演出と文字が連動することの重要性など、ユーザーに感動を与えるための工夫が具体的に語られた。
 

●gumi



▲gumiの今泉潤氏。『ファントム オブ キル』、『誰ガ為のアルケミスト』、『シノビナイトメア』のプロデュースなどで知られる。
 

▲こちらはこれまでに同氏が担当してきたタイトルの一覧。
 
続いて登壇した今泉氏は、「冷静と情熱のあいだのゲーム作り」と題した講演を披露。元は映像業界から転職してゲーム業界に入ったという同氏は、現在、プロデューサーとしてゲームシステムや世界観、シナリオ、マップ制作だけに留まらず、音楽ディレクションやプロモーション企画といったところまで幅広く活動していると紹介を行った。
 

 
その後、「冷静編」としてビジネス的な側面から見たモバイルゲームの作り方を披露した。今泉氏によると、モバイルゲームはクエストとガチャシステムのループから成り立っており、ここに世界観を組み合わせることでエンターテインメントとして成立するという。
 


▲ブラウザゲームが主流の時代は「世界観」に秀でた作品が少なかったことから、今泉氏が得意とする演出や物語といった「フレーバー」の部分を取り入れた『任侠道』、『海賊道』といった「道」シリーズが大ヒット。
 
ネイティブゲームが主流になると、ゲームシステムとシナリオ、世界観が違和感なく融合することが可能となった。システム部分にシナリオが絡まなければ感動は生まれないという今泉氏は、各作品において、理由付けを細かいところまで考えていると話す。ここでは、『ファントム オブ キル』において、同じキャラを2人使える理由も物語や世界観の中でしっかりと描いているという具体例を挙げた。
 

▲作中で使用する音楽や声優についても知名度ではなく、作品としての総合演出やパッケージ感を大切にしながら人選を行っていると語った。
 
続く情熱編では、今泉氏がオリジナルコンテンツにこだわる理由から話がスタート。モバイルゲームは、映画やアニメといった同じエンターテインメントと比較しても圧倒的に接触時間が長いことから、IPではなくオリジナルでも勝負できる可能性を感じていると話した。
 
制作の際には「50%は流行や市場をリサーチしてビスネス的な目線」で、「残りの50%は自分が面白いと思うこと」をぶつけることが成功の秘訣だという。逆に、このバランスが崩れると上手くいかない場合が多いという結果を経験に基づき話した。
 
そのほか、今泉氏が企画を作る際は、何を組み合わせるかという部分でギャップを作り、いわゆる王道RPGではないイラストを完成させることから作業が始まるという。そこに、短時間で多くの情報を伝えられる映像を乗せ、キャッチコピーをあてることで物語に奥行きを出し企画としているのだと手法が明かされた。


 
また、プロモーションにおいては自らCM監督を務めたこともある今泉氏だが、リアルイベントでユーザーと触れ合うことで”何がウケているか”を肌で感じてその結果を作品にフィードバックすることが非常に重要だという。
  
最後に、モバイルゲームにおけるストーリーとは、キャラクターを輝かせるために書くものであるとまとめて講演の締めとした。

 

●Wright Flyer Studios



▲Wright Flyer Studiosの古屋海斗氏。現在は『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、『アナザーエデン』)のディレクターとして企画とシナリオ統括に携わっている。
 
最後に登壇した古屋氏は「アナザーエデン プレイヤーが体験する物語」という題で講演をスタート。
 
古屋氏は、自己紹介とゲーム紹介を終えた後、『アナザーエデン』にとってシナリオとは「テキスト+演出+ゲームプレイ」との言葉から話を切り出した。これは、ゲームシナリオはユーザーがプレイして初めて完成するものであることから、同作では「どんな世界を冒険するか」「冒険の中で何を発見するか」「どんな体験をできるのか」を重視しているとの話だった。
 

 
続いて、この「プレイヤーが体験する物語」をより良いものにするために行っているという3つのこだわりを披露。
 
1意表を突く

▲親切な誘導は必要だが、それにより「作業感」が出てしまわないため「意表を突く」構成を心掛けている。
 
ここで具体例として挙げられたのが、同作において9月に配信された「時の炭鉱と夢を視る郷」という外伝だ。本イベントでは、炭鉱を探索して村を発展させていくという物語が展開していくのだが、おおよその流れは下記のように組まれている。
 




▲大きな謎を提示しながら物語は核心へと迫っていく。
 
また、意表を突く際は、インパクトのある大きなネタを1つだけ入れること、意表を突く瞬間をプレイアブルにすることでプレイヤー自身の手で発見させることがポイントとなると古屋氏は述べた。
 
2.想像力をフルに活用する
2点目に挙げられたのは「想像力をフルに活用する」こと。古屋氏はこれを説明するにあたって、RPGで濃厚なシナリオ体験を作りたいが、長いイベントが続くと読み物となりインタラクティブ性の良さが失われるという問題があると語る。この問題の解決策となるのが、開発者たちだけでなく「プレイヤーの想像力」までフルに活用するという手法だ。
 
ここで具体例として挙げられたのは、同作初の外伝となった「ふたりの騎士と祈りの魔剣」だ。本イベントは魔剣士ディアドラの人生を描く物語となっているが、全てのシーンを作中で描き切るのではなく、一部をブラックボックス化することでプレイヤーに想像してもらうのだという。もちろん、ブラックボックス化したシナリオの前後は作中での補足も必要となるが、実際にシナリオ化された部分以上に壮大な物語を読み終えた感覚になれることがポイントとなっているのだという。
 


 
『アナザーエデン』では、プレイヤー自身の想像力を信じて、想像力の中に最高のコンテンツを創り上げるという心構えで臨んだと古屋氏は話した。
 

 
3.システムを利用する
ゲームの開発を進めていると、システムの制約によりシナリオや世界観が崩れてしまうといった問題が発生することは少なくない。古屋氏は、ここでシステムを敵とするのではなく、味方とみなすことで解決する方法もあると話を展開する。
 
現に『アナザーエデン』には、周回要素として「アナザーダンジョン」が存在するが、「周回する」という行為にゲームデザインやシナリオを取り込むことでプレイヤーから好評を得ている。具体的な手法は下記の通りだ。
 


▲「なぜ、アナザーダンジョンの周回によって、彼女の記憶が戻るのか」、「彼女は一体、何者なのか」、「そもそも、アナザーダンジョンとは何なのか」といった謎がフックとなり多くの反響があった。
 
上記の事例から古屋氏は、下記の3点をシステムを利用することのポイントとして挙げた。
 

▲プレイヤー的な目線では、常識として既に受け入れてしまっている事柄に別の意味を与えられると新たな驚きが提供されるとのこと。
 
最後に古屋氏は、これまでに紹介した「プレイヤーが体験する物語」のための3つのこだわりについて簡潔にまとめ、講演の締めとした。
 

●トークセッション

第一部で各社による取り組みの紹介を終えたところで、第二部ではお題に沿って3社がそれぞれの考えを答えていくトークセッションを実施した。
 

▲ここからはWright Flyer Studiosの下田翔大氏がモデレーターを務めた。
 
●シナリオや演出を考える際着想はどんなところから得ている?
このお題については、「まず始めにやりたいことの映像が頭に浮かんでくる」という今泉氏の答えに対し、田口氏は逆に「0から1が浮かぶことは少ないので、やりたいことがある人の案を改善していく方が得意ですね」と答えた。下田氏からは、二人がタッグを組んでゲームを作ればとんでもないものが出来上がるのではとの話もあったが、これには会場からも「確かに」という納得の空気も。
 

 
一方、自らも根っからのゲーマーだという古屋氏は普段遊んでいるゲームから着想を得ているという。ただ、その際はストーリーやシステム自体を真似るのではなく、感情を作り出す構造を分析して、何故、あの時あの感情になったのかを自分の中で解釈し、「自分が楽しいと思った瞬間を作りたい」と語った。
 
●何のために「ものづくり」をしているの?
このテーマには、今泉氏が「ゲームのシステムはデバイスの変化により時代に合ったものに最適化されてしまうが、ゲームの世界観は時代を越えられる」という熱い話を展開。プレイヤーに時間を使って遊んでもらうがゆえにそこに魂を込め、ゲームを通して自分のメッセージを伝えていきたいので作り続けていると話した。
 

 
プレイヤーに伝えるという部分では田口氏にも共感する部分があり、自身がリリースしたゲームでプレイヤーから「家に閉じこもっていたけど、ゲームのおかげで外に出て就職ができた」というエピソードを披露し、今後も”ゲームで応援したい”との想いを語った。
 
●スマホのゲームシナリオって今後どうなっていくの?
3つ目のテーマは今後について。これには、田口氏がゲーム全体の見せ方の部分で大きな仕掛けを作りたいと展望を語る。シナリオはもちろん、ゲームシステム自体が予想を裏切るようなものが作れれば面白いのではないかと話すと、古屋氏は「肌身離さず持っているというスマホの特性」を活かしたゲームが出てくるのではないかと意見を出し合った。
 

 
最後の質疑応答では、「ソーシャルゲームでは運営が延々と続いていくが、その際シナリオはどうすればよいのか?」という問いかけが来場者から挙げられたが、これには3者とも“描き切ってから新しいものを考える”で見事に見解が一致。現に、3者ともシナリオに区切りをつけたタイトルを運営しているだけに、非常に説得力のある答えとなった。
 
三者三様の作り方をしているものの、根底に流れる大事なポイントや信念には近いものを伺えた今回のイベント。そんな「Flyers’ Lab」は、既に第2回の開催が11月13日に予定されており、次回は「世界観」をテーマに、ヨコオタロウ氏と加藤正人氏の対談を行うとのことだ。こちらの開催も、引き続き楽しみに待ちたい。
  
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(取材・文 編集部:山岡広樹)
株式会社gumi
http://gu3.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社gumi
設立
2007年6月
代表者
川本 寛之
決算期
4月
直近業績
売上高160億0900万円、営業利益4億4700万円、経常損益1900万円の赤字、最終利益4億4500万円(2023年4月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3903
企業データを見る
株式会社WFS
https://www.wfs.games/

会社情報

会社名
株式会社WFS
設立
2014年2月
代表者
代表取締役社長 柳原 陽太
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